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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十七章 魔城島 本丸編

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第百五十二話 また星群の麓で Ⅴ

 生まれてこの方、我は生きることの意味について考えたことはなかった。


 我はドラシルという名を与えられ、

 数多の強者を屠り、戦いの愉悦をこの身に刻み続けてきた。


 幼い頃から戦いの日々。

 戦うにつれて自然と敵は強くなり、

 我はそれらの者と死闘を繰り広げる毎日。


 この身に刻まれた古傷は、全てが生まれて間もない頃のものばかり……そう我はある日、最強になった。


 最強と言っても全ての戦いに勝利するわけじゃない。互角の相手は確かに存在していた。


 だが、それら全ては身体が強者との戦いを何度も何度も楽しみたいがための、本能的な制御による互角。


 間違いなく800年前、

 我より強い者は存在しなかった。


 そう、とある日までは――


「最強の邪族、さすがに中々強いが、

 私を殺すほどの強さではないな」


 魔理トイフェル様、後の魔王と呼ばれるお方。

 我は魔理様に人生で初めての敗北をした。


 しかも魔理様は魔法使い、

 魔法に我は呆気なく負けたのだ。


 この世に蔓延る全ての戦士たちを集めて、

 全員と戦ったとしても負ける気などなかった我が、

 その日に心の底から敗北を認めてしまったのだ。


 そこに悔しさや怒りなどはない。

 我は……魔理様の強さに惚れ込んでいる。


 だから忠誠を誓った。


 しかしだ。魔理様はともかく、一人だけいたのだ。

 我が本気で殺そうとして殺せなかった者が……


 今に比べれば我の剣技は未熟なものだろう。


 魔理様がまだ魔王と呼ばれる前の時代、

 600年前、その当時世界最強の邪族と呼ばれていた我は、その剣士に勝ちきることが出来なかった。


 すでに我は欠片も持っており、

 自身が別次元の強さなことは承知していた。


 それでも剣技は受け流され、防がれ、避けられる。

 相手の攻撃が我には当たり、我の攻撃は当たらない。


 その流派の名は今でも覚えている。


 星刃流(せいじんりゅう)

 今は残っていない流派であり、

 その当時もその者しか扱っていなかった。


 加えて、その者は等級なしの無名の剣士。

 我は伝説に存在する剣王かと目を疑った。


「なぜ、貴様はそこまで強い」

「そりゃこっちのセリフでもあるよん……

 生まれて初めてさ、君級邪族とかは殺したことあるけどさぁ、あんたは段違いに強い」


 その男は東勢大陸の剣王山脈に住んでいた。


 生涯無敗だった剣王。

 それは伝説として語られるほどの強さ、

 できるのであれば戦ってみたかった。


 そんな願いを叶えてくれたのはこやつだったのだ。


 これはただの勘であり、実際の剣王はもう一段上の次元かもしれないが、我はこの者を剣王の生まれ変わりだと信じている。



 あの数十年が一番幸せだった。

 月に一度、星空の下で戦う。


 相容れない存在同士でありながら、

 戦いは常に楽しく、どちらも敬意を示していた。


 あの時だけは邪族ではなく、

 我は一人の剣士として戦えたのだ。


「貴様はなぜ、人と関わらぬ?」

「面倒くさいからさ。俺は強いからな、こんなのが有名になったら、貴族共が俺を手駒にしようと必死に策を練って引き入れようとしてくる」


 賢い生き方だ。強さとは見せびらかしてしまえば、

 どれだけ強くなれたとしても所詮、枠内の存在。


「俺はあんたと戦えるだけで十分だぜ。

 ずっと退屈だったんだ。俺と互角の敵がいないこの世界が退屈で仕方なかった……でもあんたはさ、こっちが手加減できないほど強い。本気で戦える」


 その時、我は少なくとも感じていた。


 このために生まれてきたのだと。


 年月が経ちその者は寿命で死んだ。

 初めて死に悲しみを感じた。


「……人族とは短命で激動なものだな」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そこから今に至るまで、我は退屈だったが……

 剣塵、この者は我の退屈を無くしてくれた。


 ……それなのに、なぜ貴様はそれほどまでに、

 死という一つの終わりを求むのだ。


 紛れもない最強ならば戦いに愉悦を求めているはずだろう。なのになぜ……なぜこやつは死を懇願する。


 圧倒的強者でありながら、戦いに愉悦を求めず、

 一体こやつはなにを求めているのだ……!!


 教えてくれ剣塵、貴様は一体なにが原動力なのだ。


 ーーー


 隙が生まれたドラシル。

 イグレットの身体に突き刺さる双剣を折られ、

 ドラシルは黒刀が上へと投げられる瞬間を見た。


「なぜ貴様は……死を求むのだ」


「言ったはずだぜ。人として死にたかっただけで、

 俺はべつに今死ぬ気じゃない。お前を殺すために俺は自身の命を……冒涜するだけだッ!」


 イグレットは黒き風を纏いし拳をドラシルの胸に突き刺し、ドラシルは豪速で建物を何個か貫き、吹き飛ばされていった。


 イグレットは上から落ちてくる黒刀をキャッチすると、ドラシルが吹き飛んでいった方を眺める。


 すると次の瞬間、

 氷の斬撃がイグレットを袈裟に切り裂いた。


「っが……!」



「ここまで怒りに身体が支配されたのは初めてだ。

 ……強者として誰の手も届かぬような、

 圧倒的な強さを持つ貴様がッ! なぜッ!!

