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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十七章 魔城島 本丸編

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第百五十三話 また星群の麓で Ⅵ

「ルルス、なんでお前は剣士を選んだ?」

「魔法と関わりがなかったですからね〜。

 剣一択でした〜」


 彼が二十二歳の頃、イグレットの下で一ヶ月間修行した期間がある。


 その時のイグレットの教えは、

 彼を龍刃流の猛者たらしめる原因となっている。


「予想してた回答とは違うが……まぁ、

 今の時代の剣士は半分以上が才能ありだ。

 そもそもな話、魔法全盛のこの時代で剣士をやる奴らなんか大抵才能ありか、魔法が使えないから剣士に逃げてきた奴だ」


 イグレットは木刀を手に持ち、それを壁に向ける。


「魔法と違って剣術は才能だけじゃ基本どうにもならない。どんな天才でも斬り方を知らなければ中級にすら負けるんだ」


 イグレットは続けて話す。


「何事も基礎が存在する。

 基礎ってのは極めれば極めるほど強くなる……

 ここでとっておきのアドバイスをしてやろう。


    龍刃流は足が全てだ」


 ルルスはその教えに従い、

 ひたすらに足を鍛え続けた。


 そしてそれは二十八歳となったルルスの今を作り上げている。


 ドラシル・メドメアスという怪物を倒す策。

      それは存在しない。


 ならばどうするか。

 それを見せてくれたのは、剣塵イグレット。


 応用なんていらない。

 基礎さえできれば倒せる。


 ルルスが君級となったのには理由がある。


 それは異常なまでのセンス。


 彼の五感はこれより、勝利へと固執する。


 ーーー


 パラトアはこの3年で見違えるほど強くなった。

 鍛えられるところ全てを鍛え尽くし、まるで機械のように休まず身体を動かせ続けた。


 血を吐いてうずくまる日だってあった。

 それでも剣を振るう。


 頭痛に襲われて食事を戻してしまう日もあった。

 しかしそれでも剣を振るう。


 筋肉は痙攣し、目眩が彼女を襲おうとも、

 剣を振るうことは止められなかった。


 地獄のような鍛錬を得て、

 彼女は剣士として成長を続ける。


 それは全て、弱い自分が背負った罪への償いと、

 ガルダバを殺したドラシルへ罰を与えるため。


 彼女は人刃流を鍛え続けた。

 ガルダバと同じくカウンターを鍛え、

 自身の一撃で必ずドラシルを殺すと誓う。



 それでも、彼女はドラシルに追いつけない。

 彼女はそこで一つ、自分にできることを考えた。


 一撃必殺。

 彼女はドラシルを傍で見続けたが故に、

 あのカウンターをよく知っている。


 それを直撃させるのが自分の役目。


 獄門(フゼイメウト)、ガルダバが持つ奥義を彼女は自分なりに扱うのだ。


 パラトアは覚悟を決め、ルルスに続いて歩き出す。


 ーーー


 オルテッドはドラシルに対して、

 特別に思いを抱いてはいない。


 なぜなら彼にとって戦いとは単なる悦に浸るものであり、それ以外を特別に感じてはいない。


 オルテッドの頭のネジはぶっ飛んでいる。

 それは彼自身が孤児であり、人の温もりを知らずに育ったからでもあろう。


 殺しを合法的に行える邪族狩り、

 それが楽しくてしょうがなかった。


 そんな彼でも、ドラシルを前にして狂気は引っ込み、思わず冷静になってしまうほどの威圧感。


 オルテッドは自身の良さを全く活かせておらず、

 この戦いでは中途半端な動きしかできていない。


 剣塵の死去。

 それに伴い後がなくなった中で、

 彼は再認識する。自身の戦場での在り方を――


 もっと自由に、もっと自分勝手に。

 思い描く悦を本能のままに解き放つ。


 パラトアに続いて彼も歩き出した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「私が先に行く」


 ルルスが頷くとオルテッドは口角を上げながら走り出し、パラトアを無視してドラシルへと向かう。


「僕が一番さぁ!!」

「なにやってんのよバカ!!」


 オルテッドはステップを刻みながら接近し、

 雷をダガーに纏わせてドラシルへとダガーを突き出した。


「……退()け」


 ドラシルが双剣を一瞬で振るうと、

 それはオルテッドの胴を切断する攻撃である。


 だが、それはドラシルの想定を超えたオルテッドの動きにより、呆気なく避けられてしまう。


「なっ……」

「ばぁ、こっちだよぉ!」


 オルテッドは姿勢を低くして床に顔をつけており、

 ほとんど寝そべった状態から跳び上がり、空中で回転しながらダガーを振り回す。


 球体のような斬撃がドラシルの懐で発生すると、

 思わずドラシルは後方へと跳んで下がった。


「!」


 ドラシルの目に入るルルスの構え。

 それは剣塵と全く同じ構えだった。


 次の刹那、ルルスはドラシルに向かって跳び込み、

 神速と言わずとも超高速の攻撃がドラシルへと迫る。


 ドラシルはそれを双剣を立てて防ぐと、

 ルルスを蹴って離れさせた。


