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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第三章 少女魔法使い 南大陸編

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第二十二話 帰郷



 虹剣(こうけん)1683年11月20日。


 激しい光が南大陸を駆け抜け、それは船上のフラメナからも見えた。


 すると海に波が立つ、何か大きな風がこちらへと吹いて来る


 爆風だった。


 フラメナは吹き飛ばされて海に落ちそうになるも、甲板の手すりに掴まりなんとか耐える。

 船は大きく揺れ、軽いパニック状態。


「いったい何が……」


 クランツは気分を悪くしながらも立ち上がり、海を見る。


「……なんだ、あの雲」


 思わずクランツは素の言葉遣いが出る。

 それもそのはずだ。


 南大陸側の雲だけが酷く赤く変色しており、少しするとそれは真っ白な雲へと戻る。


「フラメナ様…」

「何よ今の……!」

「すっごい揺れたね~大丈夫~?」


 ルルスがそう言いながら船内から出てくる。

 フラメナはたった今起きたことを伝えた。


「南大陸側から光が……」

「え~?なんだろうね~」


 三人が気になることは、他の者たちが気になることでもある。


 そうしてそこから何日かしてゼーレ王国のパルドシ港に着くと、三人は驚愕する。

 いや、船に乗っていた者全てが目にする。


「何これ……」


 フラメナは港の建物に貼られた紙を見る。


 その内容、それは信じられないこと。


  ゼーレ王国

 ーヴァイザー王国   滅亡ー

  レーツェル王国


「フラメナ様……」

「嘘……嘘よ!すぐに馬車に乗っていくんだから!」


 フラメナはそう言って走り出してすぐに馬車を持つ男へと話しかける。


「ゼーレ王国まで!今すぐ!」

「おいおい、ゼーレ王国はもう……」

「いいから乗せなさい!お金ならあげるから!」


 後ろからクランツとルルスがやってきて、クランツが馬車を持つ男へと事情を聞く。


「すみません……南大陸では何があったんですか…?」

「……わからねぇ、ありえねえ現象が起きてんだ。わかってることなんて一瞬にして三国消えたことくらい、俺も……母さんに会えてねえんだ」

「……わたくし達をゼーレ王国まで連れて行ってはくれませんか」

「良いけどよ。期待なんて無駄だぞ………」


 クランツはそれでも良いと言うように頷くと、三人は馬車に乗ってゼーレ王国に向かう。



 あの頃見た緑豊かな草原は、灰色に変色してほぼ全てが枯れており、村があった場所には瓦礫が残るだけ。虫、動物、人族、魔族、獣族、霊族、邪族も、何もいない。


 数日して三人はゼーレ王国に辿り着いた。


「瓦礫のみですね~」


 ルルスはニコニコとした表情ではなく、真顔でただ崩壊した王国を見ていた。

 崩壊した王国には、人が少し見えたがいずれも捜索を行っている者たちばかり、現地の人間ではない。


「ライメは………?ユルダスは?お父様もお母様も………!」


 フラメナは膝から崩れ落ち、地面に拳を叩きつけて額を擦りつける。


「うぅぁっぁぁぁ!!」


 世界に存在する知性を持った者たちの数はおよそ4000万人。

 南大陸には200万人ほど住んでいる。


 後から分かったことだが、そのうちほぼ200万人があの日を境に消えているのだ。

 だが遺体は見当たらない。

 それでも建物は半壊したり、瓦礫として残っている。


「まだ幼いってのに、家族を失ったのか……」


 馬車を持つ男はフラメナが地面に突っ伏す姿を見て、同情するようにそう言う。


「なんで……!なんでよぉ!」


 泣き声と混ざる悲痛な叫び、まだ十二歳のフラメナにとって、こんな現実など到底受け入れられない。



 お父様は?


       お母様は?


 城のみんなは?


      ライメは?


 ユルダスは?


    ユタラ村は?


     約束…


 『またいつかこの場所で』


 みんなは?……みんなは?



