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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第九章 恋する魔法使い 恋情編
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第八十四話 アプローチ

 虹剣1688年9月15日。


 この日は雨だった。

 南大陸は少し寒冷な気候であるため、

 雨が降れば少し肌寒い気温となる。


 フラメナはこの日、ある作戦を実行した。


 エルトレと考えたこの作戦。

 おとぎ話の中に存在する相合傘という行為。


 この時代、雨が降れば恋仲の男女は傘を一つにして歩くことが多かった。

 理由なんてどうでもいい。

 ただ一つの傘の下にて出来上がる空間が重要。


 雨の中、一つの傘の下にて男女二人。

 これが″キュンキュン″するというものだ。


 クランツから聞き出したライメの1日。

 どうやらライメとクランツは頻繁に会って話すほど仲が良く、魔法教師を目指すライメを応援しているらしい。


 ライメは基本的に四六時中図書館にいる。

 ならば狙うはライメが帰る時間帯だ。


 図書館の中に傘は持ち込めず、必ず入口にて傘を傘立てに入れなければいけない。


 ライメには悪いが、傘は盗ませてもらう。

 そうして傘がなくなったライメの下に、

 傘を持ったフラメナが行けば良いだけなのだ。


 完璧な作戦、大成功の予感しかしない。


 これは余談であるが、

 フラメナがライメのことを聞き出す際に、

 クランツはフラメナがライメに恋していることを察していた。


 フラメナは気づいていないようだったが、

 クランツからすればお見通しであった。


 クランツに知られてしまえばフリラメにも伝わる。

 知らぬ間にフラメナの恋はどんどんとバレていっているようだった。



 フラメナは日が暮れてライメが帰り始める時間の、

 20時に図書館付近へと赴く。


 その情報は確かでライメはちょうど図書館から出るところだった。


「っふ〜……時間」


 ライメは時計を見て、針が数字の8を刺していることを確認し、荷物をまとめて席を立ち上がる。


 本を返して図書館を出ようと入口の傘立てを見た。


「あれ……?」


 傘がない。ライメからすれば不運なことだ。

 突然自身へと襲いかかる何者かの悪意、

 そう感じたライメはため息をついて外を見る。


 まだ雨は降ってる。濡れて帰ってすぐにお風呂でも入って寝るとしようかな……


 そうしてライメは雨降る中、体を濡らして帰ろうとすると、よく知る人物が前を通りがかった。


 傘をさして雨を凌ぎ歩く見慣れた姿。

 自分自身より少し身長の低い彼女。


 フラメナだった。


 フラメナはこちらが声をかける前に、こちらへと視線をチラッと向け、小走りでこっちにやってきた。


「傘忘れたの?」


 近づいてきてそう言うフラメナ、

 フラメナが着る服は白の膝丈まであるワンピース。

 髪型はいつものサイドテールではなく、

 ポニーテールとなっていた。


 いつものような元気いっぱいな雰囲気とはまったく違う。少し、大人っぽくもあり可愛らしかった。


 ライメは少し声を詰まらせながらも話す。


「いや……盗まれちゃってさ。

 困っちゃったよ〜」

「……なら私の傘に入る?」


 目を逸らしそう言うフラメナの頬は少し赤かった。


「い、いいの?」

「べつにいいわよ……減るものじゃないし」


 そう言われ、ライメはフラメナの傘の中へとそっと入る。


「傘、僕が持つよ」

「ありがと……」


 こんな塩らしいフラメナは初めてだ。

 緊張してるのだろうか?いつものような勢いはまったく感じられない。

 フラメナを見るたびに感じる心臓の鼓動。


 二人は雨音が聞こえなくなるほど、

 傘の下で互いに集中していた。


「……フラメナ、寒くない?」

「寒くないわ……ライメは?」

「ちょっと寒いかな……寒がりでさ。

 服をちょっと選び間違えたかも」


 優しい笑顔を見せてそう言うライメ。

 フラメナはそんなライメを見ながら、

 ライメが傘を持っていない方の手を掴む。


「手足は冷えるから……これで大丈夫でしょ?」


 ライメの冷たい手へと触れるフラメナの暖かい手。

 ピクッとライメが肩を跳ねて反応すると、優しく握ってきたフラメナの手を優しく握り返した。


 二人は少し黙ってしまった。


「……ねぇライメ、空いてる日とかないの?」


 フラメナは少しライメの手を強く握った。

 話し出すのに勇気が必要だったのだろうか、

 思わず力を込めているフラメナ。


「明日も明後日も、こっちで合わせれるよ」


 ライメがそう言えば、フラメナはライメへと視線を合わせずに話を続ける。


「なら……明日がいいわ」

「そっか、なら明日にしよう。

 行きたいお店とかある?」

「ないから、明日一緒に決めましょ」


 フラメナはすごく緊張していた。


 何を話せばいいかわからない。

 それに加えて恋心を抱いた相手として意識すると、

 どうしても会話が弾まない。


 フラメナがそう感じていると、

 手からライメの手の感触が消えた。


 するとライメが傘を持つ手を変え、

 腰へと手を回し、フラメナを引き寄せた。


 急にライメの行動によって体が密着する二人。

 肩と肩が触れ合い、互いの体温は感じられる。


「その……寒かったから……いいかな」


 恥ずかしそうなライメ、

 自身が何をしているか理解しているようだった。


「ぁ、ぇっ……いいわよ」


 くっつき歩く二人、どちらも視線は合わせることはなく、ただ前を見て歩いていた。


