第十六話 リクスの頼み
フラメナ達は依頼が邪族の罠だったことを、ガレイルの受付へと伝えた。
「そんな……申し訳ございません……」
受付の女性はただそうやって謝ってくる。普通ならどう考えたって許されないであろうが、許さないような事態になった者は、そもそもここに戻ってこない。
クランツは受付の女性へと続けて伝えた。
「恐らく星が低い依頼で死者が出ていたのは、この件と関係しているかと。それと、これは早急に大陸中に伝えてほしいのですが。魔王側近の邪族が東勢大陸に出向いています……実際に遭遇しました」
受付の人は最初は何かの冗談だと思い、クランツ以外の顔色を見るが、明らかに恐怖を感じているもので、いつもニコニコしてるルルスですら苦笑いする。
「……失礼な事をお聞きしますが、なぜ遭遇したのに逃げきれたのでしょうか?」
「わかりません……気まぐれで生かされたのか。それとも何か意図があるのか」
「絶対気まぐれよ……!だって、私たちを殺す気だったじゃない!」
フラメナは殺されかけてる。
あの時、もしルルスが咄嗟に身体を押してなければ、フラメナはここにもういない。
「自分は命の恩人です〜?」
「ほんっとルルスのおかげで助かったわ!」
フラメナはそう言ってルルスの手を掴み、上下にブンブンと振る。
「……では魔王側近が東勢大陸で発見されたことは、他の大陸に伝えておきます。それと依頼内容は変わってしまいましたが…評価としてはもう十分に二星級パーティですので、昇級となります」
受付の女性がそう言うと、異強パーティは遂に二星級へと歩を進めた。
東勢大陸にてフラメナたちが旅をする中、南大陸では二人の子供が魔法を日々練習していた。
「……あ~、やっぱり先生がいないと難しいね」
「まあ、そうですね。クランツ先生は将級魔法使いでありながら、僕たちのような低級魔法使いに魔法を教えるのが上手かったですね」
ユルダスとライメは今日も魔法を練習している。
休憩なのか地面へと二人で座り、空を眺めながら会話をしていた。
「最近フラメナちゃんが無呼称、無陣で魔法を放ってたのが凄すぎることに気が付いたよ」
「普通に考えて…どうやったらあんなこと出来るんですかね」
「はぁ…フラメナちゃんが先生としてほしいな」
「どう考えても、フラメナは教え方が下手ですよ」
ライメはそれを言われて苦笑いすると、東の方へと顔を向ける。
「元気にしてるのかな……」
「元気でしょう……だってフラメナですよ?」
「あのこと結局言えなかったな……」
「え?言ってなかったんですか?」
「言ってないよ!ちょっと言うには勇気いるし……帰ってきたら言いたいな」
「その時にはかなり驚かれるでしょうね……」
ライメは杖を取り出して、その場から立ち上がる。
「よし、このまま考えてたら日が沈んじゃう!魔法練習やろう!」
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二年経った。
私は十二歳になったしリクスも十一歳、ルルスは十九歳でクランツは三十二歳。
クランツが三十二歳なのには驚いたわ……
そんなことより、二年も経てば、私たちも強くなる。
二星級パーティになって半年くらいで三星級にはなれたの、でも三星級からはやっぱり敵が強いのよね。
大体の邪族が上級、帥級とかも出てくるし、ルルスとかクランツには結構助けられたわ。
でもクランツが言うには私ももうすぐ上級の魔法使いらしい。
あんまり実感は湧かないけど…そうとなると嬉しいわ!
この二年でルルスはまだ二級のまま。正直、級なんかどうでもいいらしいのよね。
二級なのに帥級くらい強い……とんだ詐欺師よ。
帥級剣士と言えば、私を攫ったところのリーダーも帥級だった。
ルルスはあれと同レベルって考えると、クランツがどれほど強いか改めて実感するわ。
最近はクランツの授業も少なくなって、ひたすらに依頼をこなす日々。
リクスも段々と魔法を使えるようになってきて、戦闘でも少しだけ戦うようになった。
今の生活には満足してるわ。
ゼーレ王国の生活ほどではないけれど、それでもこの四人がいれば充実と言うには十分!
