第二十一話 運命
2025/7/18 改変
君級魔法使いは現在、七名。
君級剣士は五名存在する。
世間というのは何かと順位付けをしたくなる。
君級の中にも強さの順番があるが、明確に定められた順位ではない。
強さの指標とするのはあまりお勧めできないが、それでも全てがデタラメかと言われるとそれは違う。
凍獄、エクワナ・ヒョルドシア
個の力だけであれば君級魔法使いの中で”三番目に強い”とされている。
「すごいですね~……」
あのルルスやクランツでさえ少し引いてしまうような強さ。
邪族と接敵してもエクワナは一瞬で倒してしまう。
彼女は基本氷魔法以外戦闘には使わない。
なぜなら混合魔法を行うのが面倒くさいからである。
「あんた達も中々強いじゃない、十六層まで四人で来たんだろう?」
「それはそうですが……」
「それほどでもです〜」
ルルスは照れるようにニコニコしているが、クランツはあまり自信のなさそうな顔でエクワナを見ていた。
五人はフラメナが道を燃やし、魔法陣を破壊しつつ、主の部屋を目指す。
するとある場所でエクワナが四人を止めた。
「目の前の通路を抜けたら主の部屋だ。本当何度夢見た光景なんだろうね…あんた達には感謝してるよ」
エクワナの瞳は真っすぐ通路の奥を見据えており、彼女がどれほどこの光景を待ち詫びていたかが伝わってくる。
「……あんた達は部屋の入り口で待っててよ。あたしがお礼にパパっと終わらせるから」
そうは言うが、明らかに主への長年蓄積された殺意が見える。
いつもは戦いたがるフラメナやルルスでさえ、大人しく戦闘の機会をエクワナに譲った。
エクワナは鞄から魔法球を取り出して、主の部屋へと恐れることもなく入っていく。
「……随分小さいね」
部屋にいる主はエクワナが想像していた主とは違い、黒い鎧を着て仮面を被った騎士のような魔族が剣を構えてエクワナへと歩いて来る。
部屋は迷宮内と比べて明るく、フラメナは後方から黒い鎧の騎士とエクワナのオーラが、ぶつかり合うところを見ており、少しだけ身体がゾッとする。
「クランツ、あの騎士って……」
「えぇ……将級です」
「近接は剣士が有利なんですよね〜?
いくら君級魔法使いでもキツいのでは~?」
ルルスがそう思うのは至極全うである。
だが、彼女は君級魔法使いだ。
常識が通じるはずがない。
エクワナは魔法陣を一気に五つ展開する。
魔法陣とは基本、数が多くなれば多くなるほど維持が難しくなるが、エクワナは特に手こずる様子もなく維持をしている。
「氷嶺絶」
黒い鎧の騎士が一気に踏み込んでエクワナへと接近する瞬間、一つの魔法陣から極太の氷の柱が出現し、黒い鎧の騎士が接近するのを防ぐと、残る四つの魔法陣からは横一線に氷塊が放たれる。
これによりエクワナと黒い鎧の騎士は、一直線でしか戦えない状況となる。
「氷崩波」
逃げ道がない黒い鎧の騎士に向けて、氷の塊が波のように前から何もかも潰すように進んでいく。
黒い鎧の騎士は氷の波を斬撃で切り裂き破壊すると、氷がキラキラと舞う中一気にエクワナの至近距離に入り、剣でエクワナを突き刺そうとした瞬間。
「絶対零度」
エクワナは剣を氷の塊で一時的に一瞬受け止めると、魔法球を持たない手で黒い鎧の騎士の顔面へと触れた。
瞬きすれば黒い鎧の騎士は全身が凍り付いており、戦闘は終了する。
「え、あんなあっさり?」
「……将級と君級では圧倒的に差があるんですよ」
エクワナはデコピンを凍り付いた騎士に放つと全ての氷が崩壊し、魔法球を鞄の中にしまって四人の方へと歩いてくる。
「さっ、帰ろうか」
会った時からそう大きく変わらない自信に溢れる表情をした彼女は、そう告げてくる。
「師匠、帰るってどうやって?」
「あの魔法陣見えるかい?奥にある祭壇みたいなの」
リクスは目を細めて凝視すると、奥に祭壇のようなものが見える
「まぁ祭壇前にとりあえず行こうか」