 そうしてしばらく歩いていると、

 二人は宿へと到着し、お別れとなる。


「フラメナ……着いたよ」

「うん……」


 少しだけフラメナはライメへと寄りかかるが、

 すぐに距離を離して、ライメの顔を見る。


「じゃあ、また明日……」

「……そのフラメナ、送ってかなくて大丈夫?」

「だ、大丈夫よ。一人で帰れるわ」


 そう言うフラメナ、ライメはそれを聞いて頷き、

 手を小さく振って傘を抜けて小走りで向かう。


 いいのだろうか、ここで退いてしまって。


 フラメナの脳内にエルトレの声が過る。


『絶対に押し続けなきゃダメ、

 甘える時は甘えるの、これだけは絶対にしてね』


 甘える時は甘える。

 ライメにもっと甘えた方がいいのだろうか?


 そう迷うくらいならした方がいい。


「ライメ……っ!?」


 フラメナは慣れない靴で出掛けていたため、

 急に走ったことでつまずいて転んでしまいそうになっていた。


 ライメがフラメナの声に気がついて振り返ると、

 すぐさまこちらへと走ってきて、倒れるフラメナを支えた。


「大丈夫……?」

「うん……ありがと」


 フラメナはライメへと抱きつくようになっており、

 ボーッとしてそのまま抱きついたままになってしまいそうなフラメナは、急いで離れて手放した傘を拾い、傘を上へと向けて雨を防ぐ。


 少しだけフラメナの髪の毛へと着いた雨粒が煌めき、ライメはフラメナのことを見続けていた。


 それは雨に濡れていることを忘れてしまうほどに。


 フラメナがライメへと近づいて傘の中へと入れると、フラメナはライメに正面からくっつきボソッと言う。


「やっぱり送って」

「……わかった。ちょっと待てる?

 帰り用に転移魔法陣を置いて行きたいからさ」


 フラメナは頷き、ライメと共に宿の中へと入った。


 その後は二人で研究所まで向かい、

 フラメナを送ったあとライメは転移で宿に帰った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の夜中。

 フラメナは真っ暗な部屋の中、ベッドの上で寝る準備をしながら考え事をしていた。


 やっぱ攻めすぎたかしら……!?

 結局送ってもらう時もずっとくっついたままだったし……絶対変に思われてるわ。


 あんなに攻めちゃったけど……

 ライメはどう思ってるのかしら。


 嫌がってはないわよね……?


 うぅ……なんなのよこの気持ち。

 めちゃくちゃむず痒いわ!


 フラメナはベッドの上で足をバタバタとし、

 枕を顔へと埋め込んで転がる。


「変じゃないわよね……?」


 

 同刻、ライメの寝室にて。


 ライメは天井を見つめながら思うことがあった。


 絶対、僕のこと好きだ。

 さすがにこう思ってもいいよね……


 そもそも旅してる時からちょっと距離近かったし、

 もしかしたらフラメナもその気なのかな……


 僕がフラメナのこと好きだってバレた……?

 いやいやいやそんなことない……


 それにしても今日のフラメナ……可愛かったな。

 見慣れてる姿と違うとやっぱり感じ方も変わるのかな。別人みたいに見えたし……


 僕が告白するべきなのかな……?

 明日の食事じゃ絶対無理。


 どうしよう……絶対に言い出せないや。


 フラメナは僕のことどう思ってるのかな。

 それに僕のどこが好きなんだろ……


 幼い頃の僕が想像できない生活……

 愛し愛される生活……フラメナのことを考えると心臓の鼓動が早まる。


 フラメナに早く思いを伝えるべきなのかな?

 でも……うぅダメだ恥ずかしすぎる。


 あぁ夜更かししちゃいそうだ。

 もう今日は寝よう。こう言う時は寝た方がいい。



 結局その日は二人ともあまり寝れず、

 翌日出会う時はどちらも寝不足だった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 虹剣1688年9月16日。

 二人は一緒にご飯を食べに行く。


 これもエルトレの提案の一つだ。


 恋人になる前の男女というものは、

 一緒に出かけ、食事をし、夜は少し遅い時間まで一緒にいる。それが鉄則であり定型的なものだ。


 だがそれは定型と呼ばれながらも理想的なものであり、恋仲の男女は大体が他愛のない会話の中から相手を好きになり、どちらかが思いを伝える。


 フラメナとライメはすでにそれを終えている。

 他愛のない会話などたくさんしてきており、

 出かけたこともあれば食事だって何度もある。


 それに加えて恋愛面では二人はヘタレだ。


 エルトレは旅の中で二人を見てそう確信している。

 ならば強制的に口を滑らすような状況が欲しくなるものだ。


 これは最終手段。

 危機的状況を二人に与えるのだ。


 だが二人ははっきり言って強い。

 それもめちゃくちゃなほどに。


 君級と将級、南大陸に現存する邪族じゃ相手にならないだろう。


 戦闘面以外での危機的状況。

 それは欲の揺さぶり。


 少々はしたないことではあるが、

 ライメの男心をくすぐり、興奮させる。


 言ってしまえば少しだけ踏み込んだ関係へと発展すればいい。


 この日のプランは出来上がっている。


 1日をライメと過ごし、夜はライメの部屋に行く。

 行くとこまで行かなくていい。

 今日はライメの気持ちを吐かせればいいだけだ。


 フラメナは気合を入れてライメに会いに行く。


 本気で落としに行くのだ。

 ライメという男の子を夢中にさせる。


 さぁ勝負時だ。

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