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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十七章 魔城島 本丸編

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第百五十一話 また星群の麓で Ⅳ

「ならん!! バカモンが、踏み込みが甘い!」

「は、はい!!」


 イグレット・アルトリエ、十一歳。


 彼は西黎大陸、オラシオン王国生まれの一般人。

 両親は西黎大陸では珍しくない冒険者で、

 ガレイルにて収入を得る戦士たちだった。


「しっかり踏み込めよ〜

 龍刃流やるんだったら踏み込みが浅いと、

 いつまで経っても弱いからな」


 イグレットに剣を教えたのは、

 火君級(かくんきゅう)剣士のガルファ・エルデック。

 異名は閻炎(えんえん)というもの。


 女性でありながら龍刃流極めし彼女は、

 斬撃全てに火を纏わせるのが特徴。


 火を纏わせれば基本的に火はゆらめく。

 だが、彼女の火はゆらめくどころか刀身を赤く染め上げ、超高温の斬撃を放つに至る。


「よし、いいぞ。

 休憩したら次は素振りだ」


 イグレットの異常なまでの速度は、

 彼女から引き継いだのだろう。


 龍刃流は足が全てだ。

 圧倒的な速度を繰り出すには、

 足の使い方が鍵になってくる。


 踏み込み方、足の伸ばし方、力の入れ方。

 それら全てをイグレットは教えられている。


 ガルファは既に死亡している。

 イグレットが三十三歳の頃に、ガルファは五十六歳で老衰によりこの世を去った。


 この世を去る前の前日、彼女は久しぶりにイグレットと手合わせを行い、彼女は敗北した。


 イグレットはその時の顔を今でも覚えている。


 清々しい笑顔だった。

 汗の雫が顎から垂れるガルファ、

 満足そうに「強くなったな」と、言っていた。


 そうして彼女はこの世に思い残すことはなくなったのだろう。あっさりと翌日の朝に安らかに眠った。


 イグレットの剣は全てガルファ譲りだ。

 彼女がいなければ今のイグレットはいない。


 イグレット・アルトリエ。

 剣塵を冠する現代最強の剣士。


 彼はその命の灯火を激しく燃やす。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 イグレットとドラシルが向き合う中、

 ルルスたちは後ろへと皆で下がっていく。


 戦士として悔しいが、圧倒的な実力差。

 横槍などすればこちらが殺されてしまう。


 そしてあの二人の戦いは間違いなく激しい。

 近くで座り込んでいては巻き込まれる。


 息が詰まるような空気感の中、

 先に動いたのはドラシル。


 双剣から青い残光が発せられ、

 高速でイグレットへと接近していく。


 ドラシルがイグレットに右腕の剣で斬りかかると、

 イグレットは刀を上げて剣を受け、そのまま受け流すとドラシルの腹部に刀を落とす。


 ガキンッ! そんな音が鳴るとドラシルの余る左腕の剣が刀を防いだ。


 ドラシルが足を一瞬上げた時、イグレットは距離を離すために後方へと跳ぶと、空中にて斬撃を放つ。


 それを容易く弾くドラシル。

 だが、ドラシルは過ちを犯している。


 今のイグレットと距離を取ることすなわち――


「ッハァッ!」


 イグレットの神速の動きにより、

 すれ違いざまにドラシルは腹部を斬られる。


「……イグレットさんがなんで動けてるかは知らないけど、めちゃくちゃ強いじゃない……」


 パラトアがそう言うとオルテッドが頷き、

 その二人をよそにルルスは戦う二人を凝視していた。


 背後へと位置するイグレットへと、ドラシルは再生を行いながら振り返り様に斬撃を放つと、そのまま跳び上がり、上からも斬撃を放った。


 正面と上方向からの攻撃。


 イグレットはそれに対して刀を向けると、

 黒い風を刀に纏わせ、次第にそれが刀全体を染め上げ、一切の揺めきがない黒刀へと変化した。


 イグレットはそれを横に振るうと、

 巨大な黒い斬撃が二つを相殺し、ドラシルへと向かって神速の踏み込みを行って接近する。


 ドラシルはその踏み込みに対し、

 双剣を立てて身体の前に置く。


「ッ……」


 ドラシルはそれによってイグレットの攻撃を防ぐも、脇腹などを多少斬られてしまった。


 ドラシルは明らかに今、実力で抜かれている。

 ならばまた追いつけばいい。


「驚いた。ここまでワクワクするのはいつぶりだろうな……貴様こそ我が求める強者……ふふ、ふははっ!

