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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第七章 純白魔法使い 西黎大陸編
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第六十三話 どの面下げて

 虹剣1688年3月20日。

 フラメナ達は昼前にある場所へと訪れていた。


 それは剣塵の屋敷。

 大きな敷地を持つこの屋敷には、多くの弟子が通っており今日も剣を振るう音が聞こえる。


 門前にてフラメナが呼び出し用の紐を引くと、

 屋敷の奥から鐘の音がし、足音がこちらへと近づいてきた。


「何用でしょうか?」


 門は開かれず、門越しにそう声が聞こえてきた。

 少し威圧的な声、だがどこか懐かしみを感じる。


「剣塵に会いた……!」


 そう軽く言おうとするフラメナの口をリクスとラテラが無理矢理抑えると、ライメが代わりに話す。


「そちらの剣塵様に一度会いたいのですが……

 お時間ありますか?」

「……なんだ?弟子入りを希望しているのか?

 それとも剣塵様に挑む無謀な輩か?」


 あまり良い印象は持たれてないようだ。

 するとどう返そうかと考えているうちに、相手が先に話し始めてしまった。


「どちらにせよ、無理な願いだ。

 お引き取り願います」


 そう冷たく突き放されてしまう。

 五人はどうやら門前払いを喰らったようだ。


 するとフラメナがリクスとラテラの手を退かし叫ぶ。


「そんな会うことも出来ないなんてどんだけ多忙なのよー!!会うことくらいできるでしょ!!」

「フ、フラメナさんマズいって!」


 ラテラがそう焦ったように言う。


 すると、門が開かれ声の正体が姿を現した。



「聞き捨てならないぞ……

 あまり強引なら武力を持っ……て」


「あっ……」

「えっ?」


 門から出てきた者がフラメナとライメを見て黙る。


 フラメナとライメもその者を見て黙ってしまった。


 エルトレ達からすればよくわからない状況である。


「……その……久しぶり」


 沈黙を破ったのはライメ。

 自己紹介などされなくても二人は知っていた。

 その者は近頃噂の将級剣士。

 名をーー


「″ユルダス″!!やっぱ生きてたのね……!」


 ユルダス・ドットジャーク。

 龍刃流水将級(すいしょうきゅう)剣士の彼は今年二十歳を迎える青年だ。


「久しぶり……」


 ユルダスは先程の邪魔者を追い払う用の険しい顔とは違い、非常に気まずそうな顔を見せる。

 そんな気まずい空気を破るのはフラメナの怒号。


「なんで……南大陸に帰ってこなかったのよ!

 見るからに金銭もあるじゃない!

 なんで、なんで帰ってこなかったのよ!!」


 フラメナは感情を昂らせそう言った。

 声が震え、ユルダスの行動が理解出来ないというように瞳を潤わせそう言うフラメナを、ライメが横から宥めるように肩を触っていた。


 ユルダスはフラメナに対し、

 何も言い返さず気持ちを理解する。



 ……フラメナが怒る気持ちもわかる。

 俺の今の姿を見れば、そう思うだろうな……

 最初の頃こそ余裕なんて言葉とはかけ離れた生活だったが、1年もすれば金銭面も安定したし南大陸にはいつでも帰れた。


 でも、俺は悩んだ。


 漠然となんのために生きているのか分からない状況が続き、気がつけば悩んでいるうちに月日が流れ、

 俺はいつの間にか人生を添い遂げる相手を見つけ、

 自身の剣技を磨くところも得てしまった。


 安定した生活を手に入れたが故に、過去のことについて考える余裕がなくなっていった。


「どの面下げて……!」


 フラメナはユルダスへと近づき、

 肩を掴んで門の壁へと追いやる。


「……言い訳を聞いてくれなんて言わない。

 謝ることしか出来ない……ごめん」


 そんなユルダスを見てフラメナの顔は悲しそうな表情へと変わる。


「フラメナ……話を聞いてみようよ……」


 ユルダスはひたすら俯くだけであり、

 フラメナに顔を向けることはなかった。



 騒がしい光景に門の奥から足音が聞こえてきた。


「″あなた″……揉め事?」


 そう顔を出す一人の女性。

 フラメナとライメは非常に驚いたようにその女性を見る。異性を親しげに″あなた″と呼ぶことつまり、ユルダスとその女性は夫婦だと言うことだ。


「……ユルダス?」

「ユルダス……その指輪……」


 ライメがそう言ってユルダスの手を見た。

 指輪が見えた。既婚者の証だ。


「レスミア……少し下がっていてくれ。俺の問題だ」


 そうユルダスが言うと、レスミアという女性は後ろの屋敷へと戻っていく。


「……ユルダス、今の人って」


 ライメがそう言えば、ユルダスは顔を上げ提案をしてくる。


「場所を変えよう。その……色々フラメナもライメも言いたいことがあるだろう?」


 確かに今の出来事のせいでフラメナとライメは聞きたいことが増えただろう。素直に二人はその提案を受け入れた。


「……フラメナ。あたしたちちょっと、どっかで暇つぶしとくからさ、終わったらこの屋敷前に来てよ」


 エルトレが後ろから空気を読んでそう言うと、

 フラメナは振り返って頷く。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 そこからエルトレ達と別れ、フラメナとライメはユルダスについていく。

