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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十八章 純白魔法使い 決戦編

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第百五十六話 詠唱

 枯白(こはく)1692年3月25日、午前9:20。


 フラメナは風が靡く中、土魔法によって作り出された高台の頂上に立ち、目を瞑って集中していた。


 周りには十名ほどの魔法使いが立っており、

 杖をフラメナへと向けて魔法陣を展開している。


 そして背後からライメの声がかかり、

 フラメナは息を吐いて目を開ける。


「フラメナ、いつでも行けるよ」

「……えぇ」


 フラメナは一気に髪が赤く染まり、

 瞳が白く変色すると手足が真っ白に染まった。



 ここに至るまでの経緯。

 それは1時間ほど前へと遡る。


 ーーー


「攻めると言っても浮島じゃぞ……

 妾たちがあの浮島まで行く方法はないんじゃ」


 君級戦士たちのみの作戦会議。

 ユマバナがそう言うと、他四名は腕を組んで頭を悩ませた。


 会議といえど戦いが行える者だけであり、

 凍獄、海王、霹靂の三名は未だ戦闘不能状態。


 五名の君級戦士を代表し、

 ユマバナが現在指揮を行っている。


「風魔法で行くのは無理なの?」

「発想自体はいいんじゃが……いざやれば浮島を取り巻く暴風に吹き飛ばされてお終いじゃ」


 ユマバナはフラメナの発想を褒めながらも、

 現実性がないと言ってその提案を否定する。


 するとルルスがフラメナの案の次に、

 自身の考えたものを皆へと伝える。


「魔法で破壊しちゃえばいいんじゃないです〜?」

「というと?」


 ユマバナに詳細を聞かれたルルスは、

 続けてその内容を深く話し始めた。


「せっかく魔法使いがいるんですから、

 みんなの魔法を浮島にぶつけて落とすんですよ。

 そしたら浮島にわざわざ行く必要もないですし〜」


 ルルスの提案をユマバナは、

 少し考えた後に頷いて条件付きで採用する。


「良い案じゃな。じゃが、魔法を放つのはフラメナのみにしてもらう」


 ユマバナがそう言うと、フラメナは少し驚いたようになぜかと聞いた。


「私だけ? なんで私だけなの?」


「そもそも浮島まで魔法を放てる魔法使いなど、

 どこを探してもお主しかおらん。

 あの島は地上からどれだけ離れてるかもわからんのじゃが、確実に言えることは山一個分より高いところにあると言うことだけじゃ」


 ユマバナは浮島の高さによって、魔法をぶつけられるのはフラメナしかいないと言う。


「……正直、ネルがおったらお主と共に魔法を放ち、

 あの浮島を容易く落とすことができたじゃろうな」

「ユマバナさん」


 フラメナに名を呼ばれたユマバナ、

 何を言われるかと思って視線を向ける。


「ネルさんがいなくても問題ないわ。私だけで十分。

 それに……ネルさんばっかに頼ってちゃ、ずっと休めないままで可哀想よ。もう休ませてあげましょ」


 ユマバナはそう言われると、改めて自身がネルの強さに依存していたことを認識する。


 もう虹帝のネルは存在しない。

 これからの時代は残った自分たちで作るしかない。

 そのためにも魔王は討伐しなければならないのだ。


 ユマバナはフラメナの言葉を聞き、

 少し嬉しそうに微笑む。


「立派じゃな、妾よりもずっと……」



 作戦は決まった。


 フラメナの魔法を浮島にぶつける。

 それが作戦ではあるが詳しい内容を広げてみよう。


 まず、土魔法使いの力で高台を作り上げ、

 その頂上からフラメナが魔法を放つ。


 周りには十名ほどの強化魔法使いを置き、

 フラメナの魔法の威力を上げる。


 そこに詠唱と代力(だいりき)によって魔法を400%まで強化し、

 強化魔法十人分を受け100%上乗せ、それにより500%の魔法という前代未聞の魔法が誕生する。


 詳しい作戦内容はこれだけ、

 すごくシンプルと言えばシンプルだが、実際にこれを成すとなると神業の部類の入るだろう。


 浮島まで魔力をバラつかせずに魔法を放つ。


 それがどれだけ難しいか魔法使いだけではなく、

 剣士たちも難易度の高さを理解していた。


 もちろんフラメナもである。


 しかしだ。難しいからと言って諦めるような、

 臆病者の魔法使いはこの激戦前の戦場にはいない。


 午前9:20。


 フラメナ・カルレット・エイトール。

 詠唱開始。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それじゃ、強化魔法頼むわよ!」


 フラメナはそう言うと一気に大きな魔法陣を展開し、詠唱を開始する。



「曇天から入り込む天の光」



 この日は曇天である。

 日が差し込むことはないはずだったが、

 フラメナの頭上から日が差し込んだ。



