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第九十二話 これでよかった

「……なぁ、お前たち二人はどのくらい本気なんだ?

 俺的にはあんまり本気だとは思えないんだが」


 砂漠にて遠くに王都を背にして立つレスト。

 レストがそう聞けば二人は順に答える。


「私は半分程度」

「妾は三割ほどじゃぞ」


「ご親切にどうも……なんだかんだ答えてくれるんだな。正直適当にあしらわれると思ってた」


「べつにあなたは嫌いじゃないわ。

 なんにも羨ましくないもの」

「妾は嬉しいんじゃ、気分が良い。

 だから今日は親切じゃぞ」


 なんと言うか、魔王側近らしい自由な言い分だ。


「……俺は気になってるんだ。

 なんでお前たちは俺たちを攻撃する?

 共存っていう道はないのか?」

「共存は難しい話ね。両者、すでに差別意識は根まで染みきっている。種族同士の対立は免れないの。

 だから魔理様は決めたのよ。

 支配という形で世界を変える」


 レアルトがそう言うとレストは笑う。


「ははっ、なんでそんな面倒くさいことしてんだ。

 支配したところで歴史が繰り返されるだけだぞ」


 レストがそう言うと、

 レアルトがそれを正面から否定する。


「歴史が繰り返されるのならば止めればいい。

 革命はいつだって常識を破るところから始まるものでしょ? 羨ましいなら今からでも魔王軍に入る?」


 少しこちらを嘲笑する態度のレアルト。

 安い挑発、だがレストはそれに乗る。


「使役魔法は格上相手には弱い。

 でもそれは未熟なやつの考えだ。

 見せてやる……これが使役魔法の頂点。

 俺の使役魔法の全てを出し切ってやる」


 使役魔法は召喚魔法と違い、

 多くの個体を一気に顕現することは難しい。


 召喚魔法と違って破壊されればそれっきり、

 数も魔力ではなく今まで使役したものだけ。


 だが、それでも使役魔法が召喚魔法と変わらず、

 同程度の攻撃魔法と呼ばれているのか?


 使役魔法は圧倒的に魔力消費量が少なく、

 召喚魔法に比べて自由度が高い。


「俺が所有する使役個体は1345体……

 今から1344体を1体に融合する。

 融合してしまえば使役個体の全てを失う。だが……

 ここで出し惜しみしちゃぁもったいないよな」


 レストは魔法陣を足元に展開すると、

 右手を上へと突き上げ、黒い霧が手へと集う。


「……帰一(フィーニス)!!」


 大きな黒い渦が出現し、その渦が段々と昇っていくと赤黒い魔族が出てくる。


 全身に黒い火を纏っていて、

 真っ赤な髪の毛が逆立っている。


「俺の焦土星(アレルミー)はさっきよりも強いぜ?」


 自信満々のレスト。

 出てきた焦土星は、魔力量が凄まじく、

 レストが自惚れるのも仕方がないほどだった。


「……なんだ。少し羨ましいことはできるじゃん」


 レアルトは拳を強く握りしめると、

 全身に泡盛草の模様が浮かび始める。


「これで二対二だな」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 レストの両親は魔王軍に所属希望だった。


 俺が生まれてからひたすらに魔法を鍛えさせてた。

 いつか魔王側近になってもらうという、両親の自己満的な夢。


 良い意味でも悪い意味でも俺は両親の全てだった。


 俺自身、親がどうなったかは知らない。


 きっと俺のことなんて忘れたくてしょうがないのだろう。だって俺は一族の恥だ。


 悪魔族は基本的に魔王軍に入るのが鉄則。

 色欲のエルドレが悪魔族の影響もあるが、

 そもそも悪魔族が普通に生きていけるわけもない。


 差別、この世界にはこんな言葉がある。

 それでも俺は堕ちたくなかった。


 俺は魔王軍なんて言うものには入りたくなかった。


 身も心も、己の全てを捧げ、嫌われて生きていく。

 そんなのあまりにも楽しくない。


 俺が死んで喜ぶ奴もいるだろう。

 でも俺は悲しんでくれる人たちにあえて言いたい。


 大丈夫、悲しまないでくれ。

 これでよかったんだ。


 悪魔族は忌み嫌われる存在。


 俺はそんな存在でありながら、

 誰かに感謝されることがあった。


 それが救いだった。


 死ぬことは怖くない。

 でも忘れられてしまうのが怖くてしょうがない。


 だからこんなやつがいたって覚えておいてほしい。

 俺は君級魔法使い天戒のレスト・バレットメアだ。



 ……


 俺は……なにもう死ぬ気になってんだ。

 

 でも、やっぱ……勝てねぇよなぁ。


「焦土星ッ! もっと抑えとけよ!」


 レストは頭から血を流しながらも、

 氷魔法でレアルトの攻撃を相殺し続けており、

 戦闘は長引いていた。


 傷だらけの体、焦土星の再生に大量の魔力をほとんど使ってしまい、疲労も溜まってきた。


 一方、焦土星は大量の魔力を得たことで、

 ユーラルと互角の戦いが出来るようになった。


 レアルトに致命傷はまだ与えられていない。

 属性魔法に関してはレストは将級並みだ。


 一人では確実に勝てない。

 ユーラルが潰れるまで耐えるしかないのだ。



 強欲ユーラルの九つの姿のうち、三つは確認済み。

 恐怖、歓喜、悲嘆。


 恐怖は召喚魔法特化。

 歓喜は打撃による近接戦特化。

 悲嘆は速度に特化した属性魔法特化。


 焦土星はそれらを撃破し、今は激怒と戦っている。


「体が焼き照らされるような痛み!

