第三十五話 訳あり犬の子
フラメナはエルレットに伝えた集合場所へと赴く。
そこはガレイルの屋内であり、フラメナは宿からここに来るまでに買った水を、屋内にある椅子に座りながら飲み、待っていた。
「おはよ」
「五分前なのに偉いわね!」
「それはあんたもでしょ」
エルレットはフラメナの肩に手を乗っけて顔を出してくる。
「エルトレ、今日は何するか分かってるかしら?」
「メンバー探しでしょ?」
エルトレという名はエルレットのあだ名とも言えるものだ。本人もそう呼ぶことを推奨している。
エルトレは剣士である。
フラメナとエルトレが出会った際にしつこくパーティー勧誘を受けていたのは、彼女が実力のある剣士だったからだ。
「エルトレは剣士よね。級ってどのくらいなの?」
「あたし?あたしは風一級だけど……」
「結構強いじゃない!」
「あんたは帥級でしょ?それに比べたら別にって感じじゃない?」
確かにフラメナは帥級魔法使いで、
エルトレを倒せるほどには強い魔法使いだ。
それでもフラメナはエルトレに言う。
「強さなんて正直どうでもいいわ。
こうして私と組んでくれたのが嬉しいからね」
「……それはあたしもそうだけど」
「なんで私の魔法を見て怖がらなかったの?」
「……不気味なのに綺麗な魔法だから」
エルトレはフラメナの魔法をそう怖がっていない。
実際には恐怖は抱いているが、見せていないだけ。
フラメナの魔法は底知れぬ不気味さを除けば綺麗な魔法である。
もちろん綺麗だからといって、元々ある不気味さをどうにか出来るかと言われれば、無理である。
「エルトレは不気味だと思ってるものに惹かれるの?」
「そういう訳じゃない……でも、あんたの魔法が噂として流れ始めて、特徴を聞いたときに真っ先に思ったことは綺麗だった。昨日、実際に魔法を見たけど、綺麗だったし……」
「……綺麗とは言われたことあるけど、私の魔法を不気味なものって理解してそう言ってくれたのはエルトレが初めてだわ」
「そう……?」
フラメナは立ち上がると歩き出しながら話す。
「エルトレみたいな人が増えたらあと一人パーティーが見つかるのに、誰か都合よく入ってくれないかしら?」
「そうそういないでしょ……」
「地道に声かけてくしかないわね」
フラメナとエルトレはそこから、
様々な者たちに声をかけ、パーティーに入ってもらえたら依頼を受ける生活を繰り返す。
パーティーに入った者たちは、等しく一日でやめてしまう。
「……全然ダメじゃん」
「まぁそういうものだわ……」
何日もこうした生活をしていてフラメナはわかったことがある。
まずエルトレはかなり良い子だと言うこと。
案外、フラメナの言うことを聞いてくれる。
喋り方や態度からかなり自由なタイプかと思えば、素直に言ったことを聞いてくれる。
そしてエルトレはかなり強い剣士だ。
どういう戦い方をするのかと思えば、斧と剣が合体した大剣を用いて変形させながら戦う。
ハッキリ言ってかなり奇抜な戦い方だ。
彼女は魔刃流であり、魔法をある程度扱いながら戦う。
風の斬撃とその変形する武器が合わされば上級以上の強さにも匹敵する。
これがまだ十三歳なのだからすごい話だ。
重たそうな武器を担ぎながらも魔法を扱い戦う。
天賦の才が溢れていると言っても過言ではないだろう。
最後にエルトレはフラメナの魔法に惚れている。
依頼中もそうだが、いつもフラメナの魔法を凝視しており、ぞわぞわとしながらも目に焼き付けるように魔法を見ている。
そのことについて聞くと照れたように赤面し、たどたどしくなるのが彼女である。
「そう言えば……弟がいるのよね?」
「え、あぁ……まぁいるけど」
「家には親とかがいるのかしら?」
「いないよ。あたし、両親は1年前に失ってるから」
フラメナは気まずそうに目を逸らし謝る。
「ご、ごめん」
「いいよ別に、そんな話に出しても悲しいこととかじゃないし」
彼女のジトっとした橙色の目は、どこか常に諦めたようなものである。
ベージュ色の髪は肩まで伸びており、少し癖がついてるのが特徴だ。
彼女の容姿はかなり親から引き継いでいるらしく、