「フラメナ様、とりあえず……パルドシ港に帰りましょう」

「うっ……クランツ、みんなは……みんなはどこなの?」

「……もう、いないのです」


 クランツはそう言いながらも少し声を震わせていた。

 ルルスは南大陸に思い出などはない。

 だがこの活気溢れていたであろう街を見て、表情がいつもの様に緩むことはなかった。


 この災害の原因は不明。

 自然災害なわけもなく、魔力によって起こされる災害でもない。

 領土戦争中だったと言えど、この範囲を爆発させる魔法なんて存在しない。

 深く考えずとも明らかに不可能だ。


 南大陸でまともに残った村はヴァイザー王国のデルト村、レーツェル王国のケルエイ港、そしてゼーレ王国のウラトニ港とイハト村のみ。


 パルドシ港に戻った三人は宿を取り、フラメナが寝た後に二人で今後のことを考えていた。


「……どうします~?」

「とりあえずは、フラメナ様が落ち着くまでウラトニ港で生活しましょう」

「なんだか……かわいそうだね」


 クランツはルルスに珍しく弱音を吐いた。


「これからどうすれば……十二歳の子供にこんな経験、心が持つはずがない……」


 目を覆い隠す様に手を顔に当てるクランツ。


「クランツさん……」

「ルルス様、ルルス様は南大陸を離れて東勢大陸に向かってください……こんなことに巻き込むわけにはいきません。それにあなたは育て親を探せるほど強い、もう頃合いです」


 クランツはルルスにそう伝えると、ルルスはそれを拒んだ。


「仲間。自分にとってクランツさん、フラメナさんは仲間です。ですから~手助けさせてくださいよ〜いや……絶対に手助けしますよ~無理やりにでも自分は残りますから~」


「ルルス様……」

「それに、今自分が居なくなったら本当にフラメナさんは立ち直れなくなってしまいますよ」


 ルルスはフラメナが言ってくれた「仲間」という言葉を非常に大事にしており、もはや彼の人生観の中心ともなっているのだろう。


「………そうですね。そこまで言ってくれてありがとうございます」

「一緒に頑張りますよ~」



 翌日。

 フラメナは昼過ぎまで寝ていた。


「………」


 日差しが鬱陶しい、そう思い寝返りし分厚い羽毛布団を頭まで被る。南大陸は少し冬が早く、今日から雪が降り始めた。

 


「フラメナ様………?」


 ノックをして入ってくるのはクランツ。


「お食事は…」

「……いらない」

「そうですか……」


 クランツはそう言って大人しく扉を閉めて部屋を離れる。


「……なんで」


 フラメナの脳内にはひたすらに幼少期の記憶がフラッシュバックする。


 思い出すたびに苦しくなる。もういないのだ。

 もう誰もいない、強くなる理由は?

 誰のために?

 なぜ強くなりたいのか?


 守りたかった。

 守りたい場所だった。

 でもあの場所はもう存在しない。


 二度と同じ風景は見れない。


 フラメナは唇を噛みしめてうずくまる。



 私にとってそこからの日々は虚無だった。



 何度かクランツが話しかけてきたり、ルルスが話しかけてくれたけど、まともに返事なんてできない。

 自分でも驚いてるわ、ここまで何もする気にならないなんて。


 ウラトニ港では日々王国再建のために働く人が多い。

 なんでみんな前を向けるの?

