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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第四章 純白魔法使い 邁進編

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第三十九話 凍土の霊

 虹剣(こうけん)1686年6月2日。

 ハルドラ村にて一人の魔法使いが今日も、

 自身の魔法を磨き続けていた。


 リクス・テルマドール。

 十四歳の土一級(どいっきゅう)魔法使い。

 灰色の髪の毛を後ろで結び、真っ青な瞳が鋭く特徴的だ。


 彼は物心がつく前に両親を失い、

 気が付けば養子と言う形で人族の元に居た。


 幼少期は悲惨なもので、霊族と言う種族故に、

 差別などは当たり前。

 特にその村は差別が激しく、自身を養子として迎え入れてくれた親である存在からは八つ当たりの道具として、村民からは醜い物を見るような視線。


 そんな彼の心は容易く廃れた。


 挙句の果てには奴隷商人に売られてしまう。


 だが運命は一人の少女によって狂わされた。


 不幸と言う言葉で埋め尽くされた運命は、

 太陽のような少女の光が差し込み、

 一気に幸福溢れるものへと変わる。


 言わずもがなあの二年間の旅はリクスを変えた。

 絶望溢れる色なき世界に、

 再度色を塗りたくってくれた。


 現在はハルドラ村にて、

 凍獄(とうごく)、エクワナ・ヒョルドシアの元で魔法を磨き続ける日々。


 確かに上手くいかないことばかりだが、

 これほどまでに苦戦することが楽しいと思えたことは、初めてだった。


 悪くない、こう言う生活は悪くない。

 でもなぜか少し物足りなさを感じる。

 交互に訪れるこの楽しさと物足りなさ。

 あんまり考えないようにしている。


 そんなことを交互に感じる日々に、恩人たちへの不幸が降りかかったことを知らせる情報が届く。


 南大陸が滅亡したことを大陸新聞で知った。


 正直、他人事ではあるが自分のことのように悲しかった。

 初めて自分以外の者達に同情した。

 可哀想で仕方なかった。


 あんなにも頑張っていたのに、

 あんなにも良い行いばかりしていたのに。


 この世界は残酷だ。


 そんなことは知っているが、

 自分以外にも平等なことに驚いた。


 運命は常に平等、

 そんなことを幼いながらも理解した。




「師匠、魔法打ち込み終わりました」

「んー、早いね。昨日よりも2秒早いよ」


 リクスは毎日朝一番に、

 100回ほど魔法を放つ練習を行っている。


 それが終われば朝食を食べ、

 一般常識の勉強。

 昼前にエクワナから魔法を教わり、

 昼食を終えれば夕食までひたすらに魔法の練習だ。


「土属性魔法は雑だと魔力消費が激しいからね。

 今は嫌かもだけどやり続けるんだよ」


 エクワナがそう言うと、

 リクスはエクワナの目を見て話す。


「嫌じゃないです。俺はこういうの好きですから」

「たはははっ!そうかい、なら心配はいらないね」


 そうしていつも通りの日々を過ごす。

 夕食前にリクスは外を散歩していると、

 村の入り口にて馬車が止まったのを確認する。


 かなり無礼だが、こんな端の村に、

 わざわざ来る用事があるなんて少し特殊だ。


 気になって思わず馬車から人が降りてくるのを待っていると、白く輝く髪の毛が見え、

