表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第三章 少女魔法使い 南大陸編
31/142

第二十八話 閃裂の剣士

 私はあの日、息子と妻を失った。

 息子はユルダス、妻はリラメット。


 どちらも私からすれば、手に余る幸福。

 ユルダスは勉学にも励み、剣術も怠らない正に完璧とも言える息子だ。

 ユルダスが五歳の時に、私はフリラメお嬢様に同行し中央大陸へと向かった。


 ユルダスは別れ際泣いていた。

 ダメな父親だ。結局成長したユルダスも見れないまま、私は家族を失った。



 リラメットは酒場で働く店主の娘さん。


 正直一目惚れだった。


 訓練を終えて酒場でその日の疲れを癒す。

 それが私のルーティンだった。


「いつもこの時間に来てますね?これサービスですよ」

「え……あぁありがとう」


 まだ覚えてる。サービスとして渡された焼いた肉。

 肉は薄かったがそれでも美味かった。

 むしろ、今までで一番美味かった料理だ。


 私は何年も酒場に一人で通っていつも食事をしていると、次第にリラメットは私を覚え、入店すれば真っ先に声をかけてくる。


「今日も来たんですね!いつものでいいですか?」

「あぁ……そのリラメットさん」


 私は遂に告白した。

 結果はあっさりと成功、どうやら両片思いだったらしい、それからすぐに結婚して俺は家庭を持った。


 騎士団長として働き、帰れば可愛い息子と愛した妻がいる生活。

 悪くない、永遠に続いてほしいものだ。


 だがもう、その二人はいない。

 私は孤独だ。

 人生の意味を最近は考えている。



 ヨルバはそれでも刀を握る。


 ヨルバ・ドットジャーク。

 空間を引き裂くような斬撃を放つ彼の力強い剣術を表すが如く、ついた異名は閃裂(せんれつ)


 彼の虚ろげな瞳に邪族の騎士が映る。


 すると張り詰めた糸を切ったかのように騎士が一気に踏み込んで接近してきた。

 空を裂くかのような速度で向かってくる騎士に、

 ヨルバは刀を上に振り上げた状態で構え、

 一気に振り下ろす。


 その斬撃は空間を裂いた。

 黒い霧が発生した瞬間巨大な斬撃が放たれ、

 それは地面に大きな溝を作りながらも

 騎士の眼前へと迫っていく。


 その斬撃を横へと飛んで避ける邪族の騎士。

 斬撃の速度は確かに速いがこれは君級同士の戦い。

 邪族の騎士もかなりの実力を有している。


 ヨルバはゆっくりと刀を再び上へと振り上げ、

 その状態で構えると前へとジリジリと進み続ける。


 刀や剣を上へと向けた状態の構え、

 それは力刃流(りきばりゅう)という流派の中でも最難関の戦い方。

 剣を振り上げたのならば攻撃以外で振り下ろすことはない、それがこの流派の戦い方。

 燃え上がる火のような構えは、時に相手を圧倒する圧を放つ。


 ヨルバは一切の恐怖もなく無防備に腹を晒し、

 騎士の攻撃を待っていた。


「……来ないのか?」


 騎士はその戦い方に警戒しており、

 少しの間二人は睨み合うだけだった。


 その緊張した状態を打ち破るのはヨルバ。


 大きく距離が離れた二人だったが、ヨルバは地面を踏み込み前へと飛び出すと、一気に騎士を間合いへと入れて刀を振り下ろす。


 その斬撃はまた空間を裂き、巨大な斬撃を放つ。

 騎士はそれを避けると振り終わりのヨルバへと、

 横凪に剣を振い、ヨルバの首元に凶刃が迫る。


 ヨルバはその一瞬にして首元へと迫る剣により、

 命の危機に晒されるが、首元に土属性魔法によって作り出された岩石で剣を防ぐ。


 防いだ後にヨルバは体勢を一気に低くして、

 騎士を通り過ぎると背後から立ち上がり

 刀を振り下ろす。


 知性がなければ、戦闘本能でしか動けない。

 だからこそ、こちらが異常な動きをすれば簡単に隙が生まれる。


 知性のある者は何手先も予測する。


 同じ君級でも知性が有ると無いとでは強さが変わってくる。


 ヨルバの斬撃が肩口から斜めに入り、片腕が吹き飛び、騎士はその衝撃で前へと倒れ込む。


 力刃流土君級剣士、閃裂のヨルバ。

 彼を倒すのであれば、彼の構えに怯えないほどの覚悟が必要だろう。


 騎士の邪族は魔力で腕を生やし剣を持って突っ込んでくる。動きは確かに速い、だがあまりにも単調。


 ヨルバは違和感を感じていた。


 魔力は確実に君級、だがあまりにも……

 知性がないとは言えここまで単調じゃない。

 君級にしては弱すぎる……高級なものばかり適当に入れた料理のような……素材だけで戦っているこの邪族はなんだ?本当に生きているのか?