 私は……私は自分が嫌い……

 何にも知らなかった……知ろうとしなかった。


 なんで当たり前にみんなが生きてるなんて思えたの?旅をするということはつまり、長い間会えなくなる。

 普通に生きて普通に幸せを感じて寿命で死ぬ、そんなの出来すぎた運命…


 なにもできない。

 体が全く動かない、今もこれからも何が楽しくて生きていくのかわからない。


 ひたすらにわからない


 知らない

 わからない

 知りたくない

 わかりたくない


 

 一か月経った。

 

 私はこれでも王族。聞いた話によるとお姉さまが帰ってくるらしい。だから王国再建が進んでいるのね。


 お姉様がどういう人かは知らない。

 外は寒そうだった。雪も降ってる。

 色んな人がそんな雪の中、外を歩いている。

 私は何もせずにただ天井を見つめている。


「フラメナ様……」

「……何」

「そろそろ……お外に出てはどうでしょうか」

「……いやよ」

「そうですか……」


 最近はこんな会話ばかり、わかってる。

 辛いのは私だけじゃない。

 でも…足に力が出ない。

 起き上がれない。


「クランツ……こんな私放っておいて貴方の人生を楽しみなさいよ」


 すらすらと言葉が出た。

 驚くくらいにネガティブな発言。


「お断りします」


 拒否された。

 あのなんでも言うことを聞くクランツが拒否した。


 なんだかすごくイライラする。

 でも……拒否してくれて少しホッともしてる。


 なにこれ?

 わからない、こんな感情知らない。

 なんで私、クランツにイライラしたの?


「フラメナ様……悩みをわたくしに言ってはくれませんか」

「……」

「わたくしではダメでしょうか?」

「……」

「フラメナ様……わたくしは、寂しいです」

「……」

「元気で、無邪気で、少し勢いがありすぎるフラメナ様は太陽のようでした」

「……」

「フラメナ様は、なぜ強くなりたかったのですか?」

「……」


「守りたかった……」


 私がそう言うとクランツが黙った。


「ライメも……ユルダスもいた。あの光景を守りたかった」


「もう五年も前ですね。わたくしがフラメナ様に会って間もないころ。フラメナ様は普通の魔法が使えないながらも、魔法使いの頂点になると言ったんですよ」


「……」

「わたくしは非常に良い夢だと思いました」

「……」

「白い魔法を使うフラメナ様が誰よりも強くなる。そんな光景を見てみたいと思ったのです」

「……」

「……わたくしは仲間をすべて失っています」


 え?

 クランツがそんなことを言った。

 そんな辛いことがあったの?


「わたくしは五星級パーティーに所属していました。そこでの生活は楽しく希望溢れるもの……パーティーは数年して解散しました。それぞれの道を目指すために……二十名いたパーティーメンバーはわたくしを除いて、全員が旅を始めたのです。わたくしは南大陸に残りましたが、一人ずつ訃報を伝える風便がわたくしの元に来たのです」


「……」


「気分は最悪でした。かつて苦難を一緒に乗り越えた仲間たちが死んでいくのを聞いて、わたくしは耐えられませんでした。気分を紛らわすためにひたすらに邪族を討伐し、味のしない食事をして、なんの希望も持てない朝日を眺める」


 クランツでもそんな…



 クランツはフラメナが心を閉じてしばらくの間、ずっと悩んでいた。

クランツはフラメナの姉であるフリラメが来るまで、王国再建のリーダーである。

 クランツは強く、賢く、王族に仕えていた魔法使い。

 それ故に彼の指示を聞く者は多かった。

 王国再建に頭を悩ませることは多くない。

 なぜなら理由がハッキリとしているからだ。

 

