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D〜乙女たちの終末〜  作者: のーりみっと
いつの日にか、あなたのために〜ヴィーの場合〜
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第6話 いつの日にか、あなたのために

 深夜、立哨を終えたヴィーはスーツ着用のまま人けの無い基地エリアへと入っていった。先に来ていたルウは、彼女に軽く手を挙げた。彼もまたスーツ着用のままだった。

「待ってたよ。お疲れ」

 ヴィーは軽く頷くと本題に入るよう彼を促した。

「話ってなに」

「ああ、その前にちょっと組み手しないか」

 意図は解らないが、ルウからの敵意を感じ取れなかったヴィーは了承の返事を返した。

 相手の力量を窺う様に抑えた力で始めた二人だったが、次第に熱を帯び、とうとう互いに全力に近い組み手になっていった。それは普通のスーツ着用者では追い付けない速さと激しさを伴ったものだった。


 暫く続けていた組み手は、ルウが両手を上げる事で終了した。

「ヴィー、適合率200%超えてるだろう。後スーツの声も聞こえている……ああ、隠さなくていい。俺も同じだからな。でなきゃ、俺と渡り合えない」

 咄嗟に否定しようとしたヴィーを、彼は宥めた。気を取り直したヴィーは彼に問い返した。

「で、それがどうしたというの」

「そういきり立たんでくれ。俺達はスーツの声に導かれ生身の身体能力が上昇してる。本題は此処からだ。その導き手、夢に見ないか。因みに俺の場合は人語を話す金色の狼なんだが」

 ルウの話を聞いて、ヴィーは確かにあの雰囲気は夢によく出てくる女性にそっくりだと思った。だが、だから何だとうのか。その疑問をそのままヴィーはルウにぶつけた。

「だから何」

「まあ続きを聞いてくれ。金狼の世界のダイモーンみたいな存在、元々人間の開発した生体兵器だったと言うんだ。人間の制御を外れてからはあの世界を席巻してしまったらしい。そしてダイモーンも同じ存在だと言うんだな」

「あの世界って、何時の何処の話なの。本当にあった話なの。そんな痕跡どこにも残ってないでしょう」

 何処にも無い世界の話に苛立ちを覚えてきたヴィー。それを平然と受けるルウ。

「ああ、夢に出て来る世界は、俺達の世界と次元、っていうのか、が違う別の世界らしい。俺と金狼は夫々の世界の同じ存在だと言われたよ」

「そんな、娯楽小説みたいな事……」

 否定的なヴィーに対して、ルウは反論はしなかった。

「まあ、それが普通の感覚だ。ここから先は戯言の一つとして聞いてくれて良い」

 あっけらかんとしたルウは話し続けた。

「金狼の世界は滅んでしまったが、本当はダイモーンの様な存在を救済したかったらしい。金狼の世界で救済方法を見付けた女性がスーツ着用者の導き手となっていると聞いてたんだが、今日のヴィーの動きを見ていて、君がそうだと確信した」

「私が……私、何も知らないのに」

「それは、これから知る事になるんだろうな」

 知らない内に、重い責務を負わされた気分のヴィーと、俄には信じられない話だよな、と諦観するルウは暫く口を噤んだ。

 先に口を開いたのはルウだった。

「前に多くの人の期待と言ったが、あれはシルヴァニャの人びと、夢に出て来た人びと、事態解決の為に奔走したあの世界の全ての人びとの事だ」

 何故シルヴァニャが此処で出て来るのか不思議に思ったヴィーがそう問うと、ルウは笑いながら答えた。

「それは、俺もシルヴァニャ人で、家族や親しい人が今でもあの国に居るからだ」

「えっ、それじゃ貴方、ダイモーン……」

 思わず殺気を立ち昇らせるヴィー。慌てて答えるルウ。

「いやっ、俺は人間だ。じゃないとCADに志願した時点で殺られてるっ」

 ヴィーはルウとは全く違う境遇の不条理さに段々と苛立ちを覚え、それをぶつけてしまう。

「何でっ、貴方達はシルヴァニャに居られるのっ。何でっ、私と両親はシルヴァニャを奪われたのっ。理不尽じゃないっ」

「俺にも分らない。すまない。答えられなくて」

 激発した行き場の無い憤りを歯を食い縛りながらヴィーは必死に堪える。

「貴方に当ってもしょうがない事だったわ。ごめんなさい」

 暫くして、気持ちを落ち着けたヴィーは謝罪する。

「それで、貴方はダイモーン、というかシルヴァニャの間諜としてCADに来たの」

「最初はそのつもりだった。だが金狼の話を聞いてからは、ダイモーンがシルヴァニャの外に広がらない様にする事が目的になった。その内ダイモーン達が救済される事を願ってな」

