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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第三章 少女魔法使い 南大陸編
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第三十三話 自立

 南大陸滅亡から2年とちょっとが経った。


 虹剣(こうけん)1686年4月12日。


 王国再建の計画は着実に次の段階へと進んでいる。

 邪族の量は激減し、最近では討伐隊もあまり動いておらず、ルルスなどが散歩と言ってフラフラと討伐しに行くくらいだ。


 フラメナは十五歳となり、顔立ちも段々と父親の面影を感じさせる凛々しく美しいものへとなっていた。


 彼女の魔法は拒絶されていない。


 もちろんまだ恐怖する人は多い。

 だがそれで彼女を嫌がる者はいないのだ。


 なぜならこの3年間で彼女はその力を使い、

 王国再建に多くの進展をもたらした。


 魔王側近をその白い火で撤退させたこと。

 邪族を殲滅し土地を取り返したこと。

 街でも積極的に物事を手伝い、話しかければ元気な声で返答してくれる。


 そんな彼女を周りは認めたのだ。


 フラメナはパルドシ港から出てすぐそばにある墓地を訪れる。


 この墓地は3年前に建てられたもので、

 光に巻き込まれ亡くなった者達の慰霊碑を中心に、討伐隊などで亡くなった者達が埋葬されている。


 フラメナは慰霊碑の前に立ってその大きな石を見上げ目をつぶる。


 数分そのまま目をつぶり立ち尽くすフラメナ。



 フラメナ・カルレット・エイトール。

 私は王族の次女として生まれた。


 寵愛されて育った私はわがままな子供。

 貴族の時点でわがままなのは普通とも言えるけど……

 お姉様は後継ぎとして育ち、私は王国を支える魔法使いになる。

 それが運命、抵抗はあんまりなかった。


 私はもともと魔法が嫌いじゃなかった。

 けれど、私の魔法は普通とは違う。

 白い火は、見る者全てに悪寒を走らせる。

 周囲の視線が刺さるたび、私はその火を気味悪いと感じるようになった。


 私は魔法が嫌いになった。


 普通とされる魔法は、

 いつだって私の魔法と比較され、異常という現実を私に叩きつけてくる。

 私の魔法はなんで異常なんだろう?

 なんで皆と違う?

 なんで?


 なんで私だけ?