 リクスは目を大きく見開き凝視する。


「フラメナ……?」


 リクスは完全に足を止めていた。


「フラメナ、すごい見られてるけど知り合い?」


 エルトレがそう言うとフラメナは、エルトレが目を向ける方を見る。


「……リクス?リクス!!」


 その瞬間にフラメナは走り出していた。

 リクスは驚いたままの表情であり、フラメナが手を握ってくると言葉を漏らすように言う。


「久しぶり……」

「元気にしてた?久しぶりリクス!」


 旅の仲間との再会。

 リクスは大きく見た目が変わったわけじゃないが、

 フラメナは元気そうなリクスを見てとても嬉しいそうだ。


「来るなんて思ってなかったぞ……」


 それもそのはず、リクスは南大陸が現在王国再建を行っていることを新聞で知っている。

 フラメナがそんな時にここに来るとは思ってなかったんだ。


「なんか私が、無責任な自由人のような人だと思ってない?」

「南大陸って王国再建してるんじゃ……?」

「私は魔法使いとして強くなって王国を守るのよ。

 だからこうして旅をしてるんだわ」


 リクスは事情を理解し、フラメナから話を聞く。


「その後ろの二人は旅の仲間なのか?」

「そうよ、頼れる仲間よ!」


 するとエルトレとラテラが、フラメナの後ろからやってきてリクスへと挨拶する。


「エルレット・ミシカゴールとこっちがラテラット・ミシカゴール、よろしく、フラメナの旧友さん」


 エルトレがそう言うとラテラは丁寧な挨拶をして、リクスが二人へと挨拶を返す。


 積もる話は多い。

 四人はフラメナが過去に泊まったこともあり、

 現在はリクスが住むカイメの宿に向かう。


 馬車を扱う者もカイメの宿に泊まるそうだ。


 宿に着くなり受付のカイメ爺さんがフラメナを見るなり立ち上がってこちらへとやってくる。


「おぉお嬢ちゃんじゃないかい、わざわざこんなところまで……」

「久しぶりね!」


「リクス、エクワナを呼んできておくれ」

「わかった」


 エルトレとラテラがエクワナと言う名に違和感を感じた。

 君級魔法使いのエクワナ・ヒョルドシアがここにいる?まさか、そんなはずはないと思っていた。


「え?ま、え?」


 ラテラがそう口にすると、奥の通路から歩いてくるのは正真正銘、凍獄、エクワナヒョルドシアだった。


「……フラメナお嬢ちゃんじゃないかい!」

「覚えててくれたのね!」

「当たり前だよ。あたしの命の恩人なんだからさ!」


 情報量が多い。

 エルトレとラテラは混乱していた。

 君級魔法使いのエクワナの命の恩人がフラメナ?

 いったいどういう関係?


 疑問符が浮かび上がる二人にエクワナが目を向け、

 軽快な雰囲気で話しかけてくる。


「あんたたち二人はフラメナの新しい仲間かい?」

「あっ……そうです」


 ラテラがそう言えばエクワナが近づいて両手を差し出してくると、握手を求めてきた。


「あたしはエクワナ・ヒョルドシア、よろしくね」


 二人はエクワナの両手のうち一つに握手をする。


「フラメナお嬢ちゃんはなんでここに来たんだい?」


 エクワナが握手を終えると、

 振り返ってフラメナへとそう問いかける。


「強くなるために旅してるの」

「へぇ、良いね。そう言う旅は楽しいよ」

「中央大陸に行く途中にどうせなら寄ろうと思ってたのよ。顔ぐらい見せたいじゃない?」


 エクワナはそれに共感するように頷いていると、

 リクスが旅の終点を聞いてくる。


「旅と言ってもどこまで行くんだ?

