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第八話 魔法使い

「クランツ……」


 フラメナが放った火属性魔法によって位置を知れたクランツ。


 怪我だらけで土の汚れがついたフラメナを見て、クランツは杖を向けた。


「待ってクランツ!あの子にも……」


 魔法を放つ前に呼び止められたクランツは、フラメナの指を指すほうを見てボロボロのユルダスが見えると、クランツは頷き魔法陣を二人の足元に出現させる。


癒風(ヒ―ロウチア)


 クランツが帥級治癒魔法で二人の怪我を治す。

 帥級魔法はすさまじいもので、骨の再生、身体への傷、そのほぼ全てが回復する。


 一気に体が楽になる二人、クランツは二人に背中を見せながらも言う。


「私から離れることは禁止です。そこの少年もですよ」


 誰だって感じ取れるはず、このクランツという男は非常に怒っている。

 フラメナとユルダスは無言でクランツの後ろにつく。


「なんだ!何が起きっ……!?」

「うおっ……マジかよ」


 恐らく人攫いの仲間だろう。

 仲間の息絶えた姿を見て、すぐにクランツがやったのだと察する。


「剣を向けるのであれば、私はあなた方を殺します」


 その宣言から放たれる威圧感は圧倒的、一瞬人攫いの動きは止まるが彼らもプライドがないわけではない。

 剣を取り出し構える人攫い、それを見てクランツはため息をつき杖を向ける。


 魔法使いと剣士の戦いでは基本的に剣士が有利だ。

 近接ではどうしても魔法の発生が遅れる。


 故にこの間合いでは、クランツは魔法を一撃でも外せば負ける。そのことは相手も理解しているため、人攫いが床を踏み込み、一気に間合いを詰めてきた。

 恐らく速度的にも一級ほどはある。


「っぅお!」


 クランツが杖に魔力を込めた瞬間、人攫いをまとめて切り裂き吹き飛ばした。

 将級魔法使いと言えど一級剣士とこの距離で戦えば、有利なのは剣士だ。

 だが、それを加味してもこのクランツという男には敵わない。


「二人とも目は向けず、私の背中だけをご覧ください」


「わかったわ」


 フラメナがそう言うとクランツは歩みだし、地下から階段を上がって一階へと着く。

 案の定そこは敵の温床であり、クランツは風の魔法を放ち一気に間合いを離し、大量の斬撃を放って掃討していく。


 そんな中クランツは思っていた。


 大体が二級や一級……フラメナお嬢様の実戦経験も積みたかったが、流石に危険だな。


「フラメナ様、私の背中に張り付いてしばらく動けなくなった際は……」


「クランツ!」


 クランツへと飛んでくる剣、それをクランツは風で弾く。


「見えているのでご安心を」


「この量の死人を出されるなんてたまったもんじゃねえよ」


 現れるのは、リーダーのツギチ・アルトルド。

 投げてきた剣は仲間の物だろう。ツギチは腰から剣を抜いて片手で持ちクランツへと向ける。


「貴方がリーダーでしょうか?」

「わかってるくせに聞いてくんなよ」


 ツギチはクランツを前にしても狼狽えることなく口角を上げて話を続ける。


「せっかく良い儲け仕事だったのによ。あんたのせいで台無しだぜ?こりゃ許せねえよなぁ」

「同情します。貴方達が受けた仕事は死期を早めるだけにしかなりませんでしたね」


 クランツのその言葉に苛立つツギチ、フラメナはクランツの背中に隠れながらも、ツギチを見ていた。


 なんで……あんなにあいつの周りが赤いの?


 フラメナがそう思うようにツギチの周りには、赤い霧のようなものがあり、フラメナは不思議に思う。


 ユルダスには見えていないようで、ただ黙ってクランツの背中に隠れていた。


「あんたは言わずもがな将級魔法使い、なんならその中でも上位だ。でもいくらあんたでも火帥級(かすいきゅう)剣士の俺を圧倒出来るかな?」


 ツギチの纏う赤い霧が一気に大きくなり剣から火が溢れ出すと、下っ端の敵とは違って格段に速い。

 クランツは空間魔法を杖から発動し、燃える剣を固めた空間で防ぐと、ツギチが姿勢を低くくすると共に一気に剣を下にやって、足元を横凪ぐ。


 クランツ自身はそれを避けられるが、もし避けてしまえば後ろにいる二人の足が切られる。


土柱(ドグラス)


