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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第七章 純白魔法使い 西黎大陸編
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第七十話 八人目の君級魔法使い

 虹剣1688年3月23日。

 傲慢のシルティが敗れてから三日後。

 五人は宿にて静養の日々を送っていた。


 あの後イグレットが、ライメとフラメナを運んでくれたらしく、王都に到着した瞬間倒れたそうだった。


 今回の襲撃によって死者は八十九名、

 負傷者は百二十七名に達した。

 エルトレやラテラなどは特に危険な状態で、

 もう少し治癒魔法が遅かったら死んでいたらしい。


 三日経った今でも怪我は完治しておらず、

 五人はかなりボロボロの状態であった。


 今回の戦いでの活躍は剣塵はもちろん、

 暁狼として大々的に新聞に載り、一気に名が知れ渡ることとなった。


 純白のフラメナ、もうその名は無名ではない。

 言えば多少は知っていると言われるだろう。


 フラメナといえばマイナスイメージが強く持たれるのが特徴だが、白い魔法というのに以前のような完全なる拒否反応を示す者は少なくなった。


 なにせ魔王側近を倒す中でフラメナがいなければ、

 剣塵は死亡しオラシオンという国が地図から消えていたからだ。


 未知とは恐怖であると共に可能性を秘めている。

 英雄であれば異質であろうと崇められる。


 まだ一般の民からは拒絶されるかもしれない。

 だが剣士や魔法使い、それらの者達から拒絶されることは少ないだろう。


 なぜならこの世界は、

 強ければ黒も白に出来てしまうのだから。


 彼女の活躍は国王の目にも留まり、

 明後日城にて話があるそうだ。



 色々なことが起きてはいるが、フラメナはこの五人で生き残ったという現実にすごく安心していた。


 エルトレとラテラは怪我がひどく、リクスもそれほどではないにせよ怪我をしている。


 そのため外食を出られるほど元気ではない三人に、

 フラメナとライメが買い出しに行くようだ。


 道中、ライメがフラメナに聞く。


「フラメナって……怖くなかったの?」

「あぁ、あの戦いね。怖かったわよ」


 フラメナはニコッとそう軽く言う。


「怖かったんだ……」

「怖いに決まってるでしょ!

 何回ぶたれたかわかんないわよ……

 一応私、女の子よ?」

「一応ってつけなくても女の子なのはわかるよ。

 ……相手がああ言う戦い方だったから仕方ないね」


 フラメナは青空の下、シルティについて話す。


「あいつなんであんなに正面から戦ってきたのかしら。殺そうと思えばいつでも私を殺せたじゃない」

「彼の異名は傲慢……多分だけどプライドみたいなものが関係してたんじゃないかな」


 傲慢、紛れもなくシルティが敗北した理由は傲慢。

 皮肉なものだ。傲慢という王の冠を被るが故に負けてしまう。

 彼は不意打ちもしなければ、策を立てて完璧に殺すこともしない。力任せにただ対象を殺す。

 それがポリシーであり、ルールでもあったのだ。


 フラメナを早く殺していれば、

 ライメを殺していれば。


 多分今ある未来はなかった。


 そう思うと少し、奇跡の中で生きていることを実感出来る。


「ねぇライメ」

「ん……どうかした?」


「私、ユルダスをぶちに行くわ」

「えぇ?いきなり喧嘩宣言なんてやめてよ……」

「ちっ違うわよ!……多分、ユルダスはこうやって距離を取られるのが一番苦しいと思うし……いっそのことぶって仲直りくらいしたいじゃない?」


 フラメナは続けて話す。


「あの時、ユルダスは私たちを守ってくれた。

 戦場になんて出てこなくても良かったのに、

 あの状況で出ていけば死んでたかもしれないわ。

 それでもユルダスは出てきてくれた。

 あそこまでしてくれたんだから、このまま距離を取るなんて私は嫌よ」


 ライメはそう聞くと微笑み、口を開く。


「僕も、それに関しては同じ意見だよ」

「……ちょっと買いに行く前に寄らない?」

「いいよ。行こっか」


 そうして二人はユルダスの家へと向かい始める。



 ーーーーーーーーーーーーーー


 魔城島、黒城最上階にて。


「シルティが死んだ」


 憤怒のドラシルは揃う魔王側近に向けてそう話す。


「あちゃー、マジでぇ?

