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第22話 古代遺物と公爵令嬢とモブ―― 3

『シンタロウ様の声紋をマルにインプットしました。権限が移行しましたので、今後はあなたの声による指示で動作が可能となります』


 遺跡探索から戻り、部屋でくつろいでいるとオルディナの声が届いた。


「お、マジで!? こいつは別に車の組み立て専門ってわけじゃないよな?」

『はい。色々な作業に対応できる万能型です。その中でも修理や分解のような機能へリソースを多めに割り振っているだけです』

「ほう……。他にどんなことが出来そう?」

『細かい作業なら何でもこなせます。他にも掃除や荷物運び、ボディーガードまで。用途はあなた次第です』


 マジかよ。

 ズッ友確定じゃん。


「あれ……? そう言えばタムラ村のロボットたちには、ルーディが指図してなかったか?」

『……』

「もしや、お前。俺を差し置いてあいつに権限を……?」

『……』

「てか、お前の存在バレてないよな……?」

『大丈夫です。彼には何故自分がロボットを操作できるのかの疑問は湧いてこないよう、脳に少し細工しました』

「おい!! まさか、あいつがあそこまで猛烈に村を開拓してるのって、お前の影響じゃ……?」

『彼はとても優秀な頭脳を持っています。私はそっと後押ししてるだけです』

「お前が原因だったのかよ!」


 ◆◆◆


 課外授業から帰ってくると、また特別授業と言う名の残業の日々が再開した。

 ザイデル公爵領の貴族の半分近くまでは覚えたが、まだまだ先は長い。

 夜遅くまで教室に閉じ込められていると、時々叫びだしたくなる。


 しかし、こんなストレスを発散できるおもちゃを俺は手に入れた。


 そう、ホバーカーである。

 アニメ漬けの休日は最高だが、たまには外に出ることも必要だ。

 車体をステルス化させ、大空をぶっ飛ばしていると、めちゃくちゃストレス発散できる。


 金曜の午後の授業が終わると、俺はヒルダに車体の貸与依頼をしに行く。


「ふむ……。明日ではなく、その……明後日ではダメか?」


 いつもなら即答で了承してくれるのに、今日は何か歯切れが悪い。


「いや、別にいいけど。何かに使うのか? お披露目とか」

「あ、明日は家の用事があってな。……明後日であればわたしも乗れる」

「え? 乗りたいの? あんなに怖がってたのに」

「……何事もまずは試してみないとな」

「了解。どこか行きたいとことかある?」

「どこでもいい。お前に任せる」

「オッケー。じゃ、日曜の昼に集合な」


 午前中はアニメを見るって決めてるからな。


 ◆◆◆


 日曜の朝。


 いつものようにヒルデガルドは、食堂で取り巻きの二人と朝食を共にしていた。

 ユリアーナは主の変化にすぐに気づく。


「ヒルデガルド様、どうかされましたか?」

「な、何がだ?」

「心ここにあらずといった様子で。スプーンを持つ手が逆でございます」


 その言葉にヒルデガルドは慌てて、スプーンを持ち変える。


「どこか体調でも悪いのですか? ボーっとされてる感じですが」

「そ、そんなことはないぞ。いつも通りだ」

「そうですか。なら、宜しいのですが」


 それ以上、踏み込むことはない。

 ちゃんと距離感は弁えている。


「……その、お前たち。今日の午後は自由に過ごしていいからな」

「え? 今日はご実家の用事は無いはずでは?」

「ああ、ちょっと別の用事がある」


 取り巻き二人は首を傾げ、表情だけで続きを促す。


「あの古代遺物レガシーに乗って、シンタロウと出かけてくる。持ち主として、どのように使われているのかそろそろ確認しないといけないからな。夜、少し遅くなるかもしれないが心配は不要だ。夕飯もわたしを待つ必要はない。では、わたしは色々準備があるから、先に部屋に戻る」


 ヒルデガルドは耳まで真っ赤にさせ、そう早口でまくし立てると、そそくさと席を立った。

 そこにはいつもの威厳など、欠片も無かった。


 ◆◆◆


 ――聞いていた話とは全然違った。


 馬車と同じ速度しか出せない、というのは誤りだった。

 目的地がタムラ村だと知り、「そんな遠くまでは行けないんじゃないか?」とヒルデガルドが至極真っ当な質問をしたところ、シンタロウはあっさり、自分の嘘を認めた。


「こんなスピードが出せるなんて知られたら、面倒だろ? ヒルダの持ち物だとしても誰かに狙われるかもしれない」

「そ、それは確かにそうだが……」


 ヒルデガルドは空を駆けるそのスピードに、思考がフリーズする。

 怖くて大地を見下ろすことも出来なかった。

 必死の思いで、シートベルトを握りしめている。


「さて、そろそろスピードを落とそうか」


 シンタロウがそう言うと、車体はゆっくり降下していく。

 そして、馬車と同じくらいまでスピードを緩めていった。


「お前は普段から、こんなスピードで空を飛んでるのか……?」

「ああ、気持ち良かっただろ?」

「気持ち良かった!? わたしは……お前がこれほど強心臓だとは思っていなかったぞ……」


 ヒルデガルドは暫く絶句し、シンタロウの意外な一面を知ったことで、彼に対する認識を少し上書きした。


 しばらくして見えてきた森は、半年前の面影が全く残っていなかった。


 見たこともないような造りの建物。

 活気がみなぎる市場。

 農園や魔鉱石加工場まで林立している。

 もはや村などではなく、小さいながらも立派な街だった。


 シンタロウは、彼の代わりにこの街を管理しているルーディという男に何故か激怒していた。

 数時間かけて街中を案内されると、シンタロウの表情はみるみる曇っていく。

 そして、日が暮れる頃になると、彼はすっかり諦めた顔をしていた。


 二人はそのまま、ルーディの家で夕飯をご馳走になり、帰りの途に就く。


 また、これに乗るのかとヒルデガルドは若干気が重くなる。

 しかし、帰りのスピードはそこまで速くなかった。

 彼女自身が慣れたのではなく、明らかに速度を落としていた。

 彼なりの気遣いだったのだろう。


 そして――


「ヒルダ、窓の外を見てみろよ」


 遠くに、領都ザイデルの明かりが見えた。

 そして、その上空に輝く星々に吸い込まれそうになる。

 ヒルデガルドは初めて見下ろす、その夜景に思わず息を呑んだ。


「星もキレイだろ?」

「……ああ。言葉も出ない」


 シンタロウはホバーカーを空中で止め、ヒルデガルドに心ゆくまで堪能させた。


 満天の星空が、二人を優しく見守っていた。

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