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第七話 死鐘が鳴る

 フラメナは窓から差し込む月光を目に浴びて目を覚ます。


「……どこ?」


 冷たい石壁の部屋、扉は鉄製で内側からは開けられそうにない。

 そもそも手足を縛られていて動くこともままならない。


「どこなのよ!誰かいないの!?なんで縛られてるのよ!」

「夜中にうるせぇぞクソガキ!!」


 鉄製のドアが強く蹴られた。


 フラメナはそれを聞いて口を開けたまま黙る。

 ゆっくりと扉は音を立てて開き、大柄の男がフラメナを見下ろす。


 七歳のフラメナはまだ身長は低く、横になっていれば男の大きな体に戦意を失うであろう。


「なんでこんなクソガキを夜中に見とかなきゃいけねえんだ!アァ!殺してえ!」


 冗談なんかじゃない、この男はフラメナを殺す気になれば一瞬で殺せる。

 だが運が良いとは言えないが、幸いにも男はこちらを殺すことはなさそうだった。


「……ツギチは殺さなきゃ良い言ってたな」


 フラメナは何か嫌な予感がした。

 男の目の色が変わったように見える。


 ライメをいじめてたやつらと……同じ目つき……!


 そう思っているフラメナは突如、訳も分からず腹部に大きな衝撃を感じて壁へと叩きつけられた。

 部屋は土の匂いがしており、フラメナの真っ白な髪の毛が土で汚れる。


「あっが……」


 痛い痛い痛い……!!なに……何をされたの?


 感じたこともないほどの痛み、男は口角を上げ自分が圧倒的優位な場から攻撃できるこの状況に、心底陶酔しているようだった。


 口から血が流れ、ジンジンと体の隅々まで響き痛む。


「っなんで……!」

「なんでって?お前がムカつくガキだからだ……よッ!!」

「っは!」


 まだ痛みが響く腹部へともう一発蹴りが放たれる。


 フラメナは痛みが強すぎるあまり泣くことも出来ず、ただひたすらに潰れそうな肺で息を吸うのであった。


「ッチ、次蹴ったら死ぬな。こんなんだったら治癒魔法でも覚えときゃよかった。そしたら無限に蹴れたのによ」


 男はフラメナの顔の近くに腰を下ろして勢いよく頬を叩くと、立ち上がり部屋を出ていく。


「っ……ぁ」


 フラメナは感じたことのない痛みで、自身の怪我がどれほどのものかわからない。


 治癒魔法…使い方わかんない…痛い何も考えれない


「……大丈夫?」


 フラメナは気が付いてなかった、部屋の隅で座り込む一人の少年。

 恐らく10歳ほど、フラメナは返答しようにも喋れない。


「ぁっ……が」


 そんな情けない声を出して少年は察したのだろう。


「……エイトール家のお嬢様だよね。その勲章が本物だもん」


 そんなことどうでもいいだろう。

 フラメナはそう思うが、一般人からすれば王族への接し方を間違えると死である。

 それ故に少年は接し方が丁寧なのだ。


「僕とお嬢様は攫われたんだ。今は真夜中、さっきの男は二級の剣士」


 少年はつらつらと情報を垂れ流してくる。

 言ってることは理解できるが、フラメナはなんせ腹の痛みで脳が働かない。


「怪我、治そうか?」

「っ!」


 フラメナはその言葉を聞いて必死に頷く。


「じゃあ約束して、僕もここから助けて」


 震える少年の声、この願いはフラメナに言ってるものじゃない。

 恐らく王族が故に助けが来るはずだと予想し、恩を売っておいて確実に助かるためだ。


 そんなこと知らずにフラメナは頷き続ける。


「……じゃあ治しますよ」


 少年は手でフラメナの腹部をそっと触ると、骨が折れているのかフラメナは、強くなる痛みに目を閉じて唇を噛みしめる。


復唱(ヒーマロ)


