第三十四話 フィエルテ王国
今日から日記を残していく。
旅の記録は残したいのよね。
クランツみたいな手帳を作りたいわ!
南大陸から出航して何日かすると、フラメナは東勢大陸のウラトニ港へと到着する。
彼女の新しい生活の幕開けだ。
ウラトニ港に来たらまず行くのはもちろんーー
「いらっしゃい、久しい顔じゃないか」
「久しぶりね!お水は沢山でよろしく!」
クランツやルルスと訪れたレストランである。
フラメナは水を店主に要求し、相変わらず空いている店内にて好きな席に座る。
少ししてフラメナの席に店主が水を持ってきた。
「んじゃ、注文はどうする?」
「これで頼むわ!」
「あいよ」
この料理を待つ時間がフラメナは好きである。
静かな店内とは落ち着きやすい。
十分もすれば料理を店主が運んでくる。
それは5年前に頼んだことがあるステーキと、少しのサラダが乗った料理。
店主は料理を机に置くと、フラメナと向かい合うように座る。
「あの後、色々大変だったんだろ?」
「……まぁ大変だったわ」
「幼いのに不運なもんだな……」
店主は初めて話しかけてきた。
なんだかんだ心配だったのだろう。
「南大陸が滅んだって聞いて俺も結構ショックだった」
「……知り合いとかが居たの?」
フラメナは料理を口に運びながら話す。
「ゼーレ王国の王国騎士団第一隊の隊長だったか……
ドラテロ・フランテッド、水将級剣士のあの人はウチの常連でな」
その名には聞き覚えがあった。
王国騎士団の第一隊隊長の剣士。
ヨルバを除けば王国最強の剣士だった。
そんな彼もあの日に亡くなっている。
改めて痛感した。
あの日、何百万人もの人生が終焉を迎えたのだ。
店主の顔は寂しさに包まれている。
「仲が良かったの?」
「一ヶ月に一回、わざわざここまで来て飯を食べに来てくれたんだ。良い人でな、何度も会話したさ」
「……そうなのね」
「悪いな、飯時にこんな話して」
店主が立ち上がろうとするとフラメナが呼び止める。
「私はここの料理が大好きよ!次は私が常連になってあげる!」
「……はっ、常連と言うには来る間隔が空きすぎだよお嬢ちゃん」
「べ、別にいいじゃない!」
店主が苦笑いするようにそう言うと、フラメナは照れたように言い返す。
「お嬢ちゃん名前は?」
「フラメナ・カルレット・エイトールよ!」
「……俺は、ダスラト・バルテニアだ」
ダスラトは内心驚いていた。
まさかフラメナが本当に王族だったとは、
薄々感じてはいたがいざ本当となると驚くものだ。
数十分してフラメナは満腹で食事を終えると、銀貨二枚を店主に渡す。
「また来るわね!」
「今回は一人で旅なんだな」
「そうよ!」
「気をつけろよ。また常連が居なくなるのは嫌だからな」
店主が口角を上げて良い笑顔を見せると、フラメナも笑顔を見せて店から出ていく。
フラメナの旅の計画。
そんなものはない。
資金としてある程度の通貨は持っているが、
とてもそれだけじゃ世界を旅するには足りない。
とりあえずフラメナはガレイルにて稼ぐ必要がある。
となれば向かう場所は決まった。
「フィエルテ王国、どんなところかしら?」
フィエルテ王国。
そこは東勢大陸で一番小さい王国。
領土もそこそこあるが持っていて持っていないようなもの。
言ってしまえばフィエルテ王国は田舎である。
フラメナは節約のために徒歩で向かうことにした。
多分十五日くらいかかるだろう。
一人の旅と言うのは案外楽しいもので、
会話がない分周りの景色ばかりに視線が集中する。
東勢大陸は茶色の草が原生しており、草原などは南大陸と違って緑色ではない。
剣王山脈以外に山はあまり存在せず、比較的平原や草原が多い。
場所によっては西黎大陸や邪統大陸ほど危険ではあるが、
普通の道を歩いていればそうトラブルには巻き込まれない。
それ故に旅は順調だった。
そもそも一度旅をした大陸ではあるので、歩き慣れている。
あっという間にフィエルテ王国へと到着する。
正直フィエルテ王国によるメリットは多くない。
パスィオン王国に滞在する方が確実に良い。
だがフラメナは何も効率を求めて旅をしているわけではない。
ガレイルにて依頼を受けるには三人以上のパーティーが必要だ。
これがフラメナにとっての一番の悩み種。
この白い魔法は最初はほぼ確実に拒絶される。
ならばどうすればいいか。
受け入れてくれる人を探し続けるのだ。
フラメナは王国に着いて早速ガレイルに向かい、パーティーメンバーを募集する者達に話をかける。
「メンバーを探してるのよね。私とかどうかしら」
「おぉ入ってくれるのか、あんた魔法使いか?」
リーダーらしき魔法使いの男がそう聞いてきてフラメナは頷く。
「火帥級魔法使い、フラメナよ」
「帥級か!俺はレオダス、よろしく頼むよ」
やはり帥級ともなると信用度が桁違いだ。
一般的に上級程度の者でもちやほやされるくらいには凄い。
それと同時に上級と帥級では大きな壁がある。
才能がある者とない者の境界線のようなものだ。
故に帥級は崇拝的存在ともなる。
もう年齢も十五を迎えて子供らしさは薄れた。
そのパーティーは総勢七名。
一星級の依頼などフラメナからすれば簡単すぎる。
フラメナがいないこのパーティーなら一星級が妥当だろう。
パーティーを組んでの初仕事。
内容はこうだ。
=================
一星級依頼
森の邪族討伐(下級~中級)
報酬金 大銀貨5枚
(報酬金提供
フィエルテ王国ガレイル)
場所・フィエルテ王国
西方の森
依頼者 ララエ村
あいつら村の作物を荒らすんだよ
サイテーだよ!
