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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第七章 純白魔法使い 西黎大陸編

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第六十六話 黄金事変 Ⅱ

 オラシオン王国王都内にて。

 王都へと傲慢のシルティが現れたことはすぐに国王へと伝えられた。


「剣塵はまだなのか!?」

「はい……おそらくあの距離ですと剣塵様でも30分はかかるかと……」


 オラシオン王国、国王。

 カリエル・フラントア・カザリーは焦っていた。


 赤髪で若き王の彼は、魔王側近が襲来しているにもかかわらず、剣塵が不在なことに心底焦っていた。


 君級最上位の剣塵と言えど勝利が確証されるわけではない。だがこのままでは必ず国が滅ぼされる。


 西黎大陸は北峰や中央と違い大きな国が存在するが、世界的に見れば魔王討伐へと乗り出すほどの被害が出るわけでもない。


 国が滅んでも中央大陸は助けてはくれない。

 故に滅べばそこで終わりである。

 もちろん南大陸のように支援がある可能性もあるが、限りなくその可能性は低い。


 なぜならオラシオン王国が滅ぼうと、西黎大陸北部の国が残っていれば、中央大陸的には困らないのだ。


「こちらの戦力は……?」

「ガレイルや住民の証に登録されている将級戦士の数はおよそ十九名、帥級は三十五名ほどです……」

「終わった……勝てるわけがない」


 将級や帥級がいくら束になってかかろうと、

 傲慢のシルティを討伐するには至らないだろう。


 剣塵が暴食のチラテラを倒した際、

 一つ判明したことがある。


 魔王側近は明確な核を持たず、細切れにしても魔力さえ残っていれば再生する。

 故に魔力を空にするまで攻撃によって再生させなければいけない、それを君級なしでなんて不可能だ。


「旅人などに名高い戦士はいないのか?」


 縋る思いでそう言うカリエル。

 すると兵士が伝えてくる。


「……純白と呼ばれる魔法使い、フラメナ・カルレット・エイトールというものがおそらく、この王都にいる旅人では最強かと……」

「ゼーレ王国の王族の生き残りか……

 妙な魔法を使うと聞くが……君級ではない時点で現状が変わることもない……」


 カリエルは悩んだ末に言う。


「とりあえず、いるだけの戦士をかき集めて傲慢を討伐せよ……」

「御意……」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 一方街中では、フラメナ達とシルティの戦闘が続いていた。



 地面を踏み込み、接近してくるシルティ。

 フラメナの集中力が極限まで高まり、拳を正面から避けると、頬が切り裂かれ鮮血が舞う。


 フラメナは攻撃を終えたシルティの背中へと白い火球を放とうとすると、シルティは踏み込んで前へと飛び出し、それを避けて建物の壁へと突っ込む。


 壁へと足をつき、一気に壁が凹むほどの力で踏み込んで跳んでくると、フラメナはそれを風魔法で横に避け、ライメとリクスに合図を出す。


「二人とも!」


 そう言われライメとリクスが反応する。


 道の先で体勢を直し着地するシルティへと、

 氷と土の棘が地面を伝い迫っていく。


 そんな魔法で何をするのかと思えば、二人が一気に杖を上に上げ、土の壁と氷の壁が出来上がり、横に避けれない一直線の道が出来上がった。


「エルトレ!」

「任せて……!」


 フラメナがそう叫ぶとエルトレがすぐさま武器を拾い、走り出してシルティへと向かっていく。


 フラメナはエルトレの後ろから走ってついていくと、武器へと白い火を纏わせ、風魔法で跳び上がり、白き火球を大量に作り出す。


「見事な連携、実に弱者らしい戦い方だァ!」


 シルティが口を大きく開きそう叫ぶと、

 エルトレが剣を斧へと変形させ、

 リーチを一気に伸ばしシルティへと切り掛かる。


 シルティは拳を突き出し、衝撃波のような黄金の拳を放って斧を押し返し、そのままエルトレの首へと手を伸ばす。


「っぁ!」


 エルトレが首を掴まれた瞬間、フラメナの火球がシルティの腕を攻撃し、シルティはもう片方の手で白い火が当たった部位を切り落とす。


 だがシルティは笑っていた。


「こうしてしまえば、貴様から攻撃する手段が消える。さァ無防備になった今どうするゥッ!!」


 フラメナはそれを聞き、血に濡れた顔で口角を上げて言う。


「何もエルトレと私だけじゃない。

 ライメとリクスはどこに行ったかしら!」


 次の瞬間、シルティの両脇から迫る二つの壁。

 鋭利に尖った氷の壁と土の壁がシルティを挟むように迫り、強制的にフラメナとエルトレから距離を取ることなった。


 するとフラメナとエルトレの背後に、

 ラテラが転移してきて素早く治癒を行う。


「ありがとラテラ、助かるわ」

「良いんです……それよりどうです?

 僕的には勝ち目薄いと思いますけど」


 そんなラテラの言葉にフラメナは苦笑いを見せる。


「あんなこと言ったけど、正直マズいわね。

 まったく戦況がこっちに傾かないわ」

「でも……まだ大怪我はない、どうにかなる」


 エルトレが武器を構えると、フラメナもそれに共感し魔法陣を展開する。


「えぇ、まだまだ動けるわよね?」

「当たり前、ラテラありがと、下がってて」


 エルトレがそう言うとラテラは走って後ろへと下がっていく。


 だが次の瞬間、氷の壁と土の壁が破壊され、

 黄金の体で何か魔法陣を展開しているシルティが現れた。


 ライメとリクスは前線の二人を後方から見て、

 とてつもないほど大きな嫌な予感を悪寒として感じた。


「二人とも……!!」


 間に合わない!何かくる!

