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第19話 爵位とかいらないんです―― 2

 俺は爵位を与えられることの意味を甘く考えていた。

 学園内の生徒たちは貴族の子弟であっても、現時点で爵位を継承している者など殆どいない。

 いわばアマチュア貴族だ。

 プロとしての振る舞いを三年かけて学べば良い。

 だが、爵位を与えられてしまったら、その瞬間からプロ貴族となる。

 まだ学生だからとか関係ない。

 大人の貴族と同じ義務が発生してしまうのだ。


 それはつまり、どういうことを意味するのかというと。


 ――特別授業である。


 すぐにガチ貴族に追いつかなければならない。

 彼らと同じ尺度で会話が出来なければならないのだ。


 午後の授業が終わり、みんながいなくなった放課後。

 俺も今までは速攻で寮に戻り、オルディナの投影してくれるホログラムのアニメを鑑賞することで、一日の勉強のストレスを発散していた。


 その大切な時間が。

 泡のように消えてなくなった。


「話は聞いていると思うが、今日から君たちと一緒に特別講義を受講することになったシンタロウ・タムラ男爵だ。分からないことも多いだろうから、色々教えてやってくれ」


 担当の教師に連れていかれたのは、三年生たちの階のその一角。

 教室の中には四名の男女が、死んだ魚のような目で俺を見ていた。

 その顔を見ただけで、察しがついた。


 リーヴェスたちがいなくなり、やっとの思いで手に入れた、静かで穏やかな学園生活があっさり終わりを告げた。


 緊張の面持ちで、席に着くと隣の席の先輩がボソッと呟いた。


「地獄へようこそ……」


 いや、その顔見れば分かるよ。

 わざわざ言わなくていいから……。


「よ、宜しくお願いします。てか、今日はどんな授業なんですかね? 何も聞いてなくて」

「今日は暗記だよ……。君の場合はまず公爵領の全ての貴族の顔と名前と年齢、所属する派閥とかの人間関係、余力があれば趣味や特技などを叩き込まれる」

「え……?」


 一瞬、オルディナに脳をいじってもらって、強制的に瞬間記憶することを考えた。

 だが、この前の数学力アップの際に得た代償――常時計算癖のうっとうしさの他に、新たな後遺症が発生することは間違いない。

 それはさすがに無理だ。

 耐えられない。


「僕たちはもう公爵領のパートは終わってるから、今は王国内の他領の貴族パートに移行してる……。これが終わったら、今度は帝国編が待っているとの噂だ……」


 いやいや、この国の貴族って何人いるんだよ!?


「全ての貴族って、爵位を持ってる人だけじゃなく、その妻や子供たちもってことですか……?」

「当たり前だろ……。社交界では全て知っている前提で会話をするんだから……。妻はもちろん、側室とその子供たちもだよ」


 おい……そしたら数百人どころじゃないだろ……。

 数千人レベルなのは間違いない。


 俺が絶句していると、教師が俺の机の上に分厚いアルバムをそっと置いた。

 その表紙には、「ザイデル公爵領内貴族名鑑」とあった。


「じゃ、今日は暗記の授業だから、時間まで自習するように」

「す、すみません……。時間って何時までですか?」

「君は初日だから、20時まででいいよ」


 20時って、これから6時間も!?

 嘘だろ……?

 先輩達はもっと残るってこと??


 ――いや、一旦落ち着け。

 ブラック企業に勤めていた頃の残業はもっとえぐかっただろ?


 ◆◆◆


 初日の授業が終わったのは、予定通り午後8時。

 ヘトヘトになって寮に戻ると、もうアニメを見る気力もなかった。


 ――翌日。

 ――さらに翌日。


 気づけば、特別授業が始まって十日ほどが経過していた。

 しかし、全くの不本意ながら、その生活リズムにも慣れてしまった。

 あの頃に培った残業耐性が、今の俺を強くしているようだ。


 先輩たち――と言っても俺の方が年上だけど――とも少しずつ雑談が出来る程度には打ち解け始めていた。

 特に隣の席に座るフォルカー・シュトルツ伯爵。

 ぽっちゃりとした見た目で、いつも目の下にクマを作りながら、ニコニコしている。


「フォルカー先輩は、何で早期継承されたんですか?」

「ああ、僕の場合は父が心を病んでしまってね。領地に戻って療養したいとのことだった」

「領地に戻って……てことは宮廷貴族だったんですか?」

「うん。今、王都では王位継承権を巡って、めちゃくちゃドロドロしているらしくて、父はその争いに巻き込まれてしまったんだよ」

「うげ……。それは絶対に関わりたくない……。あれ? でも爵位を継承したってことは?」

「そうだよ……。卒業したら僕が王都に行くことになる……」


 そう言うと、焦点の定まらない目で、ぼんやりと窓の外に目を向けた。


「そ、それはご愁傷さまです……」

「……そういえば、一年生はもうすぐ課外授業じゃなかった?」


 先輩は現実逃避するかのように、話題を変えた。


「そうですね。泊りがけで遺跡見学に行くとか」

「うん。たしか君は古代遺物レガシーを動かせるんだよね?」

「まぁ、物によるとは思いますけど」

「その遺跡には、古代遺物の残骸が結構あるよ。ひょっとしたら、君にとって便利な物も見つかるかもしれない」

「え? 勝手に持ち帰ってもいいんですか?」

「ヒルデガルド様が許可してくれればね」

「へえ……。それはいいことを聞きました。ありがとうございます!」


 よし、前もってヒルダに話しておいて、何か面白いものが見つかったら、持ち帰れるようにお願いしておこう。

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