 許せぬ……この妾に向かってっ!!」


 怒りは打撃の近接特化型。

 だが普通の形態よりも一撃に全てを込めているタイプであり、威力はおそらくずば抜けているはずだ。



 はっきり言って戦況は不利である。

 レスト自身、レアルトの攻撃にいつまで耐えられるかわからない。

 全てが初見の魔法ほど戦いにくいことはない。


 むしろよくここまで軽傷でいられたものだ。



 焦土星は燃える拳でユーラルへと殴りかかると、

 ユーラルも拳を突き出し、拳同士が衝突する。


 焦土星の拳が割れ、ユーラルの拳は火傷を負う。


 だがどちらもすぐさま再生し、拳をひたすらにぶつけ合う殴り合いへと発展した。


 拳を繰り出す際に肘を引き伸ばしたり、曲げたり、

 戦い方はただの打撃戦といえど多彩だ。

 角度、力の入れ方、フェイント。


 それら全てが完璧な殴り合いは、

 単調に見えていても超高度な読み合い。


 姿勢を低くして下から殴れば、ユーラルはそれを避け、反撃にて隙のできた焦土星へと拳を放つ。

 その拳を体を反らして掠める程度に抑え、

 次は焦土星の拳がユーラルへと向かう。


 焦げた匂いが鼻をつんざく。


 しばらくの殴り合いの末、焦土星の拳がユーラルの頬を強く殴りつけた。


「ッ!! ……はははっ熱いのう!」


 大ダメージかと思えたその一撃。

 だが、ユーラルは溶ける頬に構わず、殴り終わりの隙を逃さずに渾身の一撃を腹部へと打ち込む。


 それにより腹部へとヒビが入って吹き飛び、

 焦土星は砂の上に倒れた。


 再生が行われない。

 レストの魔力供給が間に合っていないのだ。


「いい加減諦めなさいよ。土変(ドザイア)

「だったらそっちが手を引いてくれないか?」

「それは絶対に無理な話だわ」


 焦土星の再生が終わる前に、

 ユーラルの拳が焦土星へとトドメを刺し、

 最強の使役個体は消滅してしまった。


 段々とこの戦いの結末が見えてくる。



「……もう終わりじゃない?

 魔力も枯渇して、傷も増えて血が出過ぎてる。

 あなたの負けよ」


 レアルトがそう言うと、

 レストは小さく笑いながら、杖を地面へと落とす。


「やめだ! わかった認めるさ。

 俺はお前たちには勝てない!」


 レストは両手を上げてそう敗北を認める。


「呆気ないのう! いきなり死を受け入れるのか?」


 ユーラルがそう言えばレストは頷く。


「俺はずっと考えてた。

 確かにお前たちに正面から戦って俺が勝てるわけがない。だからさっきから考えてた!」


 レストは魔法陣を広げる。

 それは黒色の魔法陣、使役魔法のものだ。

 

 同じ形、同じ性質のもの。

 ただ片方の性質が一切の狂いもなく真逆になり、

 それが元のものとぶつかればどうなるだろうか?


 レストは自身の胸へと手を当てる。


 ……やっぱりこれしかないよな。


「一緒に逝こうぜ。バケモノども」


 レアルトとユーラルの全身に悪寒が走る。

 体が震え、本能的に今すぐここから離れるべきだと言われている気がする。


 だがすでに遅かった。


 使役魔法は自分自身にも発動可能。

 魂を取り出し、それを微量の魔力で体を作り、

 使役個体として扱う。


 自分自身の使役個体を作れば、魂は使役個体へと移動し、元の体はもぬけの殻となる。


 元の体は正、使役個体を構成するのは負。

 詳しい原理はまったく知られていないが、この二つが合わさった時、巨大な爆発を起こして消滅する。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日、レナセール王国の西側の砂漠地帯に、

 巨大なクレーターができるほどの爆発が発生した。


 爆心地には一枚の紙が地面に突き刺さっており、

 魔族語にて言葉が書かれていた。


『君級魔法使い、天戒は死亡した』


 間もなくして西黎大陸にて魔王側近が二名、目撃された。嫉妬と強欲、この二人は戦うこともせず、北峰大陸へと帰っていったそうだった。



 また一人君級が亡くなった。


 数日後中央大陸にて冷気が漂う。

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