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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第二章 少女魔法使い 東勢大陸編

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第十五話 魔族

 初仕事から約一ヶ月。

 毎日依頼を受けて簡単な邪族討伐を行い、物足りない戦いを何度も経験して、次第にフラメナはこの生活にマンネリし始めていた。


 四人は酒場で依頼後に暇を潰しており、フラメナは頬杖をついてクランツへと愚痴る。


「……ねぇクランツ」

「はい、フラメナ様」


「敵が弱すぎて暇よ……」

「それは事実ではありますが…あと一回でパーティの級が二星になります。もう少しの辛抱ですよ」


 二星級(にせいきゅう)パーティになれば依頼の難易度は、二級から上級にまで跳ね上がる。

 そうなればフラメナも満足する戦いが出来る。


 それを聞いてフラメナは背もたれへと寄りかかって、腕を上へと伸ばし体を伸ばす。


「んー!っは……じゃあ明日、絶対なるわよ!


「クランツさぁん、自分から一つ提案なんですけど〜、二星級パーティになったら″迷宮探索″とか行きません〜?」


 迷宮、各地に存在する邪族が作り出す拠点のことを言う。迷宮が出来る原理は不明だが、突如として出現するのが特徴的である。


「確かに迷宮探索は多くの邪族とも戦え、制覇となれば一気に三星級にはなれるでしょう。ですが迷宮制覇にかかる時間はおおよそ二ヶ月、その間迷宮内で食料を確保し、外界の情報は遮断される。わたくしとフラメナ様の都合も入りますが、リスクが高すぎるのです。ボスの級は最低でも帥級上位、強ければ君級の邪族も存在します」


 現に迷宮探索で壊滅する三星級(さんせいきゅう)パーティは非常に多い。三星級と言ってもパーティの平均的な実力は上級程度、今いる四人で迷宮探索はリスクが大きすぎるのである。


「そぉ〜なんですね〜」

「でもいつか行ってみたいわね!」



 翌日――


 四人は昇級前最後の依頼として、中級レベルの邪族討伐依頼を受注する。


「これを達成すれば異強パーティさんは、ニ星級となります。最近、星の数が少ない依頼で命を落とすパーティが非常に多いので、油断はないと思いますが気をつけてください」

「助言感謝します」


 受付の者がそう言ってくると、クランツが少し頭を下げ感謝を示し、早速現場へと向かう。


 そこはパスィオン王国の東側に位置する海岸段丘。

 大洞窟が存在するようで、そこに中級程度の魔族が住んでいるらしい。

 最近は活動が活発的で、景色を見にきた旅人を襲ったりなどしている。


「さぁ早速行くわよ!」


 フラメナの声で四人は洞窟の中に入る。

 洞窟の中は窮屈でもなく、大洞窟と呼ばれるだけあってかなり広く、だが立ち込める魔力は確かに中級程度のもので、どこか雰囲気が悪い。


「不気味だ」


 リクスが思ったことをそのまま言うと、ルルスが洞窟の壁に向けて剣を投げつける。

 あまりにも突然のことで何事かと思えば、壁が赤く変色しタコのような魔族が血を流しながら倒れていた。


「やるじゃないルルス!」

「へへぇ〜擬態してるね〜」


 ルルスが剣を取って帰ってくるまでの間に、クランツは辺りを見渡していた。


「仲間がやられたと言うのに襲ってこない?いや……違う、ここにはもう邪族がいない?」


 異常な状態に困惑していると、突如四方八方から大量の岩石が飛んでくる。

 四人は一瞬にして岩石に埋もれると、話をしながら魔法使いがその場に歩いてくる。



「ははマジで楽な仕事だ。これを思いついたリーダーは天才だな」


 魔法使いの男は岩石を退けようとした瞬間、岩を破壊して飛び出してくる何かに喉を貫かれ、胸を蹴られるとその場に倒れてわけもわからず激痛に悶える。


 四人はクランツの空間魔法で無傷であり、倒れた男は喋れないまま指を指して、必死に困惑を示す。


 男を刺したのはルルス。


「邪族は殺す。それが自分のルールですぅ〜」


 剣を男から抜くとルルスは草魔法でツタを発現させ、それで血を拭い、男がやってきた方へと向かい始めると、フラメナがそれを止める。


「待ってルルス!私たちを置いてくのはナシよ!」

「そうです〜?わかりましたぁ〜」


 一星級の依頼なのにここまで強いパーティが来るとは思ってなかった魔法使いの男、彼は一言も喋れないまま絶えていった。


「フラメナ様、ルルス様、おそらくここには魔族はいません。いるのは人族の邪族だけです。」

「ふひひ、楽しくなってきたね〜」

「あんまり乗り気じゃないけど……殺るしかないのよね?」


 クランツはフラメナの問いに頷くと、フラメナは意識を集中し、奥の空間から流れてくるオーラを視認する。


「……八人よ!赤と薄緑、黄色のオーラしかないわ!」

「では、”殺しましょうか”」


 この世界で邪族に慈悲などない、殺し殺される。

 それが当たり前、生きるには殺すしかない時があるんだ。


 クランツはそう自分に言い聞かせると、リクスを自分の後ろに歩かせ、三人で邪族を狩りに進む。



 奥の空間には、先の魔法使いの仲間が多くいた。

 全員の視線が四人に集中する。

 ここに仲間以外が来たということは、この四人が邪族の仲間を殺したことを示す。


「オマエら……!」


 魔法使いの男が魔法陣を展開し呼称しようとした瞬間、フラメナの短縮発動の真っ白な火球が、魔法使いの頭へと直撃し後ろへと吹き飛ばすと、そのまま水をかけても消えずに焼死させてしまう。


