第百五十五話 残命
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虹剣1692年3月22日。
午後3:12にて、全魔王側近との戦いが決着。
勝負は四班の全勝。
だが、その勝利には犠牲が伴う。
多くの戦士が亡くなり、
身体の欠損まで受けてしまった。
特筆すべきは現三界二名の死亡だろう。
三界というのは基本的に次なる候補が用意されており、現三界が亡くなった場合自動的にその者が三界となる。
戦場にて虹帝と剣塵は死亡し、
新たな三界が同時に誕生した。
枯星と純白。
彼女ら二人がこれからの三界である。
そしてそれに伴い、虹剣という時代も終わりを迎え、枯白という時代が幕を開けた。
改めて、枯白1692年3月22日、午後5:21。
戦いを終えた戦士たちは、戦闘不能の者を除いて本丸前にて待機していた。
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「これだけなのね……」
班として動いていた者たちの中で戦闘終了後、
戦闘続行可能と判断された者たちの少なさを見て、
思わずそんな言葉を漏らしてしまったフラメナ。
フラメナにライメ。
ユルダスにルルス、
レイテンにパラトア。
たった六名。
魔王討伐には六名しか残っていない。
ライメが腕を組んで話す。
「大体予想はついてたけど……六人もこうしてまだ戦えるっていう状況はマシな方なんじゃないかな」
「でも……君級四名、精鋭の将級二名で魔王討伐はさすがに無理な話ですネ……残ってる他の戦士たちも多くないですし、どうしますカ?」
レイテンが言う通り、
こちら側は戦力を削られすぎた。
元々の作戦では魔王を急襲する予定であったため、
端から真っ向勝負を挑むつもりはなかった。
「自分たちも無傷ではないですし、
万全の状態じゃないって考えると、
魔王討伐は現実的じゃないですね〜」
400年前の全面戦争時、
仙魔と六星の二名の君級魔法使いが魔王を追い詰めるも結局は討ち取ることはできなかった。
「……でもここで終わったら」
「間違いなく……再び魔王側近が生まれる」
フラメナが言った後にユルダスが話す。
二人の予想はほぼ当たっていると言っていいだろう。もしここで時間を与えれば、いずれ魔王側近がまた生まれるだろう。
パラトアは黙ったまま話を聞いていた。
「……」
「パラトアさん〜? 具合悪いです〜?」
ルルスがそう聞くと、顔を逸らして否定する。
「そっ、そんなことない!」
見るからに気まずそうな表情だ。
まぁ、それもそうだろう。
彼女は一度、本気でフラメナを殺そうとしている。
「なるほどね〜気まずいんでしょ!
いいわよ! 私はもう気にしてないわ!」
フラメナは笑顔でパラトアの手を握ると、
パラトアは顔を逸らしたまま視線を向ける。
「そ……そう。ありがと」
すると突如、地面が揺れ始めた。
「まだなにかあるの……!」
フラメナは一気に警戒度が高まり、
辺りを見渡しながらこれからに備えていた。
するとライメが驚いたように、眼前で起きる異様な光景について話し始めた。
「待って……待って待って!
前の地面が段々盛り上がっていってない!?」
「そんなわけないで……ありましたね〜!」
ルルスは振り返って地面を見ると、
すでに丘と同じ程度には盛り上がっており、
ライメの言うことは事実であった。
「こんな馬鹿げた魔法……
今の魔王軍でできるのなんてあいつしかない……」
ユルダスがそう言えば、次の瞬間轟音と共に一気に地面が浮き上がり、本丸が建つ地面は地上から離れていった。
浮島が出来上がり、揺れが収まると暴風が吹き始める。
「魔王……」
パラトアは島を見上げながら呟き、
フラメナが島を凝視する。
「紫色のオーラ……?
島全体がオーラで包まれてる……」
フラメナの魔眼はトイフェルのオーラを見抜き、
そのオーラは明らかに魔王側近よりも上である。
ライメは島が浮き上がったのを見て、
頭を回転させてトイフェルの動きを予想する。
「浮島で魔城島から逃げるつもり……?
でもそれじゃ目立ちすぎて逃げられるわけない……
さすがに召喚体と使役体じゃ魔王側近レベルの邪族はいないだろうし……何が目的なんだ」
悩むライメの肩をフラメナはそっと触り、
トイフェルの動きについて言及する。
「宣戦布告よ。自ら退路を絶ったってことは、
もうどっちかが滅びるまで戦うことを意味してるわ。あいつは……決戦場をあの島に決めたってわけ」
するとレイテンが皆に一つの案を伝える。
「これ、一回休みませんカ?
