第六十一話 死闘を越えて
虹剣1688年3月5日、午後18:00。
フラメナ達は砂星というパーティーから、
礼として砂星の懇親会に誘われ、現地へと赴いていた。
一応、服装はしっかりとしたもので向かい、
フラメナやエルトレはドレスなどを着ており、
ライメやリクス、ラテラはスーツを着ていた。
今日限りの服なので貸し出しという形で服屋から借りてきた。
砂星は人数こそ減ったがそれでも超強力なパーティーであり、金銭面の豊かさもずば抜けている。
それ故に懇親会の会場はグラミパホールという、
よくこういった際に使われる施設だ。
砂星を含め、それ以外にもガレイル関係の者達が集う。
非常に賑やかで五人の気分も上がり続けていた。
「お、来たな暁狼」
そう言って出迎えるのは砂星のリーダーのエルメダだ。表情は楽しそうでこちらを大歓迎している雰囲気が溢れ出している。
「私たち今週中にはレナセール王国を発つのよ。
だから最後の思い出作りに来たわ!」
そう言うフラメナに、エルメダは自信満々に返答する。
「なら贅沢すぎる思い出になるぜ?
楽しんでけよ救世主達!」
フラメナ達はそこから長い間、
食事をしながら沢山の人と話した。
中でもエルメダとフラメナの会話では、
西黎大陸のことやこれからのことが話された。
「オマエら、これからどうすんだ?
レナセール王国発つってことはスブリメ王国でも行くのか?」
「スブリメ王国は通るだけよ。
目的地はオラシオン王国、そこでまた強くなるわ」
そんな返しにエルメダはグラスに入った酒を飲み干して言う。
「オラシオン王国か、剣塵がいるところじゃねえか。
剣塵と会って会話できたらラッキーだな」
「まぁ私は魔法使いだから憧れとかでもないんだけどね」
エルメダはフラメナへと自身の経験を話す。
「俺は一応剣塵の戦いを見たことがある。
ありゃ人じゃねえよ。一振りで何もかも塵にしちまうような速度、あんなのと戦ったらよーいドンであの世行きだな」
剣塵は世界一強い剣士であり、実在が確実視された中で史上最強とも言われている。
23年前二十五歳の頃に、彼は魔王側近の暴食のチラテラを単独で討ち果たしており、それを機に三界となった。
「もしあったらエルトレって剣士が喜ぶんじゃねぇか?ありゃ流派が違くても憧れる存在だぜ?」
そんなことを言われフラメナは即答する。
「そんなにすごいなら会ってみせるわ!」
「ははは、はぇえ決断だぜ。
剣塵と剣を交えるのは無理だと思うが、
将級剣士が剣塵の弟子にいんだよ。
そいつは一番弟子だっつうから、
もしかしたらそいつと剣を交えるのは可能かもな」
そんな話を聞いてフラメナは、
少しだけその者が気になり詳細を聞く。
「その剣士って名前とか使う属性とか流派は?」
「まぁそのうち聞くことになるとは思うが、
″ユルダス・ドットジャーク″、流派は龍刃流……」
「ユルダス!?」
フラメナが大きな声でそう反応した。
「ど、どうしたいきなり、知り合いか?」
「知り合いも何も……!小さい頃に一緒に南大陸で魔法を教わった親友よ!」
フラメナはユルダスが生きていると思い続けていたが、遂にその不確定要素は確定された。
転移魔法で転移したライメとユルダス。
彼らはどちらも奇跡的に転移した先で生きていた。
フラメナは生きていることの事実に興奮を覚えるも、すぐに怒りが湧いてきた。
なんでユルダスは生きてた癖に、
南大陸に帰ってこなかったのよ……!
そんな疑問が頭に浮かぶと、
フラメナは険しい顔でグラスを握る。
「お、おい、まぁなんだ。
事情くらいあんだよ……会って話せば良いだろ?」
「会ったら引っ叩くわ!!
