第二十七話 執理政
虹剣1683年12月4日。
フラメナはルルス、クランツと共に、
昼時のパルドシ港の街中を歩く。
南大陸は確かにほとんど滅びた。
だがそれでも着実に復興し始めている。
南大陸の三国が険悪だったのは貴族のみであり、
貴族も一般人も大勢亡くなった今、ゼーレ王国再建という計画は南大陸全体の希望でもある。
「パルドシ港もだいぶ活気が戻りましたね」
「お姉様が来てからじゃないかしら?」
「みんな希望を感じてるんだよ~」
フリラメはカリスマだ。
彼女は戦うことができない。
それでも知恵とは時に力を超える。
彼女はずば抜けて頭が良い。
それ故に王国再建と言う宣言が現実性を帯び始め、
人々に希望を与えたのだ。
「現に王国再建の計画ですが非常に順調ですね」
「ねえクランツ、私いまいち計画知らないのよね!」
「話をちゃんと聞いてなかったんですね?」
フラメナはそう言われて目をそらすと、
クランツがため息をついて計画について話し出す。
step1
平原に在する大量の邪族を討伐し、
王国を再建する場所の安全を確保する。
他の大陸からの協力を要請する。
step2
南大陸に残ったわずかな生き残りを探し、
王国再建のために建てられた仮設住宅へ招く。
step3
王都の建築を終え、地道にそこから復興。
フラメナは計画を聞いて頭の中でそうまとめる。
色々と細かい問題は省かれているが、
大まかな流れとしてはこの通りだろう。
「クランツさぁん~邪族って今どのくらいいるんです~?」
「数はわかりませんが、まだまだ王都を立てる場所を制圧するには時間がかかるでしょう」
「難しい話ばっかね……少しくらい気楽になりなさいよ!」
「フラメナ様も最近は暗かったじゃないですか」
クランツがそう言うと、
フラメナがクランツの足を蹴る。
痛そうにクランツが後退りしていると、
ルルスがニコニコとしながら話す。
「でも元気になってよかったですよ~」
「ルルスの言葉のおかげよ!」
フラメナはクランツを蹴るのをやめ、
ルルスの腕を掴み大きく揺らす。
「うぅぁぁ~揺らしすぎですぅ~」
クランツは蹴られた足を少し痛そうにしながらも、
前のように元気なフラメナを見て少しホッとしていた。
そうして三人は昼食を食べるために、
パルドシ港内にあるレストランへと入っていく。
昼時なのか店内は賑わっており、
三人は満席ギリギリの中テーブル席へと座った。
メニュー表を見ながら会話が始まる。
「なんだかこうして皆さんで食事するのも久しぶりですね」
「そうですね~」
「……なんか懐かしいわね。南大陸に帰ってきてからこうやって三人で揃って食事なんてしたかしら?」
南大陸に帰って来て三人は今のところ苦労しかしていない。
ルルスは邪族討伐などに日々を費やし、
クランツは南大陸を滅ぼした光の研究。
フラメナは幼いにも関わらず、多すぎる悲劇。
精神はまだ回復し切ってはいないが、明らかに笑顔は増えた。
「自分は討伐ばっかですからね~」
「ルルス様が何回治癒魔法目当てでわたくしの元に来たことやら……」
困ったように言うクランツの後にフラメナが少し笑ってルルスに聞く。
「ふふ、まだ無茶する癖は直ってないの?」
「直んないんですよ~」
「……いつか直してくださいね?」
「考えとくです~」
クランツがそう注意するように言うと、ルルスはニコニコしながら受け流す。
するとフラメナは会話している間に注文する物を決めて、クランツへとメニュー表を渡す。
クランツはそれを受け取って目を通しながら、フラメナへとあることを聞いた。
「そういえば……最近夜中にフラメナ様を見かけるのですが……何をしていらっしゃるのですか?」
少し恥ずかしそうに驚くフラメナ。
「帰るところ見られてたの!?」
「わたくしも遅くまで研究ですからね」
「あはは~偶然の遭遇だったんですね~」
フラメナは続けて言った。
「討伐作戦が終わってから魔法の練習をしてたの、
まぁただの八つ当たりみたいなのよ……
昨日まで目標なんてなかったし……」
「……目標とはなんですか?」
クランツはフラメナの目標を聞く。
「もう帰る場所を失いたくないから、何が来ても守れるくらい強くなる。それが私の目標よ」
クランツはそれを聞いて微笑むとメニュー表をルルスへと渡して話す。
