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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第七章 純白魔法使い 西黎大陸編

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第六十八話 黄金事変 Ⅳ

 剣塵、イグレット・アルトリエ。

 それは世界最強の剣士、であり現三界だ。


 歳は四十八と人族の中では長生きしてる方だ。

 歳を取っても尚剣塵は未だ現役、むしろ常に全盛期と言えるほど強い。


「聞くがお前、魔王側近の傲慢のシルティで間違いないな?」


 剣塵は指さしてそう言うと、シルティは頷き名を名乗る。


「いかにも我は傲慢の王、シルティ・ユレイデット。

 貴様は剣塵なのだな?だははははは!興が醒めていいたところだ。我と戦え剣塵ッ!」


 シルティはそう言うと黄金のオーラが強まり、

 辺りに吹く黒い風をオーラで押し返す。


「あぁ望み通り戦ってやろう。

 俺もあいにくお前を切りたくてしょうがなくてな」


 剣塵は刀を鞘から抜き、一気に辺りへと重圧が立ち込める。


「ユルダスまだ動けるだろう?まぁ動けなくても動け、倒れている者たちを集めて逃げろ」

「ほんと……無茶言いますね」

「ははは、別にゆっくりで良いぞ」


 イグレットはそう言うと黒い風を刀へと纏わせる。


 シルティの腕の筋肉が少し動いた瞬間、イグレットはユルダスの前から一瞬で消え、轟音と共にシルティを切りつけ吹き飛ばしていた。


 そのことからシルティがイグレットの速度に

 完全に対応できないことが判明する。


 一瞬にして斬撃を受けたシルティ。

 咄嗟に拳を突き出し斬撃を受けるも、イグレットの攻撃は凄まじく、拳は真っ二つに切り裂かれていた。


 崩落した建物を背に体勢を直すシルティ。

 拳を再生して前を見れば、恐ろしいほどの殺意を抱えたイグレットが迫っていた。


 最速最強の剣術、それはシルティが瞬きをした瞬間に五度体を切りつけられ、再生した瞬間に再び五箇所切りつけられる。


 シルティはそんな攻撃を喰らい、遂に本気を出す気になったのか一気にオーラが高まり、黄金の体に紫色の模様が刻まれる。


「間違いなく、過去類を見ない強敵ッ!

 面白い戦いをしようぞ世界最強ォッ!」


 血眼でイグレットへと顔面を近づけ、斬撃を浴びながらも楽しそうにそう言うシルティ。


 次の瞬間、イグレットはシルティの腰から肩へと右寄りに大きく切りつける。


 深く入り込んだ切先がシルティを浮かし、

 空へと吹き飛ばす。


 再生を行いながらもシルティは空中にて体勢を直そうとしていると、突如腹部に刀が突き刺さりとんでもない衝撃と共に王都外へと吹き飛ばされた。


 腹部に突き刺さる刀を持つのはイグレット。


 シルティは脳裏にドラシルとの会話が蘇る。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「チラテラが死んだ」

「暴食を冠するあいつが?

 馬鹿言え、邪統大陸での戦いにやつを殺せる戦士などいないはずだ」


 魔城島、黒城にて二人はそう会話していた。


「あぁ、確かに戦場にいる君級の中にやつを殺せるやつはいないだろうな。だが、将級ならどうだ?」


 その言葉にシルティは驚愕する。


「将級などに殺されたのかァッ!?」

「どうやら無名の将級剣士が、

 実は君級の中でも最上位の実力というオチだ」


 ドラシルは残念そうに話す。


「チラテラをここで失ったのは痛手だ。

 オマエも下手に戦いは仕掛けるな、そう何度も我ら魔王側近が敗れれば威厳が損なわれる」

「……ふん、この我が負けることなどない。

 我は傲慢を冠する王だぞ?敗れては死ぬも死に切れん。案ずるな、容易く死ぬ生き方はしておらん」


 そう言うシルティを見てドラシルは言う。


「傲慢だな」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドラシルよ。

 我はチラテラが敗北した理由が未だわからぬ。

 なぜこのような者にチラテラのような暴君が破れるのか?理解できんのだ。



 王都付近の砂漠地帯へと突き落とされるシルティ、

 クレーターが出来上がり砂塵が舞う中、再生を行なってシルティは立ち上がる。


 イグレットも刀をシルティから途中で抜いており、

 一定の距離を保って着地したようだった。


「剣塵よ。一つ我は聞きたいことがある。

 暴食のチラテラ、奴をなぜ倒せた?」


 そう聞かれイグレットの表情が緩む。


「そんなに疑うほど弱く見えるか?

