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第三話 似た者同士

 ユタラ村から城下町に戻った二人、

 フラメナはライメについて軽く話していた。


「クランツ、わたし、ライメが女の子で嬉しいわ! しかも年上気分まで味わえて最高よ!」


 ご満悦のフラメナ。

 クランツがフラメナにあることを言おうとする。


「あの……フラメナ様、ライメ様は……」


 だがどうせ大したことじゃないと、

 フラメナは聞く耳を持たない。


「はいはい!ほら、早く本を買いに行くわよ!」

「……そうですね」


 どこか諦めたような声を漏らしながら、

 クランツは後に続く。


 二人が入ったのは、城下町にある小さな書店。

 書物が整然と並び、魔法書から小説まで幅広く揃っていた。


 奥に進むと、老女の店主が笑顔で挨拶し、

 二人もそれに応える。


「今日買うのは、混合魔法第一巻、召喚の心得、魔王の軌跡……この三冊です」


 ・混合魔法第一巻。

  全七巻の魔法学の本であり、

  混合魔法の全てが記されている。

  七巻の内容は将級魔法使い達などが、

  適正とされている。

  また内容の幅広さ故に、

  多くの魔法使いに愛されている。


 ・召喚の心得

  召喚魔法の基礎的な事が記されており、

  この魔法を知るには欠かせない本だろう。


 ・魔王の軌跡

  現三界であり、

  邪族の中で最強とされる魔族の魔法使い。

  そんな彼の人生をまとめた一冊。

  かなり憶測な部分も多いが、

  実際に起きている出来事も含まれているため、

  歴史書としても知られている。

 

「魔王って、三界さんかいの一人よね?

