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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十八章 純白魔法使い 決戦編

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第百五十九話 Re:似た者同士

 ライメたちが転移した後に、

 二人は再度ぶつかり合う。


 だが、トイフェルはあまりにも強かった。

 むしろ強すぎるくらいだった。


「っは」

「中途半端に欠片が染み込んだお前などッ!

 この私のことを止めることもできぬのだ!」


 トイフェルの紫色の霧を纏う拳が、フラメナの横腹に直撃し紙切れのように吹き飛ばしていく。


「っ……っぐ」


 フラメナはよろよろと立ち上がるも、

 眼前には水球が迫っており、フラメナの右側の頭が吹き飛ばされる。


 激しい痛みに襲われながらも身体は再生し、

 その度にフラメナは改めて実感する――


 普通の生き物ではないと。


 そんな自身への思いが今更になって込み上げてきた。こんなこと思わなかったのに、今更になってだ。


「小娘に過ぎんお前がッ!

 私たちが何千年も前から抱えてきた問題に対し、

 最善の一つでも打てると思っているのだッ!!」


 トイフェルは接近して首を掴むと地面へ叩きつけ、

 そのまま地面を擦らせながら上空へと放り投げる。


「全てが中途半端なお前が、

 私にどうやって勝てると言うのだ?」


 トイフェルは手から氷の槍を作り出し、

 それをフラメナの腹部へと投げて突き刺す。


 力無く地面へと落ちるフラメナ。


 本来、彼女はここまで弱くはない。


 彼女の頭の中に今の戦いは入っていない。

 ひたすらに自身の生きる意味と、これまでの人生や、運命に対しての不満ばかり。


 そして生きたいが故の中途半端な戦い。

 迷うフラメナは誰がどう見ても弱かった。


 こんな状態のフラメナは、

 戦士として成り立っていない。


「……小娘よ。

 お前にとって幸せとはなんだ?」


 フラメナは黙ったまま立ち上がる。


「幸せとは、常に感じ続けられるものか?

 幸せとは、一瞬の時しか味わえぬものか?

 正解などない。この世界は理不尽なことばかりだ。

 幸せを知らずに死ぬ者もいれば、

 幸せを知り尽くして死ぬ者もいる」


 トイフェルは胸に手を当てて言う。


「不平等極まれり……私が作る新世界は、

 平等とは言わず誰もが幸せを味わえる世界だ。

 辛いこと全てが消え、幸溢れる世界。

 とても良い世界だとは思わないか?


 私はなにも無意味に皆を殺したくはない。

 小娘、今なら間に合う。無気力ならば戦う意味もあるまい、私の新世界で幸せを謳歌しようではないか」


 フラメナはその話を聞いてもトイフェルへと手を向ける。


「……残念だ」


 トイフェルはフラメナへと一瞬で距離を詰め、

 腹部へと思い切り拳を放ち、後方へと勢いよく吹き飛ばす。



 あれ……なんで私、横になってるんだ?



 ライメたちが転移してから5分も経たず、

 フラメナは地面に倒れていた。


「……まるで勝つ気もない。

 なにがしたい。死にたいだけか?」


 トイフェルは血だらけのフラメナを見下ろす。


 髪色は白に戻っており、瞳も赤色。

 手足も肌色であり、全く戦う気がないようだった。


「時に諦めは肝心なものなのだ。

 己の使命に従う必要はない……」



 勝たなきゃ。

 なんのために?


 そもそも勝つってなに?

 こいつが私にトドメを刺すときに、

 手で触れて封印すればいいだけじゃない。


 このままでいい。

 べつに気張ることなんてない。



「私はこの世界を良くするために生まれてきた。

 小娘、お前は一体なんのために生まれたのだろうな。こんなにも……哀れな有様で無気力。なにがお前をそこまで沈み込ませることができるのだ?」


 フラメナは目を逸らし、

 不快感を示すように言葉を発する。


「……うるさい」

「たった一度の人生、他者の介入ばかりで歪み、

 お前は一体誰の人生なのだ?」


「うるさい……ッ!!」


 フラメナは声が震えていた。

 両手で目を覆い隠し、口角が歪む。


「私だって知らないわよっ……

 なんで全部私が知りにいかなきゃいけないの!

 少しくらい教えてくれたって良いじゃない……

 全部……無意味だった……

 こうなるなら最初からなにもしなければ良かった。

 なんで私は……必死に今まで生きてきたのよ!」


 フラメナの心が壊れるように本音を溢す。

 魔城島での戦いが始まる前から、フラメナの心はすでにヒビが入り壊れかけであった。


 自身が死ぬと確定した未来の中、

 なぜ頑張って戦わなければいけないのか。


 色欲との戦いは頑張れた。

 まだ死ぬ運命ではないから。


 でも不思議となぜか、トイフェルを目の前にしてフラメナの闘志はほとんど消えてしまった。


 結局何が起きても死ぬ。

 封印すれば良いだけ。


 なら頑張る必要はない。


「魔法もたくさん学んでっ……!!

 戦い方も学んでっ……頑張ってきたのに!