森に逃げられると俺たちみたいな
農民じゃ死ぬかもしれない。
だから頼む!森の邪族を誰か
ぶっ倒してくれ!
==================
すごく簡単な依頼だ。
フラメナの魔法によって初仕事は容易く終了する。
「うわぁあああ!?」
まあメインの問題はこれだ。
「何よ」
「なんで……そんな白い火!!」
腰を抜かすリーダーの魔法使い。
それ以外のメンバーも酷く恐怖していた。
「なんでって……これが私の魔法なの」
「不気味すぎる……無理だ!無理無理!!パーティー抜けてくれ!!」
フラメナはため息をついてとぼとぼと歩き出す。
「報酬はよこしなさいよ。
私が壊滅させたんだから」
そう言って先にガレイルに帰るフラメナ。
言った通り報酬は貰えたがパーティーをまた探す羽目になった。
ここまでは想定の範囲内、
まだまだ落ち込むには早い。
そうしてフラメナはそこから何個ものパーティーに加入しては、
追い出されるように抜けの繰り返し。
一向に受け入れてくれるパーティーはいない。
「はぁ………」
二週間が経とうとしていた。
フラメナはフィエルテ王国の城下町内にある公園にてベンチに座り、悩んでいた。
このままじゃ本当にマズいわね。
稼ぎはあるけど……中央大陸に行けるほどでもないし、
パーティーである程度稼げなきゃ詰むわね。
ノルメラとか誘って連れてくるべきだったかしら……
「ちょっとやめてよ。しつこいんだけど」
聞こえてくるのは一人の女性に執拗に声をかける何人かの男たち。
女性は見た目的にまだ少女で獣族と人族のハーフに見える。
「だからさぁ報酬も普通のメンバーより多くするから、二倍だって」
「あたしそういうの興味ないんで」
どうやらパーティーに勧誘されているようだ。
こういったしつこいパーティー勧誘は嫌われている。
大体そう言ったパーティーに加入しても損しかない。
「ッチ……こっちが優しくしてりゃいつまでも……テメェの弟はどうなるかわかんねえぞ」
「あっそ、好きにすれば?あたしあなたたちより強いし」
「ナメやがって……!」
男の一人が拳を振り上げた瞬間。
フラメナは座りながらも手を向け、手から作り出される白い草属性魔法で男たちを突き飛ばす。
フラメナは立ち上がってしつこく絡まれていた女の子へと近づいた。
「大丈夫?」
「……ありがと」
すると横から男たちの声が聞こえてきた。
「なんだよこいつの白い草……!気持ちわりぃ!!」
やはり気味悪がられ男たちはそそくさと立ち去ってしまった。
こういう時はすごく便利である。
フラメナは気になった。
なぜこの女の子は自分の魔法を見て怖がらないんだろう。
だがまあ気にしたとてあまり意味はない。
これっきりの関係なのだから。
「ああ言うしつこいのは強く言い返しちゃえばいいのよ!じゃあね!」
「待って!!」
「?」
犬の耳と尻尾を生やす女の子がそう言い止める。
「その……あんた巷で噂の”純白の魔法使い”でしょ?」
「私、噂になってるの……?」
「ずっとパーティーメンバー探してるって……
そのあたしをパーティーに入れてよ!」
「えぇ?だって私、白い魔法使うけど良いの?」
「むしろ良い!それで良い……!」
興奮したように尻尾を振る女の子。
フラメナはとりあえず名前を聞く。
「私はフラメナ・カルレット・エイトール、貴女は?」
「エルトレット・ミシカゴール、エルトレって呼んで」
「本当に良いの?」
「だから良いってば……」
エルレット・ミシカゴール。
獣族の犬族である彼女は人族の血が強いのか、
耳と尻尾を除けばただの人間である。
ハスキーな声をしている彼女は常にダルそうだ。
聞けば彼女は剣士だと言う。
彼女との出会いは偶然、
この出来事によってフラメナのこれからを大きく変えることとなる。
パーティー結成にはあと一人。
あと一人をどうしようか。




