第八十六話 昼想夜夢 番外編
非常に表現は抑えていますがガッツリR-15です。
グロ描写ではないです。微エロです。
これは番外編なので読まなくても大丈夫です。
のでこう言った表現が苦手な方は飛ばしてください。
前話のその後と二人の思いが語られています。
僕はフラメナが憧れだった。
最初の頃は自分が女の子だと思われていることには、まったく気がつかなかった。
フラメナは優しかった。
あんなにも弱く、気も弱い僕を何度も励ましてくれたし、一緒に魔法を学ぶ時もよく教えてくれた。
僕が9歳の時、フラメナは旅に出た。
寂しかったし、別れた後もずっと泣いていた。
でもいつしか僕は、フラメナに負けないくらいの魔法使いを目指すようになっていた。
氷魔法と草魔法、それを練習する中で僕は気づいたんだ。草魔法が絶望的に向いていないことに。
だから僕は氷魔法だけに集中した。
でも結局、混合魔法を扱えないとダメな時は来る。
ならもう一つ強みを持っておきたい。
そこで本で知った転移魔法が思い浮かんだんだ。
史上四人しか成せなかった魔法。
できるかわからなかったけど、ひたすらに失敗を重ねていた。
今思えばそのがむしゃらさが今を作っている。
領土戦争。そんな恐ろしいことが起きている南大陸で、僕は必死に魔法を勉強した。
フラメナに失望されたくなかった。
フラメナに認められたかった。
フラメナを追い越したかった。
そんな気持ちだけで魔法を鍛えた。
でもある日、南大陸は滅亡し、僕は咄嗟の転移魔法で奇跡的に成功を経験し、中央大陸へと転移する。
記憶を失って、ずっと心が満たされない日々。
そんな日々から救ってくれたのはフラメナだった。
僕は救われてばかりだ。
でもフラメナは僕を頼ってくれる。
砂塵との戦いでも、傲慢との戦いでも……
フラメナが僕に失望した瞬間はなかった。
いつだって僕を認めてくれた。
それが嬉しくてたまらなかった。
同時に、僕は段々とフラメナを好きになっていた。
なんで好きになったのだろうか?
フラメナは僕の憧れであり、親友だった。
でも……いつのまにか僕は惚れていたんだ。
煌めきを帯びている真っ白な髪に、
真っ赤な宝石のような瞳。
誰よりも強く、誰よりも強くあろうとする。
笑顔は可愛くて眩しいもの。
フラメナは脆くも強くあろうとする人だ。
そんなところが好きなのかな?
僕はフラメナの笑顔が好きだ。
脆くてすぐに壊れてしまいそうなフラメナを、
僕は非力ながらも守ってみたいと願う。
フラメナが好きだ。
僕はフラメナが好きでしょうがない。
僕にはもったいないくらいの女性。
でも、フラメナは譲りたくない。
あの頃の南大陸はない。
でも僕たちはあの頃のままじゃないんだ。
進み続けるしかない人生の中で、
こうして一緒に歩いてくれる人がそばにいる状況、
なんて僕は幸せなのだろうか。
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私はライメを守りたかった。
昔は弱気ですぐ泣いてしまうような子だったの。
私はそんなライメを助けることが好きだった。
ライメは助けられると毎回私を絶賛して褒めてくれる。幼い私の自己肯定感を上げるには十分だった。
ライメと受ける授業は楽しく、
遊ぶ時だって楽しくない時なんてなかった。
ライメの近くにいると飽きなかったの。
私が10歳の時に、ライメとは離れ離れになった。
寂しかったし、心配だった。
クランツと旅をしてる時も、ライメのことが気になったりしてたし、案外心配性なのかもしれない。
南大陸が滅亡した時、私は心が折れた。
みんな死んだと考えると吐き気が止まらなかった。
でも、私は立ち直れないながらも歩き始めた。
頑張って歩いたんだ。
過去を引きずってでも生きていく、そう決めた。
だからライメと再会した時は驚いたし、
嬉しかったし、悲しかった。
記憶を失ったライメ、せっかく会えたのに。
でも結局記憶は戻り、ライメは全てを思い出した。
未だにどうして記憶が戻ったのかはわからない。
強い衝撃だとか、過去との接触だとか。
そう言った類のものだと思ってる。
西黎大陸での生活で私はライメを好きになった。
幼い頃と変わらない飽きない会話。
楽しくてしょうがなかったし、報われたと感じた。
ライメは優しい。でも私が好きなのはそこじゃない。ライメは私のことを絶対に一人にしない。
エルトレたちも私のことは支えてくれた。
でもライメはそれよりもすごかった。
比べるものじゃないなんてわかってる。
でもライメは……なにを言っても笑って受け入れてくれて、なにをしても支えてくれて、どんな無茶にも応えてくれる。
戦いでライメに無茶振りをしても、
ライメは必ず成し遂げてくれる。
ライメは私のわがままに付き合ってくれる。
夜遅くまで私が話しすぎても、
先に寝ようとはしなかった。
私はライメの全てが好きだ。
同性かと勘違いしてしまうような顔立ち。
少し細い体、海のように青い瞳。
赤紫が特徴的な癖っ毛、笑った時に見せる優しい笑顔。
守りたいなんて思うのは少し図々しいかもしれない。だから私はライメと一緒に支え合いたい。
二人で一緒にこの長い人生を歩む。
そんな思いが私を常に満たしているの。
悪くないわ。