 私は色々頑張ったのにっ! やっと幸せだって掴めたのに、ここにきてなくなるなんてっ……こんなのあまりにも酷すぎるじゃない!!」


 フラメナは地面を強く手で掴み、

 拳から血が垂れる。


 ***


「なんで……なんで私だけ……」



 転移が発動した。


「辛いことも嬉しいことも共有する。

 それが仲間って言ってたな」

「じゃあ、一緒に辛い思いしに来てやったよ」


 フラメナの小さな背中の後ろに転移してきた五名の戦士。


「みんな……?」


「……なぜだ。領域はまだ閉じていないはずだぞ」


 現れたのは、フラメナが信頼する者たち。


 エルレット・ミシカゴール。

 ルルス・パラメルノ。

 ユルダス・ドットジャーク。

 ライメ・カルレット・エイトール。


 そして師匠であるクランツ・ヘクアメール。


「空間魔法、遮断(カテチラ)。貴方が扱う領域は、

 わたくしの領域によって妨害されています」


 クランツは死鐘(ししょう)と呼ばれる風将級魔法使い。


 彼は空間魔法も扱える魔法使いであり、

 トイフェルの領域を妨害することに成功する。


 領域魔法は核を中心にして展開される魔法であり、

 その核を別の空間魔法で覆われてしまうと無効化されてしまう。


 その時に押し合いが発生するが、

 必ず後者側が有利であり、クランツはトイフェルと魔力量に大差をつけながらも無効化に成功している。


 彼は本来、南大陸にいるはずだ。


「なんでここに……南大陸にいたんじゃ?」


 フラメナはクランツがなぜここにいるのか不思議そうに聞くと、ライメが答える。


「転移魔法陣の紙、それを使って先生を呼んだんだ。

 正直、何かの対策に呼んだとかじゃないよ」


「どうやら悩み事がたくさんあるようで……」


 ライメに見抜かれていた。

 フラメナが悩み事を多く抱えていることを、

 ライメは見抜いていたのだ。


「フラメナはさ……抱えてばっかりで、

 頼ることができないから、僕たちが支えにいかないといけない。本当に困った人だよ」


 ライメが優しく笑みを見せながら、

 フラメナへとそう言葉を投げかける。


「フリラメ様は転移する際に驚いてましたが、

 ガルドン様が護衛は任されてくれましょう。

 さて……勝つのでしょう? あの怪物に」

 

 クランツが指さすトイフェル。


 皆が話す中トイフェルは動くこともなく、

 ただ全員の動きを凝視するだけであった。


 この状況、トイフェルは動いた瞬間、

 大量の攻撃を受けることとなる。


 それに加えて今誰かを殺そうものなら、

 変にフラメナを刺激して覚醒でもされたら困るのだ。



 五名の加勢。

 戦力としてはトイフェルには及ばない。


 それでも、フラメナの心に火をつけるには十分だった。


 一緒に戦ってくれるのは嬉しい。


 しかし、皆がこのトイフェルという相手を前に、

 野放しで生きていられるはずもない。


 フラメナは戦う意味が見つかった。

 なんとしてでもこのトイフェルを戦闘不能にし、

 封印しなければならない。



「ほんと……余計なお世話なのよ」


 フラメナは立ち上がるなか笑みを浮かべ、

 再び髪を赤く輝かせて瞳と手足が白くなる。


「暗い表情が消えたね」

「明るい顔の方が似合いますよ」


 ライメとクランツがそう言うと、

 エルトレとルルスがトイフェルを見て苦笑いする。


「まぁどう考えてもやばそうな相手だね」

「大丈夫ですよぉ。負ける気はしませんもん〜」

「ははっ、それもそうだね」


 エルトレが笑うと、皆が武器を取り出す。


 フラメナの心は壊れている。

 それでも彼女は前を再び向く。


 生きる意味はとりあえず見つけた。

 みんなを守らなきゃいけない。


「なんか……やっとやる気出てきた。

 本当に今までなにしてたんだろ」

「無気力状態はついに辞めか?」


 フラメナはトイフェルを指さす。


「わざわざ待ってくれてありがとね。

 私はどうやらつくづく一人なのが嫌みたい。

 常に誰かと一緒にいたいから」

「ははっ、まさか勝つつもりか?」


 トイフェルは挑発するようにそう言うと、

 フラメナは一気に前方へと熱気を放つ。


「なに言ってるの? ″私はフラメナよ″」


 トイフェルはそんな言葉に不快感を感じる。


「本当に似ている……その妙な自信もそっくりだ」



 フラメナたちとトイフェルの戦い。

 それは過去6000年前に行われた戦いとは違い、

 トイフェルの敵は一人ではない。


 六名の小さき力が強大なものへと手を向け、

 (おの)が力で世界へと刃向かう。


「……許容できぬならば武力で制すのみ。

 無謀ながら立ち向かう姿勢は評価しよう。

 さぁ、わざわざ待ってやったんだ……

 戦いにて失望させてくれるなよ」


 魔城島の空は黒く、辺りは薄暗い。

 その中でフラメナが眩しく輝き皆を照らす。

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