 ヴィーは彼がダイモーンとの戦闘をどう思っているのか、もう一度聞いてみたくなった。

「ああ、最初の数回の戦闘は後ろ指を指される覚悟で倒してた。けど今じゃ、彼らを説得して撤退させてるよ。他の機関員に目撃されない限りスーツの記録とか改竄できる様になったからね。そう、その話も今日したかったんだ。そうすれば君も今の様な危険な行為をしなくても済むからね」

 ヴィーにとってそれは、何とも人をくった、以外な答だったが、少しだけ希望の持てる答でもあった。


 ダイモーン基地奪取後、新たに配置された戦闘員達と入れ替わりに、ヴィーはCAD本部へと帰投した。しかしヴィーを待っていたのはまたしても諜報部による事情聴取だった。

 聴取室へ閉じ込められたヴィーは尋問官を待った。どんな言い訳も通用しないと諦めていた。ルウ、ごめん、救済の前に私が処分されるかも、とヴィーは内心でルウに謝罪した。

 聴取室の扉をノックもせずに入ってきたのは予想外のイスト司令だった。彼は他の機関員を全て退出させると、机を挟んだヴィーの対面に座り、徐に話し始めた。

「さて、ヴィー君。君に少しスーツ、LuCyの話をしよう」

 いきなり事情聴取とは関係の無い話を始められヴィーは戸惑う。

「一部では私が設計したと言われているが、私は既にあった二つの設計書を纏めただけでね。それぞれを設計したのはルシエラ君とキュベレ君という二人の女性なんだよ。知らないかな」

 聞いた事も無い名前を出され、ヴィーは一層戸惑いを深めた。

「少くともルシエラ君は知ってる筈なんだがね。君のスーツの導き手であり、君の夢に出てくる女性だよ。キュベレ君は夢に出てくる別の女性、ゾーイ君と言うんだが、彼女の親友ミード君の姉で、優れた物理学者であり工学者でもある」

 夢の事を知ってるっ。ヴィーは驚きを隠せず目と口を大きく開けてしまっていた。

「驚くのも無理は無い。そのままで良いからもう少し私の話に付き合ってくれたまえ。

 彼女達、ああキュベレ君ではなくルシエラ君とゾーイ君なんだが、はその装置の影響で所謂世界の狭間とでも言うべき所に意識が飛されてしまってね。だが、同じ理屈で開発されたLuCyを使うとその狭間への通路を開く事ができるんだよ。一時的にだがね」

 普段の能面の様な白皙の男は今、微かに薄い笑みを浮べていた。

「一度、通路を通して接触した意識同士はその後、通路無しでも接触できる様になるんだ。ある時は夢の中で、ある時は幽霊の様な存在としてだがね」

 何が可笑しいのか司令はくつくつと喉を鳴らす。

「ルシエラ君は君にダイモーンの浄化方法、”復光”と”消灼”を教える筈だ。浄化方法の開発が彼女の人生を賭けた希いだったからね。偶然にも君は彼女と同じ遺伝子列を持っている。遠い親類という程度だが、重要な物は持っているという事だ。君には是非それを修得してもらいたい。そうすれば、君の今迄の裏切りとも取れる行動については不問としよう。悪く無い取引だと思うがどうするね」

 最後は能面に戻った司令は、冷酷な声音でヴィーに選択を迫るのだった。


 司令との取引は結局、応諾せざるを得なかった。少しでも情報を引き出そうと理由や動機を訊ねるも、「すぐに答えが得られるといのは、案外詰らないものだよ」とはぐらかされる始末だった。

 ヴィーは再び無名戦士の墓標へ来ていた。今は亡き彼らへの問いは、以前と同じだった。


——貴方はどの様な戦い方をしたのですか。

——自身の行為に疑問を覚えませんでしたか。


 しかし、その動機は以前とは異なっていた。ひょっとしたら、嘗て苦悩した矛盾を解決できるかもしれない。しかし、あの司令の事だ、それはまた自分の望まない使われ方をされるのかもしれない。その時自分はどうすべきか。それを問うていたのだった。


 やがて、覚悟を決めたヴィーは蒼空を刺す石碑の頂点を見上げて呟いた。


「ルシエラさん。いつの日にか、貴女のために、貴女の思いを叶えるために、私の人生を捧げます」



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