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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第五章 純白魔法使い 邂逅編

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第四十四話 話し合い

 虹剣(こうけん)1686年7月16日。


 フラメナ達は早速、トヘキというライメに酷似する者の情報収集に出かけた。


 四人は歩きながら分かっている情報を共有する。


「トヘキ・アルマレット……氷帥級(ひょうすいきゅう)の魔法使いで、

 転移魔法を扱う世界で唯一の魔法使い。

 3年前に枯星(こせい)、ユマバナ・アルマレットに拾われ、苗字を授かり養子でもあり弟子。


 とまぁ、今分かっている情報はこのくらいですね」


 ラテラが事前にわかっている情報をそう言うと、

 フラメナは顎に手を当てながら話し出す。


「……南大陸が滅んだのも3年前、

 トヘキが突如弟子入りしたのも3年前。

 やっぱり……ライメとしか考えられないわ!」


 それに対してエルトレが疑問を投げかける。


「でもそのライメって人は転移魔法が使えたの?

 それに女の子だって言うし、トヘキは男の子だよ」

「……ライメは転移魔法は使ってなかった。

 それに女の子だった……

 でも、扱う属性も同じで、見た目まで似てる。

 こんなの諦められないわ……」


 今わかっている情報では、トヘキがライメである可能性は薄い。だが容姿や扱う魔法まで同じとなると、フラメナが諦めきれない理由もわかる。


 四人はしばらく歩いていると、大陸新聞を取り扱う本店へと辿り着き、中へと入っていく。


 先日、あれほどの騒ぎを起こしたフラメナだったが、そう話題にはなっていなかった。

 中央大陸は毎日のように大量の情報が流れ込む。


 言わば情報の終着点。

 そんなところではあんな騒動、

 死亡者でも出なければ話題にもならない。


 大陸新聞は特集というものも出しており、

 その時話題の魔法使いに関する特集などが人気だ。

 トヘキは話題の魔法使いであり、特集が存在する。


「これね……」


 フラメナは棚からトヘキの特集を手にすると、

 それを早速購入し、店を後にして道から外れた場所にて四人でそれを読み始める。


「……なんか、写真ばっかですね」


 ラテラがそう言うと、エルトレが嫌な顔をしながら苦言を発する。


「こんなのが売れちゃうの……?

