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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十八章 純白魔法使い 決戦編

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第百六十話 私なら大丈夫

「クランツ……少し休んだら?」


 研究所にて、転移する前のクランツ。

 彼はフリラメを護衛する中、

 常に魔城島での戦いのことを気にしていた。


 なにが起きているかを知れないもどかしさ、

 それがクランツという男を満足に眠らせることもなく、ただ窓の外を眺めるだけの行為へと至らせる。


「フリラメ様……わたくしはあの地に向かうべきではなかったのでしょうか……確かに、フリラメ様の護衛は大事と心得ています。

 ですが……ガルドン様などおります……

 過剰な護衛とわたくしは思うのです」


 クランツの本音。

 それは聞かずともフリラメは察している内容だった。確かにクランツは戦いに行くべき強き戦士だ。


 しかし、彼は確実に生きては帰ってこれない。

 必ず自身を犠牲にしてでも誰かを守る。


 フリラメはそれを理解している。


 クランツ・ヘクアメールは優しすぎるのだ。


「なりません……」

「左様でございますか……」


 部屋の中に少し気まずい雰囲気が満ちる。

 フリラメは書類を前にして筆が動かず、足の揺れが収まる気がしない。


 彼女もまた、魔城島のことを気にかけていたのだ。



「?」


 すると、上の階から何か音が聞こえてきた。


 ドタドタと階段を下る音。

 その音の正体はライメだった。


「ライメ様っ!?」


 クランツが驚くとフリラメは声を上げることもなく、口を少し開けて驚いていた。


「クランツ先生! 僕と一緒に魔城島へ!」

「……ですが」


 クランツはそう言われて少し俯くと、

 横からフリラメが肩を触ってきた。


「行きなさい。

 呼ばれたからには行くのが礼儀よ」


 フリラメが許可を出した。

 彼女の心境がどんなものかはわからないが、

 ライメがここに来てまで戦力を要請する時点で、

 あっちの状況も良いものではないのだろう。


「わたくしで良ければ喜んで向かいましょう」

「よかった……今すぐ転移魔法で転移します!」


 クランツは杖を取り出し、ライメへと近づく。


「ライメ様、一つだけ聞きたいのですが、

 わたくしが今更戦力として必要になるほど、

 あちらは苦しい状況なのですか?」


 クランツがそう言うと、魔法陣を展開している最中のライメが話す。


「フラメナは今、一人で魔王と戦ってます。

 正直、誰が加勢したって無意味なほど魔王は強い。

 だからこそフラメナしかいないんです……

 でも……フラメナはいつもと違った……いつもの自信に溢れた表情じゃなかった。絶対何かあるんです」


 切羽詰まる表情のライメ。

 話している内容は全てライメの勘に基づくものだ。


 それでもクランツはその話を信じる。


「フラメナ様を孤独にさせてはダメですよ。

 ……誰かいないとダメダメな子ですから」


 クランツは足元の魔法陣が完成すると、

 ライメの声を聞いて気分を入れ替える。


「……転移します!」


 ***


 フラメナはわかりやすい性格だ。

 だからこそ彼女の危険信号をライメは受け取れた。


 結果が変わるわけでもないが、フラメナがどんな気持ちで最期を迎えるかの重要な分かれ道。


 ライメの尽力により、フラメナに活力が再び戻る。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 やっぱり、フラメナお嬢様は心が脆い人だ。

