第21話 古代遺物と公爵令嬢とモブ―― 2
早速、床に転がっているロボットたちを数台集める。
壁に設置されていた修理道具もついでに持ってくると、白い球体の背面パネルを開けた。
……久しぶりに見る、この複雑な配線と基盤に眩暈がしてくる。
あの時の経験で確かに慣れたけど、不器用が改善されたわけじゃないからな……。
俺が何か始めようとしたことに気づいたのか、ヒルダたちが集まってきた。
「何をしているんだ? 修理でも始める気――うわ、何だこれは!?」
初めて目撃するロボットの内部構造に、みんな分かりやすく驚愕していた。
「ま、まさか、これのどこをどう直せばいいのかが分かるのか!?」
「まぁ一応な」
オルディナに細かく指示されないと無理だけど。
「そんなことが出来るなら、それはもう立派な魔法としか言いようがないな……」
「ああ。村でも俺が魔力を持っていないのは、この能力の代償じゃないかって言われたよ」
「なるほど……。それは確かにそうかもな」
エラードたちも、その言葉に同意する。
「とりあえず、みんなは色々見て回っててくれ。俺は修理に集中したいから」
そう言って追い払うと、俺は覚悟を決めて作業を開始する。
いくら慣れたとは言っても、苦手なものは苦手なんだよ。
人に見られながらは出来ない。
オルディナの指示の元、数台のロボットの背面を開け、工具を駆使して構成するパーツを一つ一つ慎重に取り出していく。
前回のように充電パーツ部分だけの故障ではなく、複数個所の修理となる為、他の筐体から正常なパーツを抜き取り交換作業していくという、めっちゃ難易度の高い作業となった。
そして、パーツの組み合わせが微妙に合わず、何度もやり直す羽目になった。
集中していると、あっという間に時間が溶けていく。
「そろそろ出ないと、門限に遅れるぞ?」
「あ、じゃ先に帰っててくれ。今日は徹夜だ。てか、帰り道は分かるか?」
「……道は分かるが、お前を一人で残すわけにはいかないだろう」
「大丈夫だって。終わったら急いで戻るから」
「しかし……」
ヒルダの表情に心配の色が浮かぶ。
「お前にプレゼントしたい物があるから、楽しみに待っててくれ」
「わたしに……?」
「ああ、だから今日のところは見逃してくれ」
「わ、分かった。朝になってもいなかったら迎えに来るからな」
「了解」
そして、みんながいなくなると、静まり返った工場跡地で、俺の集中力は更に研ぎ澄まされていく。
壊れた屋根からは月明かりが射し込み、俺の手元を優しく照らしていた。
さらに数時間が経過し、俺はそっと背面パネルを閉じる。
ブゥン……。
『成功です。復旧しました』
「よっしゃ……」
一気に疲れが押し寄せてきて、俺はその場に大の字になる。
『では後はお任せください』
オルディナがそう言うと、ロボットはホバーカーの方へ移動していく。
そして、車体を開けると何やらカチャカチャとやり始め、その規則的な作業音に俺は眠気を誘われて、気づいたら眠りに落ちていた。
――そして、早朝。
『終了しました』
オルディナの声で、目を覚ます。
まだ、辺りは薄暗い。
寝ぼけ眼で周りを見渡すと、視界の端にそれを発見した。
宙に浮いてる、2シーターの小型車。
「おお……」
その流線型の銀色のボディに、思わず、声が漏れた。
近づいてみても、エンジン音が全くしない。
これも太陽光を燃料にしてるのだろうか。
早速、中に乗り込んでみる。
運転席は、普通の車とあまり変わらなかった。
「これなら俺でも直感的に運転できそうだな」
『はい。前後左右の概念に、上下が加わっただけです。すぐに慣れると思います。目的地を設定すれば自動運転も可能です』
「こういうのは、自分で運転してこそだろ。試乗してみる」
俺は隣の席にロボットを乗せた。
こいつには、今後整備を担当してもらわないとな。
もちろん、他にも色々役に立つだろう。
『青いボタンで起動します。次に――』
オルディナから簡単に操作説明を受ける。
『――表面には特殊塗料が施されています。その緑のボタンを押すことで反応し、車体がステルス化されます』
そんな機能まであるのか。
色々、悪いこと――じゃなく、良いことに使えそうだな。
「よし、大体分かった。じゃ、早速」
ボタンを押すと、ふわっと車体が浮き、そのまま屋根の上まで上昇する。
「おお!! めっちゃスゲェ!!」
純粋に感動した。
しばらくの間、俺は夢中になって運転し操縦方法のマスターに勉める。
「……ふう。今日はこれ位にしておいて、そろそろ宿に戻るか」
この性能がバレたら、色々面倒なことになる。
馬車と同じくらいのスピードしか出せないように、誤解させておこう。
てか、今さらながら、腹が減ってきた。
まだ朝飯の時間じゃないよな?
◆◆◆
朝飯には無事に間に合った。
今日の午前中までは、遺跡巡りのスケジュールが入っていたが、もう用はない。
俺は外出をキャンセルし、ベッドで休むことにした。
ホバーカーは最速200km/hくらいの速度が出るらしい。
であれば、学園からタムラ村までは一時間半くらいで到着できるはずだ。
これからは時々様子を見に行き、ルーディがやり過ぎていないか確認することにしよう。
そして、帰りの時間になる。
宿を出て馬車乗り場に向かうと、ホバーカーの周りに人だかりが出来ていた。
「何なんだ、これ?」
「どうやって動かすんだ?」
そんな声が聞こえてくる。
ヒルダもその人だかりに紛れていたが、俺の姿を確認すると、小走りで近づいてきた。
「昨晩はだいぶ頑張ったようだな。あれに乗って帰るのか?」
「ああ、もちろん。置いてく訳にはいかないし」
「そうか。で、では、その……」
ヒルダは何か言いづらそうにモジモジしている。
「どうした?」
「い、いや。わたしに何かプレゼントをしてくれると……」
「ああ。あれだよ」
「……あれ?」
「あのホバーカー」
俺は人だかりに囲まれている銀色の車体を指差す。
「へ?」
「まぁ運転は俺しか出来ないから、乗る時はいつでも言ってくれ」
「あ、あれをわたしに……!?」
「ああ。ひょっとして、いらないか……?」
……ヤバい。
ひょっとして、女子はこういうのに興味ないのか?
女心とか全然知らないし。
「い、いや、あんな貴重な物をわたしなんかが受け取っても……」
「いいんだよ。ヒルダに貰って欲しいんだ」
「――そ、そうか。では、ありがたく頂いておこう」
そう言いながら、ヒルダは嬉しそうに微笑んだ。
「おう。あ……でも、中に入ってるあのロボットは俺が貰うけど」
「分かった。好きにするがいい」
もし、このホバーカーが俺の所有物だったら、どんな悪戯をされるか分からないからな。
ヒルダの物となれば、誰も何も出来ないだろう。
それに乗りたい時には、いつでも貸してくれるだろうし。
今回の俺の本命はロボットの方だ。
これから役立つのは間違いない。
名前もつけてやろうかな。
……丸っこいから、『マル』でいいか。
――帰りの道中は、馬車の速さに合わせた低速運転でイライラが貯まった。
煽り運転する奴らの気持ちが少しだけ理解できた。