五人は明るい部屋の中央を歩き、祭壇前に辿り着くと大きな魔法陣が青く光っているのが見えた。
「水属性?」
フラメナはクランツに習った知識でそう言うが、あっさりとエクワナに関係ないと言われる。
「別に属性はあんま関係ないさ、知ってるかい?転移迷宮は出るときに転移魔法陣でしか出れない。こうやって主の部屋にある転移魔法陣は、転移する場所が完全ランダム」
その言葉にフラメナが驚いたように言う。
「じゃあ他の大陸とかに出ちゃうのかしら!?」
「あははは!まああり得る話だけど、安心しなとっておきのアイテムがあたしにはある」
「そのアイテムとは?」
クランツがそう聞くと、エクワナはドヤ顔でピラっと一枚の紙を取り出す。
「転移魔法が使える魔法使いは霊族のみ、現在この世界に転移魔法使いはいない。でも紙として魔法陣が残ってるのさ。これさえ使えばあたしが指定した場所に帰れる」
「じゃあそれで迷宮から出たらよかったじゃない」
フラメナがそう言うとエクワナは残念そうに答える。
「それがいくら魔力流しても使えなかったのさ、迷宮は未知の世界。なんか謎の力が働いてるのかわかんなかったけど、今なら使えるでしょ!」
転移魔法陣の描かれた紙は現在世界に十六枚ほどしかない。
値段は計り知れないだろう。
エクワナは転移魔法陣の上に紙を置くと、紙に描かれた魔法陣が光りだした。
「ちなみにエクワナ様……これはどこに出るのですか?」
「ハルドラ村さ、エガリテ王国の端っこにある村だよ」
「ならわたくし達としても都合の良いものです」
「あんた達、ハルドラ村に寄ったことあんのかい?」
クランツがハルドラ村での出来事などをエクワナに話す。
「そうだったのかい……あんた達からすれば不運だったけど本当に助けられたよ。特にその白髪のお嬢様に助けられちゃったね」
「フラメナよ!」
それを機にリクス以外がエクワナへと名乗る。
エクワナはそれを聞いて「覚えておくよ」と言うと転移魔法陣へと体を向ける。
「んじゃ行こうか」
五人は魔法陣の上に乗るとハルドラ村へと転移した。
フラメナは転移する際に見えた女性の石像を見ながらも、すぐに景色がハルドラ村へと切り替わったことを感じる。
「おじいちゃーん!!」
転移先はハルドラ村のカイメの宿で、エクワナは扉を開けて走って中へと入っていく。
少しするとカイメの大きな声がエクワナを歓迎する声がしてきた。
一ヶ月ほど迷宮に時間を取られてしまったが、何とか四人は迷宮を脱出。
その日はとりあえず宿に泊まることにした。
四人は最初はどうなることやらと思っていたが、結果的に良い結果となった。
エクワナは期待通りリクスを引き取ってくれて、旅から離れることとなり、フラメナやクランツにルルスは、君級魔法使いという存在と知り合えた。
どう考えたって良い結果でしかない。
翌日。
「ではわたくし達は南大陸へ向かいます」
「クランツさん。孫をありがとう…リクス君はうちで責任をもって預かるから安心しておくれ」
「いえ……感謝であればこちらのフラメナお嬢様に」
「私!?」
リクスは出会った時とは見違えるほど生気に溢れた顔で、三人を見ていた。
「お前ら、ありがとう」
「ふふ、良いのよ。当然のことをしただけだから!」
思えばリクスは最初は奴隷商人に捕まって売られるところだった。
そんなところを助けたフラメナ、あの時リクスを助けていなければこの光景は生まれなかっただろう。
エクワナはクランツへと最後に話しかける。
「何か困ったらあたしを頼ってくれ、必ず力になるよ。他の二人も同じ、困ったらあたしを頼んな!」
清々しい笑顔を見せながらも手をクランツに差し出すエクワナ。
クランツはそれを握り握手しながら思う。
少しトラブルはあったが全員無事だ。
さぁ帰ろう、南大陸へ。
「リクスー!またいつか来るからねー!」
フラメナは村を出る際、リクスへと手を振りながらそう言う。
リクスもまた頷きながら大きく手を振るのであった。