 ずっと旅するわけじゃないんだろ?」

「全大陸を旅したら南大陸へ帰るわ」

「全大陸……すごいな」

「リクスも来る?」


 そう聞かれてリクスは顔を渋らせ「考えておく」と言い答えは出さなかった。


 その日の夕食はフラメナたちを加えた六人で食事を行った。エルトレやラテラは最初は緊張していたが、

 次第に環境に慣れ始め、食事が終わる頃にはよく会話できるようになっていた。


 リクスは食事を終えると明日、

 魔法練習のために使う人形を組み立てるため、自室へと向かう。


「ついてこなくてもいいぞ……」

「えー、久しぶりに会ったんだし少しお話ししようよ」

「作業しながらでも良いなら……」


 フラメナは少し嬉しそうにリクスへとついていく。




 その頃食事を終えて、洗い物を自らすると名乗り出たエルトレとラテラを横目に、カイメとエクワナは話していた。


「リクスは旅に出さんのか?お嬢ちゃん的にも構わなそうな感じじゃったが……」

「むしろ今すぐにでも旅に出してやりたいよ。

 でもリクスの性格上、

 どうしたいかなんてあたしにはわからない。

 旅よりもここで過ごす方がリクスにとっては、良い時間なのかもしれないからさ……」


 エクワナは窓から夜空を眺めて言う。


「自分で言ってきたら許可するよ……現にもうリクスは実戦を積んだ方が強くなれる段階だし」

「……はは、エクワナがこうも誰かの成長を考えているなんて感慨深いのう……わしの若い頃みたいじゃ」

「あははは!あたしはまだおばさんじゃないっておじいちゃん!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 リクスの部屋にて。


「こうして二人きりで会話も懐かしいわね」

「あんましたことないだろ」

「そうだっけ?」


 リクスは黙々と人形を組み立てている。


「ねぇリクス、聞かないの?

 私が南大陸で何を経験したか」

「……逆に聞いて良いのか?」

「良いわよ。気になってるんでしょ?」


 図星だ。

 リクスはかなりフラメナがこの3年で何を経験したか気になっている。

 なぜならフラメナはあまりにも変わった。

 十二歳の頃のフラメナは幼くて、子供っぽい雰囲気をまとった少女だった。


 だが今のフラメナは表面上こそ変わっていないが、

 明らかに目つきや所作、考え方などは大きく変わっており、それは全て大人びた雰囲気を感じさせる。


 よく笑い、分け隔てなく接すると言う、

 良い特徴を残して彼女は成長している。


 そんな彼女に何があったのかリクスは気になる。

 南大陸は滅亡したのだ。

 フラメナの故郷が無くなったとも言える。


 そんなことを経験したにも関わらず、こうも笑顔を振り撒けるのはなぜか?


 疑問符が浮かび続け、リクスは組み立てを少し間違え、やり直し始めるとフラメナが話す。


「故郷、家族、親友、全て失ったわ。

 嫌で嫌で仕方なかったし、私も部屋に引き篭もったりした。正直二度と味わいたくない感情だったわ。」

「よく立ち直れたな……俺なら立ち直れないぞ」


 フラメナは言う。


「今も立ち直れてないよ。

 なんで南大陸?なんて思いはずっとあるし、

 今も失ったものが大きすぎて受け止めきれてない。

 でもね、受け止めきれずとも進み続けることは出来る。そう気付かされて私は歩むことを選んだの」


 フラメナの目は少し潤んでいた。


 それが彼女が未だにあのことを、

 受け止めきれてないことを表す証だろう


「フラメナはすごいんだな」

「別にすごくないわよ……」


「俺はそんなことになったら、歩むこともできなくなる。だって何もない状態ほど辛いものはないから」

「まぁそうよね……」


 リクスは考え続けていた。

 このままで良いのかと。

 確かにこの生活は楽ではない。

 毎日魔法の練習はキツい、だが精神的な苦難は一度もなく危機的状況なども訪れない。


 このままいけば確かに強くなれるだろうが、

 他人を守れるほどの強さにもなれない。


「旅に行くって話、もう少し詳しく聞かせてくれないか、少しだけ……俺もしたいことが見つかった」

「唐突だね……でも良いよ、詳しく話してあげるよ」


 思えばフラメナはこれを狙っていたのだろうか、

 そんなことを思いながらもリクスは、フラメナの話を長く聞くこととなる。


 リクス・テルマドール。

 彼の歩みは加速するのだろうか?

 それを決めるのは彼であり誰であろうと決め難い。


 この夜、また一つ、リクスの運命が変わった。


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