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第14話 モブ vs ヴイラン―― 2

 モブとして目立たぬような生き方をしていると、必然的に養われるものがある。

 例えば、身の回りを取り囲む空気感の微妙な変化への気づきとか。

 これに気づけないようでは、一流のモブになることは出来ない。

 空気の読めない奴として、悪目立ちすることになる。

 もちろんカースト上位層は、そんなもの気にする必要はない。

 そして、自分たちが空気を変えていることに気づきもしない。


 新学期が始まると、すぐに俺はその微細な変化を嗅ぎ取ることが出来た。

 今まで殆ど絡んでいるのを見たことのなかった奴らが、何やらこそこそしている。

 すなわち、ある巨星の周囲を一定の距離で周回していた衛星が、その軌道を少し逸脱し、時折、別の巨星に属する衛星の軌道と重なり合う。

 要するに、リーヴェスの取り巻きとヒルダの右大臣が何か怪しい動きをしているということだ。

 ちなみに右大臣というのは、ヒルダの常に右後ろに控えているユリアーナのことである。


 もう、嫌な予感しかしない。

 ユリアーナ自体は真面目で、俺に嫌がらせをしてくることなどないが、問題はもう一方。

 カイルとかいうクソ野郎だ。

 リーヴェスに絡まれている時、どさくさに紛れてこいつにも何度か蹴り飛ばされている。

 入寮の日にエラードを殴ったのもこいつだ。

 黒髪だからよく覚えている。


 俺の勘が言ってる。

 何かが始まろうとしている。


「オルディナ。しばらくカイルとヒルダを見張ってくれ。何か不審な動きがあったら、すぐに報告するように」


 オルディナの統括するAIネットワークは、地球上を周回する四千機もの衛星によって支えられている。

 俺に電磁波を浴びせたり、レーザービームを放つだけではない。

 リアルタイムで地上を常時、監視しているのだ。


『承知しました。ユリアーナではなく、ヒルデガルドなのですか?』

「取り巻きは常に主人の意を汲んで行動する。リーヴェスの狙いはヒルダしかいない」

『カイルが個人的にユリアーナに好意を抱いている可能性は?』

「ふっ。進化してもAIは人間のそういう微妙な感情には気づけないか。カイルは彼女に全く興味を持ってない。むしろ、いやらしいのは――」


 視線を向けると、ユリアーナがカイルの話に夢中になっている。

 いつもの冷静な彼女からは想像できないほど、表情が緩んでいた。

 カイルが何か言う度に、嬉しそうに頷いている。


「ユリアーナの好意を利用しようとしてるところだ」


 リーヴェスの取り巻きを務めているだけあって、こいつもシュッとしたイケメンなのは認めざるを得ない。


『承知しました。カイルとヒルデガルドを最優先で監視します。ただし、常時詳細監視は演算リソースを圧迫するため、他の機能の利用には制限がかかります。漫画はともかく、ホログラムアニメの提供は不可となります』

「えっ……」


 ◆◆◆


 その後の一週間、何事も無く平穏な日々が続いた。


『監視対象に変化はありません』


 オルディナからの報告も、毎日同じだ。

 もしかして、俺の杞憂だったか?

 少し警戒感も緩み始めていた。


 ――そんな時だった。


 授業が終わり、部屋でくつろぎながら漫画を読んでいると、オルディナからの緊急連絡が入る。


『ただ今、リーヴェスが食堂に入りましたが、カイルの姿がありません。学園から抜け出し、街の方へと向かっております』

「お、ついに動いたか。じゃ、俺も飯食いに行くか」

『宜しいのですか? いつも彼らのいる時間は避けておりましたよね?』

「だから、いいんだよ。奴らが常に三人で飯を食うのはみんな知ってる。俺がたまたま顔を合わせた時、カイルがいなかった。その強烈な印象があれば、今日のことを俺が覚えていても、誰も不思議には思わないだろ?」

『そういうことですか。それでは、今後はヒルデガルドの監視に注力します』


 俺は急いで食堂に向かう。


 歩行速度、時速7kmくらい。ということは到着予定時刻――


 また頭の中で勝手に計算が始まる。

 やめろって! 

 マジでうざいな、これ。


 夜のバイキングは、いつものように味の薄そうな惣菜ばかりが並んでいた。

 その中で、比較的味の濃そうなやつを何品か皿に盛りつけ、わざとらしくリーヴェスたちの方へ向かっていく。


 そして、俺の姿に気づくと、分かりやすく舌打ちをしやがった。

 でも気にしない。


「お? どうした、今日は? カイルはいないのか? 三位一体のお前らが珍しいな?」


 わざと周りにも聞こえるように大声で問いかけた。

 周りで飯を食ってた奴らも、俺たちの方を見る。

 よし、証人ゲットだぜ。


「消えろ。飯がまずくなる。お前みたいなゴミと会話する気はない」

「ああ、そう。それは残念」


 それはこっちのセリフだよ。


 とりあえず目的は達成した。

 俺はそのままお一人様用の席に移動して、飯を速攻でかきこむ。

 そして、漫画の続きを読む為に部屋へと戻るのであった。


 ◆◆◆


 カイルがどこかへコソコソしに行った日の週末。

 オルディナから、ヒルダたち三人が外出する旨の報告が入る。

 俺は速攻で着替えて、こっそりと後をつける。

 ……ストーカーみたいだが、仕方ない。

 奴らが学園内で、ヒルダに何かするとは思えない。

 仕掛けてくるなら、外しかない。


『リーヴェスたち三人も、学園外へ出ました。ヒルデガルドの約二十分後です』


 ほら、間違いない。


 体格だけは大人に近いが、こいつらはまだ15歳。

 ガキの考える作戦なんて、たかが知れてる。

 粗だらけのくだらないことを完璧だとでも思っているんだろう。

 お前らの年頃で思いつきそうなことなんて、昔の俺がよく分かってる。


 大人のモブを舐めるなよ。

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