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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第六章 純白魔法使い 砂塵編

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第五十二話 今を生きる

 虹剣1686年7月31日。


 フラメナ達は中央大陸のルドレ港から、

 西黎大陸、メロディア国のパリエタ港へと渡航し、 船から降りて焼き付けるような日差しが五人の目を照らした。


「肌を隠すのが良いって言われてたけど……

 ほんと買っといて良かったわね」


 フラメナは昔から着ている火属性耐性高めのローブを被り、他の四人もローブを被って日差しが肌に当たることを防ぐ。


「暑いかと思ったけど……案外暑すぎるわけじゃないね。あんま中央大陸と変わんないかも」


 メロディア国は北峰大陸側に王都が存在し、

 パリエタ港は砂漠地帯側に存在している。


 それ故に緑地でありながら気候は少し暑い。


 だがあまり付き纏うような暑さではなく、カラッとしていて涼しい風がたまに吹いている。


「やっぱり魔族や獣族が多いですね」

「まぁ、人族が少ない大陸だからな」


 ラテラやリクスが言う通り、

 街ゆく者達に人族は多くなく、獣族や魔族、ハーフなどが視界に入り続ける。


「フラメナ、向かう場所はレナセール国かい?」

「そうね、予定としてはそこで三星級パーティーなってオラシオン王国に行くわ」


 確かにユマバナから金貨は大量に貰っているが、

 フラメナは出来るだけ生活費としてではなく、移動する際の代金に使用するものとしたいようだった。


 四星級パーティーとなればもちろん邪族の強さも上位となるが、それに見合うほどのメリットが得られる。

 多額の報酬金、それに加えて名声。


 フラメナの魔法は恐怖の対象であるが、名声を多く得れば少しは薄れていくのではないかと考えている。

 なにせ、このままでは中央大陸を通って帰る際に、

 また揉め事が発生するかもしれない。


「……まぁ予定なんか後で話せばいいわ!

 西黎大陸初のご飯を食べましょ!」


 フラメナはそう言うと四人はその提案に賛成し、

 早速街の奥へと歩みを進め、適当にレストランを決めて中へと入る。


 西黎大陸の名物料理は砂竜の巨大骨付き肉。


 砂竜は西黎大陸を縦断する塵雪(じんせつ)山脈や、

 砂漠地帯などに生息し、群れを成す知性が無い竜族である。

 砂竜から取れる肉は絶品と称されるものであり、

 一体を討伐するだけで百人分の食事を賄える。


 それ故に定期的に西黎大陸のガレイルでは砂竜の討伐依頼が貼り出される。


 だが砂竜は単体でも帥級ほど、群れでは四星級のパーティーでも殲滅は不可能だ。


 希少性に対して需要が高く、レストランなどではかなり高めの金額で出てくる。


「金貨7枚するけど……五人で食べればお得よね!」


 フラメナは金額に少し不安を感じるが、五人で食べれば得という考えで現実から目を逸らす。



 しばらくしてサラダが乗った大皿と、巨大な骨付き肉が机へと置かれ五人は食事を始める。


 肉はホロホロでジューシーであり、噛めば噛むほど旨味が溢れ出す。

 卓上には肉にかけるソースなども置かれており、

 飽きることなく食事を進めることができる。


 五人の食の好みは分かりやすかった。


 フラメナやエルトレ、ラテラは肉を好み。

 ライメは野菜を好んで食べ、リクスは肉と野菜を一緒に食べることを好んでいる。


 目を照らすほどのテカる肉汁が食欲を掻き立て、

 フラメナ達は空間を持て余す胃袋へと、どんどんと放り込んでいく。


「美味しいわね……毎日食べれるわ!」


「本当においしぃ〜!」


 ラテラが幸せそうに言えば、ライメが肉を少し取って食べる。


「確かに……かなり美味しいお肉だね」


 綺麗な食べ方で肉を噛み、飲み込んだ後にそう言うライメに、リクスがオススメの食べ方を教える。


「肉にサラダ用のドレッシングをかけるとあっさりするぞ。かなり美味い、オススメだ」


 リクスがドレッシングをライメへと渡せばそれを受け取り、ライメは言われた通りにして食べる。


「ん〜!確かにすごく食べやすいね……!」

「そうだろ?」


 リクスがニヤけながらそう言う。


 一方エルトレはラテラに肉を分け、フラメナと会話しながら食事を進めていた。


「ほらラテラ、肉あげるから食べてな」


 それを嬉しそうに皿で受け取るラテラ。


「ねぇフラメナ、さっきライメと話してたけど、

 レナセール王国にはどんくらい滞在するつもり?」

「大体半年ね。私的には旅の本番はこの大陸よ。

 強くなるって観点ではこれ以上良い環境はないわ、

 一年以上はこの大陸にいるつもりだけど……嫌だったりするかしら?」


 そう聞いてエルトレは首を横に振って返答する。


「全然良いよ。多分他のみんなも賛成だし、

 あたしも強くなりたいからさ」


 そう言うエルトレを見て、フラメナは思わずあることを聞いた。


「エルトレはなんで強くなりたいの?」

「……なんとなくかな。

 理由なんて特に無いけど、強いて言えば負けたくないからかな。あたし負けるのは嫌いだからさ」

「ふふ、私も負けるのは嫌いよ!

