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第11話 学園生活―― 3 

「はぁ……はぁ……」


 部屋に戻った俺は、オルディナにリーヴェスの動きをホログラムで再現させ、ひたすらシミュレーションを繰り返した。

 奴の間合いの詰め方、打撃、組み技――その癖を一つずつ分解し、別々の動きとして洗い直す。

 それらを組み合わせて再構築していくと、派生するパターンは際限なく広がっていく。


 こうやって解析してみると、改めて奴が今まで格闘術をマジで学んできたということが、よく分かった。

 何度やっても勝てるイメージが湧かない。

 体格も技術も経験も、圧倒的な差がある。


 オルディナによると、神経に電気刺激を与えた場合、暫く全身筋肉痛に襲われるとのことなので、俺がどれくらいスピードアップできるかの予習は出来ない。

 本番での一発勝負だ。

 とはいえ、モブの俺ごときが持っているスピードの限界値なんてたかが知れている。


 リーヴェスの癖の把握。

 俺自身のスピードアップ。


 この二つだけじゃ、まだ足りない。


 あとは何だ?

 俺のスピードアップを最大限に活かすにはどうすればいい……?


 ん……? 逆にリーヴェスの動きを遅くする?

 でもどうやって?


 俺は今まで漫画やアニメで培ってきた情報をひたすら脳内検索する。


 ――あ、そうか。

 電気信号を送るのは神経だけでなく。


 そして、オルディナに確認する。


『はい。それは可能ですが、かなり危険を伴います』

「でもやるしかねぇよ。もうこんな毎日は終わらせてやる」


 ◆◆◆


 夏休み前の最後の武術訓練。

 いつものように俺はリーヴェスと組まされ、その取り巻きたちが周りを囲む。

 教官の目から、俺たちの姿が死角になるようにする為のいつもの隊形だ。

 これで好き放題やってくれた。


「しばらくお前をサンドバックに出来なくなるかと思うと、ちょっと寂しくなるな。あ、夏休み中も補習が必要か? 特別に俺が相手してやってもいいぞ?」

「ヒルダに全く相手されないから、夏休み暇なのか?」


 ニヤついていたリーヴェスの表情が、一瞬で強張った。


「……病院送りにされたいようだな? ひと夏の思い出は病室で作っとくか?」


 全員の準備が整ったことを確認すると、教官の「はじめ!」という合図がかかる。


「オルディナ、頼む」

『了解しました』


 衛星からの電磁波が俺を直撃する。

 ピリッと針で軽く刺されたような感覚。


 すぐに心臓の鼓動が速くなったのが分かった。

 全身が熱っぽくなり、体の芯が震えてくる。


 そして、リーヴェスが俺に襲い掛かってくる。

 昨日、予習したパターンのうちの一つだ。


 ――だが、スローモーション。

 今の俺には、こいつの動きがコマ送りのように見える。


 電磁波は俺の神経だけではなく、脳の一部にも刺激を与えていた。

 細かいことは分からないが、オルディナには視覚を処理する部分にも当てるよう、お願いしておいたのだ。


 悦に入っている時間は無い。

 こんな覚醒状態をずっと維持できるほど、モブの体は頑丈ではない。


 三か月間。

 こいつにずっとやられ続けて、どこを殴られると一番キツイかは身に染みて分かってる。


「ここだろ?」


 まずはレバーに全力でぶち込む。


 ドンッ。


 今の俺には、音が後から届く。


 リーヴェスの顔がゆっくり苦痛にゆがみ始める。

 痛いだけじゃなく、息を吸うのも苦しくなるし、体の力も抜けるんだよな。


 ――でも意識だけははっきりしてる。


 体勢が崩れる前に、金玉に蹴りを入れておくことも忘れない。


「こいつは、どうだ?」


 そして、顔面を思い切り殴りつける。

 その鼻から、ゆっくりと鼻血が飛び散っていくのが見えた。


 ……これ、俺の拳も痛いな。


「じゃ、こうか」


 左ふくらはぎにカーフキック。

 この蹴りは昨晩、何度も練習してきた。


 リーヴェスは股間を押さえながら崩れ落ち、床を転がる。


「とどめだ」


 最後にもう一度、思い切りレバーをストンピングする。

 俺の足元で、リーヴェスは声を上げることも出来ず、ただ悶えていた。


 時間にして、わずか数分間の出来事。


「先生!」


 俺は教官を呼ぶ。


「どうした?」

「すみません、足が滑ったところで、運悪く急所に攻撃が入ってしまって」


 教官が駆けつける。

 リーヴェスは顔を真っ赤にしたまま、股間やふくらはぎを押さえてピクピクと痙攣していた。


「で、床に倒れたタイミングで顔面も打ちつけたようで、鼻血まで出てます」

「……不運のオンパレードだな。おい、誰か! 医務室まで運んでやれ!」


 取り巻きたちが慌てて、リーヴェスを担ぎ上げ退場していく。


 その後ろ姿をぼんやり眺めていると、目がチカチカしてきた。

 そして、突然目の前が真っ暗になり、意識が飛んだ。


 ◆◆◆


 目が覚めると、俺はベッドに横たわっていた。

 どうやら俺もまた医務室に運び込まれたらしい。


「お、目が覚めたか?」


 ベッドの横ではエラードが静かに本を読んでいた。

 俺は体を起こそうとするが、体の奥がギシギシ軋むような、重い痛みが襲い掛かってくる。

 そして、皮膚の下で細い電流が走っているような、ピリピリした神経痛。


 筋肉痛じゃねーだろ、これ……。


「びっくりしたよ、突然気絶するなんて」

「ああ、ちょっと朝から体調が悪くてな」


 俺は適当に誤魔化し、周りを見渡す。


「あれ? リーヴェスは?」


 そう問いかけると、エラードは苦笑した。


「君と同じ場所になんていられるかって、這いつくばりながら出てったよ……」

「そうなのか? あいつの怪我ひどそうだから、お前に治療してもらおうと思ったんだけど」

「……彼には僕もゴミ扱いされてるから、断固として拒否されるよ」

「それもそうか。俺にはもうやってくれたのか?」

「ああ。少しは効いてるといいけど」

「ありがとう」


 こいつのおかげで、この程度の副作用で済んでるってことか。


 ガラガラ――。


 医務室の扉が開く音がした。


「シンタロウ! 大丈夫か?」


 ヒルダが心配そうな顔で現れた。


「焦ったぞ。突然、倒れたと聞いて」

「ああ、大丈夫。エラードのおかげで大分回復した」


 そう言うと、ヒルダはエラードの方を向く。


「そうか。お前は治癒魔術が得意だったな。礼を言う」

「い、いや俺なんてそんな……。じゃ、シンタロウ。俺は行くよ。邪魔だろうし」

「邪魔?」

「いや何でもない! じゃ、お大事に」


 エラードはそそくさと医務室から出ていった。


 それにしても、たった数分の覚醒で、ここまで副作用が発生するのか。

「何度も使うと、深刻な後遺症が残ります」とオルディナからは警告されている。


 ……もう使いたくねーな、これ。

 今回で凝りて、あいつらが二度とちょっかいを出さないように祈るしかない。

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