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第2話 ザイデル公爵領にて―― 1

 俺が働いていた冷凍倉庫――は、現在シャウムブルク王国のザイデル公爵領となっていた。

 AIが主導した地形変動で海岸線も大きく変わっているそうだ。


「で、俺はこれからどこへ向かえばいいんだ? 腹減ってきたんだけど」

『とりあえず北へ向かいましょう。避難民の収容所があります』

「ん? 俺、避難民になっちゃうの?」

『はい。この世界では平民に戸籍はありませんから、帝国に襲撃されて逃げてきたと言えば、細かいチェックもされず受け入れてもらえます』

「了解。でも北ってざっくり言われても」

『こちらです』


 俺の目の前にホログラムの地図が展開された。

 ご丁寧に現在地と目的地が超高画質かつ立体的なグーグルマップみたいに指し示されている。


「え? 何これ?? どうやってんの??」

『あなたの脳波と同期したホログラムです。詳しい仕組みを説明しますか?』

「いや……。聞いても分からないだろ。とりあえず、どこに行けばいいのかは分かった」


 オルディナ怖え……。

 これ、家でう〇こしてる姿もどこかから撮影されてそう……。


『ただ、シンタロウ様。これだけはあらかじめ伝えておきます』

「なんだよ」

『収容所では、あなたはゴミ扱いされます。私は干渉しませんが、命の危機を感知したら、救出いたしますのでご安心を』

「今の言葉の最初から最後まで衝撃的過ぎて、何一つ頭に入ってこなかった」

『では、もう一度繰り返します』

「やめろ!! やめろやめろ!! あーあー聞こえない」


 嘘だろ……。

 モブどころかゴミ?


 気が重くなりながらも、他にどうしようもないのでしばらく歩いていたら、何かの施設が見えてきた。

 そのまま、中へ入っていく。


「すんませーん! 誰かいませんかー?」


 受付らしき場所で呼びかけると、建物の中からデカいおっさんがぬっと現れた。


「おう、避難民か。ちょうど始めるところだった」


 そして、俺に近づいてきてじっと顔を近づけてくる。


 ……いや近いって!!

 なんでおっさんと見つめ合わないといけないんだよ!!


「確認するまでもねぇと思ったが、やっぱり黒だな。こっちだ。ついてこい」


 黒?

 俺の性格のことか?


『瞳の色です。新人類は瞳の色によって、使える魔法の系統が変わるのです』


 俺の疑問を察知したのか、オルディナが補足の説明をしてくれた。


 ……まさか、俺の心の中まで読まれてたりしないよな?


『ご安心ください。わたしの音声は他の人間には聞こえません。旧人類であるシンタロウ様にしか感知できない周波数にて生成し、お届けしております』


 そ、そう……。

 てか、ご安心くださいってなんだよ!

 焦っただろうが。

 心の中を読まれてるのかと思っただろ。


 俺が連れてこられた部屋には、先客が五人ほどいた。

 皆、疲れ切った顔をしている。

 本当に帝国とやらの襲撃から逃げてきたのだろう。


「よし、じゃ始めるぞ。まずは魔力測定だ。左端のやつからこっち来い」


 そういうとおっさんは体温計みたいな物を取り出した。

 言われたとおりに左端の兄ちゃんが前に出ると、それを額に押しつけた。


「30。次!」

 

 兄ちゃんはがっかりした顔で戻っていく。

 30って低いのか?

 その隣の奴が続く。


「127。まぁまぁだな。次!」


 いや待て待て。

 旧人類の俺は魔力が無いんだよな?

 それともあれか?

 実は規格外の魔力を持ってました的な主人公的展開が待ってたりするの?


 ……それはそれで嫌だな。

 平穏が遠ざかる。


 そんなことを考えているうちに、俺の番が回ってくる。


「おい、お前の番だ。さっさと来い!」


 え、ゼロだったら追放されるとか無いよな……?

 心臓がバクバクし、足を少し震わせながら俺はおっさんの元へ進む。

 そして、魔力計を額に押し当てられる。


「……? ゼロ? 壊れたか?」


 そう言うとおっさんは自分の額に押し当て確認する。


「壊れてないな。おい、もう一回だ」


 変な汗が背中からじわじわ滲み出してくる。


「ゼロ……。おい、お前、ふざけてんのか? なんだ魔力ゼロって!! 魔力が無い奴なんて聞いたこともないぞ!!」

「い、いや決してふざけてるわけでは……」

「王国民の義務も果たせないじゃねーか! どうすんだ、お前!! 手に職はつけてるんだろうな??」


 魔力が無いと果たせない義務?

 俺もう詰んでるの?


「い、いえ……特には」

「その見た目からすると、大した力仕事も出来なさそうだし、どうするつもりだよ!!」


 こっちが聞きたいよ!

 どうすりゃいいんだよ、これ!!


「悪いが何の役にも立てそうにねぇ奴を養ってやるほど、公爵家は優しくないぞ。特にヒルデガルドお嬢様は自分にも他人にも本当に厳しいからな!」

「そ、そこを何とかお願いします!! 何でもします!! ブラックな仕事には耐性がついております!! このあたりで一番きつい仕事を割り振って下さい!!」


 俺は床に額を擦りつけながら懇願する。


 嘘じゃない。

 あの過酷な冷凍倉庫で俺は毎日深夜残業してたんだ。

 大抵のことなら耐えられる……はず。


「はぁ……。仕方ねぇな。じゃ、鉱山に行ってもらうか。この前の落盤事故でたくさん死んで人手が足りないそうだからな」

「はい、喜んで!!」


 何かヤバいこと言ってた気がするけど、そんなの気にしてられるか。

 穏やかな生活とか言ってる場合じゃねぇから。


 今は生き残るのが先だ!!

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