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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第六章 純白魔法使い 砂塵編

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第五十五話 生存本能

 戦いが始まる。


 エルトレへとラテラが治癒魔法を行い、

 出血を止めて怪我を治癒すれば、万全と言った表情で武器を再び構える。


 ゴブリンの長、そんな表現より王の方が正しいだろう。


 放つオーラは凄まじく。

 過去のゴブリンの親玉とは明らかに別格の強さ。

 フラメナの魔眼には大きな青色のオーラが映っていた。


 緊迫感が迫り続ける空間で、張り詰めた糸を切るようにゴブリン王が先手を放つ。


 水の双剣はとても鋭利なもので、魔力の濃度も高く、少し触れれば皮膚は裂かれるだろう。


 こちらへと向かってくる蒼黒(そうこく)(濃く深い青緑色)のゴブリン王。

 エルトレは武器を剣状に変え、

 姿勢を低くして構える。


「はぁあっ!!」


 エルトレの剣が双剣へとぶつかると、ゴブリン王はそれを片方の剣のみで防ぐ。

 そこから一瞬にして放たれるもう片方の剣による斬撃、一対一ならここで致命傷を負うだろう。


白球(フラホワ)!」


 そう呼称し無陣魔法にて発動させた白い火を手のひらに持つフラメナ。

 フラメナはそのままゴブリン王の横から火球を至近距離で放ち、意識外の攻撃故に直撃させ吹き飛ばす。


 それにより致命傷を受けずに済んだエルトレ、

 フラメナは続けて両手に白い火球を纏わせた。



 エルトレの足りない部分は私が補えば良い。

 後方にはライメもリクスもラテラもいる。


「エルトレ、私たち二人で追い込むわよ!」

「……ふっ、オーバーキルになるかもね」


 エルトレは自身の隣に立つフラメナに、少しばかりの微笑みを見せると、剣を構える。


 吹き飛ばされたゴブリン王は肩を回し、両腕を大きく広げると、一気に姿勢を低くしてフラメナへと突っ込んでいく。


 獣のような戦い方、知性がない故の最適解がこれだったのだろうか?

 フラメナは風魔法を使い高く跳び上がると、

 リクスに手を振って合図を送る。


 そうすればリクスは土魔法によって、

 フラメナの足元まで足場を作り出す。


 一方エルトレは後隙が生じたゴブリン王へと切りかかっており、ゴブリン王もその動作に気づいている。


 ゴブリン王の首目掛けてエルトレの剣が振り下ろされると、ゴブリン王は横に転がり避け、そのまま手を起点にバク転して起き上がる。


 だがそれらの動作は、全てライメという魔法使いに読まれていた。


氷山礫(カルユラバス)!」


 中級魔法である氷山礫、それは氷塊衝の強化版でもあり、氷山礫は大量の氷塊を放つ魔法。

 それ故にゴブリン王へと巨大な氷塊が襲いかかる。


 起き上がった瞬間に氷塊が直撃し吹き飛ぶと、

 追撃のように何個もの氷塊が迫り続け、壁に叩きつけられては押しつぶされそうな量が襲ってくる。


 ゴブリン王は壁に追い詰められ、氷塊が襲いかかる中、水の双剣を捨てて拳で砕き始めた。


 氷塊は容易く破壊され、ライメの氷塊供給スピードを上回りその場を離れると、ゴブリン王の頭上が白く光った。


白帝元(ホワルトゾメラ)!」


 それと同時にリクスが土魔法を発動し、ゴブリン王の周りを囲む。

 これより、集中砲火が始まる。


 リクスの作り出した足場から飛び出して手をゴブリン王に向けるフラメナ、白帝元を発動し頭上から回転する白き火を放つ。


 この状況でもゴブリン王は冷静だった。


 ゴブリン王は水の双剣を再び作り出し、

 迫る白い火へと向けて大量に斬撃を放った。


 その斬撃は数が故に火を切り裂き続け、自身へと火が直撃する寸前に全てを斬り裂き防いでいた。


 フラメナは白い火を放ちを終わると、

 風魔法で空中をステップし、地面へと着地する。


 そして土の壁を切り刻んで破壊し、豪速でフラメナへと突っ込んでいくゴブリン王。

 それを咄嗟にエルトレが剣で防ぎ、そのまま斬り合いへと雪崩れ込む。


 エルトレは風魔法斬撃を攻撃に交え、双剣であるゴブリン王に負けぬ手数を作り出していた。


 それ故に互角の戦い。


 水飛沫が散りながらも空間を大きく使い戦うエルトレとゴブリン王。


 ゴブリン王は恐れていた。

 三人の魔法使いが次は何をしてくるのか。


 時間としてこの斬り合いが始まって10秒。


 ゴブリン王は自身の足に何かが巻き付く感触があった。


氷草檻(リスミラルト)


 氷を纏ったツル。

 それがゴブリン王の足に巻きつけば、一気にそこからツタが成長し、首から下を一瞬にして氷のツタが這う状況となる。


 ゴブリン王は突然の拘束になす術もなく、

 正面からエルトレの袈裟斬りを喰らってしまう。


 氷が砕かれる音とゴブリン王から流れる血。


 ゴブリン王は死を身近に感じ始めた。

 生存本能、逃げ道をなくした獣は何をするか?