 どう考えたって弱すぎる。


 ヨルバは突っ込んでくる騎士に向けて刀を上から振り下ろし、真っ二つに切り裂くと一瞬で塵となって騎士が消えていった。


「君級邪族……ここまで弱いはずがない」


 ヨルバは刀を納めると一人雪原の中で立ち尽くす。


 ーーーーーーーーー


 一方、北峰大陸にて。


「なんだ?魔城島から何か来てるぞ……!」


 監視島から海を見る魔法使い。

 見えるのは魔王側近の傲慢シルティ・ユレイデット、まさか攻めてきたのかと思い警報を鳴らす。


「ギャーギャーうるさいのう……そんなに怖いか?この王とも言える我が!!」


 良い気分なのか少し笑いながらそう言うシルティ。

 すると早速、大陸側から大量の魔法が飛んできた。

 そのどれもが帥級以上、普通であればやり過ぎなくらいの攻撃だ。

 だが魔王側近のシルティに対しては少し攻撃が少なすぎる。


 シルティは抵抗することなく魔法に全て直撃し、船ごと海へと沈む。

 しかしそんなことでやられては傲慢を冠するにはあまりにも弱すぎる。


 海が黄金に輝き、そこから現れたのは、元の二倍ほどとなった身長のシルティだった。

 体は黄金に光り輝いておりそのまま海岸へとやってくる。


「ひっ……ひぃ!」


 魔法使いが腰を抜かして地面に尻餅をつくが、シルティは殺しもせずただ無視して大陸を進むだけ。


「お、お前!何の用でこの先に行くつもりだ!」

「王の道を開けよ。生憎貴様らを殺すと叱りが来るのだ。死にたくなければ退くが良い」


 シルティの前に立ち塞がる剣士は黄金に輝く巨体のシルティを見て、震えながらもその場から動かない。


「……ふん、時が違えば殺していた」


 シルティは大きく跳び上がり一瞬で大陸の奥へと向かっていく。

 誰も攻撃できなかった、直感で分かるのだろう。

 攻撃すれば殺されるだけだと。


 傲慢のシルティ・ユレイデットは、

 強化魔法のみを使い拳で相手を負かす。

 武器も魔法での攻撃は一切使わない。

 ただひたすらに強化した肉体で相手を叩き潰す。

 それが彼の戦い方。


 自らを王と呼ぶが何の王なのかは誰も知らない。

 適当な性格だが戦う姿は猛獣そのものだ。


 傲慢のシルティ・ユレイデットが魔城島から出たことは二週間ほどで全大陸に伝えられる。

 彼が何を目的に移動してるのかは分からないが、

 遠く離れた南大陸でも少し話題になるものだった。


 ーーーーーーーーーー


 虹剣(こうけん)1683年12月18日。


 フリラメは宿の部屋で悩みながら一枚の紙を見ていた。そんなところにフラメナがやってくる。


「お姉様急に呼んでどうしたの?」

「フラメナにちょっと意見が聞きたくてね」

「私、賢くないからお姉様が求めるようなことは言えないわよ」

「それでも構わないわ」


 フリラメはベッドに座ると、

 フラメナも隣に座って紙を覗き込む。


「中央大陸に今王国再建の協力を要請してるのだけど、条件がこれで少し悩んでるのよね」


 中央大陸は一番豊かな大陸。

 故に資産の量は凄まじい。


 中央大陸が提示した条件は二つ。


 ・30年以内に渡した金額の返済。

 ・邪統大陸防衛戦争時、必ず協力すること。


「これが良くないの?」

「そうね……借りる金額としては大金貨三千枚ほど、

 30年で返すなら事業を一つ成功させなきゃ不可能。

 それと邪統大陸防衛戦争に強制参加となると、

 帥級以上の魔法使いや剣士達が、防衛戦争時に一時的に大陸からいなくなるのよ」


 フラメナは難しそうな顔をするフリラメを見て言う。


「難しい話ね……あんまよくわかんないけど、私は良いと思うわよ!」

「なにか理由はあるかしら?」

「特にないわ!」

「……でもどちらにせよ承諾しないと再建は不可能、

 それでも何か他に方法とかないかしら」


 フリラメは横に座るフラメナの膝に向けて体を倒すと、紙を持ち上げながら考える。

 するとフラメナは全く関係のないことを言う。


「お姉様って私と髪色も目も違うわね」

「ん、確かにそうね……私がお母様似でフラメナはお父様似って感じね」


 フリラメは紙を離れたところに置いてフラメナに抱きつく。


「なんだか……疲れちゃうわね。

 ヨルバさんが雪原で君級邪族と接敵したことも……

 金銭面での交渉も……

 それ以外にもやらなきゃいけないことがたくさん。

 こうも問題が山積みなのいつぶりかしら」


 疲れたようにそう言うフリラメを見て

 フラメナは意外そうに口を開く。


「お姉様も疲れるのね」

「ふふ、私だって人間よ?」

「だってお姉様完璧人間みたいなんだもん」

「完壁……全然そんなのじゃないわよ」


 フリラメはフラメナからゆっくり離れて立ち上がる。


「私は人より少し色々出来るだけで、精神面じゃ普通と同じ、案外落ち込むのよ?」

「なら落ち込んだら私を呼んでよ、会いに来るから」

「だから今日呼んだって言ったら?」

「やっぱり意見なんて聞くつもりなかったのね!」


 フリラメは揶揄うように微笑みながら、

 紙を取って机の上に置いた。


 すっかり打ち解けた姉妹。二人がいる部屋からは、

 楽しそうな声が聞こえ続けていたそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