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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第九章 恋する魔法使い 恋情編
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第八十三話 お誕生日

 フラメナの料理の腕前を上達させるために、

 こうして始まったエルトレのお料理教室。


 フラメナもバカではない。だが少し料理に関しては頭がうまく働かないようであった。


「フラメナ!焦げてる焦げてる!!」

「えっ?ぁああああ!!」


 魚料理の挑戦、何度か焦がした。


「塩振りすぎ!!」


 ソルダ(サラダ)への味付け、塩を振りすぎた。


「砂糖入れすぎだって!!」


 球紫(ブボウ)を使った飲み物を作る際には、

 砂糖を入れすぎてしまい、ドロッとした激甘の液体が出来てしまった。


 キッチンにて大騒ぎする二人をラテラは離れて見ており、少し面白がっていた。



 何度も失敗を経て、その日は何も成功せずに終わった。フラメナは落ち込んだ様子で帰っていき、エルトレは荒れたキッチンを片付ける。


「お姉ちゃん。フラメナさんには料理は難しいんじゃない?今からでも変えたりとか……」

「乙女が一度愛した人のためにやると言ったらやるの、絶対完璧に仕上げる。あたしは本気だよ」


 気怠げな、いつものエルトレとは違い、

 本気で何かへと取り組む時の目だ。


 そんなにフラメナの恋路を応援したのだろうか?

 気持ちはわからなくはないが、ここまで熱を持つとはラテラは思っていなかった。




 一方、ライメは誕生日のことを忘れ、

 帰ってきてからの時間をひたすらに勉強へと費やしていた。


 中央大陸にいた際に一般的な学力は身につけ終えており、今彼が学んでいるのは魔法学についてだ。


 もちろん魔法学と言っても、基礎的なことや簡単な応用などは頭に入っている。

 魔法学の中でも歴史や原理などを勉強しており、

 かなり難しい内容となっている。


 図書館にて本を並べ、

 必死に頭へと知識を詰め込むライメ。


 図書館が閉まる20時ごろには帰る。

 新生活が始まってまだ1日目にもかかわらず、

 こんなにもハードな生活をし始めるライメは、骨の髄まで真面目人間といった感じだ。


 宿へと帰り自室に入って1日の疲れを癒す。すると、

 扉がノックされ返事し、ラテラが入ってきた。


「ラテラ?何か僕に用事かな?」

「僕と言うよりは手紙みたいなのを届けるように頼まれててですね……これ読んどいてください」


 ラテラはライメへと手紙を手渡しすると、

 そそくさと部屋を立ち去り、扉が閉まったあとにライメはその手紙を読んだ。


「フラメナの字……あぁ……そういえば誕生日か。

 祝ってくれるなんて……ふふ、大げさだなぁ……」


 ライメは大袈裟と独り言を漏らしながらも、

 表情は嬉しそうであった。



 ーーーーーーーーーーーーーー


 虹剣1688年9月11日、この日はライメの誕生日。


 ラテラに手を引かれてエルトレの部屋へと向かうライメ。何をしてくれるのだろうか?


 そう気になりながらも廊下を進み、

 エルトレの部屋へと二人は入っていく。


 ライメが扉を開けて中に入った瞬間、

 パンッと音を立ててピカピカと光る紙が空を舞う。


 少し驚いていると、「お誕生日おめでとう」と、

 ラテラやエルトレ、フラメナからそう言われる。


「ありがとう……今年は結構大掛かりだね」


 ライメはそう言って嬉しそうにしていると、

 フラメナが話し始める。


「ライメが何欲しいかわかんなかったから、

 エルトレと私で料理を作ったわよ!」

「エルトレはわかるけど……フラメナが作ったの?」


 ライメは旅での数々の思い出の中から、フラメナが何度料理を作ろうとして焦がしたかを思い出す。


「今絶対、焦がした料理が出てくると思ったわね?」

「そ、そんなこと思ってないよ!」

「見て驚きなさい!これが私のセンスよ!!」


 フラメナとエルトレが横へ移動すると、

 料理が並んだ机が見えてライメは目を輝かせた。



 綺麗な並びだ。

 一品一品丁寧に作られたのがわかる見た目だった。


 これを何かと比べるのは愚かな行為だ。

 ライメとしてはフラメナがここまでの料理を作り、

 こうして自分に振る舞ってくれるのが嬉しかった。


 自身の好きなものが並んでいる。

 フラメナはライメが言った好きな食べ物を的確に覚えていた。


「フラメナとあたしで作ったとは言うけど、

 あたしは教えただけで作ったのはフラメナだよ」

「すごい……いつの間にこんな料理出来るようになってたの?」


 フラメナは誇らしげに胸を張って言う。


「ふふ、私はなんでもできるのよ!