 勘弁してくれよ……まぁ質問に答えてなんで倒せたかっていうと……忘れた。多分根性」


 あっさりとそう言うイグレット。

 そんなふざけたような態度に、シルティは血管を浮き上がらせるほど怒り、声を大きくして言う。


「だははははっ!!初めてだここまで我に舐め腐った態度を取る阿呆はァッ!その肉体、一片も残さずぐちゃぐちゃに潰してくれるわァア!」


 シルティから眩しすぎるほどの黄金の光が放たれ、

 イグレットは思わず唯一の視覚である右目を閉じかける。


 それのせいなのかはわからない。

 シルティは先ほどとは違い、イグレットが認識出来るギリギリほどの速度で接近してきた。


 一瞬にして間合いを詰められるイグレット。

 刀というのは超至近距離戦では不利である。


 故にシルティの拳の方が出だしが早く、

 イグレットのこめかみへと拳が迫った。



 剣塵イグレットの扱う属性は風。

 彼の風の魔力は黒く変色しており、他の属性と混ざり合わないという特殊な性質である。

 その性質がどういった理由で出来上がったのかは、本人にもわからない。


 属性と混ざり合わない、それだけじゃただのデメリットしかない性質だ。

 だがメリットが一つある。


 それは魔力のみの放出であろうと、魔法として放ったものに迫るほどの威力が期待できる。


 加えてもう一つ存在する。



 イグレットはシルティの拳を後ろに跳んで避けると、斬撃の嵐を前方へと放ち、それをシルティが拳にて傷を負いながらも防いだところを見て指を鳴らす。


 パチンと鳴った瞬間。

 シルティの拳に入った傷が再び切り裂かれた。


 二つ目は二度の斬撃。

 追撃をいつでも行えるのだ。


「……なるほど、残留するのだな」

「ご名答、俺の斬撃は好きな時に二度目の攻撃を生じさせることができる。

 原理は大体理解はしてるんだろ?

 俺なりのサービスだ。答え合わせしてやったぞ」


 イグレットは挑発するようにそう口角を上げると、

 シルティは魔法陣を展開し拳をイグレットへと向ける。


金乱連(エブン・リラー)ッ!」


 大量に前方へと放たれる黄金の拳。

 密度が高く避けることは不可能、

 先ほど戦っていたフラメナはこれを相殺するという判断を取ったが、イグレットは違った。


 イグレットは横へと素早く走り出し、拳から逃れるとシルティが方向を変え続けて追撃を放つ。


 シルティを中心にぐるぐると回ったイグレット、

 二周ほどした後に跳び上がり、空で刀を下へと向けて放つ。


 攻撃を掠めることもなくただ躱したシルティ。

 次の瞬間、空中にて跳んでから着地するなど普通に考えれば不可能な速度でイグレットが地へと降り、

 攻撃を躱したばかりに加え想定外の動きに隙が生まれた。


「風の魔力で強制的に降下したのかァ!」


 口角を上げてそう言うシルティに対し、イグレットはシルティの横を一気に通り過ぎて低い姿勢のまま納刀する。


龍殲斬(りゅうせいざん)……!」


 そう言えば一気にシルティの体に切り込みが入ったと思えば大量の斬撃が生じ、一瞬にして全身のほとんどの肉を削ぎ落としてしまう。


 イグレットは納刀した後に再び刀を抜いて振り返ると、予想していた光景とは違うものが見えた。


「なっ……」

「フーッ……実に凄まじい攻撃、我とてここまでの剣士は初めて見るが故に心が躍る……」


 確かに攻撃は入ったはずだ。

 にも関わらずシルティの体には傷が一つも残っていない。あの量の深傷であれば多少再生に時間がかかるはずだ。

 なぜなら暴食のチラテラはこの技で再生に多少の時間をかけていたからである。


「!」


 イグレットは隙を見せてしまった。

 とんでもない再生力を前に驚愕など隠せない。


 シルティの拳がイグレットの目前まで迫り、

 咄嗟に抜刀して刀の柄で受けるも強く吹き飛ばされ、体勢を立て直す前に黄金の拳が召喚されて横腹を強く殴りつけられる。


 それにより地面へと転がり血を吐くイグレット。


「ゴフッ……なんて威力」


 魔王側近はそれぞれにずば抜けて優れている。

 傲慢のシルティは治癒力だ。

 防御面も随一と言って良いがなんと言っても治癒力の凄まじさ、魔王側近の中で彼より早く再生できるものはいないだろう。


 いるわけがないと信じたい。

 それほど早いのだ。


 無限とも言える体力に豪速の治癒力。


 イグレットはそれを理解し口元を袖で拭い、

 再び刀を構えて戦う体勢に戻る。


 そんなイグレットを見てシルティは地面を踏み込み、一気にこちらへと跳んでくる。


 間合いを詰められ斬撃を放ち距離を取り、

 一挙手一投足全てが意味のある行動。

 それでも少しだけシルティへと軍配が上がった。


 砂塵を巻き起こしながら接近戦を常に行う二人、

 シルティの血が撒き散らされながらも、黄金を宿す光が火花のように発生し、戦いは激戦の一途を辿る。


 イグレットが刀を振れば黒い風の斬撃が放たれ、

 それをシルティが拳で弾き返し間合いを詰めると、

 次はイグレットが連撃を放って後退する。


 ひたすらに距離を取り続ける中でも段々と、

 イグレットの全身に傷ができ始めた。


「人族は老いが故に弱くなる!