「良い目標ですね。そう言った目標はとてもフラメナ様らしいです」
「なんだか少し恥ずかしいわね……」
「恥ずかしがる必要なんてないですよ~、立派で良い目標ですから~」
ニコニコとしながらそう言うルルス。
「そ、そうかしら?褒めすぎよ……!」
照れるようにフラメナは顔を下へと向ける。
そうして全員が注文する物を決めると、店員を呼んで注文内容を伝え料理が届くまで待つ。
その暇な時間にクランツはあることを聞いてきた。
「南大陸を襲ったあの光、フラメナ様とルルス様は何だと思います?」
「災害です~?でも規模がおかしいですね~」
「でも魔法であんなこと出来るのかしら?」
クランツは頷くと口を開く。
「今のところ研究の進捗では、
魔法である可能性が高いです」
「あんな規模の被害を出せる魔法なんてあるの?」
「そんなの伝説でしか聞いたことないですよ~」
クランツはそのルルスが言った伝説を拾い話す。
「その伝説に登場するんですよ。
空が赤く光るとき裁きが下る。
そう記されているんです」
「その伝説って何伝説?」
フラメナがそう聞くとクランツは答えた。
「執理政伝説。
五つの理を管理する者たちが登場する世界最古の伝説ですよ」
「その五つの理って?」
「天理、魔理、生命、運命、時空。
この世界を管理しているとされる五名の通称です」
フラメナはそう聞いてクランツの声が聞こえなくなるぐらい、天理と言う言葉に集中していた。
天理……聞いたことのない言葉なのに……なんでだろ、
なんでこんなに身近に感じるんだろう?
「フラメナ様?」
「……?何?」
「話についてこれませんでした?」
「フラメナさんは難しい話が苦手ですからね~」
「別にそういう訳じゃないわよ!」
クランツは話を再開した。
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執理政。
大昔この世界に君臨していたとされる五名の総称。
神などとも言われていた存在だが、
今は理と呼ばれている。
・天理
・魔理
・生命
・運命
・時空
この五名が世界を管理しているとされる。
だがこの伝説はおよそ6000年も前の伝説、
本当のことが書かれているのかはわからない。
伝説内で五名について説明がされている。
時空。
時と空間を管理する者であり、
非常に厳しい者だったと記載されている。
運命。
運命と言う概念を自ら創造し、
世界に偶然と言う現象を作り出した。
生命と双子である。
生命。
運命と双子、生と死を管理する。
死の概念を作り出した者でもある。
魔理。
魔力を管理する者、
この者がいるから世界は原形を留めている。
天理。
以上四名を管理する者、
執理世伝説ではリーダーのように語られている。
以上五名、容姿などは記載されていない。
伝説と言えど、英雄談のようなものではなく、
執理政間でのいざこざがメインとなっている。
それ故に近年では伝説と言うよりも、娯楽小説などの題材になっている。
伝説は六章に分けられており、
現在は四章まで存在しない。
五章と六章は何百年か前に焼失しているらしい。
それ故に、伝説の全貌を知る者は存在しない。
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「……と言う感じの伝説ですね」
「ふーん……」
「もし本当にいるなら会ってみたいですね~」
「伝説上の存在ですから、会うことはないでしょう」
そうしている間に料理が運ばれてきた。
フラメナは執理政という言葉やその話に、
何か違和感を感じるが、料理が届けばすぐにそんなことを忘れ、食事を開始した。
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パルドシ港から少し離れた雪原にて。
「君級……」
ヨルバ・ドットジャークは紫の鎧を着用し、紫の仮面を被り紫の馬に乗っている騎士を見てそう言う。
紫の鎧を着た邪族の魔族騎士は馬から降りると、
水が纏う剣を抜き、ヨルバへと向かってくる。
「……全く、君級の邪族なんて邪統か西黎だけにしてほしいものだ。ここは南大陸だぞ」
雪原にて現れた君級の騎士。
ヨルバは刀を抜いて構え始める。
君級同士の戦い、それは規格外のもの。
雪原にて剣光が走る。