 それ故に一番の悩みはフラメナだ。

 どう声を掛けたらいいかわからない。

 でも同じ気分は味わったことがある。


ーーーーーーーーー


「だははは!クランツ!また今日もオマエのおかげで助かっちまったなぁ」

「別に何もしてねえよ」


 クランツは十五歳の時に世界中を旅をしている。

 二十三歳の時に南大陸に帰ってきてそのままガレイルでパーティーへと加入した。

 それから3年間、パーティーでクランツは将級魔法使いとして活躍し続けた。


 リーダーはヘクアト・メットザール。

 水将級(すいしょうきゅう)剣士である。


「クランツ、オマエパーティーが解散したらどうすんだよ?」


 酒に酔いながらそう言ってくるクランツ。


「別に……また旅でもしようかと思ってる」

「夢がねえなぁ……」

「ははは、少しくらいあるさ。魔法を極める……それが目標だ」

「クランツ知ってるか?学ぶってのは教えることで得られることもあるんだ」


 クランツは、ジョッキを片手に持ってそう言うヘクアトを見る。


「何が言いたい」

「オマエは魔法の先生になれよ」

「俺には向いてねえよ」

「バカ言え、オマエ教えんのうめえぞ?」


 クランツはその何気ない会話を覚えていた。

 そんな何気ない会話でも、印象には残ったのだ。


ーーーーーーーーー



「何やってるんだろうって思いました。ただ意味もなく生きてるだけ……その時思い出したのです。パーティーリーダーと交わした会話で、わたくしは魔法の先生になることを少し考えていたんですよ。それからそれにしがみつく様に必死に勉強して、なんやかんやあってフラメナ様に出会いました」


 クランツの声が震え始めた。


「わたくしが出来たからこうなれとは言いません……

ですがフラメナ様が立ち直るまでわたくしは離れません。

わたくしはフラメナ様が胸を張って

一人で生きていけるまで支えるのが役目です。

なぜならわたくしは

フラメナ様の先生なのですから……」


 クランツがそんなこと言うなんて思ってなかった。

 確かに愛はすごく感じるし感謝してる。

 でもここまで愛されてるなんて思ってなかった



「お父様!たかいたかいしてー!」

「ああ良いぞフラメナ」


 ……


「お母様!わたし今日は外に出たい!」

「うーん…まぁお父様に言ってみましょうか」


 あぁ……


「フラメナよ、学校はどうだ……?」

「……楽しくないー!」

「そ、そうか……」


 お父様は険しい顔だけど……案外甘かった、お母様も優しかったし、だから家政婦の人が少し厳しいくらいで、お父様もお母様も優しかった。


 あの二人は育児が下手なんだと思う。

 いつも困った顔を私に見せていた。

 でも今ならわかる……


 私は羽毛布団から少し顔を覗かせてクランツを見た。


 多分、愛だったんだ。


 困り果てても必死に接してくれた。

 正解がわからなくても諦めない。


「フラメナよ、どうだ良い景色だろう」

「きーれー!」

「フラメナは綺麗な景色が好きなのね」

「良いことだ。偉いぞ」

「わたしえらいのー?」


「あぁ偉いさ、生まれてきてことすら……」


 お父様もお母様も、確かに魔法使いになることを強要しがちだった。

 でも……貴族は強い魔法使いがいないと地位を確保できない


「フラメナはこの王国が好きか?」

「すきー!きれいだもん」

「そうか、気持ちは同じだな」


 守りたかったのかな、ゼーレ王国を愛していたんだ……



 ぐるぐる考えていると何日か経っていた。

 無意識に生きてたんだろう。

 早朝からクランツもルルスもいない。

 まだ日が昇る前に寒い外に出て作業してる。




「……バカみたい」


 フラメナはベッドから起き上がり、くしゃくしゃになった寝間着を脱いで風呂場に向かって体を洗う。

 入浴を終えるとフラメナは部屋にて綺麗に畳まれた自分の服を着て、髪を結び上着を着た。



 私は何も知らない。

 皆が消えるとき何を思っていたかなんて。

 家族を失っても働く人の気持ちなんて。


 でも、それでも皆必死に生きてる。


「ふぅ……頑張るわよ」


 目標はない。

 やりたいことも明確じゃない。

 でも生きてみようと思う。


 あのままうずくまるのが私の運命だなんて嫌だから。



「クランツ、ルルス、おはよう……!」


 クランツとルルスはすぐに振り返った。


「フラメナ様……!」

「あはは、待ってましたよ~」


クランツがフラメナに近寄る。


「お待ちしておりました……」

「待たせたわね……」


今日からまた生きよう。


フラメナの背後から日が昇る。


新しい一日を朝日が知らせてくれた。

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