 貴様は未だ剣技は全盛期だが、体力はお粗末なものだなァァッ!!」


 拳がイグレットの腹部へと直撃する瞬間。


 イグレットは片手で拳を掴み、

 流れに任せて吹き飛ばされ、腹部を貫かれることなく地面に転がり怪我を最小限で抑える。


「ッチ……腕がイカれた」


 イグレットの左腕は拳に触れたせいで衝撃を受けてしまい、それによって骨折してしまった。


 左腕と左目が機能しない中、

 イグレットは立ち上がり刀を構える。


 切り札を使うようだ。


 敗北という二文字が何度も脳裏をよぎる中、

 イグレットは息を吐いて右目に覚悟を宿す。


「……お前、300年以上は生きてるんだよな?

 俺はまだ48年くらいしか生きてない人族だ。

 ……正直言って勝てるとは確信してない。

 だが負けるとも確信していない。

 まだまだ興醒めしてくれるなよ」


 そうイグレットが言うと、シルティは目の前に立つイグレットという男から発せられる魔力量に、体毛が後ろへとなびく。


「だはははっ!まだまだ楽しませてくれるのだな?

 良いぞ受けてやる。さァ来いッ!!」



 イグレットの全身全霊の一太刀。

 それは空を裂き、雲をも裂く天断の一撃。


 黒い風が辺りを支配し、放たれる技の名はーー


峨天(がてん)ッ!!」


 袈裟斬りによって放たれた巨大な黒の斬撃。

 その衝撃波は上空にまで達し、雲を散らしてシルティへと向かっていく。


 何もかも切り裂いてしまうようなその一太刀。

 シルティは正面からその斬撃へと触れ、進行を体で止める。

 切り裂かれながらも再生し、遂には直接斬撃の進行方向を変えてしまい空へと逸らす。


 顔からつま先まで一線の赤い傷口を作るシルティ、

 イグレットは指を鳴らしその隙に一気に懐へと潜り込むと、大量の斬撃がシルティに生じ追撃を与える。


 そして怯んだシルティへと放たれる技法もない、基礎の振り方を高速で繰り返し切り続ける乱舞を、イグレットはシルティへと近距離で放った。


 その多くの斬撃を浴びる中、

 シルティは足でイグレットを蹴って後退させる。


「うっぐっ!」


 予備動作なしのその蹴りに反応できず、腹部にそれを喰らったイグレット、口から血を吐き出してシルティから離れていく。


 流石に効いたのだろう。

 大技である峨天と乱舞を喰らったのだ。

 再生は少し遅くなっていた。


「今ので最後、かァ?」


 シルティは再生をし終えてそう言う。

 かなり消耗させたはずだが、これでは意味がない。

 完全なる一対一では生きるか死ぬかだ。


 イグレットは疲労困憊で息が上がり、

 手が震えている。


 よくよく考えれば一週間のキツい修行中にこの戦いをしているのだ。食事も満足に出来ているとは限らない。


 だがそれを除いたとしてもイグレットは理解していた。どちらにせよ体力はもたないと。


「そこそこ粘ったがやはり貴様は時が経ちすぎた。

 あまりにも疲弊しすぎている……貴様がもっと若ければ負けていたのは我だったかもしれない。

 それほど貴様の剣技は賞賛に値する」


 シルティはゆっくりとイグレットへと歩き始めた。


「せめて一撃で屠ってやろう。

 侮辱の数知れぬが最期は飾ってやる」


 だがシルティは驚愕した。

 イグレットから先ほどの圧が溢れ出したのだ。

 明らかにあの大きさの斬撃は、全身を酷使しなければ作り出すことは不可能。


 この体力の状態でイグレットがそれを行えば死ぬかもしれない。それでも尚イグレットは構えたのだ。


「二度目などやらせんぞ……剣塵ッ!!」




 ギラつく眼光、迫る黄金の虎。

 記された勝敗を揺るがす状況、

 命懸けの一撃が傲慢を撃ち破るのか?

 それともその一撃は放つ前に散るのか?



 否、どちらも不正解。



「!?……なぜ貴様がッ!」


 シルティはイグレットの背後に立つ人物を見て酷く驚き、思わず距離を取るために後ろへと跳んだ。


「……?」


 イグレットは振り返り、自身の背後に立つ二人の姿を視認する。


「……あとは私たちに任せて!」


 包帯を多く巻くフラメナとライメ、ボロボロな二人だが、この戦場では一番の軽傷者である。


 フラメナ・カルレット・エイトール。

 ライメ・ユーパライマ。

 二人の若き戦士が再び戦場へと姿を現した。

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