 シルティちゃん負けちゃったのか……

 あのガチガチの筋肉と再生力を上回るなんてね」


 色欲のエルドレが尻尾を振りながらそう言う。


「相手は誰だったんだぁ?」


 怠惰のフェゴがそう聞くとドラシルが答える。


「剣塵と天理の欠片を宿す者だ」

「どっちかは死んだー?」


 強欲のユーラルがそう言うとドラシルは首を横に振る。


「あのバカ……どっちも殺せないなんてどんな負け方したのよ」


 嫉妬のレアルトがそう言った。

 それぞれが反応を示す中、ドラシルは今回の件について深く話し始める。


「正直言って死ぬことは許されないことだ。

 空席が二つあった時代など史上初、魔理様は激怒していらっしゃる。くれぐれも下手に行動はするな。

 もし次誰かが死ねば……我らの利用価値はなくなる。そうなれば大体未来は察せるな?」


 少し圧を放ちながらそう言うドラシル。

 エルドレはニコニコし、フェゴは眠たそうな顔で話を聞いて、ユーラルは無邪気な真顔、レアルトはすごく不機嫌そうだった。



 ーーーーーーーーーーーーーー


 フラメナたちはユルダスの家へと到着する。

 集合住宅なため、部屋の前に行き扉をノックすると、足音が聞こえてきて扉が開かれた。


「はい……?」


 出てきたのはユルダスの奥さんである。

 ユルダスがレスミアと言っていたので、レスミアが名前なのだろう。


「ユルダスっているかしら?」

「ユルダスならいますよ。ちょっと呼んできますね」


 レスミアはそう言って部屋の奥へと入っていくと、

 呼んだのか奥からユルダスが歩いてきた。


「……何の用っ」

「っ!」


 フラメナはユルダスの顔をぶった。

 ちょっと威力は強めで、ジンジンと痛む自身の頬をユルダスは触る。

 まぁこんな異様な光景、レスミアから見ればたまったものじゃない。


「ちょっと!何してるんですか!」


 今すぐ追い出してやろうとするレスミアを止めたのはユルダス。


「いい、いい……」


 ユルダスはぶたれたことで少し表情が緩くなっており、それに乗じてフラメナは話し始める。


「ユルダスと距離を取ろうとしたけど……

 やっぱ私そういうのは向いてないみたい。

 仲直りしましょ、ユルダス」


 フラメナは手を差し出し、ユルダスの目を見る。


 ユルダスはここ最近、ずっと気分が落ち込んでいた。罪悪感、そんなものに苛まれひたすらに気分が悪かった。


「やっぱり、フラメナは昔から優しいな」


 差し出された手を握り、二人は握手を交わすと、

 両者笑顔になり円満解決。


 ライメもユルダスと握手をしてついでに仲直りだ。

 そもそもライメはユルダスをそう悪く思ってなかったようだが、一応仲直りということで良いだろう。


「あなた……この方達って?」


 ユルダスはそうレスミアに聞かれ、紹介する。


「俺が南大陸にいた頃の親友、フラメナとライメだ」


 フラメナとライメは軽くながらもレスミアに会釈してくる。レスミアはそう聞いて自身の名を名乗った。


「レスミア・ライザルメです。

 その、主人がお世話になっていました……?」

「んー……ちょっと話し方が固いわ!