 エルトレは剣士なんだからいっぱい食べないとね」

「いっぱい食べすぎても太っちゃうから嫌だよ」


 微笑みながらそう会話する二人。


 食事はゆっくりと進み、完食すると全員の胃袋は満たされ、満足そうに五人はレストランを出た。


 食事を終えれば五人はその日はパリエタ港に泊まることにし、レナセール王国に移動を始めるのは明日に決めた。


 宿で部屋を取ればそれからは自由時間、フラメナはエルトレと共に服屋に向かい、ラテラやリスク、ライメは宿でのんびりと過ごす。


 そうしていると気がつけば日が暮れて月が昇った。

 夕飯も済ました五人。ライメは入浴を終えた後、宿のベランダ部分から外を眺めていた。


 風は涼しく、多くの星が夜空に広がっている。


「っぅうあ!?」

「あっはははっ驚きすぎよ!」


 ライメは首筋に感じる冷たい感触に驚いて声を上げ振り返ると、冷えた牛乳瓶を二本、手に持つフラメナが後ろに立っていた。


 彼女の髪の毛は艶を帯びており、

 入浴後なことが察せた。


「いる?」


 そう言って牛乳瓶を向けてくるフラメナ。


「……貰おうかな。

 それとびっくりさせないでよ」

「ごめんごめん」


 牛乳を手に取ると、フラメナが横にやってきて並んで二人は外を眺める。


 思えば髪を下ろしたフラメナというのはあまり見たことがない。隣に来たフラメナは普段よりも緩い表情で話しかけてくる。


「ここのお風呂って結構大きかったわよね」

「確かに大きかった。僕は身長低いから尚更大きく感じたよ」

「ライメってそんな身長低いかしら?

 私より大きいじゃない」

「それはフラメナが小さいだ……」

「率直にいいすぎでしょ!」


 そう言うフラメナだが、怒ったようには見えず、少しばかり嬉しそうな表情が滲んでいた。


「フラメナは……この5年間で変わったね」

「そうかしら……?」

「大人びた雰囲気を感じられるよ。

 食べ方も笑い方も話し方も……あの頃とは違う。

 でも変わらないことと言えば……まだフラメナに魔法じゃ勝てないや」


 ライメは彼特有の優しい微笑みをしながら、手を握りしめてそれを見つめる。


「まだ私を越えるには時間がかかりそうね!」

「フラメナはずっと僕より一歩先を行っちゃうね」

「何よ、悔しいの?」


 フラメナは勝ち誇ったように笑顔を見せてくる。


「多少悔しいよ。でも、少し安心もしてる。

 まだ僕に追い越されてないならまだまだ強くなるんだなって、僕はフラメナが世界一の魔法使いになることを応援しているからね」


 ライメは嬉しそうにそう言うと、フラメナは少し目を逸らして話す。


「ならライメが最古参ファンってことでも良いわよ」

「ふふっそれは光栄だね」


 フラメナは少し間を取った後、

 口を開き話し始める。


「ライメってまだ野菜好き続いてたのね」

「うん、野菜は好きだからさ」

「私は野菜嫌いだわ、あまり美味しくないもの」

「野菜取らないと丈夫な体にならないよ?」


 フラメナは耳が痛いことを言われて話を変える。


「……まぁ野菜とかは良いのよ!

 それよりライメって、これからどうしたいとか考えてるの?」

「急に話の重さが変わってくるね。

 うーん、特に決めてることはないけど、旅の終わりは南大陸なんだよね。南大陸に戻ったら魔法教師でも目指してみようかな」


 そんな回答にフラメナは驚きながらも反応する。


「魔法教師?ライメって教えるの上手なの?」

「これでも中央大陸で少しだけ魔法を教えてたからね。その時楽しくて向いてるかもって思ったんだ」


 魔法教師は帥級以上であり、試験に合格さえすれば

 基本的にはなれる。現役を引退した魔法使いなどがなることが多く、人気の職業である。


「ライメが教師をしてる姿なんて想像つかないわね」

「そうかな……?」

「魔法の教師になるなら、もっと強くならないとね

 生徒に越されちゃったら悔しいじゃない?」

「確かに……」


 二人の会話は長く続いた。

 1時間ほど立ち話をしている二人、少し離れたところからエルトレ達などの三人が二人を見ていた。


「フラメナってあんな表情するんだ」


 エルトレが言うフラメナの表情。


 フラメナはいつも常に自信満々の表情で、

 皆を引っ張るリーダー性を持つ。


 だがライメとの会話ではそんな雰囲気は消え去り、

 両者は幼い子供のような、純粋な笑顔をよく見せながら話している。


「本当に仲良いんですね」

「フラメナが七歳頃に知り合ったらしいぞ」


 三人は楽しそうな二人を見ながら気付かれないように部屋へと戻っていった。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 翌日。

 五人はレナセール王国へと向けて馬車に乗り、

 パリエタ港を発った。

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