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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第八章 純白魔法使い 北峰大陸編

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第七十八話 帰る場所

 大きな空間、静寂の中。

 迷宮を攻略した六人は迷宮を出る準備をしていた。


 帰りはライメの転移魔法で迷宮の入口へと戻れる。


 ルルスはわずかに魔力を取り戻し、自ら歩く。

 ノクテマの骨片を拾い、小瓶に収めると、

 ネックレスをそっと胸に掛けた。


 一方、フラメナやライメは蜘蛛の体から生えていた結晶の中にいる人物を見ていた。


「ライメ……この人どうする?」

「どうにかして結晶から出せないかな。

 割ったら多分この人も割れちゃうし……」


 どうすれば良いかと頭を悩ませていると、

 話を聞いていたラテラが二人の下に走ってくる。


「僕の反治癒魔法ならいけるんじゃないですかね」

「あー……でも大丈夫?失敗しない?

 それにラテラ、さっき血吐いてたわよね。

 あんま魔法使っちゃ体に響くわよ」


 ラテラはそう言われると、諦めたように話す。


「どうせ僕の魔法はこの旅でしか使わないですし、

 使えるうちに使っておきたいんですよ……

 もう体も限界が近いですから」


 ラテラが先ほど虫の大群から逃げる際に吐血した理由、それをルルスを除き皆は察していた。


 ラテラの持病であり難病である慢性魔侵病(まんせいましんびょう)は、

 着実にラテラの体を蝕み、

 彼の命へと死の手を伸ばし続けていた。


「やらせてください。

 少しくらい役に立ちたいですから」


 ラテラの真剣な目、それを見てフラメナは頷き、

 ラテラを結晶へと近づけさせる。



 ラテラが手を結晶へと当てると、

 反治癒魔法を発動する。


復壊(デスラ)


 結晶はじわじわと崩壊して塵と化していく。

 少しでもずれれば中の人が崩壊する。


 それでもラテラは長い間治癒魔法のみを扱っていたが故に、精密性だけは抜群に高かった。


 少しして全ての結晶が崩壊し、中にいた人が出てくる。ライメが肌を触ると温もりがあり、脈もあった。


 結晶の中にいた人族の女性。

 素性はまったく不明で、このまま目覚めない可能性もある。そんな可能性がある中でもフラメナはこの者を連れて帰ることにし、皆が賛成した。


 やることは済んだ。

 この迷宮にいる必要はない。



 リクスが結晶の中にいた女性をおぶって、

 六人はライメが展開した転移魔法陣の上に立つ。


「うまくいってよ……転移(エクリプス)


 ライメは不安の中、転移魔法を呼称。

 今回は何事もなく発動し、六人は迷宮の入口へと戻ってきた。


 全員が上着を着込み、ルルスには予備の服が渡され外の厳しい気温に耐える準備ができた後、リクスが作り出した螺旋階段を登っていく。


 相変わらずの極寒。

 ルルスは懐かしそうに話す。


「外に出たのなんて懐かしいです〜」

「ルルスさんって一年も迷宮にいたんでしょ?

 途中で心とか折れなかったの?」


 エルトレの純粋な疑問。

 精神的に1年孤独で脱出の見込みがない中生き続けるのは、非常に辛いものだ。


「そうですねぇ……今思うと無心でした〜。

 死ぬと感じ始めたのは1ヶ月前くらいからです。

 それまではひたすらに明日どう生きようか、そんなことを考えて生きてました〜」


 ルルスは疲れたような表情でそう言う。


「……あたしなら諦めちゃうな。

 ルルスさんはすごいね」


 エルトレはルルスを尊敬していた。

 剣士として人として、全てにおいてルルスは自身の上を行っている存在と認識している。


「うへへぇ〜照れちゃいますよ〜」


 この妙な口調だけは尊敬できないが、

 気の悪いものではない。

 むしろちょっとだけ話しやすくもある。


 帰り道はそう苦労しなかった。

 六人は一度この道をたどったことがあるので既に慣れており、邪族もいないので無事メラニデス雪原を抜けることができた。



 ーーーーーーーーーーーー


 虹剣1688年6月15日。


 六人はついに迷宮を攻略し、

 最寄りであるユラレス村へと帰ってきた。


 村人たちは非常に驚いている。

 あの雪原へと迷宮を攻略しに旅立った者が、帰ってくることは初めてであるからだ。


「食料とかギリギリだったわね」

「迷宮攻略がスムーズに行って良かったよ……」


 フラメナとライメがそう話していると、

 村人が近寄ってきて六人へと話しかけてきた。


「あんたら……まさか迷宮を?」


 そう言われフラメナは誇らしげに答える。


「えぇ!私たちが攻略したわ!」

「なんてこった……すごすぎる!