 すごいでしょ!」


 そう言って腰に手を当てるフラメナ。

 ライメはそんなフラメナの手を見て気がついた。


 包帯が巻かれている。


 治癒魔法というのは同じ箇所へと何度も治癒を行えば効果が薄れていき、いずれ効果はなくなる。


 ので、致命傷などを下級治癒魔法などで治してしまうと、いざ帥級や将級魔法での治癒効果が弱くなってしまう。


 あの包帯が意味することそれはつまり、

 フラメナは何十回も失敗を経て、傷を負いながらこの料理たちを完成させたのだ。


「早く食べなさい!冷めちゃったら台無しよ!」

「うん、ありがたく頂くよ」


 ライメは今朝は何も食べていなかった。

 そのためすっからかんな胃を満たすために、

 椅子へと座り食事を始める。


 まず一口、ライメはソルダ(サラダ)から食した。


「……」


 ドキドキとフラメナはライメの感想を待ち、

 ライメは何度も咀嚼して飲み込む。


「どう……?」

「僕は野菜が好きで色んなソルダを食べてきたけど、

 ここまで僕好みな塩加減は初めてだよ」


 ライメは笑顔でそう言って、満足した旨を伝えた。

 フラメナのこの2日間が報われた。


 フラメナは嬉しそうにエルトレとハイタッチし、

 ライメは引き続き料理を食べ始める。


 野菜多めのスープ。

 これもライメの好みにぴったりで、

 非常に美味しそうに食べていた。


 コム(パン)と合うソースで煮た魚。

 ライメは魚をナイフで一口サイズに切って、

 コムの上へと乗せて綺麗に食べる。


 ライメはこの料理が一番気に入ったようだ。

 表情が明るくなり、少し驚いた様子でもあった。


「これとんでもないくらい美味しいよ!

 なにこれ……どうやって作ったの?」


 明らかに反応が変わったライメ、

 フラメナはベタ褒めに少し照れながらも話す。


「その魚はエルトレのオリジナル料理らしいわよ!

 作ったのは私だけど、そんな美味しそうなら気に入ってもらえてよかったわ……」

「これ本当に美味しいよ。

 今まで食べた魚料理の中でも一番かも」


 フラメナとエルトレが少し嬉しそうにする。

 こうも褒められると嬉しいのだろう。


 ラテラは少し人たらしなライメを見て、

 二人へと視線を移しやれやれとする。



 ライメは球紫で出来た飲み物を手に取り飲む。


 甘さだけでは終わらないこの味、

 ライメは満足したように口を離す。


 全てがハイクオリティで好物ばかり、

 ライメは満足そうにしばらくして完食した。


「美味しかった……ありがとう、最高の朝食だよ」


 するとフラメナがキッチンの方からデザートを持ってきた。


「デザートよ!甘いもの好きだったわよね!」

「デザートまであるなんて……」


 ライメはフラメナが持ってきた皿の上に乗るものを見て驚いた。


「ケフラメ(ケーキ)を作ったの?」

「ふふふ、そうよ!これが私の集大成だわ!」


 一切れのケフラメ、真っ白なクリームに包まれたそれは非常に濃厚な甘みをもたらす。


 フラメナはライメの前にそれを置いて、

 ライメはフラメナに目を向けると、フラメナは目で食べるように意思を示す。


「じゃあ……いただくよ」


 ライメは一切れを小さく切り取り、

 口の中へと入れた。


「……これ」


 口いっぱいに広がるクリームの甘み。

 体温によって溶け出したクリームは口内を満たし、

 その甘い香りが鼻へと到達する。


 スポンジと呼ばれる部分はふわふわであり、

 食感が楽しくもありながら、クリームの甘さを抑えるような働きも見せていた。


 しつこくない甘み、楽しい食感。

 自然と手が止まらなくなってしまいそうな、

 そんな中毒性のあるこのデザート。


「これ、僕大好きだよ。

 こんなケフラメを食べられるなんて……」


 デザートを食べる速度は早く、

 ライメはあっという間に食べきってしまった。


「美味しかった……今までで一番良い誕生日だった。

 みんなありがとう」


 そんな言葉に三人は嬉しそうにニヤつき、

 誕生日プレゼントは大成功となった。



 ーーーーーーーーーーーーーー


 虹剣1688年9月12日。


 先日の誕生日は大成功。

 さて、ここからが本番だ。


 フラメナとライメの関係値は既に超良好。

 ここからが恋の行方を決める勝負どきだ。


 エルトレのアドバイスをもとに、

 今日からフラメナの″アプローチ″が始まる。

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