 つくづくそう思う。


 今も理解はできてない。


 でもこの白い魔法は嫌いじゃない。


 普通と違うならそれで良い、認めてくれる人が一人でもいるなら私は良い。

 世界に拒絶されようと、私は自分を好きでいたい。


 十歳まではライメもユルダスも生きていて、

 お父様もお母様も私の手が届くところにいつもいてくれてた。


 旅をして自分よりも圧倒的に強い存在や、

 剣王山脈だったり迷宮探索。

 新たな仲間だったりと、

 様々な経験を私はした。


 でも3年前、私は絶望した。


 怒りでも、悲しみでもそのどちらでもない。

 耐えがたい息の詰まり方、心臓の鼓動が早まるあの感じ。

 それが絶望だった。


 人の死とは無縁だと思っていた。

 私の目標は呆気なく消えていく、誰かのために強くなりたいだけの魔法使いなんてどこかで挫折する。

 だから私は引きこもった。


 何もできないあの日々。


 ライメとユルダスとの再会も消え、両親もいない。

 故郷も失って、何もかもない状態。

 何をして生きたらいいのかなんてわかんなかった。


 一瞬にして人が大勢死んだ。


 無力感、それに溺れた。

 同時に自分が憎かった。

 自分だけ、なんで私だけ。


 でもクランツとルルスはそんな私を助けてくれた。


 クランツが弱さを見せてくれたから立ち上がれた。


 昔からクランツが泣いたところなんて見たことない。

 でもあの時、布団の隙間から見えたクランツの顔は、自分に対しての怒りが混じった無力感を嘆くような顔だった。


 クランツでもそんな顔するのかと思った。


 弱いことは悪いことじゃない。

 歩みを止めることが悪いことだと教えてくれた。



 ルルスはいつも私を心配してくれる。

 なんでそんな心配してくれるのかと聞いても、

 ニコニコとして毎回どこかへ行ってしまう。


 ルルスは正直、頭のおかしい戦士だと思ってた。

 でもルルスは誰よりも自由に生きている。

 私は他人の視線ばかりを気にして自分を見失っていた。


 そんなルルスから自分を好きになることを学んだ。


 二人は強い。

 絶望なんて何回も経験してる。

 なのに何度も立ち上がって、涙も見せずにただ歩み続けている。


 恥ずかしかった。

 歩みを止めるのが恥ずかしく思えた。


 この3年で失ったものはあまりにも大きすぎる。

 でも得たものも同じくらい大きい。


 私は自分が好きだ。


 異常と呼ばれる魔法を使う自分が大好きだ。

 この力は私にしかない、唯一無二の個性。

 私には守りたいものがたくさんある。


 もう二度と帰る場所なんて失いたくない。


 私は旅に出る。


 ルルスもクランツもいない旅。

 二人は強い、だからこそ私は追いつきたい。


 もしかしたら旅に出て南大陸が滅ぶかもしれない。

 もしそうなれば次こそ私は耐えられない。


 でもそれでも、私は止まるわけにはいかない。

 世界を知る必要がある。


 私は強くならなきゃいけない。

 強さに執着してやる。


 だって私は世界最強の魔法使いになるのだから。


 魔法(世界)に拒絶された私が頂点に立つなんて面白いじゃない。



 フラメナは目を開けると振り返り、パルドシ港へと足を進める。

 自分が旅に出ることを伝えなきゃいけないのだ。



 昼時、フラメナはフリラメと机を挟んで椅子に座っており、向かい合って話していた。


「……本気で言ってるの?」

「私は全大陸で旅してくるわ」

「……フラメナ、世界がどれだけ危険か知ってる?」

「知ってる」


 フリラメは席から立ち上がりフラメナに近づく。


「……勇気と無謀じゃ可能性の桁が違うの」

「なんでお姉様が決めるの、私の可能性なんて誰にも分からないじゃない!」

「だからって!突然、旅なんておかしいでしょ!!」

「……っ!」


 フリラメの声が、部屋の空気を震わせた。

 フラメナは息を飲み、無意識に拳を握りしめる。


「フラメナの実力じゃ、確かに南大陸や東勢大陸、中央大陸は安全よ。

 東勢大陸は1年前に領土戦争が終わったから……

 まだその三つだけだったらわかるわ。

 でも……北峰、西黎、邪統に関しては危険すぎる。 フラメナ、貴女は無敵じゃないのよ?

 帥級の魔法使いなの!君級じゃないの!」


「わかってる!!」


 フラメナも立ち上がりそう言う。


「……フラメナ」

「私は……そんなことわかってる。

 死にに行くわけじゃない。

 私はお姉様が大好き、皆が大好きなのっ!!

 だからもう奪われたくない!!

 あの光の正体は魔法だって言われてるんでしょ?

 なら私がそれを打ち消すくらいの魔法使いになる……

 私は二度と帰る場所なんて奪われたくない!!


 現状に満足していられるほど私はまだ強くない!

 だからこそ世界を知る必要があるの!

 ここで止まったら私はこの強さのまま生きていくことになる……苦難を経験しないと強くなれない。

 お姉様ならわかるでしょ……?」


 フラメナは息を切らしながらそう言い切る。


「……私は……フラメナが死んだら……耐えれないわ」


 フリラメは涙を流しながらもフラメナに抱きつく。


「お姉様……」

「私も……二度も帰る場所が消えることなんて嫌よ。

 でも守りたくても私は弱い……!