 生に執着し狂ったように戦うのみだ。



「エルトレ離れて!」


 フラメナがそう叫ぶと、氷のツタが一瞬にして破壊され、血を流しながら水の双剣を構え、エルトレへと迫るゴブリン王。


 袈裟斬りを喰らって尚このスピードで動けるものだろうか?完全なる想定外、エルトレの体へと双剣が到達する。


「っぁ!」


 一見深くまで剣が到達していそうだったが、

 リクスが咄嗟に土魔法でゴブリン王をつまづかせ、

 致命傷の未来を重傷に変える。


 致命傷が重傷に変わっただけ。

 その些細な変化がエルトレを救う。


「っ……!癒風(ヒーロウチア)!」


 ラテラがエルトレがこちらへと寄ってきた瞬間、

 即座に治癒魔法を使って傷を癒す。


 帥級治癒魔法のこれは、エルトレの傷を塞ぐのに特に問題はなく、出血が止まった。



 明らかに不利なのはゴブリン王だろう。

 だがそれでも、血を流しながらこちらへと向かってくる姿は、どこか執念を感じるものでもある。


 絶対的な殺意。

 それがゴブリン王から放たれていた。


「エルトレ、大丈夫?」


 フラメナがそう聞けばーー


「なんとかね。まだまだ戦えるよ」


 エルトレはいつも通りの表情で言ってくる。


 フラメナはそれを聞いて、ゴブリン王へと向き直すと、一気に地面を踏み込んでこちらへと突っ込んでくるゴブリン王。


 フラメナは白い火球を手に作り出し、自身の首へと迫る双剣を間一髪避け、そのまま腹部に向けて火球を放つ。


 その衝撃で少し後退するゴブリン王、

 再びフラメナへと切り掛かると、横からエルトレの剣がそれを防ぐ。


 そのまま隙を逃すまいとライメとリクスが横から尖った岩石と氷を放つ。


 それによりまた距離を離されるゴブリン王。


 フラメナはそうして下がったゴブリン王に向け、

 短縮発動で大量の白い火球を放つ。


 それを横に移動しながら避けていくゴブリン王だが、火球に加え鋭利に尖った氷塊も混じり始める。


土匠斬峰(ドグライキグラ)


 リクスの魔法が発動した。

 逃げ続けるゴブリン王の足元に大量の岩石の棘が出現。それにより足を貫かれるゴブリン王。


 動きを止めたが故に大量の火球と氷塊をその身に喰らってしまう。


 ただ無言のままこの死闘の結末を察し始めたゴブリン王。それでも戦いをやめない。


 だがそんな決意は淘汰される。


 エルトレが突っ込んできたのを視認し、迎え撃とうとした瞬間、エルトレからラテラが投げられたのだ。


 想定外なんてものじゃない。

 人を全力で投げたエルトレ、ラテラは軽いのかかなりのスピードで突っ込んでくる。


 ゴブリン王はラテラを避けられなかった。


復壊(デスラ)!」


 ラテラが持つ唯一の攻撃、反治癒魔法。

 触れた対象を崩壊させる魔法。

 これを使えばラテラは三日ほど魔法が上手く使えなくなってしまう。


 だがそれを踏まえてもこの魔法は使うに値する。


 ゴブリン王の腹部へとラテラの手が触れ、そのまま突き飛ばすと、ゴブリン王の腹部が崩壊する。



 勝敗は決した。


 水の双剣が溶けて力なく倒れるゴブリン王。


 最後まで声を発さないまま、

 ゴブリン王は自身の住処で、強者としての人生で敗北を経験し孤独に息絶えた。




「っはぁ〜……流石に強かった」


 エルトレが剣を地面に突き刺しその場に座る。


「流石に将級は強いわね……」

「ヒヤヒヤする場面が多かったぞ」


 フラメナとリクスは息を吐いてそう言う。


 ラテラとライメも少しまだ戦闘の緊張を感じながら、勝利を噛み締めていた。


「フラメナ、これで僕たちは四星級なんだよね?」

「そうよライメ、これで四星級……」

「あははは、長かったね」


 微笑みながらそう言うライメ、

 これにて四星級依頼完了。


 暁狼は四星級パーティーとなった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 帰りはライメの転移魔法で一瞬だ。

 普通の帰り方だと、馬車の人に待っていてもらうか、馬車を借りるかの二つをしなければいけない。


 だが転移魔法さえあれば最速でガレイルへと帰還出来る。

 ライメは転移魔法を使いこなしているように見えるが、ライメ曰くまだまだ転移魔法はわかってないことばかりだと言う。



「ただいま!倒してきたわよ!」

「倒せたのですね!!おめでとうございます!

 これで四星級パーティーですよ!」


 受付の男性は非常に嬉しそうにそう言い、

 フラメナ達は四星級パーティーとなった。



 その日の夜。

 フラメナは最近日課のように、

 入浴後ライメと話している。


 元々二人で話す機会は多かったが最近は特に多い。


「今日も勝てて良かったわね」

「流石に将級は強いね……頻繁には戦いたくないよ」

「でも、案外余裕だったんじゃない?

 後方のライメ達が怪我してないって思うと、

 前線が崩壊してないってことだから」

「まぁそう言われるとそうだね」


 フラメナは瓶に入った冷たい水を飲む。


「……四星級の依頼は一ヶ月に一回にするわ。

 基本は三星級にしましょ。それと明日からは依頼を受ける頻度も減らすわ」


 フラメナがそう言うとライメが理由を聞く。


「そんないきなり?多分皆、まだまだ依頼とかはやる気大丈夫だと思うけど……」

「ふふ、良いのよ少しくらい。

 ちょっとだけ緩くいきましょ、この一年半ずっと依頼ばっかだったんだし、少しくらいレナセールを楽しみたいじゃない?」


 そう言うフラメナ。

 ライメはその言葉に張り詰めた思いが抜け、

 微笑みながら「そうだね」と言って肯定する。



 虹剣1688年2月25日の日記ーー


 無事四星級到達!

 ついにレナセール王国での目標達成よ!

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