「バレておるぞ小娘ェッ!」


 ドラシルは双剣を逆手に持ち直し、

 背後に迫る透明状態のパラトアを切り裂く。


 しかし、パラトアはその攻撃を待っていたかのように双剣を剣で受け、カウンターを放つ。


 そのカウンターはドラシルの胸目掛けて放たれ、

 普通の戦いであれば勝ちを確信できる。


「まぁそうなるよね……!」


 ドラシルは後ろへと倒れ掛かり、

 薄皮一枚斬られた程度の傷に抑える。


 体勢を崩したドラシルへと迫るオルテッド。


 ドラシルは手を広げてそのまま床に倒れると、

 上からオルテッドが突き刺しに乗ろうとしてくる。


 三人の瞳がギラつき、ドラシルを見下ろした。



 剣塵よ。貴様のいう通り、

 やはり新時代に貴様は必要ないな。


 貴様という絶対的な強者であり王者がいるせいで、

 何か力を封印していた者が多すぎる。


 見よこの傑物(けつぶつ)共の目を――


 まるで最強を自負する猛獣ではないか。



 ……しかしだ。

 生憎、我は獣が嫌いだッ!!



 ドラシルは横へと転がり、冷気を大量に放出して三人の動きを鈍くすると、立ち上がって双剣を握り、流れるように全員へと一撃加える。


 ルルスは胸を斬られ、パラトアは首を少し斬られ、

 オルテッドは横腹を斬られた。


 一瞬で鮮血が舞う戦場にて、

 ドラシルは振り返ると異様を目の当たりにする。



 三名全員、怯むことなし。



 即座に攻撃がドラシルへと襲いかかる。


 オルテッドのダガーを一本の剣で防ぎ、

 パラトアの剣をもう一本の剣で防ぐ。


 無防備、ルルスの斬撃が閃光のようにドラシルへと迫り、ドラシルは姿勢を低くして口を開き、歯で刃を噛んで受け止める。


 ドラシルは双剣で剣を押し返し、

 両腕を伸ばしてバク宙し、ルルスの剣を口から離すと回転して斬撃を全員の首に向けて放つ。


「バケモノめぇっ!!」


 オルテッドは斬撃をステップして避けると、

 頭から床に向けて落ちるドラシルへとダガーを投げる。


 ドラシルはそれを空中で身体を拗らせて避けると、

 そのまま水が流れるように自然と床に寝そべり、

 床を踏み込んで一気に全員から距離を離す。


「侮れんな貴様ら、この我と戦うには相応しい強さだ。さぁこい、何度でもかかってこいッ!!」


 ドラシルは双剣を再び作り出して構える。


 ルルスは内心、希望を得ていた。



 圧倒的に上だと思っていた存在……

 でもなんか、案外いけますね〜


 あれ、もしかして自分たち結構強いです〜?

 わかんなくなってきましたね〜……これだから、

 戦いってのは楽しいんです。


 うへへ……なんでしょうこの気持ち。

 これがハイになるってやつです〜?


 相手を確実に仕留める策も、

 慎重な戦い方も全部いらない。


 そうやって勝とうとしてる時点で凡人、

 シンプルな斬り合いで自分が上を行く。


 それだけで勝てる話だったんですねぇ……!



「……あはっ」


 ルルスは口角を上げて剣を振るい、

 目を見開いて接近していく。


「全く、新時代とやらは随分と狂っているな」


 ドラシルは正面からルルスの剣を防ぐと、

 その反動を利用してルルスは跳び上がり、空中を舞うように回転しながら斬撃を放つ。


 ドラシルもそれを容易に弾き返すと、

 腕にツタが巻きつき一瞬引き寄せられた。


 ルルスがドラシルへと急接近し、

 剣を振るうと顔に傷をつける。


「貴様のツタか……!」

「せぇかぁい!!」


 ルルスは腕を引くとドラシルを引き寄せ、

 蹴りを腹部へと放てば、オルテッドがドラシルを背後から襲う。


 ドラシルは横へと身体を倒すと、

 双剣を床に刺して体勢を保ち、オルテッドを蹴り飛ばした。


 するとルルスの斬撃がまたもや迫ってきた。


 ドラシルは余る双剣で剣を防ぎ、

 床に刺していた剣を抜いてルルスへと斬撃を放つ。


 ルルスはそれに対し、強欲のユーラルとの戦いで扱った極限までの引き付けを使用。


 あの時とは違いドラシルの攻撃速度は異次元だ。


 ルルスは口呼吸になりながら目は斬撃を捉え、

 首をほんの少し斬られると、ドラシルへと近づいて頭突きを放った。


「ぐぉぁっ!」


 それは直撃してドラシルがよろめく。



『ルルス様は戦い方が危なすぎます』


 ごめんです〜クランツさん。

 自分はこの方が強いです。


 振り終わりの確かな隙を自分は攻撃する。

 うへへ、やっぱり強いやこの斬り方。



 ルルスは心の中でそう思いながら剣を振り上げる。


「はっはっはっ!! やってくれたな貴様らァッ!

 この我を楽しませるとは賞賛に値するッ!!」


 ドラシルは鼻から血を流しながらも、

 双剣を交差に構えると、その剣は青く光った。


「受け切れるんだろうなッ!!

 この技は二度目だァッ!!」


 三人全員が察する。

 全員に重傷を与えたあの技が来る。



 ドラシルは跳び上がって両腕を伸ばすと――


嵐斬(らんざん)ッ!!」


 隙間なく空間を埋め尽くす斬撃が放たれ、

 三人全員はそれを前に各々構えを取った。


 次は負けない。

 今度こそ防いでみる。


 そんな覚悟が皆に宿り、

 数十秒後斬撃が止んだ。

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