 だからと言ってフラメナが一人で全てを背負うなんて話、あまりにも酷じゃない!」


「……背負わせてよ。

 お姉様も王国再建の事だって全部引き受けてるじゃない、お姉様だけ背負ってるなんて嫌!」


 それを聞いてフリラメは少し黙った後に話し出す。


「私は……フラメナをまだ子供だと思ってた。

 でもすっかり大人になったのね。

 ……必ず帰ってきて、それを約束するなら旅に行くことを応援するわ」


 フリラメがフラメナから離れると、

 フラメナが自信満々の表情で約束する。


「私は帰ってくるわ。絶対に」


 そう言ってフラメナはフリラメの目を見つめる。


「……明日、もう出るの?」

「うん」

「なら……頑張るのよ」


 フリラメは最後にフラメナを抱きしめすぐに離れると、フラメナは部屋を出ていった。



 フラメナは宿を出てその足でクランツの元へと向かう。

 居る場所なんて把握している。

 大体クランツは研究しかしていないので、

 パルドシ港の研究所にいる。


「クランツ〜?」

「……フラメナ様?珍しいですね研究所に来るなんて、何か御用ですか?」


 フラメナは旅に出ることをクランツへと伝えた。


「……そうですか。危険は承知ですか?」

「もちろんよ」


「私はフラメナ様を引き止めたりしません。

 魔法使いは現に格上を見て実戦を経験することで強くなります。

 だからこそ旅は効果的でしょう。確実にフラメナ様の魔法は強くなります。

 ですが……やはり少し寂しく思えますね」


 クランツは机に片手を置いて目元をもう片方の手で覆い隠す。


「……絶対に帰ってくるわ」

「そんなことは最初から信じてますよ。

 世界を旅する……過酷なものです」

「クランツはしたことがあるんでしょ?」

「はい、歳もフラメナ様と同じくらいでした。

 何度も死にかけましたよ。それくらい危険です」


 クランツはそう言って目元を覆う手を退けてフラメナの目を見る。

 その目は一切の迷いも恐怖もない、決意した者の目つきであり、クランツは不安が消えた。


「ですが……フラメナ様なら大丈夫です。

 根拠なんてないですが、わたくしはそう信じていますよ」

「ふふ、そう言ってくれて安心するわ」


 そうしてフラメナは研究所を出ていくと、ノルメラとルルスに会いにいく。



 この時間帯は大体いつものレストランにいる。


「あっ」

「あ〜フラメナさん〜」

「お嬢様もこれから飯っすか?」


 ルルスとノルメラがレストランから出てくる時に、フラメナは二人に出会う。


「食事しに来たわけじゃないわ。

 伝えたいことがあって……」


 フラメナはフリラメやクランツに伝えた旅のことを二人に話す。


「……うへへぇ〜良いですね〜」

「……危険だけど大丈夫なんすか?」

「危険だけど、しなきゃ強くなれないから」


 ルルスがニコニコしながらフラメナに言う。


「旅は危険ですけど、フラメナさんなら大丈夫ですよぉ〜、もう弱いわけじゃないですもんね?」

「私はもう昔みたいに弱くないわ!」

「なら頑張ってくださいよ〜、自分も少ししたら旅に出るつもりでしたから、お互い頑張りましょうね〜」


 フラメナはその発言に驚いた。


「ルルスも旅するの!?」

「ルルス先輩それマジっすか!?」


「二人驚きすぎだよ〜。

 そろそろ育て親を探しに行っても良いかなって」


 ルルスは育て親を探すのが人生の一つの目標だ。


「ならルルス!私たち頑張りましょ!」

「そうですね〜」



 これで必ず伝えるべき者達には伝え終えた。

 その日の夜、フラメナは宿のベッドにて横になり、

 天井を見ながら考え事を膨らませていた。


 明日から旅に出る。

 東勢大陸から中央大陸、中央大陸から北峰大陸、

 北峰大陸から西黎大陸、西黎大陸から邪統大陸。

 後半はとても辛い旅になる……

 死ぬかもしれない。

 でも私は死ぬ気なんてない。


 約束したのだもの、帰ってくるって。


 大丈夫、私なら大丈夫。


 フラメナはそう思いながらも段々と意識が薄れていき、眠りについた。



 虹剣1686年4月13日。


 パルドシ港から出ている東勢大陸行きの船の前には多くの人が集まっていた。


「じゃあ、行ってくるわね!」


 フラメナはそう言って後ろを向きながら船に乗ると、多くの人が手を振っており、前の方にはクランツ達などがいた。




 見送ってくれる人は多かった。

 フラメナに不安はない。

 今はただ自信が溢れる。


 帆が大きく膨らみ、港の喧騒が次第に遠ざかる。

 岸辺で手を振る皆の笑顔が、胸に焼きつく。


 ――自立。


 白い髪を持ったフラメナ・カルレット・エイトールは、遂に少女から大人へと歩みを進めた。

第三章 少女魔法使い 南大陸編 ー完ー


次章

第四章 純白魔法使い 邁進編

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