これが私の幸福なのかもしれない。
絶対に手放さない。
これだけは誰にも譲らないんだから。
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鼓動が早まる僕とフラメナ。
僕の部屋でキスをしたあと、見つめ合った。
僕もフラメナも無言だけど、気まずくはなかった。
「……もっかいハグ」
フラメナがそう言って僕へと抱きつく。
ギュッと抱きしめてくるフラメナ。
僕はフラメナの背中に手を回して撫でる。
「ライメは……チューは初めてよね?」
フラメナの少しこもった声。
「うん……初めてだよ」
「私も初めて……なんだか不思議ね。
チューってすっごく好きだわ」
僕に抱きつきそう言うフラメナ。
はっきり言って可愛い。
こうして抱きついてくれるのは嬉しい。
フラメナはどちらかと言うと気の強い女性だ。
一人でなんでも乗り越えてしまうほど強い。
でも彼女はそれを望んでいない。
いつだって誰かに甘えたかったんだと思う。
僕たちの親はもういない。
フラメナに関しては、王族が故に甘えることもあまりできなかったんだろう。
仲が悪いとかそう言うわけじゃなく、家柄としてそうずっと甘えられることができなかったはずだ。
ずっと今まで誰かに甘えてみたかったのかな。
なら、僕は応えてあげなきゃいけない。
「フラメナ、眠たそうだけど……」
「眠たいわ……落ち着くのよね。こうして誰かに長い間抱きつくのは久しぶりだから……」
こうも密着した状態だと体も温まり、
だんだんと眠気が湧いてくる。
「せめて着替えてきたら……?」
「ならお風呂も入っちゃうわ……」
フラメナは体を起こしてソファから降り、
眠そうな足取りでお風呂場へと向かっていく。
「滑って転んだりとかしないよね……?」
「しないわよ……そんなドジじゃないわ!」
そうしてしばらくすると、フラメナはキャミソールと呼ばれる服一枚の状態で出てくる。
「うわぁ!ちょっ、もうちょっと服着てよ!」
「なによべつにいいじゃない……」
「ぼ、僕もお風呂に入ってくるから、それまでにはちゃんと服着ててよ!」
ライメは着替えを持ってフラメナを通りすぎていき、急いでお風呂場の扉を閉める。
「……そんなに焦ることかしら?
全裸じゃないのに……」
それからライメがお風呂場から出てくると、
フラメナは相変わらず服は着替えずのままで、
一枚服を羽織っているだけだった。
ライメはなんで服を着なかったのかと言おうとしたが、妙に耳を赤くするフラメナを見て何かを察した。
「ライメ、ここって音漏れとかするの?」
「しませんよ。一応少しお高くもありますから……
僕の隣の部屋に住む人は演奏家らしいんです。
毎日楽器で演奏してるみたいなんですけど……
一回も音が漏れてきたことはありませんね」
ライメがそう言うとフラメナは、
ライメがいつも寝ているベッドへと座る。
「その……べつに嫌だったらいいんだけど……」
「いやじゃないよ」
「え?まだなんも言ってないじゃない」
「僕だって察することくらいできるよ……
その……するの?」
フラメナはつま先同士でもじもじとしている。
「したいんでしょ……?私はいいわよ」
「そんな僕を野獣みたいに……
でも……その気になっちゃったよ」
ライメはフラメナへとゆっくり近づき、
横へと座るとゆっくりと二人でベッドに倒れる。
「その……いいの?」
「何回も聞かないで……私はいいわ」
僕は悩んだ。
当たり前だがこのまま交わりたい。
だが本当にいいのか?
明らかに勢いだけで今この状況に陥っている。
後悔しないだろうか?いやするとは思えない。
だけど、心の準備は?
確かに良い雰囲気は続いてるし、
僕もフラメナも互いのことが好きだ。
だからと言っていきなりここまで関係を発展させて良いのだろうか?
優柔不断なんてのは一番ダメなことだとは知ってるけど、こんなの悩むに決まってる。
お風呂上がりのフラメナはいつもと違って髪を下ろしていて、さらさらと揺れている。
その薄着に興奮が思わず抑えきれなくなりそうではあるが、僕の理性はまだ崩れていない。
どうする……登るのか?大人の階段を……
でも本当に、もう少し考えたほうがいい気もする。
「あーっもう!」
フラメナがそう言って起き上がった。
「悩みすぎよ!ライメに判断を任せたのが間違いね。
ライメはなにを躊躇ってるの?
私が王族だから?」
「それもそうだけど……こんな勢いでいいかなって」
フラメナはライメを仰向けに倒し、体の上に乗る。
「ちょっ!」
「言っとくけど、ここまできて退くわけないでしょ。
覚悟を決めなさい!私はもう決めたわよ!」
フラメナはライメをじっと見つめる。
「……そんな見ないでよ」
「なんで私より女の子みたいな反応するのよ……」
フラメナは息をスッと吐き、深呼吸して言う。
「一回しか言わないわ。これでダメなら今日は寝る」
「……わ、わたしを……めちゃくちゃにして?」
そんな誘いはライメの耳から脳へと、
そして身体中へと伝わっていく。
生まれて初めて自分でも驚くほど力が出た。
ライメは万力の如くフラメナを逆に押し倒す。
理性は残っていない。
もう本能だけだ。
僕の理性の要塞はあっけなく崩れた。
赤面するフラメナ。
僕たちは大人になった。




