第四十話 熱
虹剣1686年6月3日。
宿にて朝食を六人で食べていた。
フラメナ達は、昨日を含め三日間滞在するらしい。
昨夜の食事では過去の話ばかりであり、現在の話をあまり出来なかった。
それ故に会話が弾む。
「フラメナお嬢ちゃんは今何級なんだい?」
エクワナがそう聞けばフラメナはすぐに答える。
「帥級よ!もうすぐ将級にいけそうなのよね……
将級レベルの魔法さえ使えればいけるって、
クランツから言われたわ」
「確かにそろそろ将級になってもおかしくない、
でも帥級と将級の間は長いよ。
停滞しちゃうこともあるからね」
帥級と将級、その差は天と地ほどある。
将級になれる帥級というのは確実に選ばれし者だ。
選ばれし者となるには相応の示しをつけなければいけない、相応しいと言われるに値するまで生涯をかける者もいる。
「わしは帥級から将級まで8年かかったぞ」
カイメ爺さんがそう言えばエルトレが反応する。
「カイメさんって将級剣士だったの?」
「こう見えても、元四星級パーティーのリーダーじゃったんじゃぞ?」
カイメ・ヒョルドシア。
現役時代は四星級パーティーにてリーダーを務め、
将級剣士としてかなり注目されていた。
流派は人刃流、扱う属性は氷。
彼のパーティーは積極的に剣王山脈などの依頼を行い、雌雄竜の討伐功績もある。
それでも四星級なのは五星級のパーティーが強すぎたからである。
五星級パーティーとは、各ガレイルに一つしか存在できない級であり、その頃の東勢大陸エガリテ王国のガレイルは、猛者揃いだったと考えられる。
「あの……」
リクスがそう言って皆の会話を呼び止める。
「リクス、なんだい?」
エクワナがそう言うと、リクスは少し躊躇ったようにして、数秒すると思い切って口を開く。
「俺、フラメナの旅についていきたい」
昨夜ーーーーーー
「私とかエルトレもラテラも構わないけど、
エクワナさんが許してくれるの?」
「わからない……言うだけ言ってみるけど」
「頼み事は早い方が良いわよ。明日の朝に言っちゃいましょ!」
昨夜のフラメナとリクスは長い間、過去のことやこの旅のことなどを話し合っていた。
そこで迷っていたリクスは旅に出ることを決めたのだろう。
ーーーーーーーー
「わがままばっかでごめんなさい、それでも俺は……
旅をしたい。世界を見にいきたい。」
真っ直ぐした目でそう言うリクスにエクワナは、
嬉しそうな顔で返答する。
「やっと言ってくれたよ……フラメナお嬢ちゃんはともかく、エルトレとラテラは構わないかい?」
そう聞くと二人は頷き答える。
「あたし達は構わないよ」
「僕も」
二人は快くリクスの加入を受け入れる。
だがフラメナは少し違った。
「リクス、私と勝負しなさい」
「え?」
急な物言いにリクスは困惑したようにフラメナへと視線を向ける。
「実力くらい知っておきたいわ。
どれくらい強くなったか見てあげるわよ!」
建前はこうだが恐らく、フラメナは強くなったリクスと戦いたくてしょうがないのだろう。
だが旅の前に実力を測るのは良いことだ。
朝食を終えれば早速六人は外へと出て、
リクスとフラメナが少し離れた状態で向き合う状況となる。
フラメナ、火帥級魔法使い。
リクス、土一級魔法使い。
本来であれば勝負にすらならない戦い。
だが等級はあくまで指標、
戦いは常に不安定な状況が続く。
「ルールは相手へと致命傷を与えるであろう魔法を寸止めすれば勝ち、もし当たってもあたしがどうにかするから思う存分戦いな!」
そう言われエクワナは、
二人が見合う真ん中へと氷を発生させ、
それを破裂させると勝負開始の合図となる。
先手はフラメナ。
得意の短縮発動で火球を作り出し、
一気に向かわせ、それと同時に魔法陣を展開する。
短縮発動の火球はあくまで牽制用。
リクスは杖を取り出して、
魔法陣を足元に作り出し呼称する。
「頑鉄土壁……」