三日くらいですけどネ……多分魔王側近レベルの配下も作れないですし、今しかないですヨ!」
レイテンの言う通りだ。
そうとなれば、戦士たちは皆一度休息を取ることとなり、フラメナたちは前線から離れる。
ーーー
一方同刻、黒城最上階にて。
「……四名全員が敗北したか」
トイフェルは結晶の中から出てきており、
魔法陣が大量に描かれた部屋で横になっていた。
今、攻められては私は負けるだろうな。
まだ魔力も回復しきっていない……
島を浮かす魔力よりも回復する速度が速いのであれば……今はこうするしかないな。
さて……どうするか。
私が回復する中、奴らも回復は行うだろう。
重傷の戦士がある程度動けるまでにはおそらく五日、それ以上を越えれば確実に私は敗北する。
三日だ。
三日で魔力を回復しきり、
万全の状態にて奴らに先手をかける。
トイフェルは息を深く吐き、
天井を見つめる。
緊張が蘇る……いつぶりだ?
天理との戦い以来だろうか……正直緊張が解けん。
私が勝てば新世界は確実に創り上げられ、
私が負ければこの世界は崩壊し、滅亡する。
完全敗北はないにせよ、
負けた時の虚無感は計り知れんだろうな。
勝ちたい。
あと少しなんだ。あと少しで願いが叶う。
……勝つためならなんだってしてやろう。
「……まったく楽しみでしょうがないな」
トイフェルは緊張が興奮へと変わり、
笑みを溢しながら七個の空席がある部屋にて、
天井を見つめながら魔法を発動し続けた。
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枯白1692年3月23日。
「あぁあああああ!!!
そこつぼよ!! 痛い痛い痛い痛い!!」
フラメナは足つぼマッサージをライメから受けており、行きで乗った船にある二人専用の部屋にて、フラメナの叫び声が響き渡る。
「うぎゃぁああああ!!」
「っよし、おしまい!」
フラメナは大量の冷や汗を垂らしながら脱力し、
息を切らして目を閉じる。
「痛すぎ……なによこれ」
「あはは、まあ痛いよね」
「くっ……ライメにもやり返したいわ!」
「結構だよ。僕はそんなの必要ないからね。
それにフラメナが頼んだんじゃないか」
フラメナはそう言われ、
言い返すこともなく黙った。
戦いから一日、ほとんどの戦士は夕方まで寝ており、皆疲れが溜まっていたのだろう。
そして今日を含め三日後、最終決戦が行われる。
「はぁ……なにか美味しいものが食べたいわ」
「なら船の食堂に行ってみる?」
ライメがそう提案するとフラメナは立ち上がり、
すぐに部屋を出口である扉へと歩き始めた。
「なにボーッとしてるのよ!
今すぐに食べに行きましょ!」
「はいはい」
ライメは微笑みながら立ち上がり、
財布を手に、二人で食堂へと向かった。
ーーー
フラメナは魔王改め、魔理との戦いで死亡する。
これは定められた運命であり、今までのように変えられるような運命でもない。
絶対に変えられぬ結末。
フラメナはこの三日間が人生最後の安息だろう。
彼女は限られた場での三日間を悔いないように過ごす。自身が愛した相手と共に――
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「魔王側近は全滅したのか?」
「えぇ、全滅したわ」
魔城島の上空にて浮島が浮き続ける中、
執理政の三名はそのさらに上空にて、空中に花が咲きその上に立って浮島を見下ろしていた。
「結局……ウィータも使ったのね」
生命を冠するウィータはそれを聞いて頷く。
「だって……あぁでもしないとみんな死んでたじゃない? 憤怒はずば抜けて強すぎるのよ」
生命の欠片は莫大な生命力により、
魔力や天理の欠片とは違って魔力など関係なく、
完全に再生し切ることが可能。
そして対象は不老不死となる。
「……互いにもう理は反せぬのか」
時空を冠するホロフロノスが言う通り、
運命を冠するシノとウィータは、二度と他者へとその力を使った干渉ができない。
運命を教えることも、無理に生かすことなどは二度と出来ない。
「ここまでやったんだから、
貴方も少しくらいは人肌脱ぎなさいよ」
ウィータがそう言うと、ホロフロノスは少しだけ笑い、自身の考えを話し始めた。
「魔理には何としてでも裁きを下す。
無論、我も一度限りの理を反する行為を行う。
この機会を逃せば間違いなく魔理は悲願を達成し、
二度と元の世界は帰ってこないだろう」
魔理を討伐すべく、世界中のありとあらゆる者たちが力を一か所に向けている。
「……時は満ちた。全ての歯車が噛み合っている。
我らのできることは微々たるもの……だからこそ最後まで見届けよう、この世界の運命の果てを――」
枯白1692年3月25日。
決戦の日が訪れた。
第十七章 魔城島 本丸編 ー完ー
次章
第十八章 純白魔法使い 決戦編




