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第20話 古代遺物と公爵令嬢とモブ―― 1

 一ヶ月の停学期間を終えて、ジェイが学園に戻ってきた。

 リーヴェスの元・取り巻きの一人である。

 例の自作自演の誘拐未遂事件において、彼の関与は殆どなかったことが判明し、処分が軽減されたのだ。

 普段から取り巻きというより、パシリのような扱いだったこいつはカイルにも偉そうにこき使われていたしな。


 とはいえ、ジェイに対する周りの見る目は厳しいと言わざるを得ない。


 処分明けの初日。

 ジェイは席に着いても、ただじっと俯いているだけだった。


 あちこちから冷たい視線が突き刺さる、あの居心地の悪さ。

 これは経験者にしか分からない。

 俺も鉱山とか、この学園での最初の頃とか散々浴びてきた。


「一ヶ月も停学してたとなると、補習が大変なことになりそうだな」


 俺がそう声を掛けると、ジェイが顔を上げる。


「え? ああ、そうだな。でも仕方ない」

「俺も男爵になっちまったもんだから、毎日補習地獄だよ」

「そうなのか? ……でも俺はもう放課後、特にすることも無くなったし、いい暇潰しになるかもしれない」

「良かったな、あいつらから解放されて」


 その言葉に、ジェイはハッとした表情を見せた。


「便利なパシリだったもんな、お前。嫌々やらされてきたことも多かったんだろ?」

「それは……」

「お前を見てて、取り巻きも大変だなって思ってたよ」

「……ああ、大変だった」


 これからの学園生活も苦労しそうだが、頑張って乗り越えていこうぜ。

 ポジションを失った今のお前は、俺と同じただのモブなんだから。


 ◆◆◆


 毎年、一年生が課外授業として向かうその遺跡は、学園から馬車で6時間ほどの距離に位置している。

 科学が魔法に負けてから約二千年。

 かつて栄華を誇ったその文明はやがて残骸となり、そして朽ちていった。

 だが今、向かっている遺跡は比較的状態が良い為、立派な観光名所となっていた。

 と言っても、今日と明日の二日間は、一般客は近づけない。

 俺たちの貸し切りだ。

 さすが貴族様といったところか。


 三人一組の馬車が隊列を組んで進んでいく。

 俺の馬車には、エラードとジェイが乗っている。

 最初はぎこちなかった二人だが、次第に打ち解け始めていて安心した。

 ジェイは、あの二人にこき使われていた頃の爆笑ネタをいくつも持っていたので、俺たちは腹を抱えて笑いながら、暇することなく道中を過ごすことが出来た。


 そして、目的地に到着する。

 馬車を降りて目の前に広がるのは、金属と自然が融合した圧巻の風景。

 錆びた鉄骨が樹木に絡まれ、巨大なタービンブレードが苔むしている。

 自然に侵食されながらも、かつての文明の威容を感じさせた。


 その片隅にポツンと宿がある。


 早朝に出発したので、まだ陽は充分に高い。

 食堂で遅めの昼飯を食った後は、自由時間となった。

 一人で行動するもよし、団体で見て回るもよし。

 夜7時までに戻ってくることだけが条件。


 俺たち三人は、ヒルダたちと合流して共に行動する。

 使えそうな古代遺物レガシー探索の始まりだ。


 小高い山のあちこちに何かのパーツとか建物の一部、モーターや巨大なロボットアームなどが無造作に転がっていた。

 どれもでかくて、重い。

 とても持って帰れるような代物ではないし、そもそも何の役にも立たない。


「どうだ? 何か使えそうな古代遺物はあるか?」


 珍しくヒルダが興味津々な様子で尋ねてくる。


「いや、残念ながら今んとこは何も」

「そうか。ではもっと奥へ進んでみよう」


 普段は滅多に見かけることなど無い遺物。

 俺からしたらゴミのような残骸でも、彼女たちにとっては新鮮なのだろう。

 どいつもこいつも足取りが軽い。


『左斜め前方を進むと、状態の良い工場跡地があります。土砂崩れで入口が封鎖され、中は手つかずのまま放置されています』

「ほう。でも土砂崩れしてるんじゃ入れないじゃん」

『ヒルデガルドの爆破魔法を使いましょう』


 ヒルダの魔法か。

 そう言えば、まだ使ってるのを見たことがないな。

 王国屈指の破壊力らしいけど。

 俺はヒルダに声を掛け、進路を変更させた。


「また、お前の不思議な勘が働いたのか? 鉱山の時のように」

「え? あ、ああ。そう、そんな感じ」

「ふっ。では、期待が大きいな」


 しばらく進むと、木々に邪魔され道も険しくなってきた。

 オルディナの投影するホログラムが無ければ、マジで迷子になるわ、これ。

 ヒルダのお供たちも道なき道を頑張って歩く。


 そして、到着した。

 目の前に広がるのは土砂の山。


「ここか……?」

「多分、この先にあると思う。でも、お前の力が無いと、進めないな」

「わたしの力……。魔法ということか?」

「ああ、爆破して道を作ろう」

「分かった。みんなは下がってくれ」


 鉱山と違って、ここは崩落や土砂崩れの心配はない。

 もう崩れ切ってるからな。


 ヒルダは右手を前に向けると、何かを詠唱し始めた。

 すぐに、その身体が赤く輝き始める。


 ズドン!!


 轟音と共に、衝撃で土や石の塊が前方へ扇状に吹き飛んでいく。

 少し遅れて、俺たちの方にもそよ風のように爆風が届いた。


 す、凄い……。

 絶対に彼女を怒らせてはならないことを、俺は瞬時に理解した。


 砂埃が収まると、工場のような建物が現れた。

 さっきの一撃で扉も一緒に破壊されたらしい。

 土砂が、その内部にまで流れ込んでいた。


 中に入ると、埃をかぶった機械類が整然と並んでいた。

 オルディナの誘導に従って進むと――そこには見慣れない形状の車が何台も並んでいる。

 球体のロボットもそこら辺に転がっていた。


 自動車工場ってことか?

 だが、自動車と決めつけるのはまだ早い。

 タイヤがないし。


「おお……!」

「何、これ……?」


 目の前に展開されたいくつもの見慣れぬ物体に、当然ながらみんな驚きを隠せないようだ。


「これは車ってことでいいのか?」


 オルディナに尋ねる。


『ホバーカーです』

「え……? ドラゴンボールとかで出てくる空に浮く車?」

『はい、半重力装置で稼働します』


 それは、男のロマンだろ。

 乗ってみたい!!


『完成車は奥にある数台だけです。経年劣化で部品交換や修理が必要ですが』

「ま、そうなるわな……。でも、さすがに車の修理は無理だ……」

『あなたではなく、ロボットに修理させれば良いのでは?』

「あ、そっか。――って、待て。騙されないぞ。ロボットは動くのか?」


 俺は足元の白い球体を見下ろす。

 形状はタムラ村のとほぼ同じだ。


『修理が必要です』

「やっぱりかよ! また俺にやらせる気か?」

『あなたには30台のロボットを修理した実績があります。残念ながら未経験の彼らには不可能です。時間が足りません』

 

 いや、このホバーカーはめっちゃ欲しいけど、俺はいつからロボット修理職人になったんだ……?

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