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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十九章 純白魔法使い 完結編

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第百六十五話 忘却

「……今回は賑やかね」

「走馬灯が流れてるみたいなものよ」


 フラメナは精神世界で天理のアンヘルと再会した。


 周りの風景は前回と違って真っ白ではなく、

 今まで生きてきた中で、印象に残っている風景が点在する場であった。


「まずは……お疲れ様ね。

 魔理は無事に封印されたわ」

「……ならよかったわ」


 フラメナは自身の身体を見て、

 今回は服が着せられていることに気がつく。


「今回はちゃんと服着せてくれたの?」

「着せるも何も、貴女自身の意思よ」



 少ししてフラメナはため息をつき、

 その場に座り込む。


「私、死んだのよね?」

「えぇ、死んだわ」


 アンヘルは隠すこともなく、

 はっきりとそう伝えた。


「……」


 残念そうな寂しそうな表情のフラメナ。

 アンヘルに罪悪感が募る。


「その……正直私を恨んでくれて構わないわ。

 貴女に色々と押し付けてしまったもの……」

「アンヘルさんを恨んだりなんかしないよ。

 これが運命なら、私はもう受け入れる」


 フラメナの目は諦めていた。

 生にはもはや執着していないようである。



「一つだけ聞きたいの。

 魔理は悪者なの……?」


 フラメナは魔理トイフェルの目標を聞いて、

 ただ良い世界を作り上げたかったことに対し、

 自分は本当に正しいことをしたのか不安だった。


「魔理は悪者じゃない。

 私と同じ、良い世界を作り上げようとした一人よ」


 天理のアンヘルはフラメナに背を向けて話す。


「魔理の目指す世界はフラメナさんが言う通り、

 生命が真に生きていない空虚な世界。

 確かに不平等はなくなるだろうけど、

 そこに幸せも、幸せを感じる人もいなくなる」


 フラメナはそれを聞き、少し黙ってしまう。


「私は思うの。どれだけ私たち執理政が動こうとも、

 結局は文明を育む者たちが変わらなければ、

 世界は不変のままであると」


 アンヘルは続けて話す。


「だからこそ、この世界は時代として区別されるほど、激しく絶え間なく変化し続けている。

 変化のない世界ほど空虚なものはないもの……

 そこの考えで私とトイフェルは衝突したわ」


 フラメナは立ち上がり、アンヘルの肩を触る。


「?」

「結局、正義も悪もないってことね。

 ただの意見の食い違い……

 なんだかんだ。アンヘルさんも普通の人っぽいね」


 フラメナはニコッと笑ってそう言った。


「……フラメナさん」


 その笑みは心の底からものだった。

 肩から重荷を下ろした彼女の表情は明るかった。


 アンヘルはそれを見て息を吸って吐いては、

 新しい話題を持ち出す。



「悪い話と良い話どっちから聞きたい?」


 フラメナはそう聞かれて少し悩むと――


「良い方!」


 フラメナがそう言えば、アンヘルはそのことについて話し始める。



「フラメナさん。

 結論から話すと、″貴女は死なないわ″」


「え?」


 アンヘルの告げるものは、

 あまりにも衝撃的で幻想的なものだった。


「生きられるなら生きていたいけど……無理でしょ?

 だって私の身体は反動で壊れて、魔力も切れてるし……どう考えたって無理よ!」


 アンヘルは自身に指をさした。


「私は天理。役目は他の執理政と理の最終的な管理。

 執理政が生涯で一度限り扱える力はご存じでしょ?

 それを今から貴女に使います」


 フラメナはそれを聞いて疑問が深まる。


「でもっ! それは6000年前に使ったんじゃ!」

「肉体的な死を迎えても、精神的な死はまだです。

 貴女を救うには生命と運命に抗わなければいけない。となると二個代償が必要……」


 アンヘルはそう言うとフラメナへ手を差し出した。


「肉体、精神、その次は存在……

 私は存在ごと消え、世界の記憶から抹消される。

 三度も無理に力を使う代償です」


 平気な顔をして言うアンヘルだが、

 言っていることが真実ならば、もう二度とアンヘルのことを誰も思い出してくれなくなるのだ。


 世界に元々存在しなかった者となり、

 誰からも認識されなくなる。


「そんな……そんなにする必要ないわ!