 連れて行かれるのはどうやらユルダスの家らしく、

 屋敷からはそう遠くなく5分ほどで到着する。


 ユルダスの家は集合住宅だ。

 借りている部屋はかなり大きく、玄関を抜ければ中は綺麗な空間で、掃除などが頻繁に行われていることがすぐに理解できた。


 リビングへと二人を向かわせ、ユルダスは冷たい水が入った瓶を箱から取り出し、グラスにそれを注ぐと二人に差し出す。


「まぁ……もてなしてるってほどでもないけど……

 喉が乾いてたら飲んでくれ」


 ユルダスが席に座れば、二人も席に座る。


 気まずい雰囲気の中、話が始まった。


「……ユルダスは結婚してたんだね」


 ライメがそう言うと、ユルダスは頷く。


「一年前に式を挙げたんだ。

 さっきは見えなかったが、子も授かってる」

「……ユルダス、あんた……父親になったの?」


 フラメナがそう言うとユルダスは頷く。


「……俺はここで安定した生活を手に入れてしまった。南大陸のことはずっと気になってたし、二人のことも気になり続けてた。

 ただの言い訳なんだけど……南大陸関連のことを考えてるほど余裕がなかったんだ」


 フラメナはそんなユルダスの言葉を聞いて、

 怒ったりもせずに話を進める。


「ユルダスは、どんな苦労をしたの?

 言ってくれなきゃわかんないわ」


 ユルダスはそう言われると、

 この4年間の出来事を話し始める。


「俺は4年前、街から離れた砂漠のど真ん中に転移した。何十回死にかけたか覚えてない。

 その頃の俺は一級程度の強さはあったからオラシオン王国に着いて、ガレイルでパーティーを組んだ」


 ユルダスは少し過去を話すのを躊躇うようにして、

 覚悟が決まり、自身の自暴自棄な時代を話す。


「でもそうやって邪族を討伐して稼ぎを得て生きてるうちに、生きてる意味がわからなくなった。

 南大陸に帰るってことも考えてたけど、新聞で滅亡したことを知って全てやる気がなくなったんだ。

 恥ずかしい話だろ……俺は心が折れたんだ」


 ユルダスは続けて話す。


「2年は自暴自棄な生活をしてたと思う。

 そんな中、ずっと好き好んで俺を心配してくれたのが、さっき二人が見たレスミアだ。

 誰かを好きになって、守る人が出来て、俺は剣塵という剣士の弟子になって、いつの間にか安定した生活を手に入れてたんだ」


 ユルダスは言う。


「俺は逃げた。向き合うことができなかった。

 南大陸滅亡っていう現実に向き合えなかった。

 許してくれなんて言わない……

 ただ謝らせてほしい。

 ごめん……二人とも」


 二人は事情を理解し、フラメナが口を開く。


「……ユルダスが苦労してきたことはわかったわ。

 私も少し怒りすぎたから……ごめん。

 気になるんだけどユルダスは今幸せなの……?」


 フラメナがそう言うとユルダスは少しして頷く。


「なら……良いんじゃないかしら。

 安定して生活して幸せなら良いことよ。

 変に咎める気もないわ……」


 フラメナがそう言うと、

 ライメが入れ替わるように話す。


「ユルダスが幸せなら僕らから言うことはないよ。

 会えて良かった……生きてて良かったよ」


 フラメナは席から立ち上がり、

 玄関の方へと体を向けて話し始める。


「私たちはオラシオン王国を明後日には発つわ。

 ユルダスの幸せを願ってるわよ」


 ライメは突如として予定と違うことを言うフラメナに対し、驚くことはなく納得していた。


 オラシオン王国に滞在する予定をフラメナは、

 全てキャンセルしたのだ。


 だが、フラメナがそう言う選択をした理由もわかる。なぜならフラメナは魔王側近に狙われているからだ。


 いずれこのオラシオン王国に、

 魔王側近が攻撃を仕掛けてくるだろう。


 災いの元は立ち去るべきという考えなのだろうか。

 フラメナはユルダスへと背中を向けてそう言った。


「会えて良かったわ。

 またいつか会いましょ」


 フラメナは先にユルダスの家を出ていくと、

 ライメも立ち上がりフラメナへとついていく。

 去り際、ライメはユルダスへと一言。


「フラメナと僕は大丈夫、ユルダスは自分のことを考えて生きてよ……他人に合わせるほど、ユルダスはもう一人じゃないんだから」


 そう言ってライメは手を小さく振って家を出ていく。


 ユルダスは一人残った部屋で天井を見つめ、

 ボソッと心の声が漏れる。


「まぁ……こうなるよな」


 フラメナとしては、ユルダスが幸せなら良い。

 無理に何かを押し付けるつもりもない。

 そう言ったスタンスなのだろう。


 だがそう言ったスタンスはユルダスからすれば非常に辛いものである。いっそのこと殴って罵詈雑言を浴びせて欲しかった。

 こんな自分を認めてくれて、距離を取られてしまうのが辛くてしょうがなかった。


 一人残ったユルダス。

 空のグラス二つと自身の水が入ったグラスが、

 光を反射し妙に綺麗に見えた。

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