ちょっとライメに伝えてくる!」
エルメダが落ち着かせるようにそう言うと、フラメナは早歩きでライメの方へと向かっていった。
「……なんだか、本当に砂塵を追っ払った魔法使いなのか疑うぜ」
「まぁ彼女の実力は確かでしょ?」
「リルダ、急に後ろから話しかける癖やめろって言ってんだろ?」
「いつか直すからそれまで待ってて」
「一体そりゃいつだよ」
リルダはフラメナの背中を見ながら言う。
「あの子、確実に将級魔法使いの強さよ。
砂塵を追い払ったあの時なら、
君級だって言われてもそう違和感ない。
でもすごく強いのにもったいないよね。
あの白い魔法、印象が良いとは言えないもの」
リルダが言う通り、フラメナは既に将級魔法使いを名乗れるほどの実力が備わっている。
そんな彼女の印象を悪くするのは、
やはり彼女特有の白い魔法だろう。
異名が畏怖の名として知れ渡るのだ。
純白、フラメナ・カルレット・エイトール、
それが彼女の異名。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ライメ!!」
「ぶっ!わっ、ちょっ近い近い近い!」
二階の外部分にて月光が辺りを照らし、
ポツポツと光る灯りを見ながら、
グラスに入ったワインを一人で静かに飲むライメ。
そんなお洒落な行為をするライメの背中を思いっきり叩き、雰囲気をぶち壊したフラメナが振り返ったライメへと顔を近づけて近寄る。
「ちょっとお酒が入ると暴力的だね……」
「まだ酔ってないわよ!それより大事な話があるの、
ちょっと来なさい!」
ライメはそう言われ、フラメナの手を握られて強引に連れていかれる。
少し人気のない場所で、
二人が向き合って会話が始まった。
「ユルダスが生きてるわ」
「やっぱり生きてるよね……良かったぁ」
「良かったけど良くないわ!
ユルダスったら生きてるのに、南大陸に帰りもせず手紙も寄越さないなんてどう言う訳!?」
そう怒るフラメナにライメが言う。
「きっと忙しかったんだよ……
それにユルダスだって僕みたいに、
記憶喪失してる可能性があるかもしれないし……」
そんな可能性が出てきて、フラメナは少し落ち着きを取り戻し始める。
「確かに……そう言う可能性はあるわね……」
「会ったら分かることだよ……焦らずとも大丈夫」
「はぁ……早く真相が知りたいわ」
「そうだね……僕もユルダスとも久しぶりに話がしたいな……また三人でご飯でも食べたいよ」
そんなライメの発言に、フラメナは少し昔のことを思い出す。
あの頃は毎日が新鮮で不安とは無縁の生活だった。
今は不安もありつつ新鮮さが増した生活。
たまにああいった生活に、
戻りたいとも思うことがある。
でも今戻ることは許されない。
なぜならフラメナは強くなって、
南大陸に帰らなければいけないのだから。
昔の思い出を少し思い出すフラメナ、
すると自身の手に感触がしてライメを見る。
「ライメ……?」
「考えてばかりじゃ頭が痛くなるよ。
たまにはリラックスしようよ」
ライメは暇を持て余す左手で、
フラメナの右手を握る。
「な、なによ。別にそんな考え込んでないわ!」
「嘘だ〜、最近する話はこれからのことばっかだよ」
「ちが!うっ……いや、否定できないわね」
咄嗟に言い返そうとするフラメナだが、
心当たりがあったのか目を逸らし言う。
「ふふ、フラメナと再会して1年半以上……フラメナは昔と違って考えることが多くなったよね」
そう言うライメにフラメナが言い返す。
「そんな考えてないわよ……」
「そうかな?僕に相談した回数の倍は、
考えてることが多いんじゃない?」
「……別に?」
「はは、また目逸らした」
「もー!私ってそんな単純?」
フラメナがライメにそう問うとライメは言う。
「単純じゃないよ。フラメナを知るには多くの時間が必要だと思う。僕がこうして言い当てられるのも、
たくさんフラメナと会話してきたからさ」
「急にしんみりしたこと言うじゃない……」
ライメはフラメナにそう言われながらも、
続けてしんみりとした雰囲気で話を進めた。
「こうしてゆっくり話す時間が僕は大好き、
フラメナとだと特にそう思うよ」
「なんかちょっと照れるわ……私も、ライメと話す時間は嫌いじゃないわ……むしろ少し楽しみよ」
二人は少し黙った後、
フラメナが赤紫色の髪の毛が暗闇と少し混ざるライメの横顔を見て話しかける。
「……私のドレスってどう?」
「え?そんな……えーと」
動揺したようにするライメ。
それに反応してフラメナは言う。
「そんな動揺して悩むの?
……私はあんま似合わないかしら」
「フラメナのドレスは……その、似合ってる。
すごく綺麗だよ……あっ……えぇっと……
その僕、先に中に入ってるね……!」
「っ!」
フラメナが自身の手から、逃げるように離れようとするライメの手を握り、引き止める。
「……もう少しここで涼んでいきましょ!」
「えっあ……わかった……そうしよっか」
それから二人は懇親会が終わるまで、
ずっと屋外で涼んでいた。
エルトレなどの三人が呼びにきた時には、
ライメがスーツを脱いでフラメナの肩にかけ、夜の寒さの中、二人は話していたと言う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
虹剣1688年3月7日。
フラメナ達は遂にレナセール王国を発つ。
新たなる地であり、最強の剣士が住まい、旧友がいるとされる王国、オラシオンへと……
オラシオン王国。
それは西黎大陸砂漠地帯で、
レナセール王国の次に栄える王国。
その地でフラメナ達が何を経験するのだろうか。
まだまだ旅は続く。