 砕けて話しましょ!」


 フラメナはそう言うとレスミアは困ったようにユルダスを見つめる。


「あー……なんだ。

 立ち話もあれだし、中に入って話そう」


 ユルダスがそう勧め、全員がそれに賛成すると四人は中に入って色んなことを話した。


 ユルダスの過去や、フラメナの過去。

 ライメがどう過ごしていたとか、あれから何か変わったことがあったのか。


 レスミアは三人の会話を楽しそうに聞き、

 久しく集まった三人は会話が盛り上がった。



 やっと揃った。

 そんな思いがフラメナの心に宿り、そこは非常に気持ちの良い空間だった。


「フラメナたちはこれからどうするんだ?」


 ユルダスが聞くとフラメナが答える。


「邪統大陸に行こうと思ったけど、思った以上にやることがなさそうだから、西黎大陸西部を移動して北峰大陸に向かうわ」


 するとユルダスは思い出したように話し始める。


「そう言えば、ルルスって人も北峰大陸に一年以上前に向かっていたぞ。確か知り合いなんだろう?」


 ルルスは一年以上前にオラシオンを去り、

 北峰大陸へと向かっている。

 懐かしい名にフラメナは思わず反応した。


「ルルスも来てたのね!仲良くなれた?」

「仲良くなれたとは思うが、なんだか緩い人だったな。フラメナくらい力の抜けた人だったぞ」


 ルルスが来ていたことに少し嬉しさを隠せないフラメナ、今も北峰大陸にいるのだろうか?

 そんなことを頭の片隅で考えながら30分ほど会話した後に、買い出しのことをライメに言われ、フラメナとライメはユルダスの家を出ていく。



 ーーーーーーーーーーーーーー


 虹剣1688年3月25日。


 君級と定められるのには条件が三つある。

 

 ・君級邪族の討伐・撃退にて活躍の経験

 ・君級魔法・それに迫る魔法の使用経験

 ・国王などに認められること


 上記全てを達成した剣士や魔法使いが君級となる。


 フラメナはオラシオン王国の国王、

 カリエル・フラントア・カザリーに呼び出されており、今日はその日である。


 フラメナは少し緊張しながらも王がいる部屋へと立ち入り、カリエルと対面した。


「……まぁまぁ緊張しないでください。

 感謝とあることについて話すだけですので……」


 カリエルは国王ながらも謙虚な態度であり、

 フラメナはそれを見て少し緊張が解けた。


「まずは傲慢のシルティ討伐、心より感謝致します。

 剣塵がいるとは言え……彼が言う話ではフラメナ様がいなければ負けていたと……」


 カリエルは続けて話す。


「正直言って私は慢心しておりました。

 剣塵さえいれば大丈夫だと……ですが今回の件でそれが愚かな考えだと知ったのです。

 間違いなくフラメナ様がいなければこの王国は滅んでいた……フラメナ様は君級魔法使いになる条件を知っておられますか?」


 フラメナはそう聞かれ、当然と言うように頷く。


「国王などに認められる。

 フラメナ様はすでに君級邪族とも戦えるほどの魔法使いであります。砂塵のことや傲慢のこと。


 故に私から″君級魔法使い、純白のフラメナ″として

 認めましょう」


「……え?」


 あまりに唐突でフラメナは口を開けて驚く。


「そ、そんないきなりで良いの!?」

「えぇ、すでに名声、実力共に君級の域です。

 誰も不満を垂れることはないでしょう」


「ほんとに、ほんとに私が君級でいいの!?」

「え、えぇ、いいですよ」


「やったっー!!!」


 フラメナは両手を上げ歓喜の声を部屋に響かせた。


 フラメナ自身、少々過大評価されているとは思っているが、君級で良いと言われるならば喜んでなろう。


 一つの目標であったわけではないが、

 強くなるという目標の中で明確な成果が現れた。


 八人目の君級魔法使い。

 純白、フラメナ・カルレット・エイトール。

 その内容は大陸新聞に大きく載せられ、世界中にばらまかれる予定だ。


 やっとここまで来た。

 でもまだまだ終わりじゃない。

 彼女の目指す場所は頂点であるのだから。


 ここはまだ麓、でも今だけは喜ぼう。

 やっとスタートラインに立てたのだから。

第七章 純白魔法使い 西黎大陸編 ー完ー


次章

第八章 純白魔法使い 北峰大陸編 

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― 新着の感想 ―
敵幹部最弱の触れ込みに似合わずシルティはかなりの強敵でしたね!君級二人でギリギリとは… 残りの魔王側近も相当強いのでしょうね…シルティが殺られて慎重になってるから、しばらくは出てこなさそうに思えますが…
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