「全員でこいつら殺すぞ!」


 邪族の者たちがそう言うと剣士だろうか、三人ほどが剣を抜いて前に出てくる。


「あの三人は自分が殺します~」


 ニコニコとそう言うルルス、フラメナが頷くとルルスは驚異的な速さで一人へと突進し、剣を思い切り振りかぶり、下ろすとその剣士が間一髪剣を防ぎ、歯を食いしばって耐えてる瞬間に、横から剣士が火を纏った剣でルルスへと切りかかる。


「っ!?」


 邪族の剣士は驚愕する。ルルスはその剣を飛んで避けるとそのまま空中で草魔法を展開して、二人を縛り上げる。


 空中に出た関係で後ろにいる魔法使いたちが、電撃と風の斬撃を放ってきた。

 ルルスは避けれない、だがフラメナが火球でそれを相殺した。

 クランツが風の斬撃で、たった一人抜けてきた剣士の胸を大きく切り裂いて吹き飛ばし、奥にいる魔法使いにぶつけ、相手の陣形を崩す。


「まっ、待って!」


 ルルスの草魔法によって縛られた二人は命乞いするように叫ぶが、ルルスはお構いなしに上から同時に切り付けて着地する。


白雷嶽(ホルトラフ)!」


 残った魔法使い四人に対してフラメナが混合魔法を発動させ、白い火の波と共に大量の電撃が直撃し、一人を除いて意識を失う。


 その残った一人は空間魔法を発動して威力を軽減させたようだったが、あまり意味はなく重傷の状態で壁に背中を当てながら座り込む。


「ちょっと楽しかったですよ~」

「あんま良い気はしないけど……」


 クランツは瀕死の魔法使いに近寄り、話を聞こうと優しく話しかけた。


「なぜ攻撃してきたんですか?」

「……がっぁ……リーダーっ……」

「リーダー?」


「リーダーって誰なのよ!それにもうどこにも……」


 その場にいる全員が違和感を感じた。



 なに……この……息がし辛い感じ


 すると次の刹那、氷の斬撃がフラメナへと背後から襲い掛かる。


「フラメナ様!」

「!」


 困惑気味に振り返ったフラメナは眼前に迫る氷の斬撃見て身体が固まる。


 動けな……


 全身を這うように伝わる悪寒は、一瞬にして身体を覆い尽くし、フラメナに明確な死を想像させた。


 避けれない。

 そんな結論が出た瞬間、ルルスが草魔法で一気にフラメナを押し出して回避させる。


「あっ……ありがとう」


 フラメナは冷や汗をかきながらも、斬撃が飛んできた方に視線を向ける。


「**||*||**……いや伝わんねぇか」


「え、何語?」

魔族語(まぞくご)……」

 クランツがそう呟くと現れるのは、サメを人型にした魔族、知性なしではなく知性ありだ。


 魔族語。

 その名の通り魔族が扱う言語だ。


「よくもまあ派手に計画を破壊してくれたな」


 サメの男は冷気を纏っていて、顔は非常に険しい。


 フラメナはその魔族を見て思う。


 魔力が感じられない…?色も見えない…


 クランツは知っていた。その顔、その剣、その傷。

 三界の一人である魔王の側近、”憤怒のドラシル・メドメアス”


「っ!大結界(エンペシュルトス)!」


 クランツが焦ったように魔法陣を展開して呼称するのは、将級空間魔法。

 いつもは冷静なクランツが、珍しく焦って三人に集合するよう叫ぶ。


「その魔族は”君級の剣士”です!早くこっちへ!」


 君級。

 その級は味方にいれば心強いが、敵にいればただの絶望である。規格外の実力。君級というその一言は、三人に危機感を与えるのには十分だった。


 すぐさまクランツの近くに三人が集まると、天井に向けて杖を向ける。


颶風(フルメトラ)!」


 その風魔法によって岩石を破壊し、天井から地上までの穴が出来上がると、クランツは全員を掴み、魔力放出量を最大にして飛び上がって洞窟から逃げ出す。


 だがドラシルは動かず見守るだけであり、追ってはこなかった。


「……風将級、それ以外なら殺していたというのに逃げ出すなどつまらん」



 四人は天井に出るとすぐに馬車まで走って、その場から去る。


 汗だくになりながら荒い息を整える四人。


「君級って……!」

「あははっ……はぁっ、流石に怖いね~」

「俺死んだと思ったぞ」

「わたくしも絶望しましたよ……」


 クランツは思う。


 君級の邪族がなんでこんな大陸にまで…!

 ダメだ全くわからん、なんでここにいたんだ?



「とりあえず……王国までは追ってこないでしょう」

「私、初めてだわ、一切魔力が感じれなかった……」

「そうでしょうね。君級ほどの魔力は大きすぎて逆に感じ取れないんですよ」

「クランツはわかるの?」

「わかりますが……だからといって有利なわけでもありません」


 初めての君級との出会い、圧倒的な力量差。

 相手が執拗に追ってきていたらどうなっていたんだろうか?


 逃げ出せたことにホッとする四人であったが、その背後には、未だドラシルの視線が焼き付いていたことに、誰も気づいていなかった。

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