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ハルドラ村を出て三人は、クランツが言った通りのルートでウラトニ港へと向かうと、そう苦労することもなく一ヶ月ほどで着いた。
二年前と変わらずあまり活気が溢れてるとは言えない。でもフラメナやクランツからすればそれは非常に懐かしいものだろう。
「クランツさん〜ご飯食べていきません〜?」
「良いですね。時間的にも頃合いですから食べてから船に乗りましょうか」
「私、ここに来た時初めて食べたレストランが良いわ!」
ルルスはさっぱりだがそこは空気を飲んで合わせる。三人はレストランへと入ると店主が相変わらず水はいるか聞いてきた。
「久しぶりだな。旅は成功したのか?」
そう聞いてくる店主、それに対してフラメナが「大成功よ!」と返すと少し店主は口角が上がり、メモ帳を取り出す。
「そりゃ良かった。んで水はどうする?」
「普通でお願いします」
「自分も同じで〜」
「私だけ大っきいのが良いわ!」
「あいよ」
それから水が提供され注文すると、フラメナとクランツは初めて来たときと同じメニューで、ルルスはステーキを頼んでいた。
楽しく旅を振り返るような会話をしながら三人は食事を進める。
食事が終わり、店主と軽く別れの挨拶をして店を出ていき、船に乗って南大陸へと向かう。
クランツは相変わらず海に虹をかけているが、フラメナは船が海を渡る中、ただ水平線を見続ける時間が多く、ルルスは寝てばかり。
早く旅の話をライメとユルダスに聞かせてあげたいわ…
どんな反応するかしら
少しにやけるフラメナ。
船が出て四日ほど、フラメナは今日も水平線を眺めていると、南大陸側の空に白く光る流れ星が落ちるのを見た。
「なにあれ……?」
ーーー同時刻南大陸ーーー
「この領土戦争いつまでも続くんだろう……」
「そんなの誰も分からないですよ……」
南大陸では領土戦争が起きていた。
手紙はなぜかフラメナ達に届いていなかったのだ。
今日もライメとユルダスは王国が指定した避難先でひっそりと暮らす。
領土戦争は三ヶ月前から行われており、手紙も出されていた。にも関わらずなぜ届かなかったのかは、誰にも分からない。
「そう言えば……だいぶ男らしくなりましたね」
「やっとだよ……でもまだたまに間違われるけどね」
「フラメナは知らされてるのでしょうか…クランツ先生が言ってると良いんですが」
「クランツ先生は気が付いてたし……どっかで言ってるんじゃないかな?」
ライメは男である。
少し可愛らしい顔つきであるが、ちゃんと男の子だ。
剣士ではないため筋肉も多くない、その体つきは女の子と間違われても仕方がない。
だがそれでも″男の子″だ。
「知らなくて帰ってきたら驚くでしょうね」
「あははは、それはそれで見てみたいね」
ライメはそう笑いながら、窓の外に見えた光がライメの目を照らした
「?……ユルダスあれ」
「……光?」
ライメは次の瞬間。
南防山脈から光が迫ってきて王国を呑み込んだ時に察する。
あれは光じゃなくて、爆発。
そこからライメは冷や汗を一気に流し、急いで魔力で魔法陣を描きユルダスを片手でこちらに寄せる。
「ライメ……!?」
「っ!!成功して!成功して……!」
耳鳴りが収まらない、視界は一面真っ白。
いつも通り朝日が昇り生活が始まるはずだっ。
今日はひどく眩しい、なぜ?
だが理解なんてできるはずもない。
なぜなら理解よりも早く、光が多くのものを吞み込んだからだ。
フラメナは南大陸方面が激しく光るのを目にして、何とも言えない不安を感じる。
その日、南大陸は原因不明の大爆発によって滅亡したーー
第二章 少女魔法使い編 東勢大陸編 ー完ー
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第三章 少女魔法使い編 南大陸編




