第五話 天才
フラメナはクランツが来てから日記を書いていた。
クランツという魔法使いが城にやってきたけれど、すごく怪しくてまだ警戒しがちなのかも
クランツは固い言葉ばかり使う人だけれど、中身は案外ラフで優しいことがわかったの!
クランツが城にやってきて一週間、わたしは魔法の練習が今まで生きてきた中で一番楽しい!
でもクランツは時々、寂しそうな顔をしながら手帳を開いてボーッとしてる。わたしはいつも気になるけどできるだけ触れないことにしてるわ。
実はクランツは最初の頃、王国の剣士達が離れたところから監視していたらしいのだけれど、全く怪しいことはしないどころか、わたしの授業のために夜更かしまでしてるって話。
正直、それを聞いてわたしはクランツを完全に信用するようになったわ。クランツがどう思っているかは知らないけれど、わたしにとっては誰よりも頼れる先生ね!
同じくクランツも日記を書いていた。
虹剣1678年6月27日。
俺が来て一週間、生活は慣れた。言葉遣いも問題なさそうで安心している。
三日ほど前まで俺を見張る剣士達がいたが、日頃の行いから警戒を解かれたのだろう。
最近は視線を感じない。
この世界はどうやら西暦に三界の三人につく異名の頭文字を取って示すらしい。
この時代であれば虹帝と剣塵の頭文字を取った虹剣が西暦となっている。
魔王が含まれないのは、言わずもがな悪だからだろう。
フラメナお嬢様はすっかり俺に警戒しなくなった。元から警戒されている感じは少ししかなかったが、最近は全く感じられない。
ライメは最初からあまり警戒と言うよりは怯えているだけ、だがそれもフラメナお嬢様と一緒に授業を受けることで薄れていったようだ。
だが最近気になることがある。
「人攫い……」
そう、この存在。
明らかに最近フラメナお嬢様が狙われている。
だがいくら人攫いとて王族を狙うのはリスクが高すぎる。
俺はそこで思い出したんだ。
″領土戦争″、王族や貴族達は基本的に仲が悪い。特に同じ大陸にいる王族とは仲がすごく悪い。
空きがない土地で国の領土を広げるには、侵略か譲渡されるか以外存在しない。
ここゼーレ王国の王はフラメナお嬢様の父親であるフライレット様、その他に南大陸には二つ王国がある。
ヴァイザー王国、レーツェル王国。
ゼーレ王国は最大規模の国であり、他二つより一回り大きい領土を持つ。
多分それだけなら良いんだろう。だがゼーレ王国には宝石が埋まる鉱山が領土内にある。
宝石は多くの魔力を秘めるので魔力が籠った武器などの製作に適しているんだ。
それが欲しくてたまらないのだろう。
過去何回も両国から領土戦争をふっかけられている。
そしてフラメナお嬢様が最近になって魔法を扱えるようになってきたという情報、それが漏れたのだろう。
フラメナお嬢様はハッキリ言って、ずば抜けた才能の持ち主だ。
少し前にした魔法のイメージ化、あれをあっさりこなせる七歳など、そう沢山いるわけがない
ライメも才能が凄まじい、だがお嬢様のすごいところは、無呼称と無陣が出来る点。
どの歴史書を見ても七歳であれを出来る者など存在が確認出来なかった。
適切に育てれば必ず強い魔法使いになる。
それにあの異質な魔力、魔法も癖ありだが魔力の方が異質だ。
真っ白な魔力なんて聞いたことがない、必ず生命は属性を持っている。火であれば赤、水であれば青。
でもフラメナお嬢様は真っ白な魔力を扱う。
他の国も気づいてるんだろう。
フラメナお嬢様が成長すれば勝ち目がなくなると。
「……考え込みすぎたな」
さっさと書き終えて寝よう。
また明日もあの二人に魔法やら常識やらを教えなければいけない、キツい仕事だが……パーティに居た時よりは楽だな。
翌日、クランツはいつも通りフライレットから許可を得て、フラメナと共にユタラ村へと向かおうとする。
許可を貰う際クランツは、フライレットから軽く近況について聞かれた。
「フラメナは迷惑をかけてはいないか?」
「えぇ、迷惑などかけられてはおりません。」
「そうか……フラメナは楽しそうにいつも出来事を話してくれる。クランツ先生には頭が上がらぬな。」
「国王様がわたくしなどに頭を下げてはダメです。私はただ仕事をこなしているだけの魔法使いですよ。」
「うむ……」
フライレットはフラメナの元へと行って良いと言い、クランツが部屋を出ていくと、ポツリと呟く。
「行動に愛なくして、ここまで出来まい」
クランツはフラメナと合流すると早速今日の授業について聞かれる。
「クランツ!今日は昨日の続き?」
「そうですよ。混合魔法の続きです」
