第16話 モブ vs ヴイラン―― 4
――話は少し遡り、三日前の晩。
街の裏通りに佇む大衆食堂にて。
黒髪の男が二人、向かい合って飯を食っている。
「久しぶりだな、元気だったか?」
「はい、坊ちゃんもお変わりないようで」
「まぁな。で、どうだった? 森の様子は」
カイルがそう尋ねると、二十代半ばくらいの男が、少し興奮しながら答える。
「いや、凄いですよ。森の片隅にテントでも建てて、様子を伺うつもりだったんですが、既にちゃんとした村が出来上がってて……。古代遺物があちこちで動き回ってるんです」
その言葉に、カイルの瞳に好奇心の光が宿る。
「ほう……。それは興味深いな。面白い。まとめて没収する方向で動いていくか」
そして水を一口飲み、本題に入る。
「さて、時間もない。前置きはここまでだ。わざわざお前を遠方から呼んだのは、今回の作戦において、お前こそが適任だからだ。」
「作戦……ですか?」
「ああ、お前は頭は悪いが、武術の腕は立つ。あの方を拘束できるのは、お前くらいしか思い浮かばない」
「へ……? お、俺は一体何をすれば宜しいので?」
カイルは今回の作戦の全貌を告げる。
「分かりました。坊ちゃんの為に全力を尽くします」
「ふっ。そうだ、その本気の目を久しぶりに見たかった」
そう言って満足そうに頷くと、懐から革袋を取り出し、男に渡す。
「リーヴェス様から預かった前払い分の報酬だ。これで美味いもんでも食っとけ」
男が中を見ると、銀貨がぎっしりと詰まっていた。
「こ、こんなに頂けるので!?」
「それくらい、重要な任務ってことだ」
「承知しました。絶対に成功させます」
「ああ、頼んだぞ。ヤニク」
◆◆◆
――そして、現在。
俺はヒルダが監禁された建物の入口に到着した。
リーヴェスたちの到着まで残り七分弱。
「オルディナ、中に何人いる?」
『ヒルデガルドの他に五人います』
夏休み中に武術の修業をしていたとはいえ、モブのこの俺が、たった七分で五人もの男を制圧できるわけがない。
せっかくならズルなしで、かっこよくヒルダを救出したかったが、それはまた次だ。
――そんな機会がまたあるとは思いたくないけど。
「じゃ、オルディナ。奴らに電磁波攻撃を頼む。俺が前にリーヴェスとやった時に喰らったのより強力にして、瞬時に気絶させる感じ」
『承知しました。発射します。……完了しました』
建物の内部で、ドサドサと何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
「よし、じゃこの扉の鍵も破壊してくれ」
俺がドアから離れると、バチッという音がした。
レーザービームかな。
扉を開けると、目の前に座っていたヒルダと目が合った。
驚きの表情で俺を見つめている。
「大丈夫か、ヒルダ?」
「あ、ああ……。大丈夫だ。何もされてない」
「そうか、それは良かった」
「お前を拘束してたのは、どいつだ?」
「そ、そこに倒れてる黒髪の――」
俺はうつ伏せで倒れている男のズボンのポケットをまさぐり、鍵を取り出す。
――あれ?
何かこいつの後ろ姿、見たことがあるような……。
まあ後でいいか。
とりあえず先にヒルダにつけられていた手錠を外す。
「そ、それより、どうしてお前がここに?」
「たまたま街を歩いてたら、ヒルダの取り巻きたちとすれ違ってさ。お前の姿が無いから変だと思って、彼女たちの来た方向を辿っていったら、男に連行されてるのを見つけたんで、急いで後をつけてきた」
まさか、ずっと監視してましたなどと言えるわけがない。
気持ち悪いし、怖すぎる。
ドン引きされること間違いなし。
「そんな偶然が……!? であれば……運命としか言いようがないな」
……前から思ってたけどこのコ、俺の言うことを真に受け過ぎだな。
話が早くて助かるけど、もう少し人を疑うことも覚えてもらわないと。
「……こいつらを一瞬で気絶させたのは、鉱山で岩を砕いた技の応用か?」
「そう。でもこの力がバレたら面倒だから誰にも言わないでくれ」
「分かった。約束する」
そこで緊張が解けたのか、ヒルダは椅子から崩れ落ちそうになった。
慌てて駆け寄り、支えてやると、ヒルダは震えながら俺にしがみついてきた。
「こ、怖かった……。わたしは奴隷として売られそうに……」
「ああ、怖かったな。でももう大丈夫だから」
ヒルダは俺の胸に顔を埋め、必死に嗚咽を堪えていた。
人前で涙を見せることなど、許されないのだろう。
大人びて見えていても、まだ十五歳の少女なのに。
ヒルダに押しつけられた役割の重さなど、俺に理解できるものではない。
「なぜだろう……。絶対にお前が助けてくれると信じていた」
「ははっ。どんだけ信用が厚いんだ、俺は。魔力ゼロのモブには、あまり期待しないでくれ」
少し間を置き、落ち着きを取り戻したのか、ヒルダは顔を上げた。
その瞳は、充血している。
――さて、そろそろかな。
バン!!
扉が勢いよく開かれた。
「大丈夫か、ヒルデガルド!! 助けに来たぞ!! ……ん?」
颯爽と飛び込んできたのは、もちろんリーヴェス。
しかし、想定していた状況とは全く違う現場に一瞬で気づいたようだ。
「お、お前はゴミ野郎!! ヒルデガルドに何をした!! すぐに離れろ!!」
さて、次はこいつらの企みを暴く番だな。
――第2ラウンドのゴングが鳴った。