それは中級魔法、巨大な土の壁が作り出され、
火球を防ぎそのままフラメナの方へと倒れていく。
「白刺天!」
フラメナはオリジナルの魔法しか扱えない。
故にバリエーションは少ないが、
圧倒的に威力が高く、帥級相当の魔法であれば通常の帥級魔法よりも少し威力が高い。
この魔法は帥級相当の魔法である。
土の壁へと放たれた白い火で構成された槍は、
豪速で壁へと直撃し、爆発を起こして一気に壁を破壊する。
中級の中でも上位の難易度を誇る魔法を、
容易く破壊するのは、正に格の違いというやつだ。
リクスは驚く間もなく、即座に接近してきたフラメナを視界に入れて、魔法陣を展開すると迎え撃つ。
「土棘呑!」
「遅いわ!」
リクスは、土が固まり棘のようなものを自身の周りに作り出し、一気に押し出す。
だが一歩フラメナの方が早く、火が土の棘を破壊して迫ってくる。
このままでは致命傷判定であっさり負けるだろう。
やっぱり強いな……
戦い方はわかってるし何が弱点かもわかってるのに、全く対応出来ない。
俺だけじゃない、強くなるのは何も俺だけじゃないんだ。
でも置いていかれてばかりなんて嫌だ。
勝負において究極の負けず嫌いは最強である。
リクスは心の中で冷静に不利を悟り、一か八かの魔法へと踏み込む。
「土匠斬峰!」
その瞬間、近くにいたフラメナを突き刺すように棘を纏った地面が出現。
咄嗟にそれを見て下がるフラメナ。
棘は地面を伝い、どんどんと足場を棘に変えていく。
これは帥級魔法である。
地面を棘だらけにするこの魔法は非常に強く、
強制的に相手の進行を妨げることが出来る。
多くの帥級土属性魔法使いが使う魔法だ。
「近づけないなら、威力勝負といきましょ。
知ってるわよ。土は火に強いって、だからこそ本気で私を殺す気で魔法を撃ちなさい!」
大きな魔法陣を口角上げながら展開するフラメナ。
それを見てリクスも魔法陣を展開。
呼吸がゆっくりに感じる瞬間両者は一切の容赦なく魔法を放ちはじめる。
互いに代力を行い、
これより200%の魔法がぶつかる。
「白帝元!」
「地龍冥っ!」
白く染まった火がフラメナの手から放たれ、
回転しながらリクスへと向かっていく。
同時に、リクスの魔法も放たれ、
土の柱が龍のようなものへと変わり、火へとぶつかる。
衝撃波が発生するほどのぶつかり合い。
威力は互角であった。
互いに一歩も引かない戦い、リクスは致命的なミスを犯していることに気がつく。
威力が互角なわけない!
まさか……もう一つ魔法が!
リクスはこう言うところで手を抜く者だとフラメナを思っていない。それ故に考えられるのは別の魔法。
すると頭上が眩しく照らされた。
敗北の差し込み、見上げてみれば大量の白い火が迫っていた。
それを避ける術も防ぐ方法も存在しない。
「クソ……」
フラメナは白い火を急上昇させ、空に打ち上げると魔法を解除し、勝負はフラメナの勝ちとなる。
「私の勝ちね!」
勝負が終われば皆が近づいてくる。
「リクス、ほーら上級の証だよ」
「……なんで」
「あんたはもう既に上級さ。
帥級魔法出せたじゃないかい」
「でも……負けました」
エクワナはリクスの目を見て言う。
「勝ち負けは二の次さ、今生きていて次がある。
あんたに足りないのは″熱″さ。
負けたくない心を持ち続けな、今日で一旦は弟子卒業だよ」
その言葉はリクスを強く励ます。
「リクス、結構強いじゃない。
私、正直圧勝だと思ってたのに」
「案外……性格悪いな」
「そうかしら?」
リクスは一回頷くと杖をしまう。
「これで俺は旅に行っても良いのか?」
「構わないわよ!」
「……昔を思い出すぞ」
こうしてリクスはパーティーへと加入する。
旅立ちは二日後。
そんな中ある剣士も東勢大陸にて、
一歩先に中央大陸を目指していた。
「中央大陸……どんなところですかね」
ルルスはそう思いながら港にて海を眺めていた。




