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第13話 モブ vs ヴイラン―― 1

「おはようございます、領主様」

「領主様! おはよう!」


 ルーディに案内され、開拓が進んだ農耕地を見て回っているとあちこちから挨拶される。

 大人に混じって、子供たちも仕事を手伝っているようだ。


 この俺が領主様……。

 何だか申し訳ない気持ちが湧いてくるが、俺はそれっぽく手を振ってそれに応える。


「あ、シンタロウ様! あそこで休んでいる彼は、つい先日移住してきたばかりです。僕と同じく都会での生活に疲れたとのことでした」


 ほう、それは俺とも気が合いそうだな。

 俺たちの接近に気づくと、その黒髪の青年は慌てて立ち上がった。


「は、はじめまして! ヤニクと申します! 東のクローゼル市からやってきました! 快く移住を認めて下さり、大変感謝しております!」


 クローゼル?

 何か聞き覚えがあるな。


『クローゼル市はここから500km先にある中規模の都市です』


 オルディナが聞いてもいないのに、阿吽の呼吸で補足してくれる。


「あんまり、かしこまらなくていいよ。都会に疲れたんだって?」

「はい! 以前から田舎で農業をやりたいと思ってたところ、この村の噂を聞いて」


 そんな遠い場所にまで噂が広まってるのかよ……。

 まずいだろ、それは。


「ああ、そう。農業は農業で、きついことも多いだろうけど、頑張って」

「ありがとうございます!」


 そう言うとヤニクは一礼して、畑仕事に戻っていった。


 クローゼル……。

 どこで聞いたんだっけかな。

 何かで有名なんだっけ?


 ◆◆◆


 アンスヘルム城のリーヴェスの私室にて。

 夏休みに入っても、その取り巻き二人は行動を共にしていた。


「ヒルデガルドは、なぜ僕に興味を示してくれないと思う? 普通、婚約者であれば、どんな人間なのか知りたいと思うものじゃないのか?」

「そうですね。まだ親同士の口約束の段階なので、正式に決まってからと思っているのではないでしょうか? ぬか喜びをしたくないといいますか」

「なるほど……。そういう考えもあるか」

「はい、それに五大貴族の一角を占める両家の婚姻ともなりますと、宮廷でも警戒している勢力は多いでしょうし、なおさら慎重にもなるというもの」

「ふむ。僕の野望に気づかないわけもないか」


 リーヴェスは少し顔をしかめて思案する。

 政治面での発言力だけではなく、両家の軍事力が合わさることに対する脅威。

 さらにヒルデガルドと自身の魔法は、単体でも王国屈指の破壊力を持っていることは自覚している。


「あとは、あのゴミ野郎の存在も一因かと」


 ゴミ野郎。

 突然現れた魔力ゼロのあのモブを、なぜかヒルデガルドは気に入っている。


「鉱山での落盤事故の時、活躍したことが理由なのは間違いないでしょう」

「ああ、そうだな」


 夏休み前の武術訓練でボコボコにされた恨みは、未だリーヴェスの心の底で煮えたぎっていた。

 元々は自分の方が先に何度もボコしていたことは都合よく忘れている。


「どうでしょう、リーヴェス様。シンタロウを先に排除する方向で進めては」

「排除か……。ヒルデガルドが常に目を光らせているから難しくないか? まずは彼女の方を何とか僕に振り向かせたい」

「何かお考えが?」

「ああ、しょせん彼女も女だ。ヒーローに憧れは抱くはず。それが、みんなにとってではなく、彼女自身にとっての特別なヒーローであればなおさらだ」


 リーヴェスは、考えていた作戦の概要を二人に伝える。


「なるほど。であれば、シンタロウも同時に排除できるかもしれません」

「どういうことだ?」


 黒髪の取り巻き――カイルが不敵な笑みを浮かべて作戦の補強案を述べると、リーヴェスは満足そうに頷いた。


「それは面白いな。あいつは妙に鼻が利くことがある。万が一、ヒーロー作戦が失敗しても、あのゴミを片付けることだけは出来そうだ」


 そこで話が一段落すると、カイルはわざとらしく一つ咳払いをして、リーヴェスに尋ねる。


「と、ところでリーヴェス様。今日はヘンリエッテ嬢はいらっしゃらないのですか?」


 本人的にはさり気なさを装っているつもりなのだろうが、周りにはバレバレである。

 夏休みにも関わらず、アンスヘルム城に滞在しているのは、リーヴェスのご機嫌取りだけが理由ではない。

 それ以上に、彼の一つ年下の妹、ヘンリエッテと交流を深めたいと考えていた。


「そうだな、ではあいつも交えてお茶でもしようか」


 リーヴェスは部屋の片隅に控える従者に合図を送る。

 そして少し時を置き、控えめな扉のノックの後、亜麻色の髪に、深い蒼と赤の異色の瞳(オッドアイ)を宿した美しい少女が現れた。


「兄さま、また悪だくみですか?」


 深いため息とともにそう言って、渋々テーブルの片隅に座る。

 そして適当に相槌を打ちながら話を聞いていると、やけに目の敵にされているシンタロウという人物に、自然と興味を引かれていった。


 ◆◆◆


 あっという間に、夏休みが終わってしまった。

『ルミナス・マジカ』、その続編の『マジカ☆スパークリンク』、『暁のソルスフィア』の三作品は全て観終わった。

 それ以外にも漫画を50冊くらい読み終わっている。

 村の喧騒は遠く、思い描いていた静かな生活を送ることが出来た。


 ずっとソファで寝転がってると体が凝り固まるので、日に数時間はオルディナの投影するホログラムを利用して、格闘訓練に励んではいた。

 また武術訓練でリーヴェスと相手することになったら、オルディナの力を借りずとも自力である程度は戦えるようにしておきたかったのだ。


 一ヶ月ぶりに戻った学園。

 席に着くと、エラードがお土産をくれた。

 見たことのないようなチョコレート菓子だ。


「ありがとう。俺は何も買ってきてないや……ごめん」

「いいって。森の中でポツンと仙人みたいな生活を送ってるんだろ?」

「ああ、そうだったんだけど帰ってみたら、予想以上に発展してて――」


 言いながらホッとする。

 良かった、こいつの住んでるとこまでは噂は広まってなかったか。


 エラードの住むゲーリンク市は、俺の村から200キロほどの距離。

 例の計算癖で、前に勝手に計算していたのだ。


 噂の広がるスピードには、ムラがあるようだ。

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