 笑いが止まらぬ! 楽しいなァ戦いとはァッ!!」


 ドラシルの頭上に青い光輪が浮かび上がり、

 全身に黒い模様が入り込んで腕と足が黒く染まる。


「……んだよ。さっきの本気じゃなかったんだな。

 ならこうして見れて俺は運がいいぜ」

「我も同じ気持ちだ……運がいい。

 ここまでの強者とは思わんだ剣塵」


 両者口角を上げて円満そうに見える関係。


「はははっ……俺たちゃ案外友達になれたかもな」

「不思議と我もそれに疑問は感じん……」


 二人は互いに少し笑い合う。


「じゃあ」

「さて」


「「殺し合いの続きだッ!!」」


 両者から笑みが消え、二人は正面衝突すると、

 衝撃波のようなものがぶつかり合う剣から放たれ、

 部屋の壁へとヒビが入る。


「!」


 イグレットはドラシルが左手から剣を落とすのを確認すると、いつの間にか空を舞っており、天井を貫いて上の階へと放り出された。


 ドラシルもそれを追って跳び上がり、

 その穴へと入っていく。


 数十秒した後に天井が崩壊した。


 崩れゆく天井、その瓦礫の中で閃光が走り続け、

 崩落による煙の中で二人は何度もぶつかり合う。


 煙から二人が出て行ったと思えば、

 ドラシルは部屋の壁に叩きつけられ、外へと出て行ってしまった。


「そんなものかッ!! 最強ッ!!」

「まだまだァア!!」


 イグレットが外へと飛び出し、

 激しい爆発音が辺りに響き渡る。


 二人は本丸付近の建物の上で斬り合っており、

 彼らが移動した場所には血が残っていた。


「ッ!!」

峨天(がてん)ッ!!」


 イグレットは跳び上がり、

 巨大な黒き斬撃がドラシル目掛けて放たれる。


青流星(せいりゅうせい)ッ!!」


 ドラシルが双剣から放つ二つの巨大な青き斬撃。

 二人の斬撃はぶつかり合って衝撃波が辺りの建物を吹き飛ばし、黒城本丸のヒビが入っていく。


 大技が出た後、イグレットは神速にてドラシルへと斬りかかると、ドラシルは初めてそれを防ぎきる。


 ドラシルの後方にいるはずのイグレット、

 彼はその場から消えていた。


 ドラシルは思わず辺りを見渡す。


「なんてやつ……ッ!」


 イグレットは様々な障害物へと神速状態で突進し、

 全てを足場にして踏み込みを重ね続け、速度を上げ続ける。


 そしてあるところで衝撃波と共に、

 ドラシルの胴が真っ二つに切断された。


 その時のイグレットは音速を超えており、

 身体中から血を流しながらも全てが再生される。


「貴様ッ……なんて無茶な技だ!」

「いってェェ!! でも直で喰らったなァ!」


 イグレットは刀を握り直し、

 ドラシルの目の前から斬撃を放ち、

 それと同時に前へと出ていく。


 ドラシルの再生が終わろうとしている。


 それを阻止するべくイグレットは突っ込むが、

 ドラシルは逆にそれを利用し、骨と中心の肉が繋がった状態で再生をやめた。


 そして次の瞬間。

 イグレットはドラシルの剣を二つとも胸に刺され、

 そのまま一気に下へと引かれて身体を大きく切り裂かれた。



「なるほど……貴様生命に愛されたのだなァ!」

「まだまだ死ぬには早すぎるってのォ!」


 一瞬によってイグレットの身体が再生し、

 ドラシルの肩を掴んで刀を胸に突き刺すと、まだ再生し切っていない胴体を蹴り、下半身と別れさせる。


 胴体のみのドラシルを空に投げ、

 イグレットは大量の斬撃により細切れにする。


 だが、下半身が一人でに動き始め、

 イグレットを蹴り飛ばし距離を取らせる。


 再生を始めるも到底間に合うはずがなく、

 イグレットの斬撃が下半身のみの彼に襲いかかる。


 斬撃を避けながらも再生するドラシル。

 斬撃の量は数を増やし続け、切り傷が増える中腹部まで再生を終えた。


「随分キモい身体で動き回るんだなァッ!」


 イグレットは限界まで斬撃を放つと、

 それはついにドラシルの下半身を捉え始める。


 このままなら倒し切れる。

 そう確信しかけた時、ドラシルの下半身がイグレットへと突っ込んできた。


「!」


 下半身が爆発し大量の冷気がイグレットを包むと、

 背後にドラシルが現れた。


「なんでッ!」

「細切れからだって再生するのだぞ」


 ドラシルはイグレットを切り裂き、

 細切れにするが如く切り続けると、再生とその切りつけの速度は同じであり、血が辺りを染め上げる。


「うォオオオオオ!!」

「はははっ! なんだ貴様ッ!!」


 血が舞う中、イグレットは刀を持ってドラシルの喉を貫き、刀を引き抜いて切り裂く。


 そして次の瞬間にはイグレットは刀を振り上げており、ドラシルは双剣を握ってそれを防ごうとした。


 両者完全に同タイミング。

 しかし、この間合いを制したのはドラシルだった。


「ゴファッ!」


 ドラシルはあえて防ぐことをやめ、

 イグレットの腹を一本の剣で貫いて、

 もう一本で心臓を貫く。


「……」


 ドラシルはイグレットを見ながら違和感を感じていた。


「貴様……何を」

「今、全世界のありとあらゆる種族が、

 お前たち魔王軍の壊滅を望んでいる。

 魔王と魔王側近、それに配下の有象無象共……

 全員がお前たちの敗北を望んでいるんだ。


 なぁ、名はドラシルって言うんだろ?

 俺に教えてくれよ……どうしたら俺が負ける?

 死に方も忘れちまった……人として死にたかった。

 でも俺はそれでも戦う。だって俺は最強だから」


 イグレットは口角を上げ苦し紛れの笑顔を見せると、驚いた表情のドラシルは隙が生まれる。



 二人の最強。

 互いに死とはかけ離れた存在。


 だが、思うことはかけ離れており、

 剣塵イグレットは全てを背負いながらも疲弊し、

 その心は今にも黒に染まりかけていた。


 死に方とはなんだろうか。

 イグレットは感情を捨て、戦い続ける。


 それが世界最強の剣士となってしまった彼の、

 宿命であり使命なのだから。

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