今日は何と戦うんだろう?
宿で身支度を終えたフラメナは集合場所に向かうとパーティの三人がいた。
「おはよう!」
そう言えばそれぞれが返答してくれる。
「今日も依頼ね、私は今日もコンディション完璧よ!」
「フラメナ様、その前にリクス様からお話です」
「あら、そうなの?」
リクスが頷くとあることについて話し始める。
「……そろそろ俺は師匠を探したい」
クランツとフラメナはハッとしたように思い出した。
元はと言えば、リクスは師匠のところに向かうのが目標だった。
「おおおお覚えてたわよ!」
「忘れてたな」
リクスはジトっとした目でフラメナを少し見つめると、切り替えるように話す。
「まぁそれで、お前らたちに無理について来いなんて言わない。魔法は多少使えるようになってきたし、北部に向かおうと思うんだ」
まるで迷惑はかけたくないから、自分一人で向かおうという言い方。
フラメナはリクスの肩を掴んで言う。
「ついていくに決まってるでしょ!」
「フラメナ……でも北部は領土戦争中だぞ」
「だからこそよ。もし私たちがついて行かなきゃ死んじゃうわよ……!」
北部は一年ほど前から領土戦争で、ソレイユ王国とエガリテ王国が正面からぶつかり合っている。
領土戦争中の領土では、基本一般人は外を出歩いてはいけない。
なぜなら殺されてしまうから。
一般人を執拗に殺しには来ないが、敵だと思われて殺されることがほとんどだ。
それ故に領土戦争中の領土は、よっぽど強くない限り生きては帰れない。
「でも、いいのか?」
「自分は大丈夫ですよ~」
「わたくしも構いません」
「ほらね、私たちは仲間なのよ!」
リクスは少し感動したのか、鼻をすすって感謝する。
「良いやつばっかだ」
そうとなれば今後の動向が決まる。
まずパスィオン王国のガレイルでパーティ活動休止を伝え、エガリテ王国とパスィオン王国をつなぐ、唯一の道。剣王山脈の断剣渓谷、そこを通らなければ北部には入れない。
だが今は領土戦争中、その道は塞がれている。
無理に通ろうとすれば確実に戦闘が起きる。
ならば通るべきは剣王山脈、あの険しい山々を登るしかないのだ。
「剣王山脈は知っての通り高等級の邪族が多いです。人族は逆に少なく、知性がない魔族や獣族などが多いですが、やはり一番の警戒するべき相手は魔族の中でも強力な竜族でしょう。竜族はつがいでの行動が多いため会うとすれば二体同時、一体でも帥級上位の強さはあります」
クランツがそう言うとフラメナが説明終わりに質問する。
「剣王山脈ってどれくらいで抜けられるのかしら?」
「トラブルなしで一ヶ月、トラブルの量によっては二ヶ月はかかるでしょう」
「長いですね~」
これからのことは決まった。
剣王山脈を抜けて北部を旅する。もし見つからなければまた考えればいい、四人は早速剣王山脈を登るための準備を始めた。
虹剣1683年8月29日。
四人はパスィオン王国の城下町を発って、剣王山脈へと向かう。
遠くからでも視認できる険しい山脈、少しばかりのワクワクと不安が募る中、歩みを進める。
クランツはパスィオン王国を離れるにあたって考えてることがあった。
ゼーレ王国から手紙は来ていない…俺の魔力が込められた石を渡してはいるが…果たして風便がちゃんとこちらに向かってきてるのか…
大陸間はさすがに飛んでられない、だから風便を二度、三度と魔活法で飛ばす。
そうすればこちらには来るはずだが…まだ手紙は来ていない。
二年も経って領土戦争が起きないなら、一度帰ってみてもいいかもしれない…
北部での旅が成功するかはわからないが…もしリクスの師匠であるエクワナを見つけられなければ、フラメナお嬢様以外の二人に南大陸に来るか聞いてみてもいいな。
どちらにせよ、もう少し後の話だ。
考えるのはまた今度でいいか。