 クランツは足元に魔法陣を一瞬で構築しそう呼称すると、足元の魔法陣から土の柱が出現し、クランツとその後ろにいる二人をまとめて持ち上げ、足元に放たれた剣を防ぐ。


 ツギチは間合いを離すことなく剣を振り戻して、勢いをつけて三人めがけて剣を振るう。


 ツギチが間合いを離さない理由は明確。

 クランツとの間合いを離せば、次は何をされるかわからない、将級魔法使いを相手にするうえで不安要素は死に直結する。


「随分と……!守りばっかじゃねえか!」


 クランツはその言葉に反応することはなく、ひたすらに空間魔法で剣を防ぎ続ける。


 ツギチは理解できなかった。


 いくら防ごうとも空間魔法は莫大な魔力を消費するものだ。

 このまま使い続ければ加勢が来るまでに、クランツは確実に敗北する。


 空間魔法だけで相手してくるクランツ、その表情は変わらずであり、ツギチは段々と気味の悪さを感じる。


 狙いは確実にこちらの隙、だが帥級ともなれば剣術は極まっている。どう考えたって一番最低な策、それを選ぶのはなぜ?


「白……?」


 ツギチがそう口にするとクランツの後ろから白い光が見えた。魔力は八種類の色しか持たない。

 白など含まれておらずツギチは一瞬困惑した。いつもの自分より下の相手であれば問題ない隙、だが目の前にいるのは紛れもない将級魔法使い。


「まずっ!」


 咄嗟に距離を離そうとするとクランツは依然動かず、ただツギチを見るばかりで見えた姿は少女。

 自分たちが攫った王族の少女、フラメナ・カルレット・エイトール。


「白……まさかッ!!」


 ツギチはクランツの魔法を防ごうとしていたため一歩遅かった。


火球(フライマ)!」


 放たれるフラメナの下級魔法、下級魔法と言えどもろに喰らえばダメージはある。

 ツギチは予想していなかった腹部へと火球が打ち込まれ、煙を上げながら吹き飛び机の上に倒れる。


「この……クソガキィッ!」


 煙を上げながらもそう血眼で睨むツギチは、クランツがいないことに気がつき、咄嗟に起きあがろうとするとーー


「意識外の攻撃は、随分と有効なそうで」


 ツギチはクランツの一撃必殺とも言える風魔法の斬撃によって二度と起き上がることはなかった。


「フラメナ様、お察しありがとうございます」

「クランツなら、あんなの私がいなくても勝てたのでしょ…?」

「……まあそうですね。ですがフラメナ様が動いてくれて非常にこのクランツは感動しております」

「口調は本当に固いわね……」


 ユダルスは後ろから二人を見て心底驚いていた。


 将級魔法使いでありながらも近接戦を圧倒し、敵のリーダーである火帥級剣士をお嬢様と共に圧倒してしまう。二人のレベルの高さに驚くばかりだった。


「ユダルス?約束は守ったわよ!」

「えっ…あぁそうでした。ありがとうございます」


 ユダルスはハッとしたようにそう言って感謝を伝えると、クランツが色々と経緯について聞いてくる。


「なぜ人攫いに?」


「その、現場を見てしまって……思わず助けようと」


 クランツは少しため息をつくと、言い聞かせるように話す。


「子供は邪族を見つけたら報告するだけで良いのです。変に絡むことはこの機会でやめてください」


 クランツの言う通りだ。邪族は基本最低でも中級、子供が真正面から戦って勝てるような輩じゃない。


「すみません……」

「ですが、咄嗟に助けようとするのは騎士精神高めです。どうか大人になっても忘れないでくださいよ」


 クランツはユダルスが騎士団長の息子と言うことは知らない。それでも偶然ながら騎士と言う言葉を使われ、褒められたユダルスは少し嬉しそうに目を伏せた。


まだ日が登る前にフラメナとユダルスは、クランツによって救出され、酒場から出てクランツが魔法陣を描き始める。


「クランツ?その魔法陣は?」

「魔活法、風便(フウタク)は手紙などの軽いものを高速で送り届けるものですよ。馬車をこちらに向かわせてそれで帰ろうと思いましたので」


クランツが伝言書を空中に投げると一気に風が吹き、紙がどこかに飛んでいく。


「本当に大丈夫なの?」

「心配無用でございます。三十分もすれば馬車がお迎えになられますよ」


ユルダスが感心するように言う。


「すごい便利ですね」

「と言っても大陸間の移動は流石に難しいですがね」



そこから三十分もして日のてっぺんが見え始めた時、馬車が到着して三人は乗り込む、これでこの一件はひとまず落着だ。

だがまだまだ残している問題は多い、誰がこの計画を企てたのか?そしてスパイであったオスラ・レイドッテは、事件から三日、一週間経っても見つからない。


フラメナは少しまだ傷が痛む中、夜明けの平原の景色を見ながら、疲れからかだんだんと眠くなり眠りについた。

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