第五十一話 西の大陸
ライメが記憶を取り戻したその日。
フラメナとライメを除いた三人は、買い出しに行っていた様で、帰ったら記憶を取り戻しているライメに非常に驚いていた。
ライメはユマバナがいないことを気にしていると、
フラメナが「伝言だけあって帰ったらしいのよ」と言う。
ライメはそんなユマバナらしい行動に少し表情が和らいだ。
気になることが山ほどある。
フラメナは一個ずつライメに聞くことにした。
・どうして記憶が戻った?
・トヘキの頃の記憶は?
・なんで転移魔法が使える?
・ライメ以外の南大陸生存者は?
「なんで記憶が戻ったかって言うと……
気を失ってた頃に過去の自分を見たんだ。
きっかけは何かわからない。
でもその記憶を自分のものと自覚したのは、
フラメナが僕の名前を教えてくれたからかな」
ライメが意識を失ってる間、フラメナはずっとそばで起きるのを待っていたそうだ。
「トヘキの頃の記憶は全部あるよ。
だからただ11年間の記憶が飛んでたってだけかな」
トヘキの頃の記憶があるので、ちゃんとユマバナのことも思い出せるそうだ。
「南大陸から逃げ出す時に転移魔法をダメ元で使ったんだ。そしたら不完全ながらも転移できて……でも負担が大きかったのか記憶が飛んじゃったみたい」
ライメは転移魔法をあの時使用して以来、知らぬ間に使える様になっていたそうだ。
「ユルダスは必ず生きてる。
僕はユルダスと一緒に転移したから……
だから絶対どこかで生きてる」
以上がライメに聞きたいことの回答だった。
「そう言えば……ライメが男の子だったってクランツは知ってるの?」
「知ってると思うけどね……言わなかったのかな」
「クランツ……〜!!」
思えばクランツはライメのことで何か言おうとしてることが多かった。
「なんでハッキリ言わないのかしら!」
「多分……気まずかったんだよ」
フラメナはそんな言葉に呆れる。
「ま、まぁ良かったじゃん。
トヘ……ライメの記憶も戻ったし」
エルトレがそう言うとフラメナがライメへと話しかた。
「折角なんだし自己紹介しなさいよ。
ライメとしてははじめてでしょ?」
そう言われると少し恥ずかしそうにライメはフラメナの言うことを承諾し、軽い自己紹介を始める。
「改めてだけど……ライメ・ユーパラマです。
トヘキって名前だったけど、ライメでお願いします。えっと……好きな食べ物は」
「そこまでしないで良いわよ。
ライメのことはこれから知って貰えば良いじゃない、全部教えちゃ楽しくないでしょ?」
フラメナがそう言えば他の三人も頷く。
「えへへ……歓迎されてるみたいで嬉しいです」
「あー!敬語役は僕だけですからね!
ライメさんは緩くお願いしますよ」
ラテラがそう言うとエルトレがライメへと伝える。
「ラテラは変なプライドあるから無視でいいよ。
まぁでも、敬語だとフラメナが騒ぐから……」
「ラテラ……さんは敬語で大丈夫なの?」
そう言うライメにリクスが答える。
「フラメナが諦めるくらいには頑固だからな」
「ラテラは絶対に直さないのよね……」
「敬語担当は僕がやりますから!」
そんな会話をしてその日は五人で食事し、男女に分かれて二部屋で疲れた体を癒して、明日を迎えた。
虹剣1686年7月26日。
フラメナ達は西黎大陸へと向かう船へと乗船し、
揺れる船の上から皆で海を眺めていた。
「なんだかんだ一ヶ月満たないくらいだったのね」
フラメナがそう言うと、エルトレが中央大陸での出来事を振り返る様に話し始める。
「魔王側近、迷宮崩壊、フラメナが邪族扱い……
全部やばかったけど……魔王側近とか虹帝が襲って来た時は死を覚悟したよ」
「傲慢のシルティ……なんであんな怪物が中央大陸にいたんですかね」
ラテラがそう言うとライメが答える。
「結局あの後シルティは見つかってないし……
何が目的なのかもわからないってのが怖いね」
「まぁ二度と出会いたくないな」
リクスがそう言うとフラメナは共感する様に頷く。
中央大陸での出来事を振り返る五人は、しばらくして出港の合図でもある鐘の音を聞いて、中央大陸側へと体を向ける。
「帰りは少し寄るくらいでいいわね……?」
「じゃないとまた捕まっちゃうでしょ?」
冗談混じりにそう言うエルトレ、フラメナはそう言われて少し微笑みながら、甲板の柵にもたれて、船の進行方向の海を見て言う。
「……いざ西黎大陸ね」
そうしてフラメナ達は中央大陸を離れた。




