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第六話 人攫い

 しくじった。

 なんで城内が完全に安全だと思い込んでしまったんだ。


 クランツは城の中庭にて、短剣を持ち口元を布で隠す邪族の人間と対峙していた。


 時は遡り三時間ほど前。



 今日は授業が休みの日であり、フラメナは中庭にクランツを呼び出していた。


 分厚い本を小さな体で持ってくるフラメナ。

 その本は魔法辞典というもので下級から君級までの魔法が載っている。


 この魔法辞典、実は世界一売れた本でもある。

 たった一冊でほぼ全ての魔法の発動の仕方が載っており、下級や中級ならまだしも上位の魔法は師が必要だが、それでも有益な本である。


「フラメナ様、魔法辞典を読んでほしいのですか?」

「そうよ!わたしじゃまだ読めない字ばっかりで困ってるの」


「学習意欲が高いですね。このクランツが読んで差し上げましょう」


 中庭の椅子に座る二人、フラメナがクランツに寄りかかりながら本の内容を見る。



 魔法は五段階に分かれている。


 下級

 中級

 帥級

 将級

 君級



 下級魔法はあまり魔法の数は多くない。

 理由としては使用する者の数だろう。


 低級魔法使いで生涯を終える者は少ない、二級魔法使いなど魔法を使っていたら嫌でもなれる。

 中級魔法使いは二級から上級。範囲が大きいのもあるが上級以上になれる魔法使いなどそう多くない。


 それ故に魔法の数は中級が一番多い。


 となると君級はもちろんだが一番数が少ない。


「フラメナ様はそろそろ中級魔法を扱っても良い頃合いですね」

「でもわたし下級魔法はマスターしてないわよ?」

「使わせてないだけで既にマスターしてますよ」

「ほんとに~?」


 疑うようにそう言うフラメナ。


「では今度模擬実戦をしてみましょうか」

「本当!?ついに魔法を使えるのね!」


「そんなに使いたかったのですか?」

「当然よ!使いたくってうずうずしてるわ!」


 クランツはページをめくりフラメナに中級魔法の様子が描かれた絵を見せる。


「これ氷の魔法?」

「ええこれは氷山礫(カルユラバス)、大きな氷の礫何個か作り出してぶつける魔法です。上位の魔法使いは礫を大量に作り出して放ったりと、使用者の腕前によって強さが変わりますよ。」


 それからしばらくクランツが夢中になって魔法を説明が始まる。

 フラメナは大量の情報によっていつの間にか寝ていた。

 クランツがそれに気が付いたのは、フラメナが目を閉じてから二時間ほど後である。


 久しぶりに熱中して話してしまった…俺の悪い癖だ。

 魔法の話になると口が止まらない……


 クランツは大の魔法オタクだ。

 まず魔法オタクでなければ将級魔法使いなどにはなれないだろう。


「ん……」


 フラメナが目を開けて立ち上がり体を伸ばす。


「……話すぎなのよ!」

「おっしゃる通りで……」

「もう……わたし手を洗ってくるわ」


 クランツは「かしこまりました」と言ってフラメナは中庭から出ていく。


「あっ!クランツ様ではないですか!」


 フラメナが離れて一分もしないうちに廊下を歩き出てくる騎士。

 もはや慣れ親しんだ門番によくいる騎士だ。


「あなたでしたか」

「いやあもうすっかり顔見知りですね」

「せっかくですし、名の方を聞いても…」

「そうですね!自分は王国騎士団第三隊所属のオスラ・レイドッテと申します!」


 騎士団の自己紹介、少し堅苦しくも暑苦しい挨拶。

 クランツはこういうのは、どちらかというと好きだ。


「良い自己紹介です。覚えておきましょう」

「ありがとうございます!」


 オスラは何かを思い出したようにーー「自分、門番の時間ですので失礼いたします!」そう言って中庭から出ていく。



「遅いな……」


 フラメナは五分経っても帰ってこない。

 お手洗いと言えど少し長い、腹を下した様子はなく、すぐに戻ってくる雰囲気だった。

 念のためだ、確認しに行こう。そう思ったときクランツは背後に迫る気配から離れるため、風魔法で前へと飛び出す。


「ッチ」

「誰だ」


 口元に布を巻く短剣を持つ男。

 クランツが元居た場所には振り終わりの短剣がある。


「私が狙いか?」

「んなわけないだろ、ここは王族の家だぜ?わかるだろ」


 クランツは脳内であらゆる出来事がつながる。


 付きまとう人攫い……城内という油断する場……しくじったッ!


「気が付いたみたいだな。大切なお嬢様はいただいたぜ」

「となれば……貴方は私の足止め役」

「正解!城内じゃいくら将級でも魔法はぶっ放せない!近接じゃこっちのが圧倒的有利だ、足止めどころかあんたの首もらうぜ」


 クランツは杖を取り出して男を睨みつける。


「相手が悪かったですね」


 クランツ・ヘクアメール、名高い魔法使い。

 名が知れ渡れば異名が付く、彼の異名は死鐘(ししょう)


 村や町には鐘がある。それが激しく風で揺らされる時、邪族にとっては悲劇の幕開け。

 本人はその異名をあまり好んではいない。


「ッヵ……ッァ……!」


 恐らくこの短剣を持つ男は剣士で言えば、中級程度。

 多少小細工は使ったようだが、小細工では埋まりきらない差があった。


 クランツの顔は依然冷静だ。だがその内では、燃え上がるような怒りが巻いている。


 無呼称、無陣でクランツは風の斬撃を放ち、首の骨を切らず肉だけ切り裂く。

 人が死ぬには十分な攻撃、風将級魔法使いクランツはそのまま静かに死んでいく男を見捨て、騎士へとことの経緯を伝え、自分自身はフライレットの元へと向かった。


 一方フラメナ。


 事を終えて曲がり角を曲がり門番の騎士に挨拶をして、過ぎ去ろうとした瞬間。

 布で口を押えられて強力な睡魔により気を失う。


「こりゃ信頼の賜物だな」


 布を持つ者は、門番の騎士として三年ほど騎士団に所属していたオスラ・レイドッテ。



 急襲、フラメナは攫われてしまった。

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