 ラテラをさっき転移したせいで……!

 転移魔法の間がまだ……マズい二人が……!


 ライメがそう焦ると、シルティが魔法名を言った。


金星群(エブン・メショッド)ォォッ!!」


 そうして放たれる辺りを埋め尽くす黄金の拳。


 フラメナはずっと気になっていた。

 この黄金の拳はなんなのか?

 衝撃波にしては随分と実体感が強い。

 それに空から落とす隕石のような拳、あれはなんだろうか?なんとなく予想がついた。


 これは″召喚魔法″だ


 シルティは強化魔法と召喚魔法の使い手。

 身体をできる限り強化し、黄金の拳を召喚して相手へとぶつける戦い方。


 故にこれより起きるのは無差別的な破壊行為。


 黄金の拳は四方八方に放たれ、土と氷の壁を破壊し、外壁や建物を容易く崩壊させ、大量の物と人が破壊される。


 砂煙が大量に巻き上がり、半径70メートル付近全てに多大な被害が出た。



 少しして攻撃が止むと、随分と見晴らしの良くなった街の中で、地面に大量の血を流しながら倒れるエルトレとそれの後ろで仰向けに倒れるフラメナ。


 後方にいたにも関わらず、瓦礫に埋もれ骨などが折れているのだろうか、小さく動くことしかできないラテラやリクス。


 分かっていた。

 大体こうなることなど分かっていた。

 相手が本気を出せば殺されてしまうなんて理解していた。


 フラメナとライメの怪我が少ないのは、

 咄嗟にエルトレとリクスが、各々一番可能性のある者を残すと言う結論に至ったが故だろう。


「うっぁ……」


 動け……私の体……早く、早くどうにかして皆んなを安全な場所に行かせなきゃ、出血で皆んな死ぬ……



 フラメナは足を引きずりながら、ライメの方へと向かっていた。


 そんなフラメナを見てシルティはゆっくりと歩き、

 話しながら近づいていく。


「貴様が死ねば仲間も死ぬ。

 恨むのならば弱い自分を恨め、守れないのは貴様が弱いから、仲間が死ぬのは貴様が狙われたから。

 ひたすらに弱者には虫唾が走る。

 何もなし得ない、変わろうともしない。

 自惚れることもできぬなら死ねば良い」


 自論を展開するシルティを無視してフラメナは、

 ただライメへと歩いて近寄っていく。


 ライメはフラメナが何をするのか分からなかった。


 そして遂にライメの元にフラメナがやってくると、

 フラメナはライメの耳元へと口を近づけ、小声で何か話したようだった。


 そんな様子のフラメナにシルティは心底腹が立ったのだろうか、声を大きくして言う。


「なんの意味がある。貴様は、なんの意味で我から遠ざかる?何をしたって我を殺すには至らんぞ!」

「うっさいわね……理解できないと子供のように騒ぎ立てる。煩わしくてしょうがないわ」


 フラメナはそう言って振り返る。

 そのままフラメナはライメから横に離れてシルティを睨み続けると、シルティは相変わらずの速度で拳を突き出し、戦闘を再開した。


 フラメナは考えていた。



 ……砂塵の時、私は何を見ていた?

 あの時、なんだか自分の体が自分のものじゃないような感覚だった。

 上から私が操っているような……何もかも遅く見えた。あれに今もう一度ならなきゃ……じゃなきゃさっきライメに言ったことも出来ない。


 こいつはまだ気付いてない。

 ″あの存在″が近づいてることに気付いてない。


 こいつに注目され続けなきゃいけない、私が生きた上でこいつと戦いを続けなきゃいけない。


 勝たなくていい、耐えれば良い。


 あの時みたいに……あの時のようになれなきゃ……

 皆んな死ぬ、思い出せ、あの感覚を。


「……その目つきが不愉快だァ!」


 フラメナの眼前、拳が視界いっぱいを埋め尽くした瞬間、フラメナはふらっとその拳を避けた。


 軽傷も負わず無傷で避けたのだ。


 驚くシルティ、フラメナはそのまま少し後ろに下がると、休憩を与えないように拳が飛んでくる。


 だがまたそれも当たらなかった。


「なぜだ……!」


 フラメナは口角が上がった。


「はは、これで少しは戦えそうだわ」


 次の瞬間、一気にフラメナから魔力が放たれ、手足が白く染まり、真っ赤な瞳が桃色に変わると、髪の毛の末端が赤く染まり輝き出す。


 その姿のフラメナを見てシルティは驚き後退した。


「なんだその姿は……」

「わからないわ。でも、正直言って最高の気分よ。

 この戦いで初めてあんたの恐怖した顔を見れたわ」


 シルティは恐怖が混じった困惑の表情を見せる。


 恐怖?この我が?

 こんな女なぞに恐怖しているのか?


 シルティの表情に怒りが浮かび上がる。


「侮辱してくれたな、″天理の欠片″を宿すとは聞いていたが……まさか本当に使いこなしているなんてな」


「その天理の欠片ってのなんなのよ……」

「我に勝利してから聞くのだな。

 まだ何も貴様の勝ちとは決まっておらんぞ」


「勝ったら教えてくれるってこと?」

「そう言うことだ」


 フラメナはそう聞いて口角を上げて言う。


「なら絶対に教えてもらうわよ」


 再臨する白き天火の魔法使い。

 君臨し続ける黄金郷の傲慢なる王。


 役者は揃った。

 劇という名の死闘がここに開戦する。

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