第六十話 天命
フラメナが砂塵という君級の竜に腹を貫かれた後のこと、エルメダ達は全力を常に引き出して戦っており、遂に底が見え始めたようだ。
「っはぁっ!くそ……もう魔力が」
エルメダがそう言えば、皆もそれは同じ状況であり、次の砂塵の攻撃で何人か死ぬだろう。
一方、疲弊し切ったエルメダ達とは違い砂塵は依然強さを保ち続け、傷もあれから全く増えていない。
もう限界だ。勝ち目はない、そう思いながらもエルメダ達は剣を振り、魔法を放つ。
苦し紛れだって良い、立ち尽くして死ぬくらいなら戦って死ぬほうが戦士として幾分かマシだ。
そんな時にフラメナが再び戦場へと現れたのだ。
圧倒的なまでの神々しさを持ってして闊歩する白き輝きを放つ髪を持ったフラメナ。
先端は赤く輝き、真っ赤な瞳は白多めの桃色となっており、手足も真っ白に染まっている。
まるで、人ではないような雰囲気を纏っていた。
「フラメナ……?」
エルトレが驚いた様子でそう言うと、フラメナは無言のままエルトレを少し見つめ、そのまま前へと歩き砂塵へと近づいていく。
砂塵はそんなフラメナに気を許すことはなく、
風のブレスを吐き、一気に大量の斬撃がフラメナへと迫っていく。
だがフラメナにその斬撃が当たることはなかった。
なぜならフラメナは短縮発動で白い火を手から溢れさせ、横に手を薙ぎ払うと巨大な火の斬撃を横一文字に放ち、大量の斬撃を一掃したからだ。
斬撃の一つ一つは、そう容易く打ち消せるような脆弱な魔力で満たされた攻撃ではない。
それにもかかわらずフラメナは、短縮発動で斬撃を全て白い火で打ち消したのだ。
圧倒的なまでに先ほどまでのフラメナとは違い、
桁違いに今は強い。
砂塵はそんなフラメナの行動を見て少し驚くように、口を開いて飛翔し砂嵐を作り上げる。
巨大な砂嵐、これに関してはこの戦いの中で打ち消されたことはない。
逃げるしか選択がないほどには強力。
フラメナは砂嵐へと手を向けて人差し指を伸ばすと、白い火が一直線に光線のように放たれ砂嵐を貫き、一瞬にして打ち消してしまった。
それからだった。
フラメナは一気に足から火を放出して飛び上がり、
飛翔する砂塵へと急接近し、砂塵の腹部に触れて大量の白い火を放出する。
その火は砂塵へと大ダメージを与えたのか、飛翔している砂塵を撃墜し、フラメナも地上へと着地する。
砂塵は酷く怯えていた。
生まれてから今まで、これほどまでに圧倒されたことはない。
それ故の恐怖、本能がこの魔法使いから逃げるべきと叫び続けている。
フラメナの両手から白い火が溢れ出した瞬間、
姿は陽炎のように揺らいで消えたかと思えば、
砂塵の背後へと回っていた。
砂塵は尻尾でフラメナを攻撃しようとするが、
尻尾がフラメナに当たる感触はなく、どこにいったかと思えば、顔面に大きな衝撃が襲いかかる。
フラメナは砂塵の顔面へと横から触れ、
白い火を爆発させるように放った。
動きが早すぎて砂塵は追いつけていない。
陽炎のように消えるフラメナ、姿を捉えられるほうが異常だ。
砂塵をひたすら圧倒するフラメナを、
ライメやエルメダ達はただ見続けるのみだった。
「ライメさん……あれフラメナさんなんですか?」
「……フラメナだよ……確実に」
別人のように強いフラメナへと、疑念を抱くラテラにライメがそう言う。
リクスやエルトレもその戦いを見ながら、フラメナがフラメナではないような感覚に襲われていた。
圧倒。
砂塵という君級の邪族を圧倒しているフラメナ。
白い火を纏い、連続的に攻撃するフラメナ。
夢か幻の類かと思ってしまう状況。
だが紛れもなくこれは現実だ。
フラメナが起き上がってから5分も経たぬうちに、
砂塵はどんどんと弱っていき、明らかに攻撃のキレがなくなっていることがわかった。
ひたすらに無言で魔法を放ち続けるフラメナ。
砂塵は翼を広げ飛び上がり、とっておきと言わんばかりの攻撃を繰り出そうとしてくる。
砂塵の羽ばたく翼から大量の斬撃の雨が降り出し、
ブレスによってさらに数を増す斬撃。
魔力を高めているのか、斬撃一つ一つが本命の魔法並みに威力が高い。
このままではフラメナは無事であっても、
他の皆へと被害が出てしまう。
フラメナは焦ることもなく腕を天へと向け、
白い火を一気に放出する。
その白い火は結界のように広がっていき、
西黎大陸の砂漠に真っ白な太陽が出来上がる。
大量の斬撃は火に触れ少し反発した後打ち消されていき、少しして全ての斬撃がフラメナによって防がれてしまう。
白い火の結界が消えて砂塵を見つめるフラメナ。
砂塵はその瞬間、敗北を本能的に察した。
飛翔しながらも動きが止まる砂塵へと、フラメナがトドメを刺そうと白い火を手に集める。
「っごはぁっ……ぅっぁ!」
だが、突如フラメナは白い火が一気に消え、
地面に手をついて吐血した。
体が限界を迎えたのだろうか?