耿耿(こうこう)とした光は直視するに至らず」



 思えば、フラメナが認められ始めたのは、

 西黎大陸で戦った君級邪族、砂塵との戦闘後だ。


 砂竜の中でも老個体で歴戦。

 凄まじい強さの竜に対し、フラメナは覚醒。


 あの時のフラメナは、今こうして光を身に受けながら大きすぎる闇を討とうとしている。



「視界を照らす彩光はいつも私を導いてくれた」



 魔眼、それはフラメナが十歳の頃から持つ眼であり、彼女の強さの一つとも言える。


 オーラによって相手の魔力量や属性がわかり、

 優位な状態から戦闘が始まるのだ。


 加えて眼を極めしフラメナは、微細なオーラの動きで相手の行動を予測することも可能。


 彼女の視界を彩る色たちは、

 いつだって彼女の味方だ



「変幻せよ悠久(ゆうきゅう)から続く白炎の如し」



 純白魔法。

 それは天理が扱った魔法であり、

 性質は魔理の欠片を持つ者に対して毒。

 

 そして初見にて人を恐怖させる。


 魔法というのは時代と共に形を変えてきた。

 それはゆっくりにも感じるが、実は日々、個々の間で魔法というのは形を変え続けている。


 それは魔法が誕生した頃から同じであり、

 変わらず存在し続ける魔法はない。


 純白魔法も天理とフラメナとでは、

 全く形の違う魔法なのだろう。


 

「輝き、白き魔法、戴天(たいてん)なり……」



 誰しも輝きを持って生まれている。

 その人生は光に満ちていて、

 生き方で光の強さは変わっていく。


 フラメナはどちらかというと、

 あまり光は強くなかった。


 白い魔法というのは普通ではなく、

 視線はいつも冷たかった。


 それでも彼女は今こうして輝いている。

 この世に生を受けた時点で、誰であろうと光り輝く可能性は持っているのだ。


 そんな可能性を持つ人々を踏み潰す邪族という存在が、フラメナは嫌いでしょうがない。



 呼称・魔法陣・代力・詠唱・強化魔法。


 五つの手順を踏まえ、フラメナの魔法はついに完成し、その白光(はっこう)は辺りを眩しく照らす。


天王残火(ホワフラレット)……ッ!!」


 400%の魔法は500%へと底上げされ、

 その魔法は自然を超越し、曇天が一気に晴れる。



 白炎がフラメナの手から放たれると、

 それは豪速で浮島へと向かっていき、速度は衰えることなく迫っていく。


 巨大な白き光線は浮島に当たれば、

 確実に島を落とすことができるだろう。


 それほどまでに大規模な魔法なのだ。



 そして――


 魔法は浮島を取り巻く暴風を貫き、

 直撃すると大爆発が起きて爆風がこちらまで迫ってきた。


 浮島が崩壊し、ゆっくりと地上へと落下してくる。


「……」


 フラメナは落ちゆく浮島を見ながら、

 全神経を魔力探知に向けていた。


 すると次の瞬間、フラメナが皆へと叫ぶ。


「伏せてッ!!」


 その咄嗟の言葉に反応したのは、数名の強化魔法使いとフラメナに加えライメのみだった。


 フラメナが伏せろと叫んだ理由、

 それは浮島から風の斬撃が飛んできたからだ。


「がっ」


 それは反応できなかった魔法使いを切断し、一瞬にして絶命させる。


「ライメ! 転移で一回ここを離れるわよ!」


 ライメはそれを聞いて転移の準備をすると、

 浮島から激しい光を放つ点が見えた。


「なに……あれ」

「ライメ!!」


 ライメは思わず点が気になり動きが止まると、

 次の瞬間、浮島からこちらへと真っ赤な光線が向かってきた。


「っ!!」


 ***


 ライメは転移魔法を発動し、皆を仮拠点へと転移させると、フラメナたちがいた高台が遠くに見えた。


「……なんじゃあれ」


 仮拠点にて待機していたユマバナがそう言葉を漏らすと、同じく待っていた戦士たちも唖然としていた。


 一部の人はよく知っている光だ。


 真っ赤な光。それは南大陸を滅ぼした光。


 その光は地形を破壊せずに一定の範囲を覆い、

 光が消えると灰色の地面が見える。



「……行くわよ。どっちが滅ぶか相手との根比だわ」


 フラメナは光が消えた後にそう言い、

 先陣を切って歩き出すと、他の戦士たちもそれに続いていく。


 ーーー


 一方、魔理トイフェル。


 落下し切った浮島にて、崩壊した黒城本丸から出てくると、焼け焦げた身体と傷を再生する。


「先手は取られてしまったが……

 私の反撃もそう悪くなかったようだな」


 首を鳴らして肩を回すトイフェル。

 非常に機嫌が良い様子である。


「さて……魔王軍出陣と行こうか」


 トイフェルは上級以上の召喚体を大量に召喚し、

 今までに使役してきた精鋭の戦士や種族を顕現させる。



 荒れた大地に蔓延る紫色の召喚されし者たち。


 魔法全盛のこの時代は魔王が出てきてからだ。

 七つ目の時代、魔王。


 時代が変わるか変わらないかは、

 この戦いで全て決まる。

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