 なりふりに構って戦いを疎かに出来るのだッ!!」


 ドラシルは血管を浮き上がらせながら話す。


「強者とはッ!! なりふり構わず強さを求め、

 時間をかけた末に劇的に強くなるのだッ!!

 貴様は今ッ! 我を殺すだとか、世界の民のためだとか! なぜそんなことで気を病んでいるのだァ!」


「アァアアアア!!! うるせぇよバァーカ!!

 ならお前斬り殺して生首を晒してやるよッ!!

 このクソ鮫野郎! こっちの気も知らねえでペラペラと勝手に話しやがって!」


 イグレットは傷を再生し大量の黒い風を身体から放出し、姿勢を低くする。


「お前の戦いの美学なんてクソどうでもいい。

 お望み通り……どっちが強いか殺し合おうぜ」


 イグレットは地面を踏み込んで前へと跳び出すと、

 衝撃で地面が割れて空気が振動し、衝撃波を放ちながら接近すると、血を流しながら斬りかかる。


 その速度はやはりドラシル言えど見切れるものではなく、斬撃を双剣で防ぐも肩を少し斬られる。


 ドラシルは振り返り様のイグレットへと、

 傷を再生しながら接近した。


 イグレットは振り返るとすでに迫る双剣を防ぎ、

 そこから至近距離での斬り合いへと発展。


 武器の数差でイグレットは大きく傷を負うと、

 一気に上空目掛け跳び上がり、地上から離れた。


 ドラシルは空を見上げると双剣を逆手に持ち直し、

 イグレットは上空で刀を振り上げる。


峨天(がてん)ンッ!!」

蒼天(そうてん)ッ!」


 黒き風がイグレットに集約し、

 巨大な斬撃が放たれると、ドラシルは跳び上がって真正面からぶつかりに行く。


 巨大な斬撃へと青く光る双剣がぶつかり、

 両者の斬撃は相殺しあって一瞬空が黒くなった。


 青く光る氷塊が空に散らばり、星空を彷彿とさせる光景が広がる。


 互いに着地すると、地面が割れて建物は崩落し、

 辺りは荒地のような場所となっていて、本丸だけが原型を保って残っていた。


 ーーー


「……できることならばこうして、

 永遠と貴様と戦いたいものだな」

「俺もできることならまだ戦いたかった。

 でも……ははっ、どうやら限界らしい」


 ドラシルの肩から腰が大きく裂けると、

 イグレットは手が塵になり始める。


「……貴様の遺言は聴いておきたい」


 イグレットはそう言われると、

 少しだけ息を詰まらせた後に、口を開いて言う。


「……っ……悪くない生き方だった。

 お前はこの後、あの三人と戦うんだろ?」

「あぁ」


 イグレットは消えかかる手でドラシルを指差す。


「勝つぜ。あいつらはな。

 だから伝えといてくれ、

 お前たちが次の″最強″だってな」


 ドラシルはそれを聞くと背を向け、

 ゆっくりと歩いて本丸へと戻っていった。


「随分、重荷を背負わせるのだな。

 やはり貴様とは仲良くできん」


 ーーー


 イグレットの視界は自身の塵と共に消えていき、

 真っ黒な世界で自身の師匠が見えた。


 自分の後ろから光が差し込んでいる。


「……師匠、俺」


 いつもと変わらない笑顔。

 師匠のこの笑顔がイグレットは大好きだった。


 イグレットは過去に戻りたかった。


 歩み続けることは大事だが、

 それでも彼は戻りたかった。


 イグレットは少年の姿として、師匠のガルファに抱きしめられると、少しして手を繋ぎ、暗闇の方へと歩き始める。



 剣塵、イグレット・アルトリエ。

 最強敗れし今、彼はただの少年である。


 刀から黒みが消え、ボロボロの刀身が露わになった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「帰ってきましたね〜」


 ルルスたちは応急措置を済んでおり、

 治癒魔法の紙も使って多少動けるようだった。


 パラトアはドラシルの魔力量を見て驚く。


「……死にかけじゃん」

「でも……へへ、あいつが死にかけでも僕たちが勝てる保証はないですよぉう」


 パラトアの言葉にオルテッドがそう言うと、

 ルルスは剣を抜き、歩き始めた。


 ドラシルは魔力量自体高くない。

 残り一割程度、それほどまでにイグレットは強力だったのだろう。


「遺言を預かった。

 お前たちが次の最強だと。

 ……この我を失望させるなよ」


「失望させませんよぉ〜

 自分たちは勝ちに来てますから……」



 ドラシルはあと一度でも致命傷を喰らえば、

 再生に時間がかかり過ぎてしまい、一気に猛攻を受けて死んでしまうだろう。


 だが、ルルスたちも傷は浅くはない。


 どちらも限界状態。

 新時代の剣士たちは、旧時代の剣士から意思を継ぎ、このドラシルという怪物に剣を向ける。


 終わりが近づいてきた。

 部屋に強い冷気が満ちる。

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