「今日こそ成功させてみせるわ!」
「ライメ様に追い越されないようにしてくださいよ」
「絶対越させないわ!」
すると城の門前に居る騎士に止められる。
「今日もお嬢様は偉いですね。クランツ様一応許可証を……」
クランツは許可証を取り出して騎士に渡す。
「ありがとうございます。何も問題はないのでどうぞお外へ」
「いつもありがとうございます。日が暮れるまでには戻りますので」
そう言って二人は門を後にしてユタラ村へと向かった。
一方、ゼーレ王国領土内の田舎の酒場にて
「だから攫ったら殺さねえって何回言えば良いんだよ」
高圧的な態度の男は人刃流、火帥級剣士、ツギチ・アルトルド。
ここは人攫いの組織が経営する酒場であり、彼はリーダーである。
剣士には四つの流派がある。
基礎的な動作が多いが正確さが一番の人刃流
速度特化の龍刃流
破壊的な威力を放つ力刃流
魔法を積極的に混ぜる魔刃流
一番人気はやはり人刃流、難易度が低くて誰でも極めやすいので人気が高い。
剣士の階級は魔法使いと変わらない。
呼び方も火帥級剣士、火帥級魔法使いとなる。
ツギチは酒を飲み干して仲間に言う。
「標的のフラメナってやつを殺したら狙われんのは俺たちになる、ぜってえに殺すなよ。まぁ殺さなかったら何したって良いけどなっははははは!」
ガヤガヤとした酒場、その声は外に少し漏れ出すくらいで、昼間から飲んでいる変な奴らとしか思われないだろう。
「あ〜!出来ない〜……」
人攫いのことは露知らずフラメナとライメは混合魔法に苦戦していた。
まだ下級魔法もマスターしていない二人が混合魔法を行うのは早い、だがそれでもクランツがさせる理由とはなんだろうか?
「お二方、少し休憩しましょう」
「はーい」
不貞腐れたように言うフラメナと、声は出さずに頷くライメ。
「クランツ〜、全然出来ないわ〜」
「落ち込むことはありませんよ。混合魔法は中級魔法使いが習い始めることですから。」
「クランツ先生…なんでそんな早く先のことを?」
ライメが聞くとクランツはあっさりと答えた。
「お二方は魔法の才能が高いです。下級魔法などを練習しても習得が早くなるだけで将来を見据えると意味がない。下級魔法など勝手に出来るようになります。だからこそ今のうちに一通り難しいことをやっておいて、成長した時極めたいものを選べる状況を作り出す。そうしたいからさせてるんです」
ライメは混乱する。六歳児には何を言ってるか理解出来なかったようだ。
「要するに将来のためですよ。ですから今は出来なくても良いです。混合魔法は多くの魔法使いが使いますが、魔法の登竜門とも言える難所、これが出来ずに諦める魔法使いは多いのですから」
「ふーん…じゃあもし出来たらすごいってことね」
「″天才″ですよ」
フラメナはその言葉に少し反応してクランツに、自身の姉のことを聞く。
「クランツはわたしのお姉様を知ってる?」
「いえ、エイトール家に仕えて一度も目にしたことはありません」
「仕方がないわよ。お姉様は今頃、中央大陸のエデル大学って言うすごい学校でお勉強中だから」
フラメナは不機嫌そうにそう言う。
フリラメ・カルレット・エイトール、エイトール家の長女であり、現在の歳は十二歳。七歳の頃に中央大陸へと渡った彼女、フラメナのことを一方的に知る彼女だがフラメナは彼女のことを全く知らない。
「エデル大学……何歳からでも入学可能で卒業までは14年かかるという大学に入られたのですか?」
「お姉様は天才よ。嫌というほど聞いたから知ってるの。頭も良いしで魔法学の研究も出来るし運動も出来る……完璧人間ってやつよ」
両親は二人を比較することはなかった。
だが周りの噂や目線、全てはフリラメの事を賞賛しフラメナを少し下に見るような発言。
「フラメナちゃんもすごいよ」
「確かにそうかもだけど、お姉様は……」
「フラメナ様、何もかも劣っているわけではないでしょう。フラメナ様の性格や考え方、才能はフリラメお嬢様にはないものです。自信を持ってくださいフラメナ様にしか出来ないことは多くあります」
「そうだよ……絶対いっぱいある」
クランツとライメがそう言ってフラメナは、少し瞳を潤わせクスッと笑い言う。
「そんな励まさなくたっていいわ!」
そうして休憩を終え、再び授業が始まる。
当たり前だが今日も混合魔法は上手くいかずに一日の授業が終わった。読み書きは順調に覚え始め計算も出来るようになってきたのに、混合魔法で完全につまづいている二人。
ちょっとづつ精神に疲れが見えてきたが、それでも二人が諦める雰囲気はまだない。
その日から二日経った日、事件は突如として起こる。