間話 煌々あまねく人生の色
「ライメ、奢ってもらっちゃっていいの?
しかも大盛りだからなおさら高いわよ……」
「お腹が空いてるんだろう?
それにフラメナが遠慮する必要ないよ」
食堂にて二人は食事を行う。
フラメナは海鮮丼の大盛りを頼んでおり、
ライメは相変わらず野菜と魚の刺身だった。
「ふふ……遠慮しなくていいなら遠慮しないわよ?」
「はははっ全然構わないよ」
そうして二人は箸を持ち、
その新鮮なる海鮮料理を口へと運び始めた。
「ん……こんな美味しい魚初めてだわっ!」
「魔城島付近で釣ったらしいけど……こんな美味しいなんて……何回でも食べれるね」
生臭さもなく不快な食感でもない。
味はほんのり甘く、食感は弾力もあり、
噛めば噛むほど旨味が溢れ、肉などを超えているのかと思うほどの美味だ。
光を少し反射しているのか、キラキラと輝くその丼は非常に美しいとも言える。
食堂を照らす明るい火は、視覚的にも身体的にも暖かさを感じ、結界が崩壊した極寒の魔城島ではその暖かさがとても心地よい。
「フラメナは本当に美味しそうに食べるよね」
「ん″っ……急にどうしたの?」
ライメは刺身を口に運び、
ゆっくりと噛んで飲み込んだ後に話す。
「フラメナは貴族の中でも王族出身……
幼い頃は良いものを食べてきたはずなのに、
食べ物を残したりとか好き嫌いだとかしないよね」
そう言われたフラメナは箸を止め、
それについて話し始める。
「十歳の頃覚えてる? 私とクランツは旅に出て、
ライメたちとは離れ離れになっちゃった時……
私は旅でお城での食事とは、天と地ほどの差があるものばかり食べたわ」
フラメナは続けて話す。
「色んなものを食べて、様々な味に触れたの。
それに旅じゃ食料は貴重、自然とそう言うのは理解して今に至るってわけね」
フラメナは椅子の背もたれに寄りかかり、
ライメを見て口を開いた。
「それと、私は食事が好きよ。
お腹いっぱいになれるってのもあるけれど、
仲間との食事ほど楽しいものはないわ。
それがライメとなれば一番ね!」
ニコッと笑みを浮かべるフラメナ。
ライメはそれを見て思わず目を逸らしてしまった。
「いきなり反則だよ……」
「ふふふっ、何照れてるのよ!
ほら、食べましょ!」
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枯白1692年3月23日、午後10:38。
ライメとフラメナは一緒のベッドで横になっていた。
「……フラメナ、僕になにか隠してない?」
「……隠してないわよ」
二人は至近距離で目を合わせると、
フラメナの足がライメの足を突く。
「そっか……ならいいんだけど……
悩み事とかあったら僕に言ってよ?」
フラメナはそれを聞くとライメの手を握り、
ライメの胸へと耳を当てるようにくっつく。
「えぇ……言うわよ。
悩み事があったらちゃんと言うわよ……」
フラメナの頭をそっと撫でるライメ。
二人の足は絡み合い、温もりを互いに感じていた。
「ライメの手ってなんでこんな冷たいのよ」
「なんでだろう……氷魔法使いだから?」
「ふふ、なによそれ……そんな単純かしら?」
フラメナはライメの右手を両手で包む。
「でもフラメナの手はあったかいよ。
案外単純な話かもしれないね」
ライメは自身の手を包むフラメナの手を、
少しくすぐりながらもそう言った。
「くすぐったいわね……!」
「ごめんごめん」
フラメナは少し黙った後、
ライメへと話し始める。
「私って、なんのために生まれてきたと思う?」
「ど、どうしたの急に?」
フラメナはライメの手を握るのをやめ、
背中へと手を回して抱きつく。
「特に理由はないけど……気になるのよ」
ライメはフラメナの背中をさすりながら考え、
ある程度纏った後に答え始める。
「世の中色んな人がいるけど、みんな共通して、
幸せになるために生まれてきたんじゃないかな」
フラメナはそれを聞いても返事は行わない。
「僕もフラメナも、幸せになるために生まれてきた。
フラメナは今幸せ?」
「幸せに決まってるじゃない……」
ライメはそれを聞いて微笑んだ。
「なんのために生まれてきたか、
そんなの深く考えなくていいんだよ。
人生は案外ちっぽけなものって考えるのも、
僕は良いんじゃないかなって思うよ」
ライメのその言葉は少しだけ、
フラメナの気を楽にした。
決戦の日、フラメナは命を落とす。
それは運命として決まっており、フラメナも覚悟はできている。
だが、人の覚悟というのは、
ふとした時に緩みやすい。
ライメの背中を掴むフラメナの手は、
少しだけ力が強まった。