 変なもの好きが多いんだね」


「なんだか、情報というよりファン向けの特集だな」

「ま、まだ読み終わってないし何かあるかもでしょ!」


 読み進めていくと遂に文字が書かれているページへと到達し、フラメナは縋る思いで凝視する。

 しばらく読んでページを捲ると特集は終わってしまった。フラメナは特集を閉じて言う。


「……新情報なしね」

「大ハズレじゃん……」


 エルトレがそう言うと、フラメナはカバンに特集を入れて歩き出す。

 急に歩き出すのでどこに行くのかわからないまま、

 三人はフラメナの後ろについていく。



 一方、トヘキもフラメナを調べていた。


「トヘキ、いつに増して必死じゃな。

 そんなに気になるのじゃ?」

「当たり前ですよ……僕を見てあんなに感情が入り混じる顔を見せられて、無視なんて出来ません。」

「はは〜″気になる女の子″ってわけじゃな〜」

「そうやってなんでも恋路に発展させないでください……ただ真実が知りたいだけです」


 そう言われユマバナは真面目な顔で話し始める。


「トヘキ、もしお主が本当の名を取り戻した時、

 遠慮せず妾が授けた名を捨てるんじゃぞ。

 本当の親から受けた愛の証を優先するんじゃ」


 そう言われトヘキは少し眉を下げ、寂しさを感じさせる声で言う。


「たとえ……記憶が戻っても僕はユマバナ様を師匠だと思ってますから……」

「……そりゃあ良かったんじゃ」


 ユマバナは恋人を作った事がない。

 この見た目で二百歳越え。

 もう作ることも難しいだろう。

 エルフ族は身長が高い者を好む、故にユマバナは同族からも好かれぬのだ。


 養子として少しの間でも、自分の子を持った気分になれたユマバナはもう十分満足している。

 それなのになぜか、ユマバナの心には酷く濃い哀愁が漂っていた。



「純白の魔法使い……?」


 トヘキがそう読み上げると、

 ユマバナがそれについて言及する。


「フラメナという魔法使いは火帥級(かすいきゅう)でありながら将級一歩手前の魔法使い。

 白い魔法を扱うらしいんじゃが見た者全てに恐怖を与えるそうじゃぞ。」


 純白の魔法。

 最近になってフラメナの魔法が段々と有名になり、

 そう名付けられた魔法。

 まだ詳細は多く知られていないが、見た者の恐怖を与えることだけは明確に知られている。


 こんなことを知っているのは魔法マニアだけであろう。普通じゃ知り得ない情報でもある。


「白い魔法……」

「記憶を失う前に知り合っておるのなら、

 その白い魔法を見てもトヘキは大丈夫なんじゃないかの?」


 記憶は消えても体に刻まれる。

 ユマバナが言う通り、その白い魔法を見てもトヘキは大丈夫かもしれない。

 記憶の断片として存在しているかもしれない。


 やはり会うのが手っ取り早いだろう。

 だがどうやって会えばいい?


 トヘキは多くの問題に頭を抱えながらも、

 引き続きフラメナについて調べていく。



 すると玄関の方からベルが一回ほど鳴った。

 来客だ。予定なんてなかったはずだが誰だろうか。


「僕が行きます」

「妾が行っても良かったのに〜」


 トヘキは歩いて玄関に向かい、

 扉をいざ開けるとそこには、真っ白な髪の毛を持った歳が一つ上の女の子がいた。


 フラメナ・カルレット・エイトール。


 彼女はトヘキを少し睨みつけるように見ており、

 フラメナの後ろには三人ほど人が立っていた。

 三人は少し気まずそうにしている。


「え……その」

「私とお話ししましょ。

 色々ハッキリさせる必要があるから」


 本来こんな訪問は断る。

 だが今回ばかりは会いたいと思っていた相手からこちらにきてくれた。

 ならば話は早い。


「わかりました……」


 トヘキは承諾すると外に出ようとした瞬間、

 ユマバナがそれを呼び止めて、手をこちらにくいくいとしてくる。


「中で話しましょうか」


 トヘキがそう言いながら家の奥に入っていき、

 外にいる四人も中に入っていく。


 ユマバナが住むその家は大量の書物に溢れており、

 天井からは何個もの水晶がぶら下がっている。


 一体何を意味しているかはわからない。


 フラメナは部屋の奥に進んでいくと、

 草君級(そうくんきゅう)魔法使いのユマバナ・アルマレットに出会う。

 フラメナは魔眼で直視すると一発でその規格外の強さに驚いた。


 オーラが二つ……魔王軍のやつもオーラは二つだったけど、この人は緑と黒……黒って闇属性かしら?