酷く震えながら冷や汗と鼻血を流すフラメナ。
真っ白な手足は肌色へと戻り、髪の毛の末端も白く染まり、輝きも少しずつ落ち着き始めた。
瞳は真っ赤に染まり、血涙が流れる。
「ぁっが……っはぁ」
フラメナへと近寄るために即座にライメやエルトレ、暁狼の四人が走り出した。
そんな中エルメダなどは砂塵を見つめ、これからどう奴が動くのかと見ていた。
砂塵は逃げた。
その傷だらけの体で翼を必死に羽ばたかせ逃げた。
砂塵がフラメナが吐血した後も戦いを続行していれば、こちらは全滅だったろう。
だが戦闘続行するにはあまりに白い火にトラウマが生まれてしまった。
砂塵がその身に受けた白き火は多く、
今までで一番命の危機を感じさせた魔法でもある。
それ故に逃げた。
だが、今だけはそれが好都合。
砂塵が逃げたことで全員が生き延びたのだ。
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ラテラが治癒魔法をフラメナに放ち続け、
それによって少し落ち着いたフラメナ。
「あんた無理しすぎだって……!」
エルトレがそう言うと、
フラメナは仰向けになって笑う。
「でも……生きてるよ。私たち」
そんなフラメナへとリクスが問う。
「あの状態は本当にフラメナなのか?」
一見、何を言っているかわからない問い。
だが不思議とその問いは全員の疑問でもあった。
「……私だよ。でも無心だった。
まるで自分自身を操ってるような……
そのせいで無理しちゃったのかな」
どうやらフラメナ自身もわかっていないようで、
あの状態はなんだったのか?それが判明することは当分なさそうだ。
するとエルメダ達が近寄ってきて、五人へと向けてエルメダが話す。
「助かった。この通り五体満足じゃねえ奴もいるが、命があるだけマシだ。
オマエらがいなかったら死んでた。ありがとな。」
「私からも……ありがとうございます」
そうしてリルダとエルメダが頭を下げると、
後ろに続く砂星メンバーも頭を下げる。
「感謝も良いけど……とりあえず早く帰りましょ!
全員怪我だらけの疲労困憊でしょ?」
フラメナが言う通りだ。
「でもフラメナ……転移魔法は」
ライメがそう言うとフラメナが言う。
「もうあいつの魔力はここにはない。
結界も戦いで消えたと思うし出来るわよ」
フラメナは魔眼によってそれを言うと、
ライメはすぐさま魔法陣を展開する。
「確かに……いけるかも」
そうやってライメが言うと、皆が魔法陣の上に乗るを待ち、全員が上に乗ったことを確認して呼称する。
「転移」
虹剣1688年2月28日。
暁狼により砂星は救出成功。
砂塵の撃退にも成功し、フラメナは″純白″という異名で西黎大陸全土へと名が知れるようになった。
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虹剣1688年3月4日。
あれから五日経った。
フラメナ達は治癒魔法によって傷を癒やし、
宿にてゆっくりと休む時間を取っていた。
五人が部屋に集まる中、ライメがフラメナに聞く。
「フラメナ、レナセール王国はもう来週には出るんだっけ?」
「そうよ。もうやることはないし、スブリメ王国を越えてオラシオン王国に向かうわ」
それにリクスが反応する。
「スブリメ王国には寄らないのか?」
「あそこは領土の大半が塵雪山脈の先にあるから、ガレイルとかからの移動が大変なのよ」
スブリメ王国は西黎大陸で領土を一番多く持つ王国だが、大半が山脈によって孤立しており、実際はあまり栄えていない王国である。
それを踏まえると、レナセール王国と同レベルで栄えているオラシオン王国に行くのが無難だろう。
「……良いのかなこのままでさ。
フラメナは魔王側近に狙われてるんでしょ?
砂塵の時みたいにあの状態には自由になれないでしょ?このまま進んで大丈夫かな……」
エルトレが抱える不安はこれからの旅のこと。
魔王側近に狙われているとなれば、確実にどこかでまた鉢合わせることとなる。
砂塵の時は偶然覚醒しただけで、
次こそ死んでしまうかもしれない。
フラメナは言う。
「ここに留まるよりはマシよ。
魔王側近は邪族だから、オラシオン王国に行けば剣塵がいるわ。もし襲ってきても剣塵がいるなら少しじはマシでしょ?」
それにラテラが共感する。
「確かに、強い人がいる国にいれば相手も手を出しにくいですね」
「だからすぐにでも向かいたいけれど、あいにく砂星からパーティーのお誘いよ。断るわけないわよね」
フラメナ達は感謝として砂星からパーティーに誘われているようだった。
おそらくそれがレナセール王国での最後の思い出になるだろう。
砂塵を撃退し、生きて王国に帰ったフラメナ達。
そんなことをよく思わない者も世界には存在している。傲慢のシルティ・ユレイデットは怒っていた。
部下のレグラから伝えられた情報。
それが事実なら、″天理の欠片″がフラメナに確実に馴染み始めている
早急に殺さなければいけない。
傲慢のシルティは歩き出す。
「もはや時間も少ない。
我が自ら向かい今度こそ殺そう」
その宣言は本人達の知らぬところでされていた。
第六章 純白魔法使い 砂塵編 ー完ー
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第七章 純白魔法使い 西黎大陸編