 本ができるほどすごいの?」

「……ええ。彼は悪しき存在でありながら、

 その力は計り知れません」


「悪……?」


「魔王は五百年生きる魔族です。

 彼の最大の強みは、使役魔法の異常なまでの練度、

 知性を持たない魔族と北峰大陸(ほくほうたいりく)に住まう霊族を大量に使役し、“魔王軍”と呼ばれる集団を形成しました」


 北峰大陸。六つある大陸のうち一番小さい大陸。


 そこは霊族が住まう土地であり、過去の出来事が絡んで忌まわしい大陸ともいわれる。

 国は一つであり、霊族は基本的に温厚な性格が故に争いが起きない。


 霊族たちはかつての魔王討伐の際に討伐隊に多くの被害を出し、未だに差別として尾を引いている。


「でも三界には、虹帝こうていとか剣塵けんじんがいるじゃない。

 あの二人が組んでもダメだったの?」


「あの二人は最近現れた最強格の魔法使いと魔法を扱う剣士です。虹帝と剣塵は魔法討伐作戦時には生まれてもいません。

 魔王を討とうとしたことがあるのは四百年前の、

 仙魔(せんま)六星(ろくほし)という称号を持った魔法使い二人。

 二人は魔王本体に辿り着いたものの……魔王の召喚魔法による無限に近い数の帥級召喚体によって、魔力切れで撤退したのです。」


 かつて、最強の魔法使いと剣士が共闘しても届かなかった存在。だからこそ、魔王は今も生きている。


「想像しただけで……恐ろしいわ」

「ご安心ください。魔王の居城・魔城島まじょうとうは北峰大陸にあります。精鋭の監視隊が常駐していますし、南大陸まではそう簡単に来られません」


 ふと、フラメナは疑問を口にした。


「ねえ、ライメがいじめられてるって……

 やっぱり霊族だから?」

「ええ。霊族はかつて、魔王に使役され、中央大陸の討伐隊に甚大な被害を与えました」


「でもそれって霊族が操られてただけなんでしょ?」


「そうです。ですが中央の王たちは許さなかった。

 彼らは報復の名の下に霊族を虐げ、今でも差別意識が残っています。事実が判明しても、偏見は根深いものなのです」


「……なんだか、嫌な感じね」


 フラメナは霊族に不遇さにそう言葉を漏らす。


「おとぎ話の多くの悪役は霊族、今じゃ畏怖の対象ですが最近になってようやく真相を知るものが増えて差別が減ってきてるんですよ。」


「ふーん。まぁ私は差別なんかしないわ!」


 そう呟いたフラメナの横顔を見て、

 クランツは少しだけ微笑んだ。


 彼女の言葉には、差別に屈しない心があった。


 そして明日からの授業には、ライメが加わる。



 ーーーーーーーーーー


 翌日、少し曇った日。


「お父様!いってくるわ!」


 曇りの日でも相変わらず元気いっぱいに大きな声でそう言うと、父親であるフライレットはその厳しそうな顔ながらも、手を振り見送る。


「フラレイ、フラメナはああやって笑うのだな」


「なんだか、申し訳ないわね。親である私たちがフラメナを笑わせてあげられないなんて」


「クランツ先生はすごい人だ。

 とてもあの”異名”が似合う魔法使いではない」


 フラメナは外で待つクランツと合流すると、早速ユタラ村へと向かう。


「ライメー!来たわよ!」


 扉をノックするフラメナ、返事がないので不思議に思っていると家の中からライメの母親らしき人物が出てくる。


「すみません……ライメはまだ……」


 母親はフラメナとクランツを見て驚く。


「えぁ……魔法使いの先生とエリトール家のお嬢様?」


 フラメナが少し疲れた様子の母親へとライメのことを聞く。


「あなたライメのお母様ね!ライメはどこ?一緒に魔法の授業を受けるために来たの!」


 ライメの母親は表情を暗くして言う。


「まだ帰ってないんです...この時間は薪を拾ってきてもらうのですが...まだ...」


「お母様、よければ探しに行ってまいりましょうか?」

「わたしも行くわ!」


 ライメの母親は遠慮しながらも、貴族の中でも王族であるフラメナが手伝うといったので、断るのは無礼だと思い捜索を頼むことにした。


「お願い致します……」


 そうと決まれば話は早い。早速二人はライメを探すべく、薪を集めているという情報を頼りにして森へと向かう。


 捜索は長引くかと思っていたが意外にあっさり、森の入り口付近にてライメの姿が見えた。


 フラメナはライメの名を呼んで近づこうとした瞬間、ライメの状況がよく見え足が止まる。


「やめて、かえしてよ……!」


「霊族のやつなんか生きてて死んでるようなもんだから火なんていらないもんね~」

「こんなやつが火なんて持ったら危険だから僕たちで止めるぞー!」


 ライメがおそらく集めたのであろう薪を取り上げて、ライメを中心に六人で囲い薪を投げあって追いかけさせる。


火球(フライマ)!」


 一人の男児が杖を取り出して薪に火魔法を放ってそれを燃やし尽くす。


「ははは!悪をやっつけたぞ!」


 薪がパチパチと音を立てて燃えていく様を見るライメ、その目は慣れたようなものでありながらも悔しさを秘めている。


「薪を取り返すことも出来ないなんてなー!」

「なーんにも出来ないんだろー!」

「やーい霊族、悪の霊族!」



 見ろよこんな魔法もまだ使えないんだぜ?



 フラメナの中で蘇る少し前の記憶。


 そうだ...わたしもいじめられてた。

 わたしのことを助けてくれる人はいなかった。

 なら、どうする...?あのいじめてるやつらを話で納得させる?

 そんなの無理、なんていえばいいかわかんない!


 どうしよう...!ライメを...ライメを助けてあげたい

 わたしを助けてくれる人はいなかったけど...今なら


「っ!」


「フラメナ様!」


 クランツの静止を振り切って一気に走り出し、フラメナは杖を持つ男児に向けて飛び蹴りする


「いってぇええええ!」

「なにすんだよおまえ!」

「いきなりとびかかってきた!?」


 いじめっ子たちがギャアギャアと騒ぐ中、フラメナが大きな声で言う。


「いじめてるんじゃないわよ!このバカたち!」


 フラメナの胸元についている紋章を見ていじめっ子たちは、後ずさりする。


「エイトール家だ!」

「逆らったら殺されちゃう...ゆ、ゆるしてください!」


「許さないけど、とっととどっか行って!」


 そういうといじめっ子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。



「ライメ!大丈夫?」

「ありがとう.……」


 ライメは涙目になりながらそう言ってフラメナに感謝する。


 後からクランツがやってきてフラメナの無事を心配し声をかけた。


「大丈夫ですかフラメナ様」

「わたしよりライメを心配してあげて」


「ライメ様、怪我がまた増えてますね...やはり彼らに?」


「……うん」


 小さくそういう彼女、クランツは杖を取り出してライメへと向けて治癒魔法を呼称した。



癒風(ヒーロウチア)


 淡い光がクランツの杖から放たれライメを包み込む。帥級魔法の治癒魔法が故に一気に怪我が消えるライメ、少し楽そうな顔になったライメは立ち上がって二人に頭を下げる。


「ありがとうございます……その授業遅れてごめんなさい」


「いいんですよ、遅れても構いませんから」


三人はそうしてライメの家へと戻ると、ライメの母親がライメを抱きしめる。


「ごめんね!わたしが……わたしが親で!」

「お母さん……僕は大丈夫だよ」



――人族は、あらゆる種族の中で支配的存在。

 だが、差別という文化は、時として想像を超えて人を傷つける。


 フラメナは思い出していた。虐げられたあの日、自分を救ってくれる者はいなかった。


 差別という理由ではない同じ虐げられる立場だった。


 けれど今――彼女は、手を差し伸べる側になれたのだ。


 その背中を見つめながら、クランツはふと思う。


 この二人は――似ているのかもしれない。


 そんなことをクランツは思いながら二人の背中を見守った。

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