「はは〜ん?妾を魔眼で見とるな〜」

「えっ、なんでわかったのよ」

「妾も魔眼持ち〜!」


 ユマバナは魔眼を持っている。

 魔眼を持つ者同士では、その者が魔眼を持っているか判別出来るのだ。


 ユマバナの魔眼は″魔奏(まそう)の目″と呼ばれており、

 フラメナの魔彩(まさい)の目とは違う。


 魔奏の目は魔力の流れを見る事が可能であり、

 その魔眼によって緻密な魔力操作が可能だ。


「まぁ魔眼はどうでもいいんじゃ。

 お主はトヘキに話があるんじゃろ?二人きりで話してくるんじゃ」


 ユマバナがそう言うと、トヘキは気まずそうにするが、フラメナは快諾する。


「いいわよ!エルトレ、皆んなを頼むわ!」

「ちょ、流石に投げやりすぎだって」

「どうにかなるわよ。よろしくね!」


 フラメナはそう言って、突っ立ったままのトヘキの手を掴み、無理矢理他の部屋へと連れていく。


「え……マジじゃん」

「どうするお姉ちゃん……?」

「……気まず」


 エルトレやラテラ、リクスが小さくそう言っていると、ユマバナが席に座るように言ってくる。


「妾とお話でもしようじゃ、ほれ席につきぃ」


 三人は気まずそうに席へと座る。

 そんなことが起きていることは知らず、フラメナとトヘキは他の部屋に向かっていた。


「あの、僕の部屋で話さない?」

「どこにあるのよ」

「案内するね」


 そう言ってトヘキが先頭に変わると、少しして一つの部屋の前に二人は立つ。


「ここだよ」


 そう言ってトヘキは扉を開けて中に入る。

 フラメナは何気に異性の部屋は初めてだ。


「案外綺麗じゃない」

「汚いのはリビングだけだよ……師匠がこだわり強いからさ……」


 トヘキは整えられたベッドの上に座ると、フラメナに隣に座るように目を向ける。


「……それで、どっちから話します……?」

「なんだか敬語気持ち悪いわね……」

「やめた方がいいです?」

「やめてほしいわ、その見た目だと特にね」


 フラメナは膝に手を置き、トヘキへと聞く。


「私からでも良いかしら?」

「いいで……いいよ」


「……貴方は、故郷って知ってるの?」

「知らない……僕は3年前からしか記憶がないんだ。

 それ以前の記憶は全くない……」


「じゃあ……記憶が無くなってるの?」

「うん……」


 ライメは人族と霊族のハーフ

 トヘキもそれは同じ。


 髪色はどちらも赤紫。

 瞳は青色。

 女の子みたいな顔つき。

 得意魔法は氷属性。


 でもトヘキは男の子だ。

 ライメは女の子で転移魔法は使えない。


 それでも、3年前という時系列が妙に噛み合っており、フラメナは段々とライメだと確信し始める。


 フラメナはそれ故に酷く心が締め付けられた。


「これって覚えてる?」


 フラメナは手から白い火を小さく灯すと、

 トヘキはそれを見て驚くことも恐怖することもなく、ただひたすらにそれを見つめていた。


「……わからないのに、すごく懐かしい」

「だってライメには何度も見せた魔法だもの」


 二人は少し沈黙した後に同時に喋り出そうとする。


「その……」

「あの……」


「「あっ」」


 二人は笑った。なんだか少し面白かった。

 理由はわからない、それでもなんだか笑えた。


「フラメナさ……フラメナからでいいよ」

「敬語直ってないわね。まぁいいわ……

 トヘキはさ、記憶を取り戻したいの?」

「うん……僕は記憶を取り戻したい。

 忘れてしまったことを思い出したい」


 フラメナはそう言われて少し嬉しそうにする。


「私は不安だった。地位も強さも得た貴方が、過去を捨てて今を取ったら……って思ってたけど。

 やっぱり中身はライメね。」

「ライメ……フルネームを教えてほしいな」


 そう言われてフラメナは言われた通りに名を言う。


「ライメ・ユーパライマ」

「それが……僕の本当の名?」


「さぁね。ライメは女の子だったし転移魔法は使えない。それでもそれ以外の特徴は貴方そっくりよ。

 笑い方も、喋り方も、動き方も……

 もう殆ど覚えてなかったのに、

 こうやってきっかけがあると思い出しちゃったの。

 私、思うのよね。

 きっかけさえあれば記憶は戻るんじゃないかしら」


 そう言われてトヘキは言う。