 あんたたち何者だ?ぜひお礼させてくれ!」


 村人の声に反応し、少ない人数の村でありながら多くの人がそこに集まり、フラメナたちを賞賛する。


 メラニデス雪原の迷宮は長年踏破されず、

 数多の戦士が攻略に向かい、命を落とした。


 いわば負の連鎖の根源。

 この村は最北端の村として存在しており、

 戦士たちが最後に暖かい睡眠を取ることができる場でもある。


 正直期待していなかった。

 フラメナたちは例外なく帰ってこないと思っていた。だが村人たちの想定は覆された。


 暁狼(ぎょうろう)

 現存するガレイル四星級パーティーでは最強であろう。五星級を含めたとて、暁狼はトップの実力を有している。


 たった五人のパーティー。

 だがたった五人の強者たちが迷宮を攻略したのだ。


 村人たちは村に存在する唯一の酒場で、

 フラメナたちに感謝を伝えるべく絶品の料理を振る舞った。



 翌日。

 フラメナたちは昨晩、いつぶりかの暖かい食事と暖かい湯船、そして暖かい寝床で睡眠を取った。


 ルルスに関しては1年ぶりのこと。

 死んだのかと思うほどぐっすり寝ており、

 ライメなどは心配性なため、かなりそわそわしていたそうだ。


 村の人々はフラメナたちに親切であり、

 おそらく感謝を感じているからこその部分もあるが、元々戦士が寄る村であるために親切なのだろう。


 フラメナたちがニックス王国へと向かうための雪車(そり)まで手配してくれ、多くの食料も持たせてくれた。


 村を去る際には多くの村民がフラメナたちを見送り、六人は良い気分でユラレス村に別れを告げる。


 そこから十日ほど。

 フラメナたちはニックス王国へと帰還した。


 もう北峰大陸に思い残すことはない。

 強いて言えば、君級剣士である斬嵐(ざんらん)に会ってみたかったが、彼は魔城島が見える海岸に建てられた砦に常駐しているため、会いに行くのは手間とリスクが伴う。



 帰ろう。


 帰るべき場所に。



 ーーーーーーーーーーーーーー


 同刻、魔城島にて。


 憤怒のドラシルは首を垂れ、

 ある者と結晶越しに会話をしていた。


「ドラシルよ。何故に未だ君級の戦士が減らない?

 私は疑問に思っている。なぜ天理の欠片を宿すあの者が未だ生きているのか?」


 結晶越しに放たれるとてつもない圧。

 息が詰まり、そのまま窒息してしまいそうな空気の中、ドラシルはその問いに答えられない。


「……返す言葉も見つかりません。

 ただ我らの力不足としか」

「違う、お前たち自身はそもそも強く生まれている。力など足りすぎているのだ。足りないのは知恵だ。

 お前たちには心底手を焼く、だから力有り余るお前たちの知恵として私が動いてやろう」


「よろしいのでしょうか。″魔理様″」


 紫色の結晶の中に映る人族の見た目をした男性。


 彼こそ、魔王と呼ばれる大魔族であり、

 魔王側近が通じて魔理と呼ぶ相手。


 魔王トイフェル、または執理政(しつりせい)、魔理トイフェル。


 彼こそが天理を殺した執理政である。


 トイフェルはドラシルの言葉に軽く返答する。


「よいよい、私が軽く指示を出せばいい話だ。

 なにも私に苦労などかかっておらん」


 トイフェルはそうドラシルへと伝える。


「……では魔理様、ご命令を」


 トイフェルは言う。


「君級を三人殺してこい。

 強さは問わない。君級であれば誰であろうと良い。

 だが天理の欠片には関わるな。

 奴は計画を練って殺す」


 純白を除いた君級のうち三人を殺せと言う指示。

 ドラシルは詳細をトイフェルへと聞く。


「細かくお聞きになってもよろしいでしょうか?」


「現存する君級の戦士は十三名。

 奴らが全員で私たちを殺しにかかれば、

 ハッキリ言って殺されるのは私たちだ。

 たった三名、さりとて三名。

 三人の君級を殺せば明らかに士気は下がり、

 戦力が少しは落ちる」


 トイフェルは拳を強く握りしめ話を続ける。


「私たちの目的は新世界の幕開け、

 この世界には王が存在していない。

 だからこそ争いは絶えず行われ、

 無駄に命が消えてゆくのだ。

 ならば救ってやるのが頂点に立つ者の役目だろう?

 何も虐殺が目的じゃないんだ。

 私たちが狙うべきは強者である君級のみ。

 十三名を殺し、服従させる。

 それこそ私の悲願だ」


 新世界の幕開け、それがトイフェルの目標。


「そのためにも私はお前たちに期待している。

 ″私の欠片を与えた″なりに、恥じぬ結果を見せろ」


 そう言ってトイフェルが指を鳴らすと、

 ドラシルの視界は黒城の最上階の会議室を映した。


 転移、それによって移動したのだろう。


 誰もいない会議室にてドラシルは椅子に座り、

 背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。



 新世界か……実に楽しみだ。

 胸騒ぎがする。早く訪れないだろうか。

 焦れったい……久々に怒りが募るな……



 ドラシルはそう思いながら、しばらく会議室にてただ一人、何もせず座っていたようだ。

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