 昔っから……ずっとそうだった。


 ここだけは変わらない。

 俺の中でずっと変わらない認識を、

 フラメナお嬢様は今もそのままでいてくれた。


 ライメが旦那になって良かったなフラメナお嬢様。



 クランツの心の声は砕けた口調だ。

 堅苦しい言葉遣いは建前である。


 フラメナが再び立ち上がり、

 魔王という存在とついに戦う姿。


 それはクランツがフラメナと出会った頃に、

 とんでもない才能を秘めた姿から連想した妄想。


 それが今、現実になっているのだ。


 思わず興奮で声援を送りたくなってしまう。


「フラメナ様……」

「……クランツ、言わなくてもわかるわよ」


 フラメナは振り返らずに言葉をクランツへ向ける。


「私なら大丈夫。自信を持てって言いたいんでしょ」


 見なくてもわかる。

 今のフラメナは笑顔だ。


「ふふっ……はい、大正解でございます。

 勢いのまま快勝してくださいませ」


 そんなことを考えてしまったクランツは、

 思わず少し笑いが漏れてしまう。


 ーーー


 フラメナがやっと戦闘を開始する体勢に入ると、

 トイフェルが小言を漏らした。


「全く……ペラペラと長く喋るのはやめてほしいな」

「じゃあ攻撃仕掛ければ良かったじゃない」


 トイフェルは両手から八本の太いツタを放ち、

 それは紫色に変色して火を纏う。


「それをしてはあまりにも器として小さすぎる。

 正面から抗う者たちを叩き潰すのが私なのだ」


 トイフェルが作り出した触手のようなツタは、

 燃え上がりながら六名へと向かってうねり始める。


 トイフェルの動きには基本的に、

 ルルス以外ついていけない。


 気持ちだけでは埋まらない実力差は大きい。


「……みんな自由にやるわよ」


 フラメナのその呼びかけは、トイフェルを侮辱するような発言でもある。


 普通なら従うはずのない指示だ。

 だが五名はそれに頷き、好きなように皆が動く。


 エルトレとルルスは触手を避けて斬りかかり、

 ライメとクランツは魔法陣を展開。


 ユルダスは隻腕のため少し離れたところから、

 一気に畳み掛けられる状況を伺っていた。


 トイフェルが最初に反応したのはエルトレの攻撃、

 場違いと思うほどの実力差にトイフェルは不快感を示し、攻撃を避けると武器を下から拳で殴る。


「!」


 衝撃によって武器が天を向いたエルトレ。


 ルルスが殴り終わりのトイフェルへ斬撃を放ち、

 横腹を斬りかけた瞬間、目の前からトイフェルは消えた。


 二人の攻撃を軽くいなした後に、

 ライメとクランツへとトイフェルが迫る。


氷景絶(アスルトランド)!」

大三風(ウィルテルトラ)……!」


 二人は魔法を呼称して迎え撃つこととした。


 氷景絶はライメのオリジナル魔法。

 大三風も同じくクランツのオリジナル魔法だ。


 氷景絶は大量の氷の斬撃を放つ魔法であり、

 大三風は三つの属性を纏った竜巻を横向きに放つ魔法だ。


 大三風は水・氷・雷の属性を竜巻に宿し、氷の斬撃を巻き込んだ後にトイフェルへ襲いかかる。


火球(フライマ)


 トイフェルは右手の人差し指から極小の火球を放つと、前方へと向けて一気に火が放出され、竜巻もろとも破壊し、二人へと爆炎が襲いかかる。


「下級魔法でこの威力ですか……!」


 クランツが非常に驚き、魔王の魔法技術に高さに少しだけ興奮しているようでもあった。


 二人に迫る爆炎を防ぐようにフラメナが白炎で横から壁を作り出し、二人の危機を救う。


 ***


 トイフェルの背後へと氷塊と入れ替わって転移したユルダス。隻腕の彼は剣を抜き、一瞬の抜刀によってトイフェルの背中を斬りつけかけた。


「やはり……あまりにも鈍いな」


 トイフェルは背中から召喚体を召喚し、

 召喚体の大きな口に付く歯にて剣を防ぐ。


「これが召喚体の姿かよッ!」


 ユルダスが驚くようにそう言うと、

 トイフェルは振り返って指を鳴らし、

 風魔法によって一気に後方へと吹き飛ばす。


 フラメナはクランツへと手を向けると、

 クランツはそれに応じて魔法陣を展開。


白帝元(ホワルトゾメラ)!」

風迅斬(ウィルフルド)……」


 フラメナの放つ莫大な白炎を吸収する巨大な風の斬撃、それはトイフェルへと正確に向かっていく。


雷球(ラグンマ)


 トイフェルは手を向けて雷の球を放つと、

 白炎纏いし斬撃に直撃する。


 トイフェルは相殺できると思っていた。


 しかし――


「……なにッ!」


 トイフェルの雷の球を打ち消し、

 その斬撃は直進してトイフェルの左腕を斬った。


「意外にも小細工は使えるのだな」


 トイフェルは燃える断面を氷の刃で削ぎ、

 一瞬で腕を再生してそう言う。


「そんな単純に生きてきてないのよ」


 フラメナは魔法を放った後、

 追加で火球を放っており、炎の威力を強めていた。


 それのより雷の球の魔力量は、

 フラメナの火が上回ったのだろう。


 再生を終えたトイフェルへと斬りかかる剣士三人。


 トイフェルは初めにルルスの剣を避け、

 エルトレの剣を召喚体の壁で防ぎ、

 ユルダスの剣を指でつまんで止める。


「さすがに萎えるな……」


 ユルダスはつままれた自身の剣を見て苦笑。


 トイフェルはつまんだ剣を横へと投げ、

 自身の足場から大量の召喚体を召喚し、

 高台のようなものを作り上げる。



火球(フライマ)!」


 トイフェルは右腕を上げて空へと向けると、

 紫色の巨大な火球が作り上げられた。


 それは徐々に巨大化していき、明らかに下級の範疇を越えた魔法と化していた。


「みんな動かなくて良いわよ。私がやるわ」


 フラメナは魔法陣を展開し、トイフェルを見上げながらもその火球に対して手を向ける。


 トイフェルはそれを見て手を下ろすと、

 巨大な火球が地上へと向かって放たれた。



天炎星(イデアリーエルト)ッ!」


 フラメナの奥義とも言える大技が放たれる。


 白炎が辺りを舞って一つに集中していき、

 それはやがて巨大な回転する白き火球となる。


 二つの火球、異なる炎色。

 衝突した瞬間に熱気が魔城島を駆け巡り、

 衝撃波のような爆風が吹き荒れる。



風切(ウィルド)


 トイフェルは火球が消えた瞬間、

 口角を上げ、随分と勝ち誇ったように魔法を呼称。


 下級魔法の風切。

 本来ならば小さな風の斬撃を放つ魔法だが、

 トイフェルのそれは規模感の次元が違かった。


 全方位上下関係なく放たれる風の斬撃。

 範囲内全てを切り刻む無双空間。

 

 それはまさに属性にて構築された領域魔法のようなものであり、防ぐことは困難を極める。


 ライメの転移が発動するまでは3秒間。

 その間に浴びせられる斬撃は百を超える。


 どう考えたって詰んでいる。

 六名に死の波が訪れた。



 しかし――


天郷(フホルトラ)!」


 ここで終わるなんてあまりにも呆気ない。

 同時に呼称されるフラメナの魔法。


 それは気分舞い上がりし絶好調のフラメナが成す、

 土壇場での属性魔法による領域であった。


 魔理であり魔王であるトイフェルは眼にする。


 自身が憎んだ者が定めた極上の才を持つ者の、

 限りなく溢れ出す魔法の躍動を――

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