 治癒魔法下級魔法、復唱によりフラメナの骨は少し回復してひびが入った程度になる。

 正直まだめちゃくちゃ痛いだろうが、息ができないほどではなく、フラメナは少し楽そうな表情になる。


「どうですか」

「あり……ありがとう」


 フラメナはか細い声でそう言うと少年はホッとした表情になる。


「あなた……名前は?」


 恩を売ってくれた者の名くらいは知るべきだ。

 特にそう言う考えがフラメナにあるわけではないが、自然と言葉が出てくる。


「ユルダス・ドットジャーク、家柄は知ってるんじゃないかな……」

「ドットジャーク……もしかして騎士団長の?」

「ははは、情けないよね。お父様が中央大陸に向かってお母様を守るのは僕なのに、こうやってあっさりと人攫いに捕まっちゃった。」


 よく見ると少年の体はかなり怪我が多く、ひと悶着あったようだった。


「お嬢様が攫われてるところを平原で見ちゃって……変に助けようとしてこの有様だよ」


 フラメナは理解する。

 この少年は気絶した自分を助けようとした者だと。


「っ……バカね、勝てるわけないでしょ」

「……その通りだよ」


 月光が部屋を薄く照らす中。

 フラメナはクランツが来てくれることを信じてただひたすらに痛みに耐えていた


 薄暗い部屋の中で座り込む二人、この雰囲気だ。

 二人とも黙ったままでうつむいている。


 静寂を破ったのはユルダス。


「お嬢様……」

「フラメナでいいわ……」


「……フラメナ様、空に魔力を感じませんか?」

「わからない。痛みが強くて……」


 少年は空から感じる魔力を不思議に思っていた。


「こんな場所……クランツがいくらすごくても見つけられない」

「フラメナ様、そのクランツという者は……?」

「わたしの家庭教師、風将級魔法使いよ」


 力なくそう言うフラメナ。

 少年はそのことからあることを予測する。


「この魔力……”クランツ”様のでは?」

「……クランツ?」


 空を飛ぶということは、少なくとも地上には風魔法が流れているということ。

 小さな魔力だが魔法使いであれば少し感じ取ることはできる。


 もし、空から出ている魔力がクランツのだった場合。

 何かしら魔力を放てばクランツは気が付くであろう。


 でももし違ったら、二人は今度こそ殺されるかもしれない。

 フラメナが殺されなくても確実にユルダスが死ぬ。


「……フラメナ様、魔法は使えますか」


「使えるわ。でも……」


 二人はリスクを理解している。

 でも助かる方法はこれしかない。


「いいんです。どちらにせよ、しなければ助かる見込みは0ですから」


 それを聞いてフラメナは決心した。




 時を遡り、フラメナが姿を消してからすぐのこと、クランツはフライレットに事の経緯を話していた。


「申し訳ありません。わたくしの目が届かぬところにてお嬢様が攫われました。」

「……本来ならば極刑とでも言いたいが、クランツ先生であろうと防げぬのであればどこにいても同じ、加えて城内だ。」


 頭を下げるクランツにフライレットは近寄り手を握る。


「謝るでない、むしろこちらの落ち度だ。城内にスパイがいたなど言語道断……クランツ先生、どうかフラメナを救いだしてはくれんか」


 懇願する一国の王、クランツは手を強く握り返し言う。


「必ずや、フラメナお嬢様を連れ戻します」


 そこからの動きは早かった。

 まず騎士団の第五隊と第四隊が城内と城下町を探し、第三隊から第一隊が領土内を探す。

 クランツは単独で動き回り、フラメナを探す。



 殺される確率は低い。

 なぜならば王族の子供となれば領土戦争時に人質として、これ以上にない人材だからだ。

 ならば人攫いは他の国の手先の可能性が出てくる。


 そんな考察はどうでもいい、クランツは自身の足に風魔法の魔法陣を発現させ、空を飛んで城下町外へ向かう。


 一つ一つ、村に降りては探索。

 手がかりがないのであればこれしか方法はない。


 だがすべての村を回っても、フラメナが見つかることはなかった。

 日が変わり真夜中の上空、クランツは手がかりのない中絶望していた。


「……人質であれば…運ぶために馬車が出る。それを見つけるしか」



 クランツが悩む中フラメナは行動を起こそうとしていた。



「どうなっても知らないわよ……」



 白い魔法陣が浮かび上がり、丸い円が描かれ星が浮かび、その中に三本の線が出来る。

 次の刹那、フラメナは手から火が出て縄を燃やし、急いで外と繋がる穴に向けて火を向けた。

 その火が三秒ほどで消えると、魔力を感じたさっきの男が扉を蹴破って入ってくる。


「ひっ!」

「何やってんだクソガキ!マジで死にてえのかよ!」


 拳を振り上げる男に突進するユルダス、それにより少し男が後ろに下がると、ユルダスは首をつかまれ壁へと叩きつけられた。

 次はお前だと言わんばかりにフラメナに近づく男。


 殺される。奴の目は完全に殺しを行う者の目。

 リーダーからはダメだと言われているが、ストレスの限界で殺すのを我慢できなくなったのだろう。


 ……わたし……こいつに、殺される!


 すると外から鐘の鳴る音が聞こえる。


 次の刹那、フラメナの後ろの壁が崩壊して、フラメナを殺そうとした男が吹き飛び、扉の先の廊下へと転がる。


「えっ……」


 唖然とする二人、一番驚き怒っていたのは見張りの男だった。

 その巨体を起こして前を見ると顔が青ざめる。

 壁が崩壊し煙が立ち込める部屋の中、一気に煙が晴れある人物が現れる。


「クランツ……!」


 一気に泣きそうになりながらそう名を呼ぶフラメナ。


 鐘が鳴り終わり、クランツは口を開く。


「……フラメナ様、遅れて申し訳ありません。このクランツが悪党めに罰を下しましょう」


「死鍾……!なんでお前が!」


 酷く怯えた男、そう咄嗟に言うとクランツが説明してくれる。


「こちらのフラメナお嬢様が放ちました火属性魔法により、位置がわかりましたので」

「クソッたれ……だから!だから薬をずっと飲ませるべきだったんだ!」


 クランツは話を聞き終わり風の斬撃で首を肉だけ切り裂き絶命させる。


 ケチらずに睡眠薬を飲ませ続けていれば、魔法を使わせていなければ。

 小さな楽をしたが故に、これからこの者たちは地獄を経験する。

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