父親の橙色の瞳。
母親のベージュ色の髪の毛。
整った顔立ちを見るに両親は美男美女なのだろう。
聞けば彼女の戦い方は父親から受け継いだものらしく、
戦い方にはこだわりを感じている。
なんだか訳ありな子だ。
フラメナはエルトレとパーティーメンバーを探しながら依頼をこなすうちに
自然と仲が深まり、色々なことを知れた。
エルトレの好きな食べ物は肉類。
嫌いな食べ物は野菜。
趣味は魔法辞典を読み漁ること。
フラメナと会っている時間以外は基本的に弟を世話している。
恋はしたことがない。
案外、色々喋ってくれる。
今日もまた依頼を受けた後にパーティーを抜けられた。
フラメナとエルトレは並んで椅子に座り会話を交わす。
「エルトレの弟は病弱なの?」
「生まれつき何度も死にかけてるよ。
将来は魔法使いだって言ってるけど、
あの感じじゃ、戦いなんて無理だよ」
「……エルトレはフィエルテ王国からは出れないわね」
「そうなるね……」
フラメナは少しがっかりしたように言う。
「私は世界を旅してるのよ。
ここでパーティーを作ったらお金を稼いで、
中央大陸に行くつもりなの」
「そんなことしてるの?」
「ふふ、意外?」
「意外だけど……なんで旅なんかしてるの?」
それを聞かれてフラメナは答える。
「強くなって守りたい場所があるから」
「ふーん……」
エルトレは足に手を置いて顔を下に向ける。
「もしだよ。もしあたしとあたしの弟が旅についてきたら、フラメナは嫌?」
「ぜーんぜん!むしろ大歓迎だわ!」
フラメナはそう気持ちよく言い切るとエルトレは息を吐き言う。
「……そっか、ならちょっと弟にも言ってみるよ」
「え?それって……」
「……あたしはフラメナを信頼してるし尊敬してる。
だからちょっとついて行ってみたいだけ、
どうせここにいても楽しくないし……」
エルトレはフラメナの旅についていく意思を見せた。
それはフラメナにとって嬉しいものである。
「なら行きましょ!私と一緒に世界を旅するのよ!」
「そんな興奮しなくてもいいって」
エルトレは少し笑いながらもフラメナの発言を受け入れた。
まだパーティーメンバーも見つかっていないが、
二人はこの状況すら楽しんでいる。
そして同時刻、南大陸からある船が東勢大陸に向けて出航していた。
ルルス・パラメルノ
龍刃流草帥級剣士。
彼もまた旅を行うために南大陸を発っていた。
彼を育てた親は紫の瞳を持つ霊族。
それを探すべくルルスは旅に出る。
「……フラメナさんに会いますかね~」
そんなことをつぶやきながらもルルスは揺らめく海面を眺める。
一方、西黎大陸、南部の砂漠にて。
「イグレット様、お昼の準備が出来ました」
そう呼ばれるのは現代の剣士の中で最強。
剣塵、イグレット・アルトリエ。
隻眼の彼はオラシオン王国と言う砂漠の国にて、王都の付近に家を持ちそこにて日々修行している。
「あぁわかった。
先に食べていて良いぞ。
俺は少し汗を拭いてから向かう」
「承知しました」
歳は十八ほどの者がそう言って頭を下げて屋内へと戻っていく。
剣塵、今や剣士歴代最強とも言われる彼は龍刃流。
そのせいか今の流派としては龍刃流が最強と言われている。
剣塵は怪物のような強さだ。
過去に魔王側近、暴食のチラテラ・ベゼドールを単独で撃破し、その勢いで邪族の大群まで切り伏せた。
暴食のチラテラは空間魔法と火魔法を扱い、巨大な斧で戦う魔族であった。
性格は残虐非道、対象を弄ぶように殺すのが彼のポリシー。
暴食のチラテラは魔王側近の中では三番目に強いとされていた。
剣塵と暴食の戦いは今も邪統大陸に跡が残っている。
巨大なクレーターに大きな切込みが入っており、
未だにその土地には暴食の扱っていた火魔法の残火が残っている。
剣塵は危機感を感じていた。
南大陸を滅ぼした光は魔法である可能性が高い。
それを知ってこの世界に、あの規模の殺戮を行える者がいると思うと、震えが止まらない。
一戦交えてみたいものだ。
恐怖などではない、好奇心が故の震え。
剣塵はつくづく戦闘に魅せられた戦士である。