 私は自分の運命を受け入れるわよっ!」


 フラメナは自分のためにそこまでするアンヘルに、

 必死に余計なお世話だと伝える。


「……元はと言えば、巻き込んだのは私です。

 6000年前に魔理を止められなかった私が、

 どうしてまだ理を名乗れるのか……

 もう良いんです。今回の件で心残りは消えましたし、私の役目も終わったんです。だから――」


 アンヘルは顔をフラメナへと向けて微笑む。


「これは私のわがままです。

 貴女というたった一人の命にために、

 私は全てを捨てでも貴女に生きてほしい」


 アンヘルにそんなことを言われ、

 フラメナは少しモヤっとした思いだった。


「……本当にみんなの記憶から消えるの?」

「確実に消えるでしょうね」


 フラメナは自身が生き返る喜びと、

 アンヘルという一人の存在が消えることで、

 素直に喜ぶことはできなかった。


 なんとも言えないこの気持ち。

 フラメナはどうすればいいのかわからない。


「私は……アンヘルさんにも生きていてほしいわ」

「……肉体は死に、もう私が現実で誰かと話して生きていくことはできないわ。結局、私は一人のまま。

 だからもう大丈夫、貴女の未来を見られるなら、

 私は存在が消えたって良い」


 アンヘルはフラメナへ感謝の言葉を伝えた。


「ありがとうフラメナさん。

 貴女が私の思いを継いでくれてよかったわ」



 フラメナはそんなことを言われ、

 躊躇いながらもそっとアンヘルの差し出している手を握る。


 手を握ればアンヘルは悪い話をした。


「それと悪い話なんだけど……

 貴女はもう二度と白い魔法は使えない。

 つまり、魔法を全て普通のやり方にしなきゃいけないわ」


 それが意味することつまり、

 また一から魔法を扱い直さなきゃいけない。


「そんなのどうってことないわ。

 アンヘルさんのおかげで、私には時間があるし、

 私のすぐそばには魔法教師がいるのよ?」

「ふふっ……そう言えばそうでしたね」


 辺りの風景が白に染まっていく。


「それじゃあ私から話すことは以上」

「……本当に、もう会えないのよね」


 アンヘルはそう言われて頷く。


「不思議ね……私は貴女を利用したようなものなのに、そこまで別れを惜しんでくれるなんて……」


 フラメナの頬を余る片方の手で触ると、

 アンヘルは最後に一つだけ伝える。


「幸せを守り続けるのよ。

 それじゃあね。頑張って生きなさい」


 フラメナはそう言われると頷き、

 白い世界から薄くなって消えていった。



「……やっと休めるわ。

 この先の時代は大丈夫……だってあんなにも、

 未来を守るために動ける者たちがいますから」



 アンヘルは″こちらへと振り返る″



 (みな)さんもそうは思わない?



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 魔王との戦いを終えたフラメナ。


 ライメによってその脱力した身体は、

 皆の下に転移しており、仲間に囲まれながらライメの膝の上で目を覚ます。


「……」


 フラメナは瞼を開けると、

 涙を流していた。


「フラメナ……?」


 ライメがそう声をかけてくると、

 フラメナはそれに反応する。


「……ただいま」


 ライメはそれを聞いてフラメナが、

 ちゃんと生きていることを確信し、

 涙を流し喉を震わせながら返答する。


「おかえり……っ!」


 フラメナにアンヘルとの記憶はない。


 しかし、何か大切な人を忘れてしまったようだ。



「フラメナ様……」


 クランツが目元を腫れさせながらも、

 そう呼びかけてきた。


「おかえりなさいませ……」

「目が腫れちゃってるわよ……」


 フラメナは微笑んでそう言うと、

 ライメの頬を手で優しく触る。


「帰りましょう……ゼーレ王国(故郷)に――」


 フラメナたちの帰るべき場所は、

 今も滅びることなく存在している。


 ーーー


 枯白(こはく)1692年3月25日、午後13時11分。


 邪葬戦争(じゃそうせんそう)、終戦。


 此度の戦いは邪葬戦争と呼ばれ、

 長く語り継がれる歴史の一つとなった。


 死傷者は多く、皆が全てを賭けた戦いでもあり、

 魔王軍の敗北で幕を閉じる。


 そして、邪族の王で魔王を冠する三界の一人は、

 ついにこの年に敗れて死亡したとされる。


 魔王という一つの魔法の時代が終わったのだ。


 ーーー


 執理政の三人は、魔城島上空から地上を見下ろし、

 戦いが終わったことで一息ついていた。


「終わったな……」

「はぁ……疲れたわ。もう帰っていいわよね?」


 ホロフロノスとウィータがそう言うと、

 シノはただ黙って息を深く吐いた。


「……一件落着、私たちのお仕事も一区切りね」


「シノ……?」


 ウィータにそう言われ、

 シノは何か用かと聞き直そうとした時、

 ホロフロノスが一言聞いてきた。


「なぜ……泣いているのだ?」


 シノは泣いていた。

 勝手に涙が溢れ、頬を伝って顎から落ちていく。


 なぜこんなにも悲しいのだろう。

 寂しくもやり切れない思いなのだろう。


 シノはなにか、大切な人を忘れてしまった。


「……なんで、私……泣いてるのかしら」


 ーーー


 枯白1692年6月3日。


 魔城島へと戦いに赴いていた戦士たちは、

 およそ二ヶ月弱で全員が帰るべき場所へと帰った。


 各国、戦士たちには表彰を贈り、

 村など小さな街ではお祭り騒ぎ。


 魔王軍が滅亡した知らせは、世界中を歓喜に包み込み、少しして皆に日常が戻ってくる。


 死闘の日々が過ぎ去り、

 またいつもと変わらない一日がやってくる。


 

 世界に日常が戻った。

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