「きっかけなんてあるかな……」

「わからないけど……もし貴方が本当にライメなら、

 私と一緒に魔法を使えば良いのよ。」


 そう言われてトヘキは手を見る。


「魔法……」


 トヘキにとって魔法は唯一忘れなかった記憶だ。

 使い方だけは自然と思い出せた。

 それに加えて転移魔法だって使えた。


 魔法はトヘキに残された全てだった。


 その魔法に全てが込められているのかもしれない。

 試す価値は大いにある。


「いいね……本当に思い出せるかも」

「そう思うでしょ!」


 二人はそう希望を感じると、少し間を置いてトヘキがフラメナに聞きたいことを聞き始める。


「……フラメナは十歳の頃に旅に出たんだよね。

 そしたらライメは九歳……

 その5年間ってどうだった……?」


 トヘキは気になっていた。

 フラメナが何を経験してここまで辿り着いたのか。

 おそらくとんでもない量の絶望を味わったはずだ。


 彼女にとっての故郷が滅亡したことは知っている。


 どれほどの絶望を味わってここまで来たのだろう。

 どれほど泣いて立ち直る事を繰り返したのだろう。


 そんな彼女を知りたかった。

 忘れてしまったかもしれない彼女のことを知りたかった。


「私は……5年間って言う長い時間で、

 色んなものを失い、色んなものを得たわ」


 フラメナは事細かに話し始める。


 旅のこと、多くの苦難。

 故郷が滅亡した日、その後の生活。

 仲間のこと、自身の目標。

 立ち直れた理由。


 何もかも話してくれた。


 そんな話を聞いてトヘキは泣いた。


「……ってのが私の5年間……えぇ!?なんで泣いてるのよ!」


 トヘキは手で涙を拭きながら話し始める。


「いや……涙がなぜか止まらなくて」

「手で擦っちゃダメでしょ?ほらハンカチあげるからそれで拭きなさい」


 フラメナはハンカチを取り出してトヘキへと渡す。

 それを受け取り涙を拭ったトヘキ、彼がなぜ泣いてしまったのかフラメナは、不思議に思いつつもトヘキの横顔を見る。


「泣いた顔はライメそっくりね」

「ぇえ……?そうなの?」

「ライメは泣き虫だったからよく覚えてるわ。

 ライメと全く同じ涙の拭き方してるし……

 これでライメじゃなかったらびっくりね」


 そうやって微笑みながらライメのことを話すフラメナ、彼女の表情は寂しさと嬉しさが交わったもので、

 とても複雑な感情を抱いているとすぐに分かる。



 二人は長い間会話した。

 他愛のない会話だったと思う。

 それでも二人はその時間を心の底から楽しんだ。


 二、三時間して二人はリビングへと戻ってくると、

 机へと二人は視線を向けた。


「お、長かったな〜そんなに盛り上がったのじゃ?」


 ユマバナにそう言われてトヘキが反応する。


「少しだけ話が続いちゃって……」


 二人がそう言っている間に、フラメナは三人を見ようと机に近づくと、三人は机に突っ伏して寝ていた。


「全員寝てるじゃない……」

「妾の話が長すぎて寝ちゃったそうじゃ。

 いっつもこうなるんじゃよな〜」


 どうやらユマバナはとてもお喋りらしい。

 三人を起こそうとしているフラメナ、その間にトヘキがユマバナへと明日の予定を聞き出す。


「師匠。僕って明日、予定あります?」

「ないぞ。妾もフリーの日じゃな」

「フラメナさん達とガレイルで依頼を受けてきても良いですか」

「珍しい……なんでいきなり」


 ユマバナが聞くとトヘキは答える。


「もしかしたら一緒に戦えば思い出せるかもって思っただけですよ」

「ほほう、確かに言えてるのう。

 よしなら思いっきり戦ってこいじゃ!」


 トヘキはそう言われ少し嬉しそうにする。


 記憶を無くした青年は、

 記憶を取り戻すために動き出す。


 過去の自分を知る者によって彼の運命は変わった。


 明日、フラメナ達とトヘキはガレイルにて依頼を受ける。その依頼は五人からすれば難易度が低すぎるもの、なんの苦難もない。



「いつまで寝てんのよ!」


 フラメナの怒号が三人を即座に起こさせた。

18時